第2回「音と共に花をいける」

【連載】花いけ道中

加藤ひろえ(フラワーアーティスト)

第2回「音と共に花をいける」

死者を花と共に葬るという習慣は、約6万年前のネアンデルタール人の化石の周りから花粉が見つかるほど太古の昔から存在すると考えられています。人はなぜ花に惹かれるのでしょうか。そして愛しいものたちに花を捧げたいと思うのでしょうか。フラワーアーティストの加藤ひろえさんに、花の魅力、花いけの魅力、そして、花いけの方法などについて、連載をお願いしました。第2回は、「音と共に花をいける」。

花をいけるようになってしばらくして、ある華道家の「音と花のライブ」を見る機会がありました。いったいどういうことをするのだろうと興味津々。


その時の音は和太鼓だった記憶がありますが、その音、リズムに駆り立てられた花のいけ手は所作も徐々に激しさを増しながら音のうねりの中で花をいけていく、そんな世界が繰り広げられていました。


見ているこちら側まで気持ちが高揚して、まるでその場で一緒に花をいけているような気持ちになる感覚。これは面白い。自分もやってみたい。


そこから始まり、自分ならどう音に反応して花をいけるか、まずはライブでの花いけをやってみたくてたまらなくなったのが10年ほど前のこと。


ちょうど良いタイミングで、あるジャズのボーカルとピアノのライブがあるから一緒にやってみようかとご提案いただき、ライブの中の1曲のさらにピアノソロの数分間だけ参加する形でブーケを即興でしつらえることに。その数分の緊張感、そして即断即決で曲のイメージで花を組む緊張感と面白さたるや。


即断即決で曲のイメージで花を組む緊張感と面白さたるや


ライブならではの緊張感と火事場の馬鹿力のような集中力を出す快感は、それまでの時間をかけて花をいけていた静かな世界とは全く別のもの。さらに、いける過程の全てをお客様に見せてしまう怖さもあるわけです。


いけるときの自分の弱さや未熟さも全て露呈する恥ずかしさ、恐怖感、それさえもが魅力に感じられました。




音は花に作用し、花は音に作用して1つの舞台を作り上げていくライブがしたい

いろいろな音楽家の方のライブに出かけてはリサーチをし、自身のライブでやりたいコンセプトなどを考える日々。


そしてこの方の音と共にぜひライブでいけてみたいという方を見つけては、直談判でコラボを依頼していました。


急にそんな話を持ちかけられても動じることなく、「お、面白そうだね、やってみようか」と言ってくださったのが、ピアニストの石井彰(いしい・あきら)さん。「面白いプロジェクトをするから加わるといいよ」ということで、ピアノのほかに、ギター、書、踊り、写真が加わり、それらと花が1度に共演するライブパフォーマンスを行いました。


大所帯が故の難しさもありましたが、舞台そのものを全員で作り上げる面白さは新しい発見でした。こんな駆け出しの自分を仲間に引き入れて、かつ対等にセッションしてくださった石井さんに感謝です。


そんなライブを経験し、少しずつ自分のやりたいライブの世界が見えてきたのです。


舞台では、音と花のどちらかがどちらかの引き立て役になるのではなく対等であり、音は花に作用し、花は音に作用して、1つの舞台を作り上げていくライブがしたいと思うようになりました。


そうして最初にユニットを組んだのが、トランペットの類家心平(るいけ・しんぺい)さんと二十五絃箏(にじゅうごげんそう)の山本亜美(やまもと・つぐみ)さん。3人のユニット「HAUNTED(ホーンテッド)」を結成。完全即興の音と花の世界です。


Haunted(ホーンテッド)


この動画はユニット結成のきっかけとなった3人の邂逅(かいこう)のライブです。
大きな蔓(つる)を抱えて脚立に登って、いけていた私はその蔓を落としてしまうのですが、その音に瞬間で反応しているトランペットの類家さんの音色が素晴らしいです。



蔓の落ちた音から流れが変わった音色、ハーモニー。


その流れを瞬間でつかんで演奏していく二十五絃箏の山本亜美さん。2人の即断即決の素晴らしさ。私も最初にいけようとしていたイメージでは続行できないと判断し、即座にいけるものを変化させたのでした。


Haunted(ホーンテッド)Haunted
トランペット:類家心平
二十五絃箏:山本亜美
花いけ:加藤ひろえ


類家さんにはライブをご一緒する最初の打ち合わせの時に、コラボをする上で1つ大切にしていることを教えていただきました。それは一緒にやる必然性。


音と花、並べればそれはコラボのように見える代物になりますが、その中身がいつもコラボとなっているのかは実際怪しいものです。演者自身が一番分かることですが、それぞれの存在があったからこそ、このライブになったという必然性が大事なのだと。私も同じくそう思います。


1人でもできるなら1人でやればよいこと。セッションをするからこその世界の広がりや深まりが感じられなければやる意味はないですよね。




それだけで完結してしまう世界に花で入り込んでいく

次に音と花のユニットを結成したのは邦楽の方たちとの「Fortis(フォルティス)」です。尺八と十七絃箏(じゅうしちげんそう)の音色と花は従来より鉄板の組み合わせ。だからこそ、即興でコラボをしていく世界を見せるのはかえって難しい感覚があります。


深く力強い音色の岩田卓也さんの尺八と、たおやかながらキレが良い小林真由子さんの箏の音色が本当に素晴らしくて。


それだけで完結してしまうような世界に、敢えて花で入り込んでいく、そして1つの世界を構築する難しさと面白さが醍醐味のユニットだと思っています。


Fortis(フォルティス)Fortis
尺八:岩田卓也
十七絃箏:小林真由子
花いけ:加藤ひろえ


花いけ:加藤ひろえ




同空間でパフォーマンスすれば、必ずそれぞれが交差する瞬間がくる

いろいろな方とライブで花をいける機会を得るに従い、さまざまなトリガーで花を音に反映させるアーティストがいることに気がつきました。花の香りや花を切る鋏(はさみ)の音に反応する方、花をいける動作や枝のこすれる音や花の形状に意識を集めて音を出す方、などなど。


対して花をいける側の私は、音やリズムの変化に瞬時についてはいけないので、その時のその音が持つ世界観、香りを意識していけていくというのが最近安定してきた方法です。


音に寄り添い合わせるだけではなく、花から仕掛けたり、コンダクトしていくのも面白いのです。


花いけ:加藤ひろえ


あるライブでミュージシャンの灰野敬二(はいの・けいじ)さんとご一緒したのですが、その時にいただいた言葉が印象的でした。


「コラボだからといって、いつもどの時も合わせようとしなくていいよ。それぞれでやっていても同空間でパフォーマンスをしていると必ずそれぞれが交差する瞬間がくる。その交差する瞬間こそが面白くて、そしてライブを見に来てくれているお客様が一緒に体感する貴重なものなのだよ」と。


なるほどと膝を打ちました。ダンサーやペインター、書家の方たちと音のライブを見ていると瞬時に音に合わせて動けるのがうらやましく、花をいけるには花を手に取り鋏を入れる段階を経てからのパフォーマンスになるので、瞬時に音に合わせて何かをするということは難しくて悩んでいたところでした。




「音花妖」はテーマに沿って作り上げる即興のピアノと花の世界

同空間でそれぞれのパフォーマンスが交差する瞬間を見せられるライブを今は目指しています。ピアニストの伊藤志宏(いとう・しこう)さんとは毎回、打ち合わせの時間をとても長くとり、ライブのテーマを決定しています。テーマをしっかりと固めておくことで本番の即興がより自由にできるのです。


今までのテーマは、「甘やかな恋」、「霖後瑠璃空(ながあめやんでのちるりのそら)」、「夏天黒(なつてんくろ)」、「孟秋群青月影(もうしゅうぐんじょうのつき)」、「土の天蓋(てんがい)は待つ」など。


志宏さんと決めた1つのテーマに沿って作り上げる即興のピアノと花の世界は、「音花妖(おとはなあやかし)」というユニットで展開しています。


音花妖(おとはなあやかし)音花妖
ピアノ:伊藤志宏
花いけ:加藤ひろえ


志宏さんは特に嗅覚や第六感的な感覚でこちら側を受け取るピアニスト。なので私もこのユニットのときは、嗅覚や何か分からないけれど生まれ出てくる感覚などを丁寧に拾いながらいけています。


即興のピアノと花の世界




音と共に花をいけることは、交差する瞬間を発見する旅

最近、花をいけることに直接なんらかの作用があるわけではないけれど、何かに通じるかもとダンスを経験してみたくてフラを習い始めました。


即興の世界とは全く違う世界なのですが、踊ってみて発見したことは、音楽に溺れすぎてはいけないということ。


踊りと顔の表情で見る側を惹きつけなければいけないので、あくまで冷静にやるべきことをやるということなのですね。勉強になります。


即興のピアノと花の世界ピアノ:栗林すみ・吉田朝子
花いけ:加藤ひろえ


ライブで花をいけるときにも美しい音、フレーズ、リズムに溺れず、冷静に耳で聴き取り肌で感じ取り、それを自身の花いけに作用させるということが肝要なのです。


音と共に花をいけることは、交差する瞬間を発見する旅。花いけ道中、音と共にまだまだ続いていきます。まだまだ、模索していきます。


※記事の情報は2023年1月24日時点のものです。

  • プロフィール画像 加藤ひろえ(フラワーアーティスト)

    【PROFILE】

    加藤ひろえ(かとう・ひろえ)
    フラワーアーティスト。学生時代に草月流で初めて花に触れる。その後フラワーアレンジを学ぶ。花いけは上野雄次氏に師事。現在に至る。各種イベント、ギャラリー、オフィス、クリニック、飲食店、個人宅へのいけ込み、撮影や舞台の装花のほか出張レッスンやワークショップの講師活動をメインにオーダーメイドでフラワーアレンジメント、花束、ブーケを制作するアトリエルクールを主宰。近年は花をいける面白さを伝えるため、さまざまなアーティストとのコラボでライブ花いけパフォーマンスを開催。共演者 (順不同)Asu、石井彰、石若駿、伊藤志宏、市野元彦、今西紅雪、ウイリアムス浩子、岩田卓也、岡部洋一、OZ Keisuke Yamaguchi、栗林すみれ、小林真由子、斉藤功、桜井真樹子、澤田譲治、白石雪妃、高橋美術、武元狩、知麻、藤高理恵子、行川さをり、灰野敬二、蜂谷真紀、松田弦、宮嶋明香、山村祐理、山本亜美、吉田朝子、米澤一平、類家心平、azumipiano

    現在、東京都目黒区下目黒の蟠龍寺(ばんりゅうじ)、東京都江東区福住のChaabeeにて花いけワークショップ開催中。

    加藤ひろえWebサイト
    https://linktr.ee/hiroekato

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