映画を通して知る川の多様な意味【映画の中の土木⑤】

【連載】映画の中の土木

熊本大学 くまもと水循環・減災研究教育センター教授 星野裕司

映画を通して知る川の多様な意味【映画の中の土木⑤】

連載「映画の中の土木」第5回は「川の多様な意味」を知ることができる映画を紹介します。『リバー、流れないでよ』『川っペリムコリッタ』『あの子の夢を水に流して』の3作品を、熊本大学 くまもと水循環・減災研究教育センター教授 星野裕司氏に、"土木"という視点を通して解説いただきました。

イラスト:広野りお

〈目次〉




川のデザインには、土木デザインの醍醐味が詰まっている

土木のデザインに関わるようになって、およそ30年となりますが、幸運にも多くのプロジェクトに参加させていただいています。街路や道路、橋梁、トンネル、広場、公園、ダムなど、それぞれに魅力も難しさもあるのですが、なんといっても、川のデザインに関わることが、最も土木デザインの醍醐味を味わえる気がします。それは、私たちではコントロールしきれない自然と直接対峙することになるからかもしれません。


今までの連載でも、何度か川辺の風景を取りあげてきましたが、今回は川に絞って、私たちにとっての多様な意味を考えていきたいと思います。




「リバー、流れないでよ」―川の流れが示す持続と変化―



監督:⼭⼝淳太
出演:藤⾕理⼦、⿃越裕貴、⾓⽥貴志、久保史緒⾥(乃⽊坂46)、本上まなみ、近藤芳正
2023年/日本/86分

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【あらすじ】
冬の京都・貴船。老舗料理旅館で働く仲居・ミコトは、ある瞬間から「2分間」だけ同じ時間を繰り返す異変に巻き込まれる。番頭から料理人、宿泊客まで、記憶だけを保ったまま元の場所へ戻され、時間のループからの抜け出し方を探り始める。止まらぬループの中で、各人の思惑が交差し、旅館の日常は少しずつ綻びていく。

「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」という『方丈記』のはじまりが有名ですが、川の流れは時間のイメージとしてよく捉えられます。京都の貴船川沿いに建つ旅館を舞台としたこの映画は、貴船川の流れ=時間というものが物語の主題となっています。


映画そのものはとてもコミカルなタイムループもので、ワンカットで撮影された2分間が延々と繰り返されます。古い旅館の迷路のような空間から、貴船神社にいたる急な階段まで、あっちに行ったりこっちに行ったり、俳優さんもカメラマンさんも撮影は大変だったと思うのですが、時間も空間も限定されているのに決して飽きません。


例えば、同じ2分なのに、雪が降ったり天候がいろいろ変わっていくのも、撮影上、仕方がなかったのかなと最初は思いましたが(劇中では、世界線がズレていると一応説明されます)、見続けていくと、天候もまた、それぞれの2分間を演出してくれているという気持ちになります。


この映画でまず感心するのは、人間の対応力、柔軟性です。最初、あれ? 何かおかしい? と混乱する登場人物たちが、結構早く状況を理解し、多くの人と共有し、協同して解決に向かっていきます。もちろん、その間には極端な行動を起こす人なんかも出てくるのですが、そんな時でもみんなで協力して事態の収拾を図ります。旅館の女将(本上まなみ)が、大雨や大雪などの自然災害を何度も乗り越えてきた過去を話しながら、「貴船はそうやって自然と向き合いながらお客様をもてなす場所です。時間が繰り返すことぐらいなんですか!」と叫ぶセリフがありますが、熊本地震を体験した私としても、災害に見舞われた時の私たちのあり方として、大変共感できるものでした。


それでは、なぜ貴船がこの物語の舞台となったのでしょうか。タイムループの鍵はある乗り物が握っているのですが、それが貴船(貴い船)という地名にリンクするということがまず挙げられます。また、このタイムループは貴船あたりだけで起きているらしく、都市近郊でありながらも周囲と隔絶したロケーションであることも、その設定を強引にでも納得させる上で大切なのでしょう。しかし何よりも大切なのは、自然と人間が共存してきた証でもあり、この物語の主題でもある時間を象徴する、貴船川の存在なのだと思います。


観光的には、鴨川の納涼床とは異なり、水面ギリギリに川面を覆うようにかける川床が貴船では有名で、これも自然の恵みを活かす優れた知恵です。ただ、自然と人間の関わりはこれだけではありません。貴船川は渓谷のような、まるっきり自然の川のように見えるかもしれませんが、長い年月をかけて人間が手を加えてきた姿なのです。


まず、映画の舞台となる旅館の周辺では、両岸は人が手で持てるくらいの大きさの自然石で丁寧に護岸されています。また、小さな滝がたくさんありますが、これも自然なものではなく、急勾配の川の流れを安定させるために、階段状にすることでそれぞれの段の勾配を緩やかにさせるためのものです。さらに、滝の下は川底が掘られないように、石で綺麗に舗装もされています。これらは、護岸と同様に、落差工や護床工などといわれる人工的な河川構造物です。つまり、旅館や川床だけではなく、この貴船川そのものが、自然と人間が共存してきた証なのです。


最後に、時間の表象としての川という主題に戻りましょう。最初に引用した『方丈記』の一節は、変わらずに流れているように見える川でも、その中の水はどんどん変わっていくという、持続と変化を示したものでした。この映画で面白いのは、時間はきっちり2分間でリセットされるのに、経験や思いはリセットされずに蓄積、変化していくということです。つまり、動いていないようで動いているという、私たちが川に対して持つイメージそのものを物語化した映画なのかもしれません。




「川っぺりムコリッタ」―どこかにつながっているような川辺のアジール性―



監督:荻上直子
出演:松山ケンイチ、ムロツヨシ、満島ひかり、江口のりこ、黒田大輔、知久寿焼、北村光授、松島羽那、柄本 佑、田中美佐子、薬師丸ひろ子、笹野高史、緒形直人、吉岡秀隆
2022年/日本/120分

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【あらすじ】
川沿いの古いアパート「ハイツムコリッタ」に越してきた孤独な青年・山田たけしは、服役していた暗い過去を抱えたまま静かに暮らし始める。だが、大家や隣人たちの距離感は妙に近く、予想外の出来事に巻き込まれながら、他人と関わることを避けてきた心が少しずつほどけていく。生と死、そして「弔い」をめぐる、可笑しさと温かさが同居する物語である。

「ムコリッタ(牟呼栗多)」とは、仏教における時間の単位のひとつで、1/30日=約48分のことらしい。私たちが今でも使う「刹那(せつな)」はその最小単位で、ムコリッタに対して、1/30の1/60の1/120らしいので、0.013秒ということになるようです。いずれにせよ、川沿いに暮らす人々のささやかな時間を描いているのがこの映画です。ただ、主人公の山田(松山ケンイチ)が冒頭、「川は台風のたびに氾濫する。少なからず日常じゃなくなる瞬間がある。そういうことに常に脅かされながらギリギリを感じている」と独白するように、穏やかな日々が脅かされる可能性を感じながらも、日々を一生懸命に生きる姿を丁寧に描いている映画です。


舞台となっているのは富山県、メインで描かれる川は高岡市と射水市の境を流れる庄川です。貴船川とは違い河口の川ですので、広々とした河川敷をゆったりと川が流れています。この川を渡る「あいの風とやま鉄道」の鉄橋の下が、1つの重要な舞台となるのですが、土手の向こうにもこちらにも川がある不思議な場所です。地図で確認したところ、庄川に並行して和田川が流れていて、この土手は2つの川を分ける堤防(分流堤)になっているようです。


さらに治水地形分類図という川の流れが土地をどのようにつくってきたかがわかる地図を見ると、昔の河川があちこちに分布していて、古来から多くの水害に悩まされてきた土地なんだということがわかります。この舞台となっている場所も、元々はもっと上流で2つの川が合流していたのを下流に引き延ばすことで、川の流れを安定させたのではないかと思います。


さて、この映画には、たくさんの死者が出てきます。山田の父、大家さん(満島ひかり)の夫、元住人の岡本さん(田根楽子)。同じ長屋に住む溝口さん(吉岡秀隆)は墓石のセールスマンですし、島田(ムロツヨシ)も自由気ままに生きているようで、映画の中で直接は描かれませんが、以前息子を亡くしているようです。


また、孤独死を担当している市役所の福祉課職員(柄本佑)も登場しますし、映画のエンディングも、山田が粉末状にした父の遺骨を撒きながら、みんなで川沿いを歩いていくものです。亡くなった岡本さんについて、みんなで「めっちゃ会いたい」とおしゃべりするシーンが象徴的なのですが、その事実を受け入れながらも、死者とともに生きていくということを強く描いているのだと思います。


「人間は2度死ぬ。最初は心臓が止まった時、2度目は忘れられた時」という言葉を聞いたことがありますが、この映画はその2度目の死を、いかにみんなで食い止めるかがテーマになっていると感じました。お盆の時期には、全国の川で精霊流しが行われます。川は、私たち人間のそういう思いを受け止める最適な場所なのかもしれません。


それは、どこからともなく流れてきて、どこかへと流れていく川という存在が、ここではない場所や世界へつないでいるように感じるからかもしれません。この映画でも、河川敷(川っぺり)はそのような場所として描かれています。先に紹介した分流堤の場所です。元「たま」の知久寿焼がウロウロしているのも、その印象を高めているのですが、固定の電話器を中心としたゴミたちが堆く積み上げられ、その上で男の子がピアニカを弾いています。あるいは、受話器をなん度もとって耳を傾けたりしています。これは、のちに女の子の「待っててもダメ。こっちから呼ばないと」という発言によって、何か(誰か)と交信しようとしていたことがわかります。


この連載においても、「セトウツミ」や「PERFECT DAYS」、「パッチギ!」などで、川辺のアジール(逃げ場所)性を取り上げましたが、人だけではなくモノたちにとってもアジールとなっているように見えるこの場所は、土手と2本の鉄橋によって水平性と奥行き感を両立させた構図も相まって、とても広がりのある、どこかにつながっているような場所となっています。優れたアジールになるためには、縁(エッジ)にあるだけではなく、このようなつながり感も必要なのかもしれません。


最後に、今回の記事では深く取り上げなかったのですが、この映画では電話(による交信)も1つのテーマになっているようです。山田は、何度か「命の電話」(孤独死した父親が最後にかけた電話番号)にかけますが、その相手の声が素敵です。鑑賞時には気づかず、最後のエンドロールでなるほど!と思いました。ぜひみなさんは、じっくり耳を傾けてみてください。




「あの子の夢を水に流して」―浮かぶものと沈むもの。川が持つ二面性―


監督:遠山昇司
出演:内田 慈、玉置玲央、山崎皓司、加藤笑平、中原丈雄
2022年/日本/70分

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【あらすじ】
生後まもない息子を亡くした瑞波は、喪失を抱えたまま10年ぶりに故郷・熊本(八代)へ戻る。そこで幼なじみと再会し、豪雨災害の爪痕が残る球磨川流域を巡る時間が始まる。土地に刻まれた記憶と個人の痛みが重なり合い、瑞波は「失ったものとどう共に生きるのか」という問いに静かに向き合っていくのである。

「川っぺりムコリッタ」でも暗示されていたように(あるいは「リバー、流れないでよ」でも)、川は穏やかな表情を浮かべているだけではありません。私が暮らす熊本の球磨川においても、2020年7月4日の未明から朝にかけて線状降水帯が襲い、67名もの犠牲者を出した大水害となりました。九州は、山地が中心を縦断しているため、川は基本的に東西方向に流れています。そのため、東西に伸びる線状降水帯がその流域全体を覆うことがあり、その大量の雨を1本の河川で受け持たないとならないので、洪水が発生しやすい地形条件となっています。球磨川における水害も、まさにそのような条件の中で生じたものでした。


この映画は、球磨川下流の八代市出身の遠山昇司監督が、水害後に球磨川を舞台としてつくり、豪雨から2年ほどで公開されたものです。今まで紹介してきた映画の中では、最もアート的な映画だといえるかもしれません。物語の始まりは相当にキツく、正直、こんなに辛い始まりにしなくてもいいのにと思ってしまいましたが、故郷の災害を遠く東京から眺めていた遠山監督にとって、被災者と近い思いを持つには、これくらいの辛さが必要だったのかもしれないないと思いました。


上映時間は70分と短めの作品ですが、出演者のインタビューを読むと、脚本の薄さに驚いたそうです。確かに、物語自体も、幼子を亡くした瑞波(内田慈)が豪雨によって傷ついた故郷の八代に戻り、同級生たち(玉置玲央、山崎皓司)と交流し、そしてまた家に帰ってくるというシンプルなものです。


ただそのシンプルさ以上に、豪雨からおよそ1年後ぐらいの、球磨川を中心とした風景がたっぷりと映されていて、脚本には書ききれないものが大切だったのだろうと思います。洪水の被害もまだ生々しいものなのですが、その風景がとても美しい。私は、被災後のボランティアにも参加させてもらいましたし、球磨川や人吉の復旧、復興事業にもいろいろ関わらせていただいているので、よく見ていた風景です。本来しんどいはずの風景が美しいとは、どういうことなんでしょうか。


劇中、「浮かぶものと沈むもの」という言葉が出てきます。私も経験があるのですが、洪水に立ち会った時、泥水だけではなく大量の物が流されてくることに驚かされます。その点では、この言葉はとても素朴な感慨といえます。しかしそれ以上に、川が持つ二面性のようなものがテーマになっているのではないかと感じました。


例えば、球磨川を真っ直ぐに見下ろした映像の中にタイトルが出てくるのですが、画面の右側は、岩や石がゴロゴロとした普通の河原のように見え、左側はショベルカーが動き堆積した土砂を撤去しているようです。水の流れも、右側は透明に、左側はさざめいているように見えます。それらは、穏やかさと荒々しさや、光の透過と反射などの二面性が同時に存在していることを表現しているように感じます。あるいは、酒造の社長をしている同級生が眺める穏やかな川の景色は、せせらぎや鳥の声の環境音はそのままに、さまざまな漂流物が浮かぶ川の景色に変化します。


下記に、八代市在住の歌人、池田翼さん(遠山監督の友人らしい)が水害後に詠んだ、映画にも引用されている短歌を紹介します。


やさしげに霧う水辺の奥底に眠る命の呼吸を聞いた


なぜ、この映画の風景が美しいのか。私たちは、「浮かぶもの」しか見えませんが、見えない「沈むもの」も必ず流れている。その見えないものを感じるためには、見えるものが美しいこと、あるいは、見えるものを美しいと感じる心が必要なんだと考えさせてくれる映画です。


加えて、土木のデザインという視点でこの映画を見ると、多くの何気ない場所に美しさが隠れていることに気づかさせてくれます。例えば、瑞波が子どもを亡くした辛い経験を同級生に話すのは、球磨川沿いを歩きながらです。しかし、それは整備された遊歩道ではありません。根固工(ねがためこう)といわれる、川の流れで洗掘されないように護岸の基礎を守るためにつくられたものです。決して人のためにつくられたわけではない場所が、人の思いを優しく受け止める場所になっているのです。


以前、拙著「自然災害と土木-デザイン」(農山漁村文化協会)のなかで、映画「東京物語」の防波堤を対象としながら、土木の本質は、宮沢賢治のいう「デクノボー」ではないかと論じたことがあります。不器用に存在しながらも、大きな優しさを持った場所(=デクノボー)として土木施設が描かれていることに、私はとても嬉しくなりました。


さて最後に1つエピソードを。この映画を一緒に観に行った妻は、急に生まれ故郷に行きたくなったらしく、鑑賞の数日後に、生まれた延岡まで日帰り旅行をしていました。最も素直な、この映画への反応なのかもしれません(すごく辛いことがあったのでなければいいのですが...)。


以上、「川の多様な意味」というテーマで3本紹介しました。映画のジャンルとしては、今までで最もバラエティに富んでいたのではないかと思います。ただ、川としてはむしろ、何か共通性があったように感じます。時間、災害、生と死、さまざまな思いを受け止める包容力、などです。これらは偶然なのか、本質なのか。私もこれからも考えていきますし、みなさんも一緒に考えていただけたらと思います。


※記事の情報は2026年6月9日時点のものです。

  • プロフィール画像 熊本大学 くまもと水循環・減災研究教育センター教授 星野裕司

    【PROFILE】

    星野裕司(ほしの・ゆうじ)
    熊本大学くまもと水循環・減災研究教育センター教授
    1971年、東京都生まれ。1996年に東京大学大学院工学系研究科を修了し、株式会社アプル総合計画事務所入社。その後熊本大学工学部助手を経て、2005年博士(工学)取得。2023年より現職の熊本大学くまもと水循環・減災研究教育センター教授に就任。専門は景観工学・土木デザインで、社会基盤施設のデザインを中心にさまざまな地域づくりの研究・実践活動を行う。主な受賞に、土木学会出版文化賞、土木学会論文賞、グッドデザイン・ベスト100、グッドデザイン・サステナブルデザイン賞、土木学会デザイン賞最優秀賞、都市景観大賞など。

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