【連載】マインドを整える「コーチング」
2019.12.25
石見幸三
モチベーションを上げるコーチングとは
企業の人材育成において注目を集める「コーチング」。現代人のマインドを整えるためのコーチングとは何か。コーチングができる人、できない人。コーチングが効く人、効かない人。現場のエピソードを盛り込んでコーチングの最前線を紹介します。
3タイプの"部下あるある"
今回は主に管理職の方からよく相談される「部下のモチベーションが低い問題」について、"部下あるある"をピックアップして書いていきたいと思います。モチベーションの低い部下によくいるタイプで分けてみました。
①プライベート偏重タイプ
②副業タイプ
③わからないタイプ
①「プライベート偏重タイプ」
趣味など自分のプライベートに重きを置きすぎて、仕事へのモチベーションが低く、日々の態度が前向きではない部下です。もちろん趣味や家族サービスなどプライベートは人が生きていく上で最も大切なものの一つです。とはいえ、プライベートを大事にすることと、仕事をおざなりにするのは違います。
②「副業タイプ」
ある面ではとても優秀な人材ともいえます。「本業」として仕事をしつつ、他にやりたいことを「副業」としてお金を稼いでいけるのは、能力が高いことの証明でもあります。ただそのことで本業への関心が薄れてしまったら?会社のルールで副業OKとしていても、直接的に仕事を見ている上司としては、どういう視点で捉えるべきでしょうか。
③「わからないタイプ」
読んで字のごとく、よくわからないタイプです。特に趣味があるようにも見えず、仕事への意欲もかなり低め。頼まれたら無難にこなすが、積極性は皆無。何を考えているかよくわからない、掴みどころのないタイプ。意外と多いかもしれません。
いかがでしょうか。こうした部下がいる場合に上司の立場から、どんなふうにコミュニケーションをとれば、部下のモチベーションに繋げられるのか考えてみたいと思います。
モチベーションの正体を定義する
ここで先にモチベーションとはなにか? そもそもの「モチベーション」を定義しておきましょう。一般的には「意欲」や「やる気」みたいなイメージだと思います。間違ってはいませんが、ちょっとふわっとした言葉ですので、もう少しかみ砕いて、コーチング的にわかりやすく定義をするなら「行動に対する意味付け」となります。
自分の「目標や達成したいこと、やりたいこと」と、今「自分がしていること」が繋がれば、モチベーションは上がる、ということ。つまり今自分のしていることに意味がある、と思うことがモチベーションになります。例えば世界一周旅行をしたいから1000万円貯めたい、だから仕事をがむしゃらにやる、ということでも。お金のための仕事ですが、将来やりたいことと今が繋がっているからモチベーションは高いといえます。
ただし、これはあくまでも個人の視点です。会社という組織の中で、管理職の立場として部下に求めるモチベーションというのは、仕事自体に意味を見出して、積極的に取り組んでいる態度、つまり自分の会社の仕事を第一義的に考えて行動するモチベーションなんですね。
まとめると、モチベーションというのは行動に対する意味付けであり、個人か会社(組織)か、どこに主観を置くかで見え方が違うということです。
モチベーションに繋げるコーチングとは
それぞれの部下タイプ別に見ていきますが、実は①②はオブジェクトが違うだけで、ほぼ同じタイプなんです。①は趣味やプライベートに熱中していて、②は他の仕事に時間を使っているだけ。さらに言うと、仕事へのモチベーションは別としても、やりたいことがある、という意味でこの2タイプは生活をエンジョイする、生きることに対してのモチベーションは高いです。
ですので、①と②の部下に対しては、趣味や副業は否定せず、むしろそれを楽しむために、仕事(本業)がおろそかにならないよう時間の使い方を考えること、期日までに業務が終わるように手を回すこと、会社という組織の中でどのように振る舞うべきかを自身で考えるようにコーチングで促します。そうすることで今自分がやっている仕事が何のためなのか明確に意識でき、仕事へのモチベーションに繋がります。
ただここで重要なのは、会社の評価軸をきちんと伝えることです。趣味や副業に重きを置くのは良いけれど、会社として評価対象になるのは、会社の仕事を第一義的に考えて取り組んでくれる人である、ということであれば、そのことを知っておいてもらわないといけません。
③のタイプの部下に対して投げかけることはたった1つで、「あなたは何のために働いているの?」という質問です。おそらく「考えたことがない」とか「わからない」、そういった類いの答えが返ってくることが多いと思います。「考えたことがない」と言われたら、2カ月後に改めて面談をするから、それまでに「考えてみて」と返します。それもコーチングです。
2カ月たって再度面談したときに、やっぱり「わからなかった」と言われたら、「じゃあ次の2カ月も考えようか」と返します。そうすると、また次の2カ月も仕事が続くわけですが、その2カ月が今までのように何も考えずに過ごす時間じゃなくなるんですね。仕事をしながら考えるんです。その中で、気づくことやハッと思うことがあるかもしれません。
実際は「考えるのがしんどい」という人が多いです。でも、そこで諦めさせたらダメなんです。「そうか、しんどいか。でもがんばろうか」といった声かけをしながら、考えることを促すコーチング的な関わり、人間関係をつくっていくことも大事なポイントです。
多様な社会だから決められない人が増えている
昭和から平成のバブル時代に作られたサラリーマン映画の代表作に「釣りバカ日誌」があります。主人公の浜崎伝助、通称ハマちゃんといえば仕事はほどほど、頭の中は釣りのことしかない、まさに釣りバカな人間として描かれています。映画がはじまった1980年代、経済がのぼり調子でイケイケなバブル時代からすれば、出世に興味がなく、万年平社員で趣味に生きるハマちゃんは会社という組織の中では、はみ出した、アウトサイダー的なキャラクターでした。
しかしバブルははじけ、時は移ろい、今の時代ではさほどアウトサイダーという感じもしないですよね。多様性時代はむしろハマちゃんのような人間がたくさんいる社会ともいえます。そして、モチベーションを保てない人が多いのは、多様な社会だからこそ。それはつまり自分がどう生きていけばいいのか、何をモチベーションにすればいいのか、決められない、見つけられない人が増えているんですね。
コーチングとは質問することで選択を促し、相手に決めてもらうことが基本です。今回のテーマでもある、部下のモチベーションを上げる、モチベーションを維持するためのコーチングというのは、定期的に部下と話す機会や場を設けること、そして質問を投げかけることで、仕事に対する意味付けを自身で行ってもらうということになります。
組織の中でも「個」に向き合っていかなければいけない時代には、管理職はこうあるべき、といった基準はありません。とはいえ、管理職はキャリアコンサルタントではありませんから、部下の人生を良いものにするべく導こうなどとは考えず、あくまでも組織の一員として、どうすれば利益がでるか、うまく仕事が回るか、その一環で部下と接すれば良いのです。その際のコミュニケーション手段として、コーチングはとても有用なスキルといえます。
※記事の情報は2019年12月25日時点のものです。
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【PROFILE】
石見幸三(いわみ・こうぞう)
株式会社コーチングファームジャパン 代表取締役
http://saikyou-team.com/
<専門分野>
ビジネスコーチング、経営者・エグゼクティブコーチング
チームビルディング、チームコーチング(ファシリテーション)
事業仲介(ファシリテーション)リーダーシップ
<資格>
ギャラップ社認定ストレングスコーチ
ハーマン・インターナショナル認定ハーマンモデル・ファシリテーター
米国NLP(TM)協会認定NLPマスタープラクティショナー
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