
暮らし
2026.07.14
小堀光實さん 第63世三千院門跡門主〈インタビュー〉
小堀光實|京都・三千院門跡門主に聞く、仕事、組織、地域社会との共生
京都・大原の名刹、三千院。第63世三千院門跡門主(もんす)*、小堀光實(こぼり・こうじつ)さんにインタビューしました。仕事、組織、そして地域社会との共生とはなにか。企業で働く世代にヒントになるお話をたくさんいただきました。
* 門主(もんす):「門跡寺院(もんぜきじいん)」の住職を指す称号。
写真:大久保 啓二
大切なのは継続。目的に向かい仲間と一緒に
京都市左京区大原にある天台宗の寺院、三千院は、日本の天台宗の宗祖、伝教大師 最澄が比叡山に庵を結んだ時、一堂を建立したのが起こりといわれ、皇族が住職を務めた「門跡寺院」として1200年以上の歴史を持つ名刹です。国宝の阿弥陀三尊坐像をはじめとする数々の文化財や美しい苔庭で知られ、京都市街から電車を乗りついで1時間ほどかかる立地ながら、国内外から多くの参拝者が訪れます。
第63世三千院門跡門主、小堀光實さんに、今を生きる私たちへのヒントをお話しいただきました。

──今日は御門主に、仕事、組織、そして地域との関わりについて、思いつかれるままお気軽にお話しいただければと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
私はきのう、石川県の金沢に行ってきました。とある印刷会社さんが創業120周年を迎えられたので、祝辞を述べたんです。その会社はもともと紙卸業からはじまって、今、社長さんは4代目。和紙の生産が盛んな石川県で伝統的な紙を大事にして、紙関係の商品を販売してきた会社です。
ところが1953(昭和28)年に工場が全焼してしまった。さて、これからどうしていこうということで、印刷業へ進出して事業を再建されました。
そして今、情報のデジタル化が進んで印刷業界は厳しい環境にあります。そこで今度は、情報の発信媒体としての事業の再々建に取り組んでいらっしゃいます。
4代目は、これからは進化ですと言う。50年、100年と来たけれども、進むために化けると。なるほど、いい言葉やなと思いました。進むための変化。厳しい時代にあって、印刷に新しい技術を注ぎ込んで、これがオリジナルだと言えることを考えなければならない。そこで、レーザー技術を用いて、石川県伝統の金を使った、新しい取り組みを始められた。
私どものお寺でも、伝統的なお勤めなど守っていかなきゃならないものがあり、自分が置かれている環境を大事にする一方で、やはり今の時代にふさわしい進化があってもいいのだなと思いました。いい刺激をもらって帰ってきました。

──「アクティオノート」の読者は働く世代や、これから働こうという学生の方々が多いのですが、現代にあって「働く」ということはどういうことなのか、アドバイスをいただけますでしょうか。
私は坊さんの世界しか知らないので、厳しい一般社会のことはよく存じておりません。ただ、あえて僧侶の世界の中のことを仕事というならば、先ほど申し上げた進化も大切、そしておなじく大切なのは、まいにち自分に課せられた一つひとつの役目をこなしていくことです。仕事っていうのは、ともすると成果を先に求めてしまう。私は、仕事は、まいにちの継続が礎になっていくものだと思うんです。
──その礎があってこその進化だということですね。
一日が終わって、どうだったかなということを省みるのは大事だと思うんですけれども、結果はその日だけで見えるものではないから、ずっとつなげていく、続けていく。まいにちが礎の積み重ねになっていくと、私は理解しています。
そして大切なのは、そこに仲間がいることです。一人で続けていくものもありますが、多くは仲間と一緒になって目的に向かう、一歩一歩です。
私も偉そうなことを申し上げていますが、お勤めで間違えることもたまにあります。一昨日も、三千院の大きな法事で、自分がなぜ、どういう思いで今日のお勤めをするのかという趣旨を申し上げる法則(ほっそく)を、作法の流れの中で、とばしてしまった。
いちばん大事なことをとばして段を降りてしまった。そうしましたら、その日の私のお世話役がササッと私の後ろに来て、そっと「法則があります」と言ってくれた。あっそうだ、となって、もういちど段に上った。
知っている人はわかりますが、初めて仏事に来られたかたなら、そのようにいちど段を降りるのが作法だと思われたかもしれません。けれども、それは大きな間違いでした。いかんなと思いつつ、ああ、これは気持ちを引き締めろという、ひとつのおぼしめしやなと思いながらお勤めしました。
1時間45分のお勤めが終わりましたあとで、400人ほどの方々にご挨拶しました。実はお気づきの方もいらっしゃったろうけど、今日は大きなミスをしました、このお勤めの趣旨を申し上げるご挨拶をうっかり抜かしました、だけれども、それをちゃんと見守ってくださる菩薩(ぼさつ)さんがいらっしゃる。普賢菩薩(ふげんぼさつ)です。後ろから声をかけてくれたお世話役、彼の存在がまさに普賢菩薩に思いましたと、お話ししました。
うっかりした時にも、誰かがサポートしてくれる。厳しい一般社会ではそんなことないと思われるかもしれないけれど、どんなお仕事の中でも、必ずその会社の代々の先輩方が見ておられるし、励ましをくださると私は思っています。そういう思いを持って仕事をなさればいいのではないかと思います。
──そういうサポートが組織の強みになっていくのですね。

組織の発展のために大切なのは、外に発信し広めていくこと
──比叡山延暦寺も三千院も、1200年以上という伝統をお持ちです。組織の維持と発展という視点で、企業もそこから学ぶべきことは多いと思います。一例をお話しいただけますか。
どこの会社でも、企業の精神というのがありますね。それは単に自分たちだけ、会社の中だけのことではなく、企業がどのように社会に、世界に、外に向かっていくかが表されていると思います。会社から生み出される製品、商品、情報、そうしたものでどのように発信していくかが、組織にとってとても大切だと、私は思っています。われわれ僧侶も、やはり外に対して、しっかり何かを発信していかなければなりません。
日本の天台宗は、伝教大師 最澄というお坊様が、1200年前の平安時代に国から認められる一つの宗団を拓きました。中国から日本に渡ってきた仏教は一時、坊さんという組織の中だけの学問、教え、修行であったわけです。桓武天皇と伝教大師様は、その教えを人々に、国に向けられました。伝教大師様はもちろん自分は行をし律するけれども、その結果会得したものは、人々に、社会に分ける。発信していく。自分が得たものを自分だけではなく、外の人にも味わっていただく。「解脱の味、独り飲まず、安楽の果、独り証せず」とおっしゃって、人々と共にその果を味わいましょうと、お教えになられた。
その精神を受けて、鎌倉時代前後には、日本の天台宗の総本山である比叡山で学ばれて後に活躍なされたお坊様がたくさんいらっしゃいます。法然上人さん、一遍上人さん、親鸞上人さん。栄西禅師、道元禅師。日蓮上人さん。比叡山は自分たちだけで囲むものではなく、オープンにして、そして広めていったんです。
自分の行のためにオープンにできない部分もありますが、それ以外はしっかり表の方に出しましょうということです。この三千院も、大事に守っていかなければならない部分はたしかにあります。ただ、今の時代に、三千院だけ、三千院だけと言うとったら、いずれは取り残されます。
三千院があるのは、この環境が、地域の方々が見守ってくださっているからです。地域の方々と一緒になって、この大原を発信して、開かれた三千院として皆さんと共に歩まなければならないと思います。
──発信が大切ということは、日本の天台宗が綿々と継承した精神だったのですね。
ただし、言うだけではなく、実践を伴ったものでなければいけません。伝教大師様はそれを能行能言(のうぎょうのうげん)、とおっしゃられた。まずやりなさい。黙々とやる。そして、そこから自分が思うことをしっかり言いなさい、ということです。

大原の地と共に歩む。人々から元気をもらう
──大原という地域社会との関わりで、実践されていることはありますか。
まずは三千院を大切に守り、伝えていくこと、そのうえで、地元の人に開かれた三千院にすることです。ここで何かの催し事がある時でも、今まで地元の方々はなんとなく参加しづらいという思いを持っていらっしゃった。地元の方には「名前を言っていただくだけで、どうぞお入りください」というふうに言っているけども、ほとんどいらっしゃらない。
それならばと、私が地域に出ていって、地域の方々とお付き合いすることにしています。そうすることで、あの人を知ってる、この人を知ってる、と名前も覚えてきました。
それに加えて、各町ごとに参拝の証というのをつくりました。それを持って来ていただければ、自由に入れますからというふうにして。そして使い終わったらその町の代表の人にお返しくださいと。
全13地域に10枚ずつ。1枚を持ってこられたら、その方にお入りいただく。そして長く三千院に伝えられてきたものを、地元の人がわかって、その人から発信をしていただく。そういう取り組みをしてきました。

──まさに発信と、進化ですね。地域ということで言えば、大原には、少子化による小中学校の統廃合でできた京都大原学院という公立の小中一貫校があって、話題になっていますね。三千院も、学校と積極的に関わられているとうかがっています。
小中学校だから1年生から9年生までいるんですが、最上級生、中学3年にあたる9年生が、大原のこれから、こうあってほしいというビジョンを一般の人たちに提言する「大原提言」というものをやられています。
第1次、第2次とやって、最終的に自分でまとめたものを三千院の広間で発表するんです。なかなか素晴らしい提言をしますよ。私は、提言で終わらせるのではなく実現できるようなものであってほしいと思うので、生徒にいろいろと質問をします。そして、それが実現に近づいていくためのサポートをしたいと思っています。
それから、毎年6月にやっている京都大原学院の運動会があります。これが感動的な運動会なんです。上級生は自分たちで、1年生が楽しみながらできる競技を考える。先生たちは危険が伴わないようにすることと環境を守ることに徹して、競技そのものを用意したりはしない。
保護者はもちろん、警察の制服を着た駐在さんが、巡回がてらその地域の一員として来ている。お医者さんも来る。消防隊の人も来る。学校の運動会とは思えないほど地域に関わっている人たちがたくさん来る。私も見にいきます。
見ていたら、ちっちゃい1年生が泣いてね。ほしたらそこへ上級生たちが寄っていって世話をする。その様子は、もうすべての家庭がこうあってほしいという場面です。私は感動して思わず涙です。隣を見たら駐在さんも、あれは汗じゃない、明らかに泣いていましたよ。

──素晴らしいお話ですね。そういう人と人のつながりが、大原の魅力となっているのですね。
私はそう思います。そういうところから逆に私は教わる。お経典の中に説かれている難しいことをお話しするのも大事だろうけれども、事実の今にある、生きるということの元気をいただくように説いています。
それから、10月には大原の大運動会っていうのがあって、そちらは地元の誰もが参加する運動会です。今までは三千院から誰も行かへんから、それじゃダメだよということで、参加することにしました。

──三千院のお坊様たちも走ったりなさるんですか。
走るようにしたんです。去年は「頑張れ」という横断幕もつくってね。それから三千院門跡賞っていうのもつくったんです。普通は1位2位3位や敢闘賞とかですが、三千院門跡賞は下から3番目にお渡しする賞です(笑)。トロフィーもあります。
三千院の格式は格式として大切に守っていかなきゃならない、若い坊さんたちにもしっかり教え伝える。ただ、仕事で忙しいと、拝観される皆さんへの応対など、理屈ではわかっていても、なかなかできないことがあります。
比叡山に登られるのも大変、京都からわざわざ三千院に来られるのも大変なんです。だから、その対応の中におのずと、ようこそおいでくださいました、っていう気持ちが表れなかったらいけません。ようこそ、どちらからですか。余裕がある時は、常にそういうふうにするべきやと私は思う。
そうすることで三千院は、伝統を重んじながらも、皆さんがここへ来てよかった、時間かけてきてよかったと思ってもらえる空間になれるのだと、思っています。
──きょうは貴重なお話をたくさんいただき、ありがとうございました。
気がつけばいつも笑顔。落語鑑賞が趣味という小堀御門主のユーモア溢れるおだやかなお人柄に、その場にいた全員の笑顔が絶えないインタビューでした。御門主の人柄そのままに、三千院は1200年以上の歴史を重ねた格式と、地域に開かれ誰もが気軽に訪れる寺院という面を併せ持ち、雨にもかかわらずこの日も多くの参拝者が訪れていました。
※記事の情報は2026年7月14日時点のものです。
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【PROFILE】
小堀光實(こぼり・こうじつ)
第63世三千院門跡門主
1953年10月大津市生まれ。大正大学仏教学部卒業。1963年出家得度。1979年寂光院住職。1979年延暦寺一山寂光院住職に就任。
2014~2020年延暦寺執行(代表役員)を務め、根本中堂大改修などを推進した。2021年11月に第63世三千院門跡門主に就任。趣味は落語鑑賞など。
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