【連載】ドボたんが行く!
2023.04.11
三上美絵
ダムがもっと楽しくなる! 5つのポイント
遊びは創造の源泉。身近にあるコトやモノ、どんなことにも遊びを見出してしまう。そこに本当のクリエイティビティがあります。このドボク探検倶楽部、略して「ドボたん」はさまざまな土木構造物を愛でるコーナー。土木大好きライター、ドボたん三上は今回何を見つけたのでしょうか!
Point1: 「素材の違いによる風合い」を愛でる
ドライブや観光で山や湖へ行った時、「あ、こんなところにダムがあるんだ」と気づいたことはありませんか? ダムについてちょっとした知識を持っていれば、そんな予期せぬ出合いでも、ダムをより身近に感じられること請け合いです!
まず、ダムの素材、つまりダムの本体をつくる材料について。これには大きく分けて、「コンクリート」と「岩・石・土」があります。近代以降にできたダムはほとんどがコンクリートダムですが、ダムはそれ以前からあり、古くは土を盛って川をせき止め、水を貯めるものでした。
例えば、弘法大師・空海が改築工事を指揮した香川県の「満濃池(まんのういけ)」もそのひとつ。土を盛っては小枝を敷いて踏み固める「敷葉(しきは)工法」によって、弓なりの堤防を築きました。1,200年以上たった今も、日本最大の灌漑(かんがい)用溜池として使われています。このように、土を盛って築いた堤防で水圧を支えるダムのことを「アースダム」と呼びます。
また、堤防の中心に粘土などを分厚く盛った後、その両側に岩や石を積む形式のダムを「ロックフィルダム」といいます。地盤が硬くなく、コンクリートダムが造れない場所などに建設されることが多いようです。
使われる土や石、岩が建設地の近くから調達されることが多いせいか、アースダムやロックフィルダムは、どれも周辺の景観に自然になじんでいるように感じます。これらのダムに出合ったら、ぜひその風合いを味わってみてください。
Point2: 「莫大な水圧を支えるカタチ」を愛でる
コンクリートダムには、さまざまな形式があります。代表的なのが、横から見ると三角形になった「重力式ダム」と、弓なりに反った壁で支える「アーチ式ダム」です。また、珍しいところでは、下流側がスイーツのワッフルのようになった「バットレスダム」などもあります。
こうした形式の違いは、「堤体(ダムの本体)にかかる水圧をどのように支えるか」によります。ダムは、川をせき止めて水を貯める施設ですから、せき止める箇所に造る堤体には、莫大な水圧がかかります。その水圧を自重(堤体自体の重さ)で支えるのが、重力式ダムです。アーチ式ダムは、堤体の両側と底の岩盤に水圧を分散させて支えます。
また、バットレスダムは水圧をコンクリートの壁で受け止め、裏側から控え壁(バットレス)で支える構造です。使用するコンクリートが少量で済むというメリットがあるものの、強度があまり高くなく大規模なダムには採用できないことから、日本では大正から昭和初期のわずかな期間に8基が造られただけでした。現存するのは6基のみだといいます。
Point3: 「果たしている役割」を愛でる
そもそも、ダムは何のために水を貯めるのでしょうか。その役割は「治水」と「利水」の2つに大きく分かれます。
治水というのは、大雨が降った時、洪水が起こらないようにダムに水を貯め、川に流す水の量を調節することです。また反対に、雨が少なく渇水になってしまった時には、ダムに貯めた水を流し、川の流量を補う運用をします。
一方、利水とは文字どおり、ダムに貯めた水を農業や工業、上水道などに利用することです。
川の流量は、季節や気象状況によって多くなったり少なくなったりするため、川から直接取水したのでは水が不足することがあります。その点、ダムに水を貯めておけば、計画的に配水できるので、断水などのリスクが減るというわけです。都市を流れる川の上流にあるダムが、よく"水がめ"に例えられるのは、このためです。
もう一つ、利水ダムの重要な役割として挙げられるのが、「発電」です。水力発電専用のダムは電力会社や、電力を大量に使用する製造業などの会社が管理しているケースが多くあります。
なかには、治水と利水の両方の役割を併せ持つものや、利水でも複数の目的に水を使うものなどもあり、これらは「多目的ダム」と呼ばれます。治水ダムも利水ダムも多目的ダムも、私たちの暮らしに直結した、なくてはならない施設なんですね。
Point4: 「ダムのある景観」を愛でる
大自然とダムが一体になった雄大な景観は美しく、四季折々の表情を見せてくれます。観光地として人気のダムやダム湖はたくさんありますね。景色を眺めるだけでも十分楽しめますが、「なぜここにダムが造られたのか」を考えてみるのも面白いものです。
ダムの建設を計画する時には、治水や利水の目的に応じて、どの川のどのあたりにダムを造るか、大まかな位置が決まります。そして、その範囲内のどの位置に堤体(ていたい)を築くかは、地形や地質から判断されるのです。
例えば、地盤の硬さが同じなら、谷が広い地形よりも狭いところを選んだほうが、堤体を造るコンクリートや岩石などの材料が少なくて済みます。また一般に、横方向に突っ張って支えるアーチ式ダムには谷の両側面が硬い岩盤などの地質が適し、重さで支える重力式ダムには、谷底が硬い地質が適しているといわれます。
誰もが知る富山県の「黒部ダム」は、谷の上部の強度が不足していたことから、中央部分はアーチ式ダム、両翼部分は重力式ダムとする複合型式が採用されました。
Point5: 「ダムツーリズム」に参加して愛でる
ダムに行ってみたいけれど、遠いし、交通が不便なので行きにくい――。そんな時にお勧めなのが、各地の観光協会や旅行会社が企画する「ダムツーリズム」に参加すること。最近では、都市部で集合し、チャーターバスなどで幾つかのダムを回るツアーもあり、人気を集めているようです。
コロナ禍の影響で下火になっていたダムツーリズムも、2022年頃から少しずつ復活してきました。既存のダムだけでなく、工事中の見学を受け入れているダムもあります。国土交通省のウェブサイトから、これらの情報にアクセスすることができます(https://www.mlit.go.jp/river/dam/dam_tourism.html)。
また、ダムでは放流設備が正しく作動することを確認するために、ダム湖に貯めた水を試験的に放流する「点検放流」を実施しています。なかには、その点検放流を見学できるイベントもあります。
例えば、一般社団法人みなかみ町観光協会では、2023年5月20日(土)と21日(日)に、群馬県利根郡みなかみ町にある矢木沢ダム、奈良俣ダム、藤原ダムの点検放流を見学できる「みなかみ3ダム春の点検大放流」を実施する予定です。
旅行会社などの企画するダムツーリズムでは、現地へ行った人だけがもらえる写真付きの「ダムカード」をゲットしたり、ダムとダム湖をご飯とルーで表現した「ダムカレー」を食べたりというお楽しみがセットになっているものもあり、見逃せません。
点検放流は、6月~10月の洪水期を前にした5月頃に行われることが多く、この時期にはダムツーリズムも増えるようです。あくまでも設備点検のために行うものとして、実施日の情報や実施の様子を公開していないダムもありますが、お気に入りのダムがもし点検放流を公開していたら、ぜひ一度、足を運んでみてはいかがでしょうか。
※記事の情報は2023年4月11日時点のものです。
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【PROFILE】
三上美絵(みかみ・みえ)
土木ライター
大成建設で社内報を担当した後、フリーライターとして独立。現在は、雑誌や企業などの広報誌、ウェブサイトに執筆。古くて小さくてかわいらしい土木構造物が好き。
著書に「かわいい土木 見つけ旅」(技術評論社)、「土木技術者になるには」(ぺりかん社)、共著に「土木の広報」(日経BP)。土木学会土木広報戦略会議委員。
建設業しんこう-Web 連載「かわいい土木」はこちら https://www.shinko-web.jp
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