仕事
2025.03.25
片岡信和さん 気象予報士・俳優〈インタビュー〉
片岡信和|好奇心のまま没頭して生きていく――片岡さんに学ぶ、キャリア形成のヒントと楽しく生きる処世術
「お天気ストレッチ」や「ピアノ弾き語り天気予報」など、今までにない、エンターテインメント性あふれる天気予報で話題の気象予報士、片岡信和(かたおか・しんわ)さん。2008年に俳優として芸能界デビューし、2019年、34歳の時に気象予報士の資格を取得されました。ほかにも多数の資格を持ち、多彩に活躍されている片岡さんに、気象予報士になるまでの道のりや仕事への姿勢、キャリアアップのコツについてうかがいました。
写真:山口 大輝
戦隊ヒーローから、34歳で気象予報士へ
――芸能界に入ったきっかけを教えてください。
大学時代に映画を観るのが大好きで、最初は映画のライターになりたかったんです。でも出演は学生のうちじゃないと挑戦できないと思って、オーディション雑誌を買って自分で応募して事務所に入りました。受け身より自分から行動するのが好きだったんですよね。そこから2008年、戦隊ヒーロー「炎神戦隊ゴーオンジャー」(テレビ朝日系)に出演し、地球を守っていました(笑)。
――当時の地球は片岡さんによって守られていたのですね(笑)。2019年3月には、気象予報士の資格を取得されました。なぜ俳優から気象予報士になろうと思ったのですか。
映画やドラマは簡単にお蔵入りになるんです。若い頃、プロデューサーに「平和じゃないと放送されないんだよ」と言われたのが印象に残っています。2011年に東日本大震災が起きて、僕も実際にその現実に直面しました。いざみんなで経済を回していこうという時に、仕事がなくなり、何もできない自分がすごくむなしかった。危機感を覚えて、役者以外で人の役に立ちたいと思い始めました。
人のためになるには何ができるかと考えて、じゃあ毎年のように起こる自然災害について勉強しようと、32歳で気象予報士の勉強を始めました。でも当時は、とりあえず勉強さえしておけばいいかな、くらいの気持ちで、こんなにすぐに気象予報士になれるとは思っていませんでした。
――2年間、役者の仕事を控えて資格取得の勉強に専念し、1,500時間勉強したそうですね。その間にはどのような苦労がありましたか。
何度もくじけそうになりました。勉強していた2年間にいろんなことが重なって人生のどん底を味わいました。まず父が病気で入院して、そうなると母が看病疲れで弱ってくる。どんどんやつれていく母を見て、勉強はどこでもできるからと僕が看病するようになって。苦しんでいる父を前に何もできなくて、仕事も宙ぶらりんで、勉強も進まない。役に立ちたいと思って行動したのに、何の役にも立っていないことが苦しかった。
一番つらかったのは世間からの無関心です。僕が1mmも関わっていない世の中が回っている。その無関心が僕にとっては絶望でした。勉強を続けながらも1回気持ちの糸が切れて、滝のように涙があふれました。そこから1、2週間の間に父が亡くなって、世の中が白黒に見えました。
――そうした苦しみをどのように乗り越えたのですか。
父の言葉が支えでした。気象予報士の勉強をすると伝えた時、「素晴らしいことだよ。頑張れ」と言ってくれた。その言葉が僕をつないでくれたような気がします。
そして試験の日に、奇跡が起こるんですよ。偶然にも試験会場が父の母校で、試験の題材となった天気図の日付が父の命日だったんです。その日付が見えて、試験開始前に泣いてしまいました。その1年後には、父が大好きだった「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日系)の出演が決まって。一度どん底を味わったから、今はとても忙しいですが、ありがたいと思うし、何でも楽しめるようになりました。
おうち時間の運動不足を解消する「お天気ストレッチ」を考案
――2020年春から「羽鳥慎一モーニングショー」のお天気キャスターに就任されました。話題の「お天気ストレッチ」はどのように生まれたのですか。
コロナ禍で、出演が決まった1週間後には、緊急事態宣言のため"おうち時間"に入り、お出かけ情報を伝えられなくなってしまったんです。その中で何か人のためにできることはないかと考えて、運動不足が心配だから、手軽にできるストレッチをやってみようと思いつきました。僕は元々運動が好きで、大学の頃に運動の勉強もしていたこともあって、番組に提案して始まりました。当時も体を鍛えていて腹筋が割れていたので、説得力が増したんでしょうね(笑)。
真面目にやるより、例えば夏なら平泳ぎの動きで腕を大きく動かすなど、何か季節のシチュエーションに合わせるとか、面白おかしくやる方が、視聴者は体を動かしてくれるのではないかと考えました。その狙いが当たって、視聴者から、「楽しい」「もう少し簡単なのにしてほしい」などとさまざまな声が届くようになりました。最初は2週間限定の予定でしたが、コロナ禍以降も続けることになり、もうすぐ6年目を迎えます。
羽鳥さんやコメンテーターの方々が笑いながら一緒にやってくださったり、街中で年配の方などに「ストレッチのお兄さん」と声をかけられたり、しっかり届いているのが分かってうれしかったです。さすがに6年目になって、毎日生みの苦しみに悩まされていますが(笑)。
特におすすめのストレッチは、腕をフラフープのように回す「腕フラフープ」。上半身を動かすことで血流が良くなり、ウエストの引き締めや肩こり解消にも効果があるという
――ご自身も、ジムに行かずに家でのストレッチだけで鍛えているんですよね。
20代はジムに行っていましたが、30代で行く必要がないことに気づきました。トレーニングマシンで体を動かしている時間って20分もないと思います。週2でジムに行ったとして、20分×2で週に40分。1日10分ストレッチをすれば、10分×7で70分ですよ!? 10分でもストレッチをすれば汗をかくし、ジムに行く手間やコストもかかりません。
体を大きくしたいなら、重力以上の負荷をかけるためにトレーニングマシンなどが必要ですが、健康でいる分には10分動いて汗をかくだけで十分じゃないですか。地球上には重力があるので、もはや地球上がジムなんです。長い階段を歩く、電車で立つとか。ジムに行かないと運動できないというのは大間違いで、いつでもどこでも体を動かすことで気分転換になるし、健康にもつながります。お天気ストレッチにはそんなメッセージを込めています。
――お天気ストレッチは誰でもできる簡単な動きでありながら、理にかなっているのが人気の秘訣だと感じます。やっぱり健康第一ですよね。
100年幸せに生きることを考えると、健康は何よりも投資すべきものだと思っています。風邪をひいている時、良いことがあっても全然うれしくなかったですから(笑)。健康じゃないと喜べないんだと思いました。ストレッチを通して、今の体型を維持することが当面の目標です。
俳優業を辞める覚悟で挑んだ「ピアノ弾き語り天気予報」。娯楽の仕事で生きていける実感が持てた
――2024年10月から始まったニュース番組「有働Times」(テレビ朝日系)では、「ピアノ弾き語り天気予報」が注目されています。ピアノを弾きながら天気予報を伝える姿に、初めて見た時は衝撃を受けました。どのような経緯で生まれたのですか。
2024年の夏頃に、テレビ局からオファーを受けました。お天気コーナーって、ニュース番組の中で独立されていて、普通に天気予報を伝えるだけでは視聴率が下がるんですよ。お天気ストレッチも、注目されたおかげで視聴率が上がったという側面があります。そうしたお天気コーナーの課題を打開するために、何か新しいことをできないかと。僕の過去を調べてくれて、「ピアノを弾きながら天気予報を読めますか?」と提案されました。
20代から染みついた役者根性で、僕の中にできないという文字はなかった。まず曲作りからです。人に好まれるコード進行「カノン進行」を使って、夜寝る前の時間帯に合わせて穏やかな優しい曲にしました。作曲しつつ、弾きながら話す練習を、睡眠時間を削って毎日5時間続けた結果、5kg痩せました。
ピアノと天気予報、全く別のことを同時に行うのってすごく難しいんですよ。本番2週間前まで、曲は完成しても話せなかった。マネージャーに「もう無理です」って言おうと思ったくらいです。でもそう思った翌日に弾けるようになっていました!
おやすみなさ〜い♪#有働Times #弾き語り天気 pic.twitter.com/x0LVHYUoSl
— 片岡 信和 (@ShinwaKataoka) November 17, 2024
――苦しい2カ月を経ての初回放送、いかがでしたか。
驚いたり褒めてくれたりと温かいコメントがほとんどで、うれしかったし、ほっとしました。新しい試みでふざけているようにも見えるので、もっと叩かれると思っていたんです。
本番は極度の緊張で鍵盤が真っ白に見えましたが、指先が覚えていて勝手に動いてくれました。実は、もし生放送で弾き語りを失敗したら、役者の仕事を辞めるとマネージャーに伝えていました。天気予報でミスは許されませんし、芸能で中途半端なことをしたくない。それなら役者を辞めて、気象予報士として人の役に立つ道を選ぶと。
生放送で弾けた瞬間、生き延びたと思いました。僕はまだ芸能を続けていいんだなって。不安や苦しみを遠ざけて生きていくために、娯楽は絶対に必要だと思っています。娯楽を通して、人を楽しませたい、明るくしたいという気持ちで今までやってきました。そこに自分の生きていく道があると実感できたんです。40代を前にようやく、今までやってきたことが上手くまとまってきたと感じています。
キャリアアップのコツは、好奇心のままに動くこと。振り返ればきれいな線ができている
――これまでのさまざまな活動が今の仕事につながったんですね。
やっとつながりましたね。頭の中で行動しないで、ただ興味があったから音楽を始めた、役者になった、ストレッチを始めた......全部バラバラだったものが、振り返ったらきれいな線になっていました。好奇心のままに、とにかく行動して良かったなと思います。
「30代でなぜ気象予報士?」とか、陰口を言われて傷ついたこともありましたが、「俺は役者を辞めるけど、お前は頑張れ」と言ってくれた友達もいて、そう言われた時はすごく心に染みました。スティーブ・ジョブズも「とにかくドットを打て。振り返ったらつながっているから」と似たようなことを言っていました。つながるまで動き続けた方がいいんだろうなと思います。
――キャリア形成の上で大切にしていること、キャリアアップのコツを教えてください。
人生って頭でいろんなプランを考えても、大抵その通りにいかなくないですか? だから、その時々で興味のあること、わくわくすることをやっていくのが大切だと思います。それをやっていけば、自然とつながっていくから。頭で考えない方がいいですね。
みんな本能的にやりたいことは分かっているはずです。年齢とかを言い訳にして、心にフタをしてやらずに押さえつけているだけなんですよ。どんな些細なことでも、絶対に心が動くことってあると思うから、後先を考えずに今興味あることをやる。最初の一歩を踏み出すと楽しいですよ。
不安や苦しみを遠ざけるのが処世術。何かに没頭して生きる方が楽しいしラク
――片岡さんは気象予報士のほかにも、防災士、危機管理士、宅地建物取引士(宅建)、健康気象アドバイザー、eco検定(環境社会検定試験)など多くの資格をお持ちです。なぜ資格にチャレンジし続けるのでしょうか。
分からないことが分かるようになること以上の喜びって、人生にないと思っています。好きな人ができて、結婚して、家族ができる。言ってしまえば、それだって分からないことが分かるようになっていく過程ですよね。
例えば、宅建は思い出づくりでした。コロナ禍で、後先振り返った時に、あの時何もできなかったなっていう思いで終わらせるくらいなら、意味のないことでも形にしようと思ったんです。「コロナ禍で宅建取ったんだ!」と言ったら面白いじゃないですか。宅建業で働くつもりは全くないんだけど、どうせ家にいるし、学び直しは常に必要だなと思って。テキストを買わずに、YouTube先生とGoogle先生だけで勉強して取りました。
一番損なのは無知だと思うんです。知識があることで、物事の見方や感じ方が違って見えてくる。みんな資格を何かに使うために取ると思いますが、僕は違うんですよ。知識をいかに効率良く身につけるか。試験という締切があることで、無駄なく勉強できる。何でも知りたいという好奇心が資格にも表れたという感じかな。
――片岡さんにとって、キャリアップの原動力は何ですか。
好奇心! 何かに没頭してた方が楽しいしラクです。不安や苦しみをいかに遠ざけて生きていくかが、処世術だと思っています。永遠なんてない、と言うけど、僕が考えるのは時間を忘れた瞬間が永遠なんです。好きなことや興味あることに没頭していると、その瞬間は嫌なことを忘れるじゃないですか。だから、何かに没頭し続けて生きていくことが一番ラク。
人生あっという間ですが、暇つぶしで生きていくには長すぎるんですよね。仕事に限らず暇をつぶせる技術は必要だと思うし、今にどれだけ没頭できるかがすごく大切な気がしています。そのためには健康でいることが一番です。
――これからやってみたいことはありますか。
まずピアノの腕を磨いていきたいです。弾き語り天気予報をもっと面白くしたいですね。ただBGMのように弾くのではなく、その日の天気に合わせて装飾音を入れるなど、弾き方を変える、季節に合った曲を弾くというのが、僕の完成形かなと思っています。
あとは英語。英検1級に挑戦したいです。それから料理。僕がもし気象予報士になっていなかったら、調理師免許は確実に取っていますね。あとは麻雀。今、健康麻雀ブームで、悪いイメージがあった昔と認識が変わってきています。気象予報士の僕が麻雀のプロになったら、めちゃくちゃ面白くないですか(笑)。
その扉を叩こうと思いますが、それがどうつながっていくか、僕も全く分かっていません。興味があるけどできていないこと、そういういろんな点を打っていって、楽しい人生になればと思います。
――ありがとうございました。キャリア形成について学びのある取材でした。俳優としての表現力、ピアノ、健康への意識など、これまでの活動や思いが気象予報士の仕事に全てつながり、活かされているのがすてきだなと思います。多才な片岡さんの実力は、興味のあることに没頭し、ストイックに努力する精神の賜物だと感じました。今後さらなるご活躍を応援しております!
ヘアメイク:川村 友子
◆レギュラー番組
・「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日系)
毎週月曜~金曜 8:00~9:55
・「有働Times」(テレビ朝日系)
毎週日曜 20:56~22:15
かたおか気象予報士の毎朝10秒! 楽しく「お天気ストレッチ」
出版社:幻冬舎
発売日:2021年3月17日
◆ドラマ
・「ワタシってサバサバしてるから2」(NHK総合)
5月5日(月・祝)から 毎週月曜~木曜 22:45~23:00(各回15分)
〈片岡さんコメント〉見どころは、僕のとびっきりの笑顔。撮影が長回しでアドリブが多く、舞台みたいで楽しかったです。久しぶりのドラマ出演なので観てほしいな。
・土ドラ特別企画「介護スナックベルサイユ」(東海テレビ・フジテレビ系)
第2話 3月29日(土) 23:40~24:35
〈片岡さんコメント〉今までにない設定の役柄だったので、現場で監督と丁寧に作りました。魅惑のダンス? もお楽しみに♪
※記事の情報は2025年3月25日時点のものです。
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【PROFILE】
片岡信和(かたおか・しんわ)
気象予報士、俳優
1985年東京都生まれ、中央大学卒業。2006年に芸能界入りし「炎神戦隊ゴーオンジャー」(テレビ朝日系)で本格的に俳優デビュー。ドラマ、映画、舞台、ラジオパーソナリティーなど多方面で活躍。2019年に気象予報士試験に合格し、2020年の春より「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日系)、2024年10月より「有働Times」(テレビ朝日系)のお天気キャスターに。
片岡信和 Official Site https://shinwakataoka.officialsite.co/
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