クリスマスプレゼントにおすすめの海外絵本――大人も子どもも楽しめる冬の贈り物

【連載】翻訳家・金原瑞人が誘う大人の海外文学入門

翻訳家:金原瑞人

クリスマスプレゼントにおすすめの海外絵本――大人も子どもも楽しめる冬の贈り物

連載「翻訳家・金原瑞人が誘う大人の海外文学入門」では、翻訳家の金原瑞人(かねはら・みずひと)さんに、初心者でも読みやすいおすすめの海外小説をご紹介いただきます。第3回は、クリスマスプレゼントにおすすめの海外の翻訳絵本です。子どもから大人まで楽しめるクリスマス絵本とともに、特別な冬を過ごしませんか?

若者や大人が読むからこそ、楽しい絵本がある

今回は、まず、なにより、絵本の話をしたいと思います。


今までにずいぶんブックガイドを作ってきました。本の好きな人たちに、自分に合った本を見つける手助けをしたかったからです。


特にヤングアダルト向けの本を紹介してきたのですが、ひとつだけ心残りがありました。それは、絵本がないということです。ヤングアダルト向けとなると、フィクションにしろノンフィクションにしろ、普通の読み物があがってきます。もちろん、これまで作ってきたブックガイドでも絵本は何点か紹介しているのですが、若者や大人が読んで楽しい、いや、若者や大人が読むからこそ楽しい絵本があるのです。


そもそも、絵本というのはかわいそうな存在です。子ども向けの絵本なら、児童書のコーナーに並ぶのですが、そこからはみ出てしまう絵本は、行き場がないのですから。一般書籍のコーナーでもなければ、美術書のコーナーでもない。いったいどこに行けばいいのか。じつに悩ましい。だけど、もっともっと、見てほしいし、読んでほしいし、手に取ってほしい。


そんな気持ちをわかってくれたのが、作家のひこ・田中さんでした。ひこさんと2人で、ヤングアダルト向けの絵本のブックガイドを作ろうと画策して、奔走して、やっと、西村書店の社長がOKを出してくれました。それが『13歳からの絵本ガイド YAのための100冊』(西村書店)です。うれしいことにフルカラーです。


まだ読んでいない方はぜひ、手に取ってみてください。絵本って、子どもに独占させておくのはもったいなくない? と思ってしまうほど多彩で、斬新で魅力的な作品が並んでいます。(もちろん、なかには一般読者を対象にした、ちょっと子どもにはわからんだろう、という絵本も入っています。)


このブックガイドで取り上げられている絵本をひとつ紹介しておきましょう。




大人にもおすすめ! 世界中に感動を与えた、文字のない絵本の名作『アライバル』


アライバル
作:ショーン・タン
出版社:河出書房新社


妻と娘を残し、移民船に乗って他国に流れていく男の物語。男の目に映る異国の入管の手続き、ファンタスティックな大都市、先々で出会う移民、その人たちの過去、男になつく奇妙な生き物などが絵で語られ、そこから男の抱く不安と孤独、発見と驚き、そして希望がリアルに、128ページにわたって描かれていきます。


ところが、この絵本、文字がありません。絵だけなのです。2011年、この絵本が出版されたとき、世界がびっくりしました。




さて、いよいよ、クリスマスの絵本!


といっても、ぼくは子どもも大人も見て読んで楽しい絵本にはあまり詳しくありません。というわけで、丸善・丸の内本店(東京都千代田区)の児童書を担当している兼森理恵さんに「おすすめのクリスマス本をリストにして送って」とメールしたところ、「2023年売れ筋定番」と「毎年売りたい1冊」と「2024年注目の新刊」と分類分けされたブックリストが送られてきました。なんと全30冊!


このなかで、まず目を引いたのがこちら。




【2、3歳から楽しめる絵本】世界の名作24話が集結! 『メリークリスマス! せかいのめいさくえほん★アドベントカレンダー』


メリークリスマス! せかいのめいさくえほん★アドベントカレンダー
原作:ハンス・クリスチャン・アンデルセン他
訳:のざかえつこ他
出版社:ひさかたチャイルド
対象年齢:2、3歳から


これがすごい。大判の本を開くと、12月の1日から24日まで、24個の窓が四角く切ってあって、ひとつの窓にひとつ、小さい名作絵本が入っているのです。子どもも面白がって1日に1冊ずつ読むだろうし、なにより親が買いたくなりますね。親にとっては、子どもが12月にチョコを24個食べるより、24冊の絵本を読むほうがうれしいに決まっています。


世界の名作24話が集結


今年10月の新刊として、『ディズニー ストーリーブック・アドベント&イベントカレンダー アナと雪の女王』や『マインクラフト 公式アドベントカレンダー ブックコレクション:クリスマスの24の大冒険』も発売されました。ぜひ子どもの好みに合わせて選んでみてください。



(左)『ディズニー ストーリーブック・アドベント&イベントカレンダー アナと雪の女王
作・編集:igloo社
出版社:世界文化社
対象年齢:3、4歳から
(右)『マインクラフト 公式アドベントカレンダー ブックコレクション:クリスマスの24の大冒険
作・編集:MOJANG(監修)
出版社:小学館
対象年齢:3、4歳から


この絵本を見て、ひとつ思いついたのが『小学館世界J文学館』。小学校高学年から中高生向けのクリスマスプレゼントとしておすすめです。




【小学校高学年~中高生向け 文学全集】世界の名作125作品を電子書籍で読める『小学館世界J文学館』


小学館世界J文学館
原作:ハンス・クリスチャン・アンデルセン他
編集:浅田次郎/角野栄子/金原瑞人/さくまゆみこ/沼野充義
出版社:小学館
対象年齢:小学校中学年~中学生以上


1冊の紙の本を買うと、古今東西の世界の名作125作品を電子書籍で、それも全訳で、さらに新訳で読めます。もちろん、チャールズ・ディケンズの『クリスマス・キャロル』もO・ヘンリーの『賢者の贈りもの』も入っています。この大判の本、定価が税込みで5,500円なので、1冊あたり44円。


小学館世界J文学館 「新しい「名作全集」の扉が開きます」編




書店員のおすすめ! 定番のクリスマス絵本5選

さて、兼森さんから送られてきたリストにある30冊すべてを載せるわけにはいかないので、そこからさらに選んでもらいました。まず5冊。


説明は省きますが、シーズンになれば児童書の棚に並ぶ定番ばかりです。今年は、児童書のコーナーに遊びに行ってみませんか。


定番のクリスマス絵本5冊

  1. 大判 ゆかいなゆうびんやさんのクリスマス』(写真左上)
    作・絵:ジャネット・アルバーグ/アラン・アルバーグ
    訳:佐野洋子
    出版社:文化出版局
    対象年齢:3歳から
  2. ゆきのねこ』(写真右上)
    作・絵:ダイヤル・コー・カルサ
    訳:あきの しょういちろう
    出版社:童話館出版
    対象年齢:およそ10歳から
  3. サンタさんは どうやって えんとつをおりるの?』(写真左下)
    作:マック・バーネット/絵:ジョン・クラッセン
    訳:いちだいづみ
    出版社:徳間書店
    対象年齢:5歳から
  4. さむがりやのサンタ』(写真下中央)
    作・絵:レイモンド・ブリッグズ
    訳:すがはら ひろくに
    出版社:福音館書店
    対象年齢:読んであげるなら4歳から、自分で読むなら小学低学年から
  5. サンタクロースと小人たち』(写真右下)
      作:マウリ・クンナス
    訳:いながき みはる
    出版社:偕成社
    対象年齢:5歳から


そしてさらにおすすめの3冊。(K)は兼森さんのコメントです。




2024年注目の新刊! 心温まるクリスマス絵本『はじめてのクリスマス』


はじめてのクリスマス
作:マック・バーネット/絵:シドニー・スミス
訳:なかがわちひろ
出版社:偕成社
対象年齢:4歳から


サンタは北極で一年中、プレゼントを作っていて、イブにはそれを配って回って、配り終わるとうちに帰って寝て、クリスマスの朝、目を覚ますとまた、プレゼントを作り始めます。えーっ、サンタってすっごい働き者......なのに、プレゼントをもらわない? かわいそうじゃん。そう考えたエルフたちはサンタのために大奮闘。


「相手を思う気持ちで、クリスマスが心温まる特別な時間になる! 大注目のシドニー・スミスの新刊! 今年、絶対売りたい」(K)




クリスマス・イブに読みたい、不思議で優しいファンタジー絵本『クリスマスに ゆきが ふりますように』


クリスマスに ゆきが ふりますように
作:シビル・ドラクロワ
訳:石津ちひろ
出版社:講談社
対象年齢:3、4、5歳から


明日はクリスマス。なのにちっとも雪が降りそうにありません。がっかりしたリュシーはアイスランドのおばさんから届いたプレゼントのスノードームを枕元で振ってみます。するとたちまち、子ども部屋はやわらかな雪でおおわれて......。


「子どもたちの願いが優しく叶う幻想的な物語と、ドラクロワのやわらかな絵が魅力的な絵本です」(K)




クリスマスの奇跡を描く、文字のない絵本『聖なる夜に』


聖なる夜に
作:ピーター・コリントン
出版社:BL出版
対象年齢:3~5歳以上


雪原にぽつんと置かれた木造のトレーラーハウスのなかで目覚めたおばあさんは、お金がないことに気づいて、雪の積もった道を歩いて街へ出かけます。アコーディオンを質に入れてお金に替えると、それをバイクに乗った若者にかっぱらわれます。


ところが、その若者が教会の募金を入れたバケツを盗んでくるところに出くわし、バケツを取り戻して教会のなかへ。そこには、生まれたばかりのイエスを抱いたマリアとヨセフ、東方の三博士と羊飼いの人形が散らばっています。おばあさんはきちんと並べ直して、募金のバケツを置いて、教会を出ます。


すると雪が降り始めて、雪原の上に倒れてしまいます。さて......という展開。ここから先が素晴らしい。クリスマスの日の奇跡が驚くほど静かに美しく、ユーモラスな絵で描かれていきます。


ぜひ、読んでみてください......と書きたいのですが、この絵本、文字がまったくありません。これほど物語性にあふれたお話が絵、絵、絵でつづられていくのです。これもまた奇跡かもしれません。


「文章がない絵だけの絵本。絵柄はシリアスだけれど、内容のコミカルさのギャップに何度開いてもやられてしまう。絵だけなので自分のペースで読めるのもいいなあ」(K)



さあ、メリークリスマス!


※記事の情報は2024年12月3日時点のものです。

  • プロフィール画像 翻訳家:金原瑞人

    【PROFILE】

    金原瑞人(かねはら・みずひと)
    翻訳家、法政大学社会学部教授(2025年3月末に退職予定)
    1954年、岡山県生まれ。児童書やヤングアダルト向けの作品のほか、一般書、ノンフィクションなど、翻訳書は約640点。訳書に「豚の死なない日」(ロバート・ニュートン・ペック著)、「青空のむこう」(アレックス・シアラー著)、「国のない男」(カート・ヴォネガット著)、「不思議を売る男」(ジェラルディン・マコックラン著)、「バーティミアス」(ジョナサン・ストラウド著)、「月と六ペンス」(サマセット・モーム著)、「パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々」(リック・リオーダン著)、「ジョン万次郎 海を渡ったサムライ魂」(マーギー・プロイス著)、「さよならを待つふたりのために」(ジョン・グリーン著)など。エッセイ集に「翻訳家じゃなくてカレー屋になるはずだった」「翻訳のさじかげん」など。日本の古典の翻案に「雨月物語」「仮名手本忠臣蔵」「怪談牡丹灯籠」など。

    金原瑞人 公式サイト
    https://kanehara.jp/

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