【連載】人生100年時代、「生き甲斐」を創る
2022.03.15
小田かなえ
すべての年齢の人たちがキラキラ輝く社会へ
人生100年時代、「あなた」はどう変わるのか。何十年も前から予測されていた少子高齢社会。2021年9月時点で100歳以上のお年寄りは8万6,000人を超えました。自分に訪れる「老い」と家族に訪れる「老い」。各世代ごとの心構えとは? 人生100年時代をさまざまな角度から切り取って綴ります。
施設入居の後始末&立ち話
老母が介護施設に入居して約半年、近所の高齢者が減ってきた。いや、亡くなったわけではない。まるで示し合わせたかの如く、バタバタと介護施設に移ったのである。理由はみんな同じで、老親を家より安全な場所に置きたいから。ウイルスだの異常気象だの災害だのと、いろいろ不安な世の中になったということだろう。
しかし施設入居の後始末は予想より大変だ。人ひとり何十年も暮らした家を離れたとなれば、家具や家電、寝具、衣類、その他もろもろ雑多な荷物が残る。
捨てても良いのかダメなのか。使えるものかゴミなのか。
ひとつひとつ眺めていたら何カ月もかかりそうなので、私は自分が残しておきたいと感じた品以外はすべて捨てた。
同時期に義両親をふたり一緒に施設へ入れた近所の友人が言う。
「ベッドを捨てようとしたら『まだ生きてるからダメだ!』って夫に怒られちゃった」
「そりゃそうよ、急に帰ってくることだってあるかもしれないじゃない」
「もう絶対に着ない和服をどうしようかなぁ」
「形見分けに必要なんじゃない? 」
何やら縁起の悪そうな立ち話になる。
その一方で、介護施設に入ったお爺ちゃんお婆ちゃんたちは、みんな概ね元気らしい。うちの母も「良い意味でマイペースに過ごされてますよ。いつも笑い声が聞こえるし、食事も98%は召し上がってるし」と言われている。ちなみに体重も増えたとか。
現在の高齢社会の主役を80歳から100歳台とすれば、その下に控えるのは60代・70代。親の介護をしていたり、すでに親を見送ったりしている世代だが、ここに位置する私自身は、自分が老人の仲間入りをしつつあるという自覚があまりない。
そしてその下には働き盛りの40代・50代が続く。この世代は介護より仕事や子育ての負担が大きいのかもしれない。会社や家庭の主戦力として多忙な日々を送っている。
さらにその下、20代・30代は、まだ自らの老後などイメージできないだろう。働き方を含めて変容する社会でどんな人生を送るか、迷っている人たちも少なくない。
人生100年時代をどう考えるか。自分にとって良いことは何なのか。不安に感じることは何なのか。そういった諸々の思いは、各世代ごとに、あるいは個々の人間ごとに異なるはずだ。
私がたどる「老い」への道のり
さて、私自身はといえば、年齢を重ねるごとに何かを悟ってきた気がする。
30代で初めて白髪を1本見つけたとき、「人生は白髪や小皺(こじわ)が出てきてからのほうが長いんだな」と分かった。そして昔話に出てくる桃を掬(すく)い上げたお婆さんや、竹の中で女の子を見つけたお爺さんが、本当は結構若かったのだと気づく。
40歳になったときは、先輩たちが言っていたことと全く同じように「まさか自分が40歳になるなんて思わなかった」と大いに戸惑った。不惑には程遠い。
50歳を間近にして、私は「いつか叶えたかった夢のすべてがもう叶わない」と慌てた。その焦りからか、誰に頼まれたわけでもないのに私小説風のフィクションを書き、たまたま運良く本になった。それがきっかけで、広告文しか書いたことのない私に、短編小説やエッセイの依頼が来るようになったのである。ありがたいことだ。
そして60代になった今、仕事には恵まれているものの身体はいよいよ老化に直面し、ともすれば「膝が痛いよ、腰が痛いよ」となる。同世代の友人たちもみんな似たようなもの。
そんな私を叱咤激励してくれるのは、今は亡き恩師の言葉だ。22歳のときに出会ったコピーライター養成講座の先生であり、上司でもあったそのおじさんは、いつも私に言ってくれた。
「良い30歳がなければ良い40歳もなく、良い40歳がなければ良い50歳もないんだよ。年老いてなおキラキラしているのは、輝きのある生き方を積み重ねてきた人たちだけなんだ」
この「良い生き方」にガイドラインはない。自分にとって何が「良い」のか、それは自分にしか分からないし、「良い生き方」へとシフトするタイミングも自分で決めること。さらに言えば、世の中も自分も変わって行くのが当たり前なので、何回シフトチェンジしたって構わないのである。
あなたにとってのキラキラ輝く生き方はどんなものだろう? 万人が羨むような暮らしなのか、あるいは誰にも理解されないけれど自分にとっては深い意味のある日々なのか。
私たちが目指す人生100年時代とは、すべての年齢の人たちが、それぞれに在るべき場所で心地よく暮らす世界である。ということで、次回からは身近な例を挙げながら、さまざまな世代の『人生100年』を綴ってみたい。
※記事の情報は2022年3月15日時点のものです。
-
【PROFILE】
小田かなえ(おだ・かなえ)
日本作家クラブ会員、コピーライター、大衆小説家。1957年生まれ、東京都出身・埼玉県在住。高校時代に遠縁の寺との縁談が持ち上がり、結婚を先延ばしにすべく仏教系の大学へ進学。在学中に嫁入り話が立ち消えたので、卒業後は某大手広告会社に勤務。25歳でフリーランスとなりバブルに乗るがすぐにバブル崩壊、それでもしぶとく公共広告、アパレル、美容、食品、オーディオ、観光等々のキャッチコピーやウェブマガジンまで節操なしに幅広く書き続け、娯楽小説にも手を染めながら、絶滅危惧種のフリーランスとして活動中。「隠し子さんと芸者衆―稲荷通り商店街の昭和―」ほか、ジャンルも形式も問わぬ雑多な書き物で皆様に“笑い”を提供しています。
RANKINGよく読まれている記事
- 2
- 筋トレの効果を得るために筋肉痛は必須ではない|筋肉談議【後編】 ビーチバレーボール選手:坂口由里香
- 3
- 村雨辰剛|日本の本来の暮らしや文化を守りたい 村雨辰剛さん 庭師・タレント〈インタビュー〉
- 4
- インプットにおすすめ「二股カラーペン」 菅 未里
- 5
- 熊谷真実|浜松に移住して始まった、私の第三幕 熊谷真実さん 歌手・女優 〈インタビュー〉
RELATED ARTICLESこの記事の関連記事
- 日本に"アラひゃく"の時代がやってきた! 小田かなえ
- 時間上手になってオトナの今をたっぷり楽しむ! 小田かなえ
- 65年生きてみた。思考は変われど、嗜好は変わらず 小田かなえ
- ヒトの心は幾つになっても成長する! 小田かなえ
- ルーティンは楽しい 小田かなえ
NEW ARTICLESこのカテゴリの最新記事
- 老いてなお、子どもみたいな探究心 小田かなえ