
仕事
2026.08.28
東香織さん 重機オペレーター〈インタビュー〉
東香織|"重機女子"の人生を変えた油圧ショベルとの出会い。重機に乗ることは「私にとってのウェルビーイング」
"重機女子"として知られる東香織(ひがし・かおり)さんは、女性重機オペレーターの先駆け的存在です。偶然の出会いから油圧ショベルと恋に落ち、無類の重機好きに。重機や建設業界の魅力を伝えるインフルエンサーとしても活躍されています。「死ぬまで重機に乗っていたい」と語る東さんの"重機愛"に迫りました。
写真:山口 大輝
「ドラえもん先輩」に導いてもらった重機オペレーターへの道
――重機に興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか。
子どもの頃は、重機はあまり好きではなかったんです。長野の自然豊かな場所で育ったのですが、大きな重機が出入りする工事現場周辺は渋滞になることもあって、あまり良い印象は持っていませんでした。
でも、今から10年ほど前、パート先で見た油圧ショベルが、その後の私の人生を変える出会いになりました。当時、私はタクシー会社の事務所で清掃の仕事をしていたのですが、ある日、隣の敷地で工事が始まって、事務所の2階からその現場の様子がよく見えたんです。
そこで初めて動く重機をまじまじと見ました。運転席が個室空間になっていて、できれば一人でこもって仕事したいタイプの自分にはぴったりだなと思ったことを覚えています。
――重機に惹かれるようになったのは、偶然の出会いからなんですね。
そうなんです。「どんな人が操作しているんだろう」と思って見ていたら、その思いが届いたのか、重機から男性が落ちてきたんです。実際には運転席から降りてきただけなのですが、運転席の位置が高いので、降りてきたというよりも、転がって落ちてきたという表現の方がぴったりで。青い作業着を着ていたので、その様子はまるでドラえもんのようでした。
その方のことを私は「ドラえもん先輩」と呼んでいて、いろいろと面倒を見ていただき、実は今、私の会社で働いてもらっています。
今では街中で工事現場を見つけると、思わず見に行ってしまうほどの重機好き。重機の音を聞いただけでどこのメーカーの重機かを当てる「利き重機」を楽しんでいるという
――「ドラえもん先輩」とは、どうやってお知り合いになられたのですか。
重機のことが気になり始めた時に事務所の近くのコンビニに行ったら、なんと「ドラえもん先輩」とバッタリ会ったんです! 「このチャンスを逃すわけにはいかない」と思って、私から話しかけたのがきっかけです(笑)。
当時の私は「油圧ショベル」や「重機オペレーター」などという言葉も何も分からない状態でした。建設業界で働いている知り合いがいるわけでもなく、どうやって調べたらいいかも分からず、でも知りたくてたまらなかったので、思わず声を掛けてしまいました。「どういう職業なんですか?」「重機に乗るには資格がいるんですか?」って質問攻めでしたね(笑)。
――まるでドラマのようですね!
「ドラえもん先輩」は私のことを面白がってくれて、重機や重機オペレーターという仕事について、いろいろと親切に教えてくれました。「免許を取ったら乗せてやるよ」と約束までしてくれて。
軽い気持ちで言ってくれたのかもしれませんが、私はもう本気でした。当時、子どもがまだ小さかったので、何日間も長時間子どもを預けて大型特殊免許を取るのは簡単なことではありませんでしたが、「挑戦しない」という選択肢はなかったですね。
――すっかり重機に夢中になっていたのですね。
約半年後に免許が取れた時は、それはもううれしかったですね。すぐに「ドラえもん先輩」に「免許取れました!」と連絡したのですが、返ってきた言葉は「まいったな」でした。「女性を重機に乗せてくれる現場があるかな」って。当時の私は未経験の主婦だったので、そんな女性を雇ってくれる現場なんて、見つからなくて当然ですよね。
でも、「ドラえもん先輩」は手を尽くして当時勤めていた会社の常務にもかけ合ってくれて、その会社でお世話になることになったんです。ただ、すぐに重機に乗れたわけではなく、「まずは事務を覚えて」と言われて、事務職からのスタートでした。
――そこで気持ちがくじけることはなかったですか。
とにかく重機に乗りたくて頑張って免許を取ったので、もどかしい気持ちはありました。事務仕事は好きではなかったけれど、「建設業の事務ってどんなことをするんだろう」という興味はあったので、仕事は楽しかったですね。独立して仕事をしている今、あの時の事務の経験が役に立っているなと感じます。
事務仕事を一通り覚えたら、約束通り、重機に乗せてもらえることになりました。 その会社は1万坪の資材置き場を持っていて、そこに大小10台くらいの重機を保有していたんです。私はそこで油圧ショベルに乗って、主にダンプカーに土を積み込む作業をしていました。
「置き場オペ」から「現場オペ」へ。「もっとうまくなりたい」が原動力
――実際に重機に乗れるようになって、いかがでしたか。
私はとにかく重機で土を触りたかったので、念願叶ったときはめちゃくちゃうれしかったです。その資材置き場で4年間、「置き場オペ」として働かせもらったのですが、実際の工事現場に出る「現場オペ」への憧れと「もっとうまくなりたい」という気持ちが強くなり、2021年に個人事業主として独立することにしました。
独立して仕事をするということは良くも悪くも全て自分の責任になるけれど、「腕と人柄で評価される」というのは魅力だなと思っています。建設業界を取り巻く環境の変化もあり、2025年5月に株式会社KSKとして法人化しました。
――独立するのに不安はありませんでしたか。
不安よりも「もっといろんな現場で経験を積みたい」という気持ちの方が強かったです。最初に入った会社はありがたい環境でしたが、独立を決めた一番の理由は、もっといろんなオペレーターのスキルを見て勉強したかったから。操作がうまいオペレーターの仕事ぶりを見ると、ワクワクするんです。現場でのゴールは同じでも、ゴールに行くまでのやり方、段取りの組み方はオペレーターによって違うので、勉強になります。
東京の建設現場は、1mくらい掘ると地面から水が出てくることが多いので、オペレーターは水中ポンプを置く場所や水路の切り回し方、予算内での地盤改良剤の使い方などを考えながら進めなければいけません。オペレーターとしての腕の見せどころでもありますし、現場ごとに考えるのはすごく楽しいですね。
シングルマザーとして2人の子どもと向き合う東さんは、家庭と仕事を両立させるために、日々いかに効率よく家事を回すかを意識している。先々を考えて段取りを組むオペレーターの仕事には「主婦目線が生かされている」と感じているという
重機や建設業界の魅力をもっと知ってほしい
――1.8万人(2026年8月現在)のフォロワーがいるインスタグラムでは、重機の魅力や建設業界で働く面白さを積極的に発信されています。
重機や建設業界の魅力をどうしたらもっと広められるかなと考えて、インスタグラムを始めました。建設業界は人手不足と言われていますが、重機に乗ったり、建設業界で働くのってこんなに面白いのに、その魅力が十分に伝わっていないなと感じていて。
ただ魅力を伝えるだけでなく、女性オペレーターとして現場で感じたリアルな困りごとなども発信するようになったら、同じく建設業界で働く女性の方からたくさん共感の声が届くようになりました。そこで、同じ悩みを持つ女性たちがつながれるように「LADiSITE♡レディサイト」という建設業で働く女性のためのコミュニティを立ち上げました。現在、200名弱の女性が在籍しています。
今はまだ母数が少ないので、女性というだけで注目されることもありますが、女性だからという理由だけで注目されないくらい、女性が当たり前にいる業界になればいいなと思っています。
インスタグラムで発信を始めた当初は「そんなことしても何も変わらないよ」と言われることもあったが、インスタグラムを通して国内外の建設業で働く人とつながれて「良くなる予感しかしない」という
目指すは「生涯現役」。重機の操作は一生満足することがない
――生涯現役を目指されているそうですね。
はい。重機と出会えてほんとうに良かったし、死ぬまで重機に乗っていたいです。重機に乗っていると、「わたし最高!」と思えるんです。複雑な家庭環境で育ったので、幼い頃から自己肯定感が低めだったのですが、重機に乗っている時間はありのままの自分で幸せを感じることができる。重機に乗ることは、私にとってのウェルビーイングです。
重機オペレーターって大変な仕事と思われがちかもしれませんが、最近の重機はすごく快適なんですよ。20tクラスの油圧ショベルにはエアコンが取り付けられているほか、カップホルダーも付いていて、至れり尽くせりです。年々進化しているので、ここに住みたいと思ってしまうくらい(笑)。

――推し重機はありますか。
油圧ショベルが一番好きです。土をいじるのが好きなので、油圧ショベルで、まだ誰も掘り起こしたことのない地面を初めて掘削する瞬間がたまりません。
趣味は美容。重機に乗るときは日焼け対策をばっちりして、ネイルも欠かさない
――重機の操作は、どんなところが面白いですか。
基本的に平日は毎日現場に出ていますが、重機を操作していると、昨日できなかったことが今日できるようになることがあるんです。諦めずにコツコツ努力を重ねていたら、ある日ポンッとできるようになることに喜びを感じますね。
最近はチルトローテータを搭載した重機に乗ることが多いのですが、手足がもう1本増えたような感覚で、できることが倍くらいに増えました。チルトローテータの操作はまだまだ勉強中ですが、新しい技術を取り入れて、できることが増えるのはすごく面白い。
うまい人の操作を見ていると「こんなやり方もあるんだ!」「自分はまだまだだな」と思いますし、重機の操作は、たぶん一生満足することがないと思います。「もっといろんなことができるはず」と追い続けることができるのも、重機オペレーターの醍醐味(だいごみ)ですね。
※記事の情報は2026年8月28日時点のものです。
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【PROFILE】
東香織(ひがし・かおり)
重機オペレーター
1985年長野県生まれ。株式会社KSK代表の重機オペレーター。油圧ショベルを操る「重機女子」としてSNSで情報を発信し、テレビ番組「激レアさんを連れてきた。」「集中王」などに出演。建設業で働く女性のためのコミュニティ「LADiSITE♡レディサイト」を運営し、工事現場のトイレ問題などに取り組む。
株式会社KSK https://ksk-juki.com/
Instagram https://www.instagram.com/kao.ksk?igsh=anZrc3plNjc1Njk0
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