羽村取水せき -(水門的なもん①)370年前から続く「投渡木(なぎ)払い方式」

JUN 16, 2020

三上美絵 羽村取水せき -(水門的なもん①)370年前から続く「投渡木(なぎ)払い方式」

JUN 16, 2020

三上美絵 羽村取水せき -(水門的なもん①)370年前から続く「投渡木(なぎ)払い方式」 遊びは創造の源泉。身近にあるコトやモノ、どんなことにも遊びを見出してしまう。そこに本当のクリエイティビティがあります。このドボク探検倶楽部、略して「ドボたん」はさまざまな土木構造物を愛でるコーナー。土木大好きライター、ドボたん三上は今回何を見つけたのでしょうか!

大雨のたびに堰を丸ごと壊して洪水を防ぐ

ステイホーム期間中はドボク探検倶楽部も戸外での探検はしばしお休みですが、過去に撮りためた大量のドボク系写真を眺めていたら、なんだか少し楽しくなってきました。今日はその中から、堰(せき)や水門、閘門(こうもん)など川に関係する面白い土木構造物――ドボたん的にはこれを「水門的なもん」と呼びたい――をご紹介したいと思います。

一つ目の「水門的なもん」は、東京・多摩川の羽村取水堰(はむらしゅすいせき)。堰とは、文字どおり川の水を堰き止めて、かさ上げするための構造物です。ここでは多摩川の流れの一部を堰き止めて溜め、玉川上水の入口に設置した水門から上水へ水を流しています。江戸時代に、江戸市中へ飲料水を供給するための上水道として玉川上水が建設されたとき、取水口につくられたのが羽村堰でした。

堰にはいろいろなタイプがありますが、柱の間に開閉する扉がついたものは、見た目が水門に似ていたりします。じゃあ、堰と水門を見分ける方法は? というと、決定的に違うのは、その「向き」です。先ほども書いたように、堰は川の流れを堰き止めるものなので、川の流れに対して直角に設置されます。

一方、水門は川から支流や用水路などへ流れ込む水の量を調節するためのものなので、川と平行の向きになっています。下の写真のように、羽村取水堰と玉川上水の水門も、この位置関係です。


手前の水面が、玉川上水の起点。堤防の向こう側に突き出て見えているのが羽村取水堰。画面中央の右側に見えるのが玉川上水の水門。堰は多摩川の流れに直角、水門は流れに平行になっているのが分かる。堰でかさ上げした多摩川の水を、水門から玉川上水へと引き入れている。手前の水面が、玉川上水の起点。堤防の向こう側に突き出て見えているのが羽村取水堰。画面中央の右側に見えるのが玉川上水の水門。堰は多摩川の流れに直角、水門は流れに平行になっているのが分かる。堰でかさ上げした多摩川の水を、水門から玉川上水へと引き入れている。


図説
また、堰と水門では、台風などの洪水のときの働き方も正反対。本流から細い支流や用水路へ大量の水が押し寄せてあふれるのを防ぐために、水門は扉を閉じます。扉をぴったり閉じてしまえば、水門は川の堤防の一部としての役割も果たします。

これに対し、堰のほうはというと――。扉を開放するんですね、これが。洪水のときに川の流れを堰き止めるものがあると、その場所で水が堤防を越えて、まちが浸水してしまうかもしれないからです。羽村取水堰のように、玉川上水の水門とセットになっている場合は、水門が水の力で破壊されてしまう危険もあります。うわ、これはアブナイ。というわけで堰は、扉を開けて洪水を安全に下流へと流すのです。

羽村取水堰がユニークなのは、一般的な堰の「扉」にあたる部分の構造がとても特殊であること。丸太を縦横に組み、そのすき間に小枝や砂利を詰めたもので、この部分は「投渡木(なぎ)」と呼ばれます。平時はこの投渡木で水を堰き止めているわけですが、洪水時にはなんと、この投渡木ごとバーンと流してしまうんです。ワイルドですね。「投渡木払い」と呼ばれるこの方式、世界でも類がないそうです。そりゃそうでしょう(笑)。羽村取水堰は、1653年の建設当初からこの方式を採用した「投渡堰(なげわたしぜき)」だったのです。

と、ここまでは何年か前に資料で読んで知っていたことです。実際に羽村まで見に行ったこともありますが、そのときは投渡木がきちんと積まれ、堰は穏やかに多摩川の水をたたえていました。ちょうど桜の時期で、堰のまわりはお花見客であふれ、なんとものどかな光景だったのを覚えています。

それが昨年、私ミカミは偶然にも、この投渡木払いの状態を目撃することになったのです。日本各地に被害をもたらした台風19号の後、たまたま近くに用事があったので羽村取水堰に寄ってみると、みごとに投渡木が払われて、スッカスカのスケルトン状態になっていました。台風が去って2週間ほどたっていましたが、まだ濁流がかなりの勢いで流れていて、自然の猛威を見せつけられた思いでした。

川が元に戻った後、堰はどうなるかって? ふふふ、これがまたすごいんですよ。水位が下がったら、一から丸太を組んで、小枝や砂利を詰め直すのです。この「仕付け」と呼ばれる技術は、江戸時代から今日まで連綿と伝えられているのだとか。

堰や水門は、人間にとってなくてはならない飲料水を供給するのに欠かせない施設であり、同時に災害から暮らしを守る役割も担ってくれているのですね。ありがとう、水門的なもんたち。


投渡堰は柱に鉄の桁(けた、写真では水色の部分)を渡して丸太をたてかけ、横にも丸太を積み重ね、そこに木の枝を束ねた「粗朶(そだ)」や砂利を詰めて築く。洪水時は、桁を上げ、丸太や粗朶、砂利を水に流すことで水位の上昇を防ぐしくみ。投渡堰は柱に鉄の桁(けた、写真では水色の部分)を渡して丸太をたてかけ、横にも丸太を積み重ね、そこに木の枝を束ねた「粗朶(そだ)」や砂利を詰めて築く。洪水時は、桁を上げ、丸太や粗朶、砂利を水に流すことで水位の上昇を防ぐしくみ。


2019年10月、台風19号の直後の様子。投渡木が払われて、柱と桁だけが残っている。2019年10月、台風19号の直後の様子。投渡木が払われて、柱と桁だけが残っている。

水門的なもん②に続きます。(2020年8月公開予定)

  • プロフィール画像 三上美絵

    【PROFILE】

    三上美絵(みかみ・みえ)

    フリーライター
    大成建設で社内報を担当した後、フリーライターとして独立。現在は、建設専門誌や企業などの広報誌、ウェブサイトに執筆。古くて小さくてかわいらしい土木構造物が好き。
    建設業しんこう-Web 連載「かわいい土木」はこちら https://www.shinko-web.jp

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