第3回「いつでもどこでも花をいける、ゲリラ花いけ」

【連載】花いけ道中

加藤ひろえ(フラワーアーティスト)

第3回「いつでもどこでも花をいける、ゲリラ花いけ」

死者を花と共に葬るという習慣は、約6万年前のネアンデルタール化石の周りから花粉が見つかるほど太古の昔から存在すると考えられています。人はなぜ花に惹かれるのでしょうか。そして愛しいものたちに花を捧げたいと思うのでしょうか。フラワーアーティストの加藤ひろえさんに、花の魅力、花いけの魅力、そして、花いけの方法などについて、連載をお願いしました。第3回は、その時その場所で出合った景色や器に、その土地の花をいけていく「ゲリラ花いけ」について。

その時その場所で出合った景色や器に、その土地の花をいけていく"ゲリラ花いけ"

「この景色の中で花をいけてみたい」、「この落ちている空き缶に花をいけてみたい」、「とても面白い表情をした草花を見つけてそれをいけてみたい」とひらめいた時、その場にあるものを使ってその場で花をいけていくことを"ゲリラ花いけ"と自分で定義しています。


その時その場でいけて、しばし眺め、画像に収めた後は何事もなかったかのようにきれいに片付け、その場を立ち去ります。


何にも制約されず、自分自身の花を集中していけ、心を解き放つような時間を過ごすことは花いけの神髄ではないかとさえ思います。




こちらの写真は、渓谷を背景に突き出るように立つ切り株に、土地の花をいけたもの。この時の本来の目的地だった滝の展望所までは車を降りてしばらく山を下りていくのですが、その途中で見つけた景色に花をいけてみたいとひらめいたのでした。


渓谷を背景に突き出るように立つ切り株に、土地の花をいけたもの


自然の中での花いけは緑に囲まれます。ともすると背景の緑と花がなじみ過ぎてしまうので、そのあたりを考慮して美しく花が引き立つところに位置を決めます。


こちらは渓谷に落ちていた枯木にいけたもの。湿度が高い場所で、苔(こけ)むした朴(ほお)が美しくて惹かれたのでした。


渓谷に落ちていた枯木にいけたもの


渓谷に落ちていた枯木にいけたもの


苔の緑と朴の茶色、そこに桃色の花を一輪加えることで、自然のようで明らかに意図のある造形物を誕生させます。


画像に収めると、自然に転がっているものではない自然でできたものが浮かび上がりました。


こちらは1時間に1本の電車が停車する無人駅にて。駅の周りに光を自ら放っているように咲いていた菜の花を、駅舎の片隅に転がっていた泥だらけのバケツに山芋の蔓(つる)と共にいけたもの。


駅舎の待合室のベンチに設(しつら)えました


駅舎の待合室のベンチに設(しつら)えました。誰もいない待合室の空間がぐっと華やかになりました。何もない空間に花が登場することはこんなにドラマチックなのかと驚きます。




アスファルトの隙間から顔を出していた水仙を枕木のかけらにいける

そしてこちらは、道のアスファルトの隙間からたくましく顔を出していた水仙を、落ちていた枕木(まくらぎ)のかけらを拾って駅舎のベンチの上にいけたもの。


水仙を、落ちていた枕木(まくらぎ)のかけらを拾って駅舎のベンチの上にいけたもの


どんなものにいけようか、どこにいけようかとハンターのごとく辺りを見回し、思いめぐらしてこれぞという面白そうなものや空間を見つける時間は最高に心が躍ります。


見つけた空間に花を無心でいけるひととき。
その瞬間が宝物で、格別です。




花いけワークショップの野外編を海岸にて開催

こちらは浜辺にて。落ちていた洗剤のボトルが、波で洗われて良い風合いになったものを器に見立てて、これにいけてみたいと思い、浜大根の花をいけました。波がくるギリギリの場所でいけたので、海がきれいに背景になりました。


浜大根の花をいけました


こちらも海。いつもは屋内で行う花いけワークショップの野外編を、千葉の海岸にて開催しました。


普段使えないような大きな流木を、その場でいける大胆な花いけ


それぞれ好きな場所で、普段使えないような大きな流木を、その場でいける大胆な花いけ。参加者全員が数時間もの間ずっと夢中でいけて過ごしました。


参加者の皆様が「とても面白くてあっという間に時間が過ぎた」と話していました。
出来上がった作品が並んだ浜辺は、あたかも野外美術展の様相。


こちらは、完全に海に入り込んでびしょびしょになりながら、波打ち際に落ちていた土管に花いけ。夕陽が落ちる一瞬の空を背景にいけたかったので時間との勝負でした。


波打ち際に落ちていた土管に花いけ


風や水しぶきと共に、動じずのびやかにいけるのも醍醐味です。




花をいける行為そのものが至福。自分を見つめ、花を見つめ、空間を見つめ、美を見つける即興アート

ゲリラ的に花をいけるための空間、花、器などを求めて旅を重ねるうちに、自分ならではの納得のいく花いけにいつか出合えると信じています。


最近では一緒にゲリラ花いけをやりたいという仲間も増えてきました。不定期でゲリラ花いけツアーも開催しています。数名でゲリラ花いけを行うと競争意識も芽生え、これまた相当楽しく、刺激あるひとときを過ごすことができます。


ぜひ皆様にもゲリラ花いけを体験していただきたい。開催の際はオフィシャルサイトやFacebookにて告知いたしますので、ご興味ございましたらぜひお問い合わせください。


加藤ひろえ


加藤ひろえ オフィシャルサイト
https://www.hiroe-kato.com/


Facebook
https://www.facebook.com/Atelierlecoeur


※記事の情報は2023年5月23日時点のものです。

  • プロフィール画像 加藤ひろえ(フラワーアーティスト)

    【PROFILE】

    加藤ひろえ(かとう・ひろえ)
    フラワーアーティスト。学生時代に草月流で初めて花に触れる。その後フラワーアレンジを学ぶ。花いけは上野雄次氏に師事。現在に至る。各種イベント、ギャラリー、オフィス、クリニック、飲食店、個人宅へのいけ込み、撮影や舞台の装花のほか出張レッスンやワークショップの講師活動をメインにオーダーメイドでフラワーアレンジメント、花束、ブーケを制作するアトリエルクールを主宰。近年は花をいける面白さを伝えるため、さまざまなアーティストとのコラボでライブ花いけパフォーマンスを開催。共演者 (順不同)Asu、石井彰、石若駿、伊藤志宏、市野元彦、今西紅雪、ウイリアムス浩子、岩田卓也、岡部洋一、OZ Keisuke Yamaguchi、栗林すみれ、小林真由子、斉藤功、桜井真樹子、澤田譲治、白石雪妃、高橋美術、武元狩、知麻、藤高理恵子、行川さをり、灰野敬二、蜂谷真紀、松田弦、宮嶋明香、山村祐理、山本亜美、吉田朝子、米澤一平、類家心平、azumipiano

    現在、東京都目黒区下目黒の蟠龍寺(ばんりゅうじ)、東京都江東区福住のChaabeeにて花いけワークショップ開催中。

    加藤ひろえWebサイト
    https://linktr.ee/hiroekato

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