ダムがもっと楽しくなる! 5つのポイント

【連載】ドボたんが行く!

三上美絵

ダムがもっと楽しくなる! 5つのポイント

遊びは創造の源泉。身近にあるコトやモノ、どんなことにも遊びを見出してしまう。そこに本当のクリエイティビティがあります。このドボク探検倶楽部、略して「ドボたん」はさまざまな土木構造物を愛でるコーナー。土木大好きライター、ドボたん三上は今回何を見つけたのでしょうか!

Point1: 「素材の違いによる風合い」を愛でる

ドライブや観光で山や湖へ行った時、「あ、こんなところにダムがあるんだ」と気づいたことはありませんか? ダムについてちょっとした知識を持っていれば、そんな予期せぬ出合いでも、ダムをより身近に感じられること請け合いです!

まず、ダムの素材、つまりダムの本体をつくる材料について。これには大きく分けて、「コンクリート」と「岩・石・土」があります。近代以降にできたダムはほとんどがコンクリートダムですが、ダムはそれ以前からあり、古くは土を盛って川をせき止め、水を貯めるものでした。

例えば、弘法大師・空海が改築工事を指揮した香川県の「満濃池(まんのういけ)」もそのひとつ。土を盛っては小枝を敷いて踏み固める「敷葉(しきは)工法」によって、弓なりの堤防を築きました。1,200年以上たった今も、日本最大の灌漑(かんがい)用溜池として使われています。このように、土を盛って築いた堤防で水圧を支えるダムのことを「アースダム」と呼びます。


空海が唐で学んだ土木技術を取り入れて821年に完成させた満濃池(まんのういけ、香川県)(写真:満濃池土地改良区)空海が唐で学んだ土木技術を取り入れて821年に完成させた満濃池(まんのういけ、香川県)(写真:満濃池土地改良区)


また、堤防の中心に粘土などを分厚く盛った後、その両側に岩や石を積む形式のダムを「ロックフィルダム」といいます。地盤が硬くなく、コンクリートダムが造れない場所などに建設されることが多いようです。

使われる土や石、岩が建設地の近くから調達されることが多いせいか、アースダムやロックフィルダムは、どれも周辺の景観に自然になじんでいるように感じます。これらのダムに出合ったら、ぜひその風合いを味わってみてください。


ロックフィルダムの奈良俣ダム(群馬県)。右側のスキージャンプ台のような部分は、洪水時に放流するための「洪水吐(こうずいばき)」たロックフィルダムの奈良俣ダム(群馬県)。右側のスキージャンプ台のような部分は、洪水時に放流するための「洪水吐(こうずいばき)」


ロックフィルダムの岩屋ダム(岐阜県)。堤体(ダム本体)の上から見下ろすと、岩がびっしりと敷き詰められているのが見えるロックフィルダムの岩屋ダム(岐阜県)。堤体(ダム本体)の上から見下ろすと、岩がびっしりと敷き詰められているのが見える




Point2: 「莫大な水圧を支えるカタチ」を愛でる

コンクリートダムには、さまざまな形式があります。代表的なのが、横から見ると三角形になった「重力式ダム」と、弓なりに反った壁で支える「アーチ式ダム」です。また、珍しいところでは、下流側がスイーツのワッフルのようになった「バットレスダム」などもあります。

こうした形式の違いは、「堤体(ダムの本体)にかかる水圧をどのように支えるか」によります。ダムは、川をせき止めて水を貯める施設ですから、せき止める箇所に造る堤体には、莫大な水圧がかかります。その水圧を自重(堤体自体の重さ)で支えるのが、重力式ダムです。アーチ式ダムは、堤体の両側と底の岩盤に水圧を分散させて支えます。

また、バットレスダムは水圧をコンクリートの壁で受け止め、裏側から控え壁(バットレス)で支える構造です。使用するコンクリートが少量で済むというメリットがあるものの、強度があまり高くなく大規模なダムには採用できないことから、日本では大正から昭和初期のわずかな期間に8基が造られただけでした。現存するのは6基のみだといいます。


左から重力式ダム、アーチ式ダム、バットレスダムの断面イメージ左から重力式ダム、アーチ式ダム、バットレスダムの断面イメージ
※国土交通省九州地方整備局「ダムのしくみ」の図版を基に作成



重力式コンクリートダムの宮ヶ瀬ダム(神奈川県)(出典:Σ64, CC BY-SA 3.0, , via Wikimedia Commons)重力式コンクリートダムの宮ヶ瀬ダム(神奈川県)(出典:Σ64, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons)



アーチ式コンクリートダムの鳴子ダム(宮城県)(出典:Qurren, CC BY-SA 3.0, , via Wikimedia Commons)アーチ式コンクリートダムの鳴子ダム(宮城県)(出典:Qurren, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons)



バットレスダムの丸沼ダム(群馬県)(写真:片品村観光協会)バットレスダムの丸沼ダム(群馬県)(写真:片品村観光協会




Point3: 「果たしている役割」を愛でる

そもそも、ダムは何のために水を貯めるのでしょうか。その役割は「治水」と「利水」の2つに大きく分かれます。

治水というのは、大雨が降った時、洪水が起こらないようにダムに水を貯め、川に流す水の量を調節することです。また反対に、雨が少なく渇水になってしまった時には、ダムに貯めた水を流し、川の流量を補う運用をします。

一方、利水とは文字どおり、ダムに貯めた水を農業や工業、上水道などに利用することです。

川の流量は、季節や気象状況によって多くなったり少なくなったりするため、川から直接取水したのでは水が不足することがあります。その点、ダムに水を貯めておけば、計画的に配水できるので、断水などのリスクが減るというわけです。都市を流れる川の上流にあるダムが、よく"水がめ"に例えられるのは、このためです。

もう一つ、利水ダムの重要な役割として挙げられるのが、「発電」です。水力発電専用のダムは電力会社や、電力を大量に使用する製造業などの会社が管理しているケースが多くあります。

なかには、治水と利水の両方の役割を併せ持つものや、利水でも複数の目的に水を使うものなどもあり、これらは「多目的ダム」と呼ばれます。治水ダムも利水ダムも多目的ダムも、私たちの暮らしに直結した、なくてはならない施設なんですね。


洪水調節、流量確保、水道用水・工業用水の供給、発電の目的を併せ持つ多目的ダムの「八ッ場ダム」(群馬県)。形式は重力式コンクリートダム(出典:国土交通省関東地方整備局 利根川ダム統合管理事務所ホームページ)洪水調節、流量確保、水道用水・工業用水の供給、発電の目的を併せ持つ多目的ダムの「八ッ場ダム」(群馬県)。形式は重力式コンクリートダム(出典:国土交通省関東地方整備局 利根川ダム統合管理事務所ホームページ




Point4: 「ダムのある景観」を愛でる

大自然とダムが一体になった雄大な景観は美しく、四季折々の表情を見せてくれます。観光地として人気のダムやダム湖はたくさんありますね。景色を眺めるだけでも十分楽しめますが、「なぜここにダムが造られたのか」を考えてみるのも面白いものです。

ダムの建設を計画する時には、治水や利水の目的に応じて、どの川のどのあたりにダムを造るか、大まかな位置が決まります。そして、その範囲内のどの位置に堤体(ていたい)を築くかは、地形や地質から判断されるのです。

例えば、地盤の硬さが同じなら、谷が広い地形よりも狭いところを選んだほうが、堤体を造るコンクリートや岩石などの材料が少なくて済みます。また一般に、横方向に突っ張って支えるアーチ式ダムには谷の両側面が硬い岩盤などの地質が適し、重さで支える重力式ダムには、谷底が硬い地質が適しているといわれます。

誰もが知る富山県の「黒部ダム」は、谷の上部の強度が不足していたことから、中央部分はアーチ式ダム、両翼部分は重力式ダムとする複合型式が採用されました。


中央がアーチ式、両側が重力式の形式をとる黒部ダム(富山県)(出典:Qurren, CC BY-SA 3.0, , via Wikimedia Commons)中央がアーチ式、両側が重力式の形式をとる黒部ダム(富山県)(出典:Qurren, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons)




Point5: 「ダムツーリズム」に参加して愛でる

ダムに行ってみたいけれど、遠いし、交通が不便なので行きにくい――。そんな時にお勧めなのが、各地の観光協会や旅行会社が企画する「ダムツーリズム」に参加すること。最近では、都市部で集合し、チャーターバスなどで幾つかのダムを回るツアーもあり、人気を集めているようです。

コロナ禍の影響で下火になっていたダムツーリズムも、2022年頃から少しずつ復活してきました。既存のダムだけでなく、工事中の見学を受け入れているダムもあります。国土交通省のウェブサイトから、これらの情報にアクセスすることができます(https://www.mlit.go.jp/river/dam/dam_tourism.html)。

また、ダムでは放流設備が正しく作動することを確認するために、ダム湖に貯めた水を試験的に放流する「点検放流」を実施しています。なかには、その点検放流を見学できるイベントもあります。

例えば、一般社団法人みなかみ町観光協会では、2023年5月20日(土)と21日(日)に、群馬県利根郡みなかみ町にある矢木沢ダム、奈良俣ダム、藤原ダムの点検放流を見学できる「みなかみ3ダム春の点検大放流」を実施する予定です。


2017年に行われた矢木沢ダムの点検放流の様子。毎秒30tの水が放流される。間近で2017年に行われた矢木沢ダムの点検放流の様子。毎秒30tの水が放流される。間近で"ダム汁"(水しぶき)を浴びながら見る放流は大迫力!(写真:みなかみ町観光協会


旅行会社などの企画するダムツーリズムでは、現地へ行った人だけがもらえる写真付きの「ダムカード」をゲットしたり、ダムとダム湖をご飯とルーで表現した「ダムカレー」を食べたりというお楽しみがセットになっているものもあり、見逃せません。

点検放流は、6月~10月の洪水期を前にした5月頃に行われることが多く、この時期にはダムツーリズムも増えるようです。あくまでも設備点検のために行うものとして、実施日の情報や実施の様子を公開していないダムもありますが、お気に入りのダムがもし点検放流を公開していたら、ぜひ一度、足を運んでみてはいかがでしょうか。


※記事の情報は2023年4月11日時点のものです。

  • プロフィール画像 三上美絵

    【PROFILE】

    三上美絵(みかみ・みえ)

    土木ライター
    大成建設で社内報を担当した後、フリーライターとして独立。現在は、雑誌や企業などの広報誌、ウェブサイトに執筆。古くて小さくてかわいらしい土木構造物が好き。
    著書に「かわいい土木 見つけ旅」(技術評論社)、「土木技術者になるには」(ぺりかん社)、共著に「土木の広報」(日経BP)。土木学会土木広報戦略会議委員。
    建設業しんこう-Web 連載「かわいい土木」はこちら https://www.shinko-web.jp

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