ダム♡ラブな人々、増殖中!

【連載】ドボたんが行く!

三上美絵

ダム♡ラブな人々、増殖中!

遊びは創造の源泉。どんなことから「遊び」が見出せるか、そこに本当のクリエイティビティがあります。このドボク探検倶楽部、略してドボタンは、橋、トンネルなど、さまざまな土木構造物を愛でるコーナー。第2回は、はやくも大物、「ダム」。「ダムマニア」と呼ばれる人々は、なぜこの巨大構造物に「放流賞」や、「洪水調節賞」などの賞をあげたり、カレーにして食べてしまうほど、愛してやまないのでしょうか。(タイトル写真は通常は入れない矢木沢ダムの堤体の上で撮影)

突然ですが、ダムは好きですか?
ダムには、水圧を支える方法によってさまざまな形式があります。弓なりに反って深い谷に踏ん張る「アーチ式ダム」の緊迫感。ダム自体の重さで支える「重力式ダム」の安定感。そして、石を積み上げて堤をつくる「ロックフィルダム」のナチュラル感。どれもいいですね~(うっとり)。ほかにもいろいろあります。

そんなダムたちを愛してやまないのが、「ダムマニア」と呼ばれる人たちです。ドボク探検倶楽部、通称「ドボたん」第2回は、ダムをめいっぱい楽しむ人々のことをご紹介します。


ダムマニアダムツーリズムでは、参加者が思い思いの角度からダムを愛でる。アーチ式コンクリートダムは真下から見上げると、覆いかぶさってきそうで迫力満点(群馬県にある矢木沢ダム)




マニアが集結して盛り上がる"ダムな夜"

ダムマニアたちが、どれほどダムを愛しているか。例えば、マニアさんたちは放流の水しぶきがかかることさえ、嫌がるどころか「ダム汁を浴びた!」と大喜びします(笑)。なかには「これまでに800カ所のダムを訪れた」とか「一つのダムに1年で55回通った」など、尋常でないダム♡ラブぶりを公言する人たちもいるのです。

そんなダムマニアの存在が明らかになってきたのは、2003、4年頃。全国のダムを巡り、写真を撮り、記事を書いてアップする個人のウェブサイトが同時多発的に増えてきました。テレビ番組でも、大迫力の放流シーンとともに、それを見るためにわざわざ遠方から駆けつけるファンがいることなどが紹介されるようになりました。


ふだんは入ることのできない場所を案内してもらえるのも、ダムツーリズムの醍醐味。このダム堤体(本体)の中には管理用のエレベーターがあった。ダムの下から、一気に天端(堤体の上)へ

ふだんは入ることのできない場所を案内してもらえるのも、ダムツーリズムの醍醐味。このダム堤体(本体)の中には管理用のエレベーターがあった。ダムの下から、一気に天端(堤体の上)へ



主に個人で活動していたダムマニアたちが互いに顔を合わせるきっかけとして大きかったのが、2010年に始まったダム工学会の主催する「with Dam☆Night(ウィズダムナイト)」です。ダムの設計や施工、管理のプロである研究者や技術者とダムファンがお互いの活動を発表して交流するもので、ここ数年は東京のほか全国数カ所で開催されています。例年、東京だけでも約150人が参加する人気イベントになっています。


石を積み上げてつくられたロックフィルダムは、穏やかな表情。右側の放水路から水を放流する(群馬県にある奈良俣ダム)石を積み上げてつくられたロックフィルダムは、穏やかな表情。右側の放水路から水を放流する(群馬県にある奈良俣ダム)

奈良俣ダムを上から見下ろす。石がみちみちに積み上げられているのが分かる奈良俣ダムを上から見下ろす。石がみちみちに積み上げられているのが分かる



マイスター制度やダムのアワードも誕生

同じく2010年には、「ダムマイスター」も誕生しました。日本ダム協会が認定する称号で、ダムの実態、役割、魅力について、広く一般の人たちにPRするボランティアです。2年ごとに審査があり、毎回、カリスマ的なダムマニアの皆さんが選ばれています。いまでは、ダムマイスターがwith Dam☆Nightに講師として登場するなど、相互乗り入れも盛んです。

ダムブームは、こうしてどんどん盛り上がっていきました。特に見逃せないのが、2012年に始まった「日本ダムアワード」です。

この賞の特徴は、なんといっても「ダムファンによるダムファンのための賞」であること。主催するのは、ダムファンのみで構成される日本ダムアワード選考委員会です。この選考委員会が、その年に"活躍したダム"をノミネートし、一般のダムファンの投票によって賞が決定します。

人ではなく、ダムに賞をあげちゃう。すごいです。ダムの擬人化。建築物などの賞ではふつう、その建物の発注者や設計者、施工者などを顕彰しますが、ここではダムが主役です。

最も印象に残る放流を行ったダムに授与する「放流賞」や、最も印象に残る洪水調節を行ったダムに授与する「洪水調節賞」など、選考部門もユニーク。ちなみに、2018年のダム大賞は岐阜県にある岩屋ダムが受賞しました。このダムは、私も連載「かわいい土木」の記事で紹介したことがあります。大賞受賞、おめでとうございます(パチパチ)。



ダム巡りのお楽しみ、「ダムカレー」と「ダムカード」

最近、ダムの現地を訪れるファンたちのあいだで、定番となっているものが二つあります。一つは、「ダムカード」。表にダムの名前と写真、裏にそのダムの特徴や技術についてのミニ情報が書かれた名刺サイズのカードです。


ダムカード

ダムカードは、国土交通省や水資源機構、自治体など、それぞれのダムの管理者が発行し、無料で配布しています。いまではおよそ600カ所のダムカードがあるといいます。

もう一つは、「ダムカレー」。ルーをダム湖に見立て、ご飯をご当地ダムの形に盛り付けたカレーライスです。こちらは、ダムの近くの展望レストランなどが提供。冒頭に挙げたような、アーチ式ダム、重力式ダム、ロックフィルダムといった形式が、どこまで忠実に再現されているかが見どころです。


ダムカレーダムへ行ったら、ダムカレーを食べなきゃ。アーチの感じが、ライスでうまく表現されている


ダムを訪れたら、まずはいろいろな角度から眺め、写真に収める。納得できたら、管理事務所でダムカードをゲット。ダム周りを歩いてお腹が空いたな、と思ったら、店に入ってダムカレーを味わう――。これが、いま最もホットなダムツアーです。



ダムに行ってみたいけど、足がない...という方も大丈夫。
国土交通省が旅行会社と連携して企画する添乗員付きのダムツーリズムだってあります(パンフレット[PDF:7.65MB])。さあ、新緑の季節、雄大な景観が楽しめるダムを目指して、ゴー!!


※記事の情報は2019年4月16日時点のものです。

  • プロフィール画像 三上美絵

    【PROFILE】

    三上美絵(みかみ・みえ)

    土木ライター
    大成建設で社内報を担当した後、フリーライターとして独立。現在は、雑誌や企業などの広報誌、ウェブサイトに執筆。古くて小さくてかわいらしい土木構造物が好き。
    著書に「かわいい土木 見つけ旅」(技術評論社)、「土木技術者になるには」(ぺりかん社)、共著に「土木の広報」(日経BP)。土木学会土木広報戦略会議委員。
    建設業しんこう-Web 連載「かわいい土木」はこちら https://www.shinko-web.jp

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