寝付きが悪い、眠りが浅い......。睡眠の質を高める栄養素とは?

【連載】「明日の体調」を変える「今日の食」

管理栄養士:森由香子

寝付きが悪い、眠りが浅い......。睡眠の質を高める栄養素とは?

1日中だるい、疲れが取れない、なかなか寝られない......。なんとなくバランスよく食事を摂っているつもりでも、体調は日々変化していきます。そんな何気ない体調の変化や不調は、体が今何を欲しているのかを雄弁に物語るサイン! 連載第2回は、睡眠不良を改善する栄養素を紹介します。「明日の体調」を変える「今日の食」を、管理栄養士の森由香子(もり・ゆかこ)さんに監修いただきました。

【目次】




快適な睡眠に、栄養素が大切な理由とは!?

寝付きが悪い、眠りが浅いなど、睡眠の質の低下にはさまざまな原因があるといわれています。心身の病気、ストレス、生活リズムの乱れ、睡眠環境、刺激物の摂取などが原因といわれる一方で、毎日の食事や摂取する栄養素も、睡眠の質を大きく左右することをご存知でしすか?


人間の体は、食事から摂取する栄養素によって脳や神経の働きを整え、リラックスを促します。そのため、どのような栄養素を摂取しているのかは、快適な眠りにつくためのキーポイントになります。





睡眠の質を改善する6つの栄養素

なかでも重要なのが、体のたんぱく質を構成する必須アミノ酸のひとつであるトリプトファン。そのトリプトファンを原料にして、神経伝達物質のセロトニンが日中に作られ、さらにセロトニンは夕方暗くなってくると、メラトニンというホルモンを合成します。セロトニンは日中の活動をサポートし、メラトニンは眠気を促し、快適な睡眠へと導く役割を担います。


また、これらのセロトニンやメラトニンが分泌される過程で必要になるのが、ビタミンB6、亜鉛、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンDといった栄養素です。


睡眠の質を改善したいと考えている人は、下記のチェックリストを確認してみましょう。3つ以上当てはまる人は、睡眠不良の原因が栄養素や食事の摂り方にあるかもしれません。栄養素の役割を知ることで、心地よい眠りを手に入れてみませんか?




睡眠の質チェックリスト

→睡眠ホルモンのメラトニンのもととなる、トリプトファンが摂取できません。朝、光を浴びて朝食を食べることで体内時計がリセットされ、活動的な1日を過ごせます。 →胃腸の働きが休まらないので、睡眠の質が悪くなります。就寝の2~3時間前までに食事を済ませることが理想です。 →眠りやすくなるものの、中途覚醒しやすくなったり、利尿作用でトイレが近くなったりします。 →コーヒーなどに含まれるカフェインは睡眠物質の働きを阻害するほか、覚醒作用があります。働きが弱まるのに時間がかかるため、夕方以降のカフェイン摂取は控えましょう。 →しっかり睡眠がとれていない、睡眠の質が低下しているかもしれません。原因を解決し睡眠の質を向上させていきましょう。




トリプトファンの役割と摂取できる食品

必須アミノ酸のひとつであるトリプトファンは、 "しあわせホルモン"と呼ばれる神経伝達物質のセロトニンの生成に不可欠です。日中、リラックスを促すセロトニンの原料となり、夜になると睡眠ホルモンであるメラトニンの生成へとつながり、眠気を誘います。トリプトファンは体内で生成できないので、日常の食事から摂取することが必要です。


トリプトファンは、肉(とくに赤身肉)や魚、卵、大豆・大豆製品、牛乳・乳製品など、良質なたんぱく質食品に多く含まれています。朝食で欠かさず、良質なたんぱく質食品を摂取することを心がけましょう。

トリプトファンを多く含む食品

▼横スクロールでご覧ください

食品名 100g 含有量
(µg)
1回使用量
目安量 含有量 (µg)
木綿豆腐 100 1丁(300g) 300
鶏むね肉(皮付き) 230 1切(100g) 230
まさば 230 1切(100g) 230
しろさけ 230 1切(100g) 230
豚ロース 230 1切(100g) 230
サーモン 230 1切(100g) 230
糸引き納豆 250 1パック(50g) 125
牛乳 50 1カップ(200ml) 96




ビタミンB6の役割と摂取できる食品

ビタミンB6はたんぱく質の代謝を助ける栄養素です。緊張やストレスなどを和らげ、脳の興奮を鎮める働きがあるGABA(ギャバ)の生成にもかかわっています。セロトニンの合成にはトリプトファンと、このビタミンB6が必要不可欠な栄養素になります。


トリプトファン同様、肉や魚に多く含まれています。1日の推奨量は、18歳以上の男性で1.4mg、女性で1.1mgです。表を見るとわかるように、魚と野菜、肉と野菜というような組合わせで摂取すると推奨量を満たしやすいでしょう。

ビタミンB6を多く含む食品

▼横スクロールでご覧ください

食品名 100g 含有量
(mg)
1回使用量
目安量 含有量 (mg)
まぐろ赤身 0.85 100g 0.85
しろさけ 0.64 1切 (100g) 0.64
赤ピーマン 0.37 1個 (150g) 0.56
若鶏むね肉 (皮なし) 0.64 80g 0.51
バナナ 0.38 1本 (100g) 0.38
カリフラワー 0.23 1/2個 (150g) 0.35
豚もも肉 0.33 80g 0.26
挽きわり納豆 0.29 1パック (50g) 0.15




亜鉛の役割と摂取できる食品

亜鉛は200種以上の酵素やたんぱく質の合成、遺伝子の発現、ホルモンの分泌などにかかわっており、不足すると体内環境が整いません。睡眠ホルモンであるメラトニン、その前駆体であるセロトニンの生成にも悪影響を及ぼしかねません。


牛肉などの赤身肉や大豆製品、牡蠣、玄米などのごはん類に多く含まれています。カシューナッツやアーモンドなどのナッツ類も豊富な食品です。亜鉛の推奨量は、男性で11mg、女性で8mgです。1日3食、きちんと食事を摂ることで摂取量が増やせます。また、生牡蠣むき身は4個(40g)で5.8mgと効率良く摂取できます。

亜鉛を多く含む食品

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食品名 100g 含有量
(mg)
1回使用量
目安量 含有量 (mg)
生牡蠣 14.5 むき身4個 (40g) 5.8
牛もも肉 5.1 80g 4.1
牛ヒレ肉 3.4 80g 2.7
牛肩ロース (赤肉) 3.2 80g 2.6
糸引き納豆 1.9 1パック (50g) 1
玄米 (ごはん) 0.8 1杯 (135g) 1.1
精白米 (ごはん) 0.6 1杯 (135g) 0.8
木綿豆腐 0.6 1/3丁 (100g) 0.6




ビタミンB12の役割と摂取できる食品

自律神経の働きに関与し、睡眠や覚醒のリズムを整えるのに役立つとされ、スムーズな入眠を導きます。メラトニンの分泌を調整する作用も示唆され、睡眠の質の向上が期待できます。


植物性食品からはほとんど摂取できず、魚介類、卵、牛乳・乳製品などの動物性食品に多く含まれている栄養素です。牛乳は手軽に摂取できるのでおすすめです。ビタミンB12の推奨量は、18歳以上の男女ともに2.4µg(マイクログラム)です。1日のうち1食で魚料理を食べればクリアできます。

ビタミンB12を多く含む食品

▼横スクロールでご覧ください

食品名 100g 含有量
(µg)
1回使用量
目安量 含有量 (µg)
さんま 16.2 1尾(100g) 16.2
まさば 12.9 1切(100g) 12.9
生牡蠣 23.1 むき身4個(50g) 11.6
あさり 52.4 殻つき5個(20g) 10.5
しじみ 68.4 殻つき10個(6g) 4.1
うずら卵(水煮) 3.3 3個(22g) 0.7
プロセスチーズ 3.2 1切(20g) 0.6
牛乳 0.3 コップ1杯(200ml) 0.6




ビタミンCの役割と摂取できる食品

ビタミンCは、ストレス下で分泌されるコルチゾールというストレスホルモンの原料になります。ストレス時にはビタミンCの消費量が増えますので、不足しないようにして分泌を促しましょう。また、ビタミンCには、抗酸化作用があり、寝ている間に疲労の原因ともいわれる活性酸素を消去する働きがあります。


ビタミンCは緑黄色野菜、果物、いものほか、レバーなどにも多く含まれます。果物では、旬のものに豊富で、春はいちご、夏はキウイフルーツ、秋は柿、冬はみかんなどが挙げられます。果物は1日200g程度とりましょう。うんしゅうみかんやキウイフルーツなら2個程度です。

ビタミンCを多く含む食品

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食品名 100g 含有量
(mg)
1回使用量
目安量 含有量 (mg)
ブロッコリー 120 1/2株(100g) 120
70 1個(160g) 112
ほうれんそう 35 1束(200g) 70
キウイフルーツ 69 1個(100g) 69
赤ピーマン 170 1/4個(40g) 68
白菜 41 1枚(100g) 41
うんしゅうみかん 35 1個(100g) 35
いちご 62 4粒(50g) 31
じゃがいも(皮なし) 28 1個(100g) 28




ビタミンDの役割と摂取できる食品

ビタミンDは骨の健康などに深く関与していることで知られていますが、近年、新しい知見も多く出てきています。そのひとつが睡眠に関するもので、セロトニンやメラトニンの生成にビタミンDが深くかかわっていることを示す論文が発表されています。


魚全般に多く含まれるビタミンDですが、とりわけさけ紅さけ(100g)にはおよそ33µgと豊富に含まれています。これは、1日の推奨量8.5µgの3倍以上の量になります。

ビタミンDを多く含む食品

▼横スクロールでご覧ください

食品名 100g 含有量
(µg)
1回使用量
目安量 含有量 (µg)
紅さけ 33 1切(100g) 33
まがれい 13 1切(150g) 19.5
まいわし 32 1尾(60g) 19.2
さんま 15.7 1尾(100g) 15.7
いさき 15 1切(100g) 15
黒きくらげ(乾) 128.5 5個(3g) 3.9
まいたけ 4.9 1/2パック(50g) 2.5
しいたけ(乾) 12.7 2個(10g) 1.3




森由香子さんからのワンポイントアドバイス!

良質な睡眠のためには、体内時計や体内環境を整え、睡眠ホルモンの分泌をサポートすることが大切です。それには、食事のタイミングと何を食べるかも重要になります。朝に良質なたんぱく質を含んだ食事をとって体内時計をリセットさせ、自律神経の働きを整えると体内環境が活性化します。それが結果として快適な睡眠へとつながっていきます。


食事は1日3食摂ることを心がけ、1日のなかで肉、魚、卵、大豆・大豆製品、野菜、海藻、きのこ、果物、牛乳や乳製品、穀類の10品目を摂りましょう。睡眠の質にかかわる栄養素が自然に摂取できます。たとえ、10品目のいずれかが1日で摂れなかったといって悲観することも、考えすぎることもありません。「昨日魚が食べられなかったから、今日は魚を食べようかな」くらいの気持ちで食事に気をつけてもらえれば大丈夫です。


何らかの原因で睡眠不足が続くと、食欲抑制ホルモンのレプチンが低下し、食欲増進ホルモンのグレリンが増加します。そうなると、高脂肪、高カロリーな食べ物を求めやすくなる傾向があり、肥満にもつながりやすくなります。睡眠の質を低下させる原因を解消し、快適な睡眠をとれるようにしたいですね。


参考文献

文部科学省 食品成分データベース

文部科学省 日本食品標準成分表(八訂)増補2023年

農林水産省 「食事バランスガイド」の適量と料理区分

PubMed「The lullaby of the sun: the role of vitamin D in sleep disturbance 」

PubMed「Effects of vitamin D on mood and sleep in the healthy population: Interpretations from the serotonergic pathway」


※記事の情報は2025年2月25日時点の情報です。

  • プロフィール画像 管理栄養士:森由香子

    【PROFILE】

    管理栄養士・日本抗加齢医学会指導士
    東京農業大学農学部栄養学科卒業。大妻女子大学大学院(人間文化研究科 人間生活科学専攻)修士課程修了。医療機関をはじめ幅広い分野で活動中。クリニックで、入院・外来患者の栄養指導、食事記録の栄養分析、ダイエット指導、 フランス料理の三國清三シェフとともに、病院食や院内レストラン「ミクニマンスール」のメニュー開発、料理本の制作などの経験をもつ。食事からのアンチエイジングを提唱し、「かきくけこ、やまにさち」®食事法の普及につとめている。著書に『60歳からの「少食」でも病気にならない食べ方』『最新版 老けない人は何を食べているのか』『60歳から食事を変えなさい』『免疫力は食事が9割 』(青春出版社)など。
    公式サイト https://moriyukako.com/
    森由香子のパーソナル栄養指導 https://mori-yukaco.com

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