木村建次郎|みえないものを数学で可視化。研究の対象は逆問題から不老不死、そしてタイムマシンへ

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木村建次郎さん 神戸大学 数理・データサイエンスセンター教授・IGS 代表取締役〈インタビュー〉

木村建次郎|みえないものを数学で可視化。研究の対象は逆問題から不老不死、そしてタイムマシンへ

応用数学史上の未解決問題とされてきた「波動散乱の逆問題」を世界で初めて解き、外からみえない内部を可視化する技術を生み出した、神戸大学 数理・データサイエンスセンター教授兼、株式会社 Integral Geometry Science(IGS)代表取締役の木村建次郎(きむら・けんじろう)さん。乳がん検査、蓄電池やトンネルの非破壊検査など多岐にわたる研究の芯には、「自分なりの答えをみつける」「みることを大切にする」という一貫した姿勢がありました。そして今、研究は透視から不老不死、タイムマシンへ。木村先生の発想の原点を聞きました。

写真:赤澤 昂宥

内部を透視する=「波動散乱の逆問題を正しく解く」とは?

――木村先生の研究は、「波動散乱の逆問題」を解明し、みえないものを可視化する技術を確立しました。どのような技術か教えてください。


簡単に言うと、外からはみえない内部の状態を、表面で得られる情報から画像化していく技術です。開発したものとしては、コンクリートの中にある鉄筋の腐食箇所を非破壊で可視化する「鉄筋破断・腐食非破壊検査システム」や、痛みなく乳がんを検出する「マイクロ波マンモグラフィ」、発火リスクのある蓄電池の内部異常を可視化する「蓄電池非破壊画像診断システム」などがあります。


これらの技術開発の核となるのが、「逆問題を正しく解く」ことです。まず、この問題を解決することが、可視化という技術の全てにつながっています。


よく例えるのですが、ものをみるときには、3つの役者がいます。光を出すもの、光を跳ね返すもの、その跳ね返った光を受け取るものです。カメラの場合は、フラッシュをたいて、フラッシュの光が被写体に当たって跳ね返り、その光をカメラがキャッチすることで像が映し出されます。


波動散乱の逆問題も、その関係性と一緒なんです。外側からは見えない内部に波動を送り込みます。その波が内部にある対象物に当たって散乱し、戻ってきた波を外側で観測する。そのデータを逆算して、内部に何があるのか、どのような形をしているのかを画像として再現します。これが「波動散乱の逆問題」です。


波動散乱の逆問題を解決した、多重経路散乱場の逆解析理論(写真提供:株式会社 Integral Geometry Science)


――跳ね返ってきた波の情報から、中に何があるのかを逆算するということですね。ただ、これまでもレーダーなどで内部を調べる技術はありました。何が違うのでしょうか。


従来は、この逆問題を正しく解けていませんでした。内部はみえなくても、「こうなっているのではないか」というモデルをまず想定する。そのモデルをコンピューター上でつくり、「こういう電磁波を当てたら、こういう電磁波が跳ね返ってくるだろう」と計算します。


でも、それはあくまで想定です。実際の計測結果と計算が合わないので、モデルを少しずつ修正していくのですが、これにすごく時間がかかっていました。しかも、最初に想定したモデルが実際の内部の対象物と大きくずれていると、答えがなかなか本物に近づかないんです。


みえないものが本当は棒のような形なのに、最初に星のような形のモデルを想定してしまうと、そこから正しい答えにたどり着きにくい。細かい構造にしたモデルほど返ってくる電磁波も特徴的になりますから、合わせづらくなることもあります。そうすると、結局はぼやっとした画像になってしまうんです。


――最初の想定に、結果が引っ張られてしまうわけですね。


そうです。さらに、電磁波をキャッチするためにどこにセンサーを置いたのか、どの位置から測ったのか、どのように動かしながら計測したのか。そういう条件を無視して計算すると、本当はその時点では届いていない電磁波まで「届いたこと」になってしまう可能性があります。


だから我々は、センサーの位置や座標、計測の条件を踏まえて逆問題を解いています。それをきちんと扱うことで、無駄な情報を減らし、虚像を抑え、実際の内部構造に近い高精度な画像をつくり出そうとしています。


「波動散乱の逆問題を正しく解く」というのは、想定ではなく、数理として正しく扱うことです。表面で得られた情報から、内部にどのようなものがあるのかを読み解く。そのためには、測り方そのものも含めて考える必要があります。





蓄電池の内部異常検査や、乳がんの発見......。可視化する技術が社会を変える

――その「みえないものをみる」技術は、実際に社会で使われ始めていますが、どのようなものがありますか。


分かりやすいところですと「蓄電池非破壊画像診断システム」です。リチウムイオン蓄電池は、内部に短絡箇所があると、発熱や発火の危険性があります。ただ、電池の外からみただけでは、内部で何が起きているのかは分かりません。


――もちろんメーカーでも検査をしているのでしょうが、どの個体が発火するかまでは100%突き詰められていないから、発火などが起こるのでしょうか。


はい、これまでの一般的な出荷前検査は、充電後の電圧降下(エージング試験)を検査手法としていましたが、その検査を通ったはずの蓄電池で事故が起こったりしていました。しかし、「蓄電池非破壊画像診断システム」は、蓄電池の磁場を測定し、良品電池として出荷されている電池に含まれるわずかな短絡を確認できます。


電池内部の電流経路や電流密度分布状態を透視し、電流分布の短絡箇所を特定する「蓄電池非破壊画像診断システム」


具体的には、電池内部の電流密度分布を正確に可視化することで、発熱や発火のリスクのある電池を把握できるのです。壊して調べるのではなく、外側から得られる情報で内部をみることができます。


――乳がん検査の「マイクロ波マンモグラフィ」も、一般読者にとって関心の高い技術だと思います。これはどのような技術なのでしょうか。


「マイクロ波マンモグラフィ」は、文字通り、マイクロ波を使って乳房の内部を調べる技術です。従来の乳がん検診ではX線を使う方法がありますが、被曝リスクや痛みを伴います。それに対して、被曝リスクや痛みもなく、マイクロ波で乳がんを可視化しようというものです。


検査自体も15分程度と短い時間で終わる点も従来の検査から改善されています。現在は実証実験の最終段階です。


「マイクロ波マンモグラフィ」による検査。乳房内のがん組織の位置や大きさを3次元画像として表示し、がんの高い検出率が期待される


――インフラ分野では、トンネル検査などにも使われていますね。


はい。トンネルの検査は従来、足場を組んで高い所に登り、壁をこんこん叩く打音検査をしたり、必要ならコンクリートを削り出して確認したりして行っていました。


それが、「鉄筋破断・腐食非破壊検査システム」では、車両にアンテナやセンサーを載せて、トンネル内を走らせながら壁の中から得られる情報を読み取れるようになりました。時速10kmくらいで走らせて検査できますから、検査自体もかなり早く終わります。1kmほどのトンネルなら、検査そのものは10分程度です。


鉄道トンネルでも、かなり広い範囲で検査しています。劣化箇所があれば、事前に把握して補修につなげられます。全てを壊して確認するわけにはいきませんから、外側から内部の状態をみられる意味は大きいですね。




ロケットに憧れた少年が、数学に向かった理由

――応用数学史上の超難問を解いた先生は、子どもの頃から、いわゆる"勉強ができる子"だったのでしょうか。


いや、全然そんなことはないです。中学生の時はそこそこ勉強ができるみたいな感じでしたが、真面目な子ではなかったです(笑)。その自分を大きく変えたのは、とあるテレビ番組でロケットの打ち上げを見たことでした。


当時、たまたまつけたテレビ番組でロケットが打ち上げられるのを初めて見ました。その衝撃が大きく、「これは何!?」と父に質問したところ、「NASAの宇宙ロケット。人間が月に立つ」と言われ、「人間って月に行けるの?」と純粋に驚いて、「俺、これやる」と、その瞬間に腹を決めました。


ただ、父には「今の学力でロケットの研究はできやしない。宇宙工学を研究するには東大とか京大にいかないと」と言われました。自分は分かりやすい性格で、やりたいことができると、ひたすらそれしか見えなくなるタイプ。次の日から人が変わったように勉強し始めましたね。


――そんな子どもが京都大学へ進学するんですよね。相当勉強されたのでしょうか。


当時、塾にも通っていましたが、学力も一番下のクラスでした。それまで真面目に勉強したことがないので、当然テストもほぼ0点なんですね。それでどうやったら勉強ができるようになるか父に聞くと、「答えを見て覚えるな。自分で自分なりの答えを導く作業をやらないと賢くならないし、理解できるようにならない。答えを見て理解した気になって、それを繰り返してなんになる」と言うんですよ。「じゃあ答えは見ちゃダメなんだ」と自分で考えるんです。


そこからですね。だんだんとレベルアップしていくのは。いつの間にか、超難関高校の入試問題も答えを見ずに全て解けるようになっていました。これはすごく重要で、自分なりの考えを持つまで、答えを見ない癖をその頃に身につけていました。


それは今も活きていて、研究でも自分の持っている知識の中でこうやればできるはずだっていうのを固めるんです。そこから自分なりの答えを見出し、それを修正しながら進めていくことが重要なんです。



――先生は、研究の中で「答えが降りてくる」ような瞬間はあるのでしょうか。


ありますね。ずっと考えていると、ある時に「あ、これでいけるんじゃないか」と思う瞬間があります。僕の場合、まず頭の中で計算します。思いついたことを頭の中で計算してみて、「これはたぶんうまくいく」と思ったら、実際にやってみる。そうすると、だいたいうまくいくことが多いんです。


もちろん、全てがうまくいくわけではありません。でも、頭の中でかなりのところまで考えます。式としてどうなるか、実際に測ったらどういうデータになるか、そこから何が出てくるか。そういうことを頭の中で動かしている感じです。


だからずっと考えているうちに、いろいろなものがつながる瞬間があると思います。ただ机に向かっている時より、山を登っている時や散歩している時、体を動かしている時の方が答えが出てきますね。




半導体研究から、「みる技術はつくる技術になる」へ

――ロケットへの憧れから勉強に向かい、その後、どのように現在の研究へつながっていったのでしょうか。


研究としての出発点は半導体です。京都大学では、半導体の内部構造を調べる顕微鏡(非破壊検査装置)が、僕の博士論文のテーマでした。当時、恩師から言われたのが、「つくることも大事だけれど、つくったものがどのようにできているかをみることの方がもっと大事だ」ということでした。その言葉がずっと心に残っています。


――「みること」の重要性とはどういうことなのでしょうか。


みる技術は、必ずつくる技術へ変わっていきます。例えば、AI分野では半導体は欠かせません。半導体は、回路を極限まで小さく(微細化)することで、電気の移動距離を短くし、圧倒的な処理速度の向上と消費電力の削減を実現できるので、より性能の良い半導体をつくろうとするなら、当然小さい半導体をつくらないといけない。


その小さいものをつくる時に、その中がどうなっているのかを調べないと、そもそもちゃんとできているかも分からない。性能を良くするために、どうつくり方を変えたらいいかも分からない。


みて分析をすることで、今度はその原理を使ってより良いものをつくることができる。これは半導体の話だけではありません。何かをつくるときには、「つくったものがどうなっているのか」をみなければ、次に進めませんし、みえるから分析ができる。分析ができるから、次にどうすればいいかを考えられる。僕にとって、「みる」と「つくる」は別々のものではないんです。


――波動散乱の逆問題を解くことも、その延長にあったのでしょうか。


そうですね。表面に現れた情報から、内部の状態をどう正しく読み解くか。その数理を実装と結びつけることが重要です。僕らがやっているのは、単なる装置開発ではありません。装置はもちろん必要ですが、それだけではなく、得られた情報をどう読むか。数理として正しく扱わなければ、みえたように思えても、それが本当に内部を表しているかは分かりません。


数学として正しく解くことと、実際の装置や測定に落とし込むことはつながっています。頭の中で考えたことが、実際の画像や装置につながっていく。そこが面白いところです。





不老不死にタイムマシン! 研究対象は夢のような話

――先生の研究してきた成果は社会実装され始めています。今はどのようなことに関心を持っているのでしょうか。


不老不死や長寿のような研究を最近テレビやYouTubeに出演した際に話していますが、あの研究は自分の中では「もうできる」と分かった研究なんです。あとは、それをいかに実装まで持っていくか。もちろんその作業も大変なのですが、「こうやればできるはずだ」っていうレシピは自分の中ではできています。


なので、ここ2年は、タイムマシンを、マシンとしてつくり得るかという、どちらかと言えば設計に近い研究をしています。自分の考えに加え、先人たちの論文も勉強して、こういうふうにやればできるかもしれないと考えることに今一番時間を使っていますね。


「こういうレーザーがあって、こういう重力発生装置があって、そうするとこのぐらいのエネルギーがつくられる。だから、このぐらいの高温に耐えないといけないか」とか、はたまた「タイムマシンには、どうやって情報を送り込むのか」とか、「人間という物体を送るのは無理だから、それを一度情報に変換し、情報をトランスファーして、またそれをどうやって脳に復元するか。脳から情報を取り出して、その情報の時間軸をずらして、またもう一回脳に復元する。その流れはどういうふうな手順でいけばいいんだろうか」とか。ものをつくるための構成を研究しているイメージですね。


――みえないものの透視、不老不死、タイムマシン......。本当にそんなことできるのかというような研究ばかりですね。


そうですね。これは研究者の考えですが、例えば核融合を研究されている方に、「核融合はできるんですか?」と聞いて「できる」と言い切る人はいないと思っています。その質問の真意は、一般的には「核融合の技術が、今ある発電に置き換えられますか?」という意味なんですよね。理論や物理として、「核と核がフュージョンできるのか」を聞いているわけではないですし、そんなことに世間一般の人は興味がない。


タイムマシンも一緒で、「タイムマシンができますか?」というのは、「本当に過去に戻れますか?」「織田信長に会えますか?」ということを聞かれていると僕は思っています。だから、タイムマシンの研究も理論や物理の話をするのではなく、実際にできるかどうかの設計の部分を考えているんです。それこそ、「1秒前に戻って1万円、10秒前で10万円」みたいなビジネスができるところまでは持っていきたいと真面目に考えています(笑)。



――木村先生の話を聞いて印象に残ったのは、どれほど大きなテーマでも、出発点には「まず自分で考える」という姿勢があることでした。みえないものをみようとする研究は、突飛な発想ではなく、考え抜く日々の中から生まれているのだと感じました。その積み重ねから生まれる技術が、これからの私たちの暮らしを支える"当たり前"をつくっていくのかもしれません。


※記事の情報は2026年8月21日時点のものです。

  • プロフィール画像 木村建次郎さん 神戸大学 数理・データサイエンスセンター教授・IGS 代表取締役〈インタビュー〉

    【PROFILE】

    木村建次郎(きむら・けんじろう)
    神戸大学 数理・データサイエンスセンター教授、株式会社 Integral Geometry Science(IGS)代表取締役
    1978年、岡山県生まれ。2001年、京都大学工学部電気電子工学科卒業。 2006年、京都大学大学院工学研究科博士課程修了(博士・工学)。2012年には、10年の歳月をかけて応用数学史上の未解決問題である「波動散乱の逆問題」を世界で初めて解決することに成功し、株式会社 Integral Geometry Science (IGS) を設立。2018年に神戸大学数理・データサイエンスセンター教授に就任(現職)する。内部の構造や状態を透視する技術を用い、「マイクロ波マンモグラフィ」「蓄電池非破壊画像診断システム」など、さまざまなソリューションを開発してきた。

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