【連載】流転のパラダイス人生
2019.07.30
パラダイス山元
22年目の夏 世界サンタクロース会議に出席
あるときはマンボミュージシャン、あるときはカーデザイナー、そしてあるときは餃子レストランのオーナーシェフ、またあるときはマン盆栽家元、さらにグリーンランド国際サンタクロース協会の公認サンタクロース、入浴剤ソムリエ、飛行機のプロ搭乗客?......。あらゆるジャンルを跨ぎながら、人生を遊び尽くす「現代の粋人」パラダイス山元さんに「遊びの発想の素」を教えてもらいましょう!
荻窪からコペンハーゲンまでサンタクロース姿 (往復)
夏休みに突入しましたね。
海へ、山へと旅行に出かけられるみなさんが、正直うらやましいです。
私に夏休みなんかありません。22年間も、夏休みナシです。
目にするだけで暑苦しい格好のおじさんが、羽田空港国際線ターミナルに現れると辺りからどよめきが起こります。
「こんな暑い盛りに、アンタなんちゅう格好してんねん?」
空港へ到着するなり、正面から歩いてくる見ず知らずのおじさんから唐突に声をかけられます。予定の到着時刻を過ぎていましたので、少々焦り気味に
「デンマークで開かれる世界サンタクロース会議に出席するんです。公認サンタクロース日本代表のパラダイス山元と言います。今から行ってきまーす!ホッホッホー」
と叫んで先を急ぎます。
まぁ、こういうやりとりは、これまで何千回あったかわかりません。
子どもたちには、できうるかぎり丁寧に接します。
「サンタさん、どこから来たの?」
「きょうは、東京都杉並区」
「サンタさんは、空を飛べるの?」
「きょうは、ANA便のエコノミークラスだよ」
「サンタさん、クリスマスにプレゼント持って来てくれる?」
「ちゃーんといい子にしていたら、サンタさんからプレゼントもらえるから、絶対にいい子でいてね、おかあさん、おとうさん、お友だちともなかよくね。サンタさんとの約束だよ。いいかい、きょうサンタさんに会ったこと忘れないでね」
おっさんへの対応と、かなり違います。
子どもには夢と想像力を、大人には現実を・・・。
グリーンランド国際サンタクロース協会に所属する、公認サンタクロースは現在およそ120名。デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、ドイツ、イギリス、スペイン、オランダ、フランス、イタリア、カナダ、アメリカ、日本の12カ国。人数的には半分を北欧の国々が占めます。
1998年、アジアから初めて〝サンタクロースの候補生〟として日本から参加。煙突のぼりやジンジャークッキーの早喰い、HoHoHo~の発声試験、長老サンタクロースとの面接など、あれやこれやの難関を突破して晴れて公認サンタクロースにはなったものの、そこはゴールではなく、単なるスタート地点にすぎませんでした。
デンマーク人の中堅サンタさんが私の教育係として、長いこと指導をされてきたのですが、サンタクロースとしての振る舞い方や、心構えはもちろんのこと、一緒に様々な境遇の子どもたちのところを訪れたりと、いつの間にか私が後輩サンタクロースを指導する立場になっていました。目には見えない、言葉でも表現し難い何かを伝える立場の難しさを痛感しています。
なぜ、そんな真夏に、世界中の公認サンタクロースが一堂に集まるのか?
よく聞かれます。
サンタさんは、クリスマスが近づくと俄然忙しくなります。クリスマスが終わった後も、貰った手紙にゆっくり目をとおしたり、サンタクロース衣裳の補修をしたり、私の場合はトナカイがわりのトラック(ウニモグ)を車検に出したりと、意外と忙しいんです。真夏のこの時期ようやくみなさん一段落して、今年のクリスマスの準備に入る前というのがベストタイミングというわけなのです。世界サンタクロース会議は、今年で62回目を迎えます。
サンタさんはボランティアなの?
子どもから大人まで被災地でのボランティア活動など、誰でも思い立ったらすぐに社会に役立つことをできる環境になりましたが、それは幾多の災害があったからかもしれません。真冬の日本海でナホトカ号というタンカーから重油が溢れ出し、沿岸に漂着したのをバケツリレーで回収している様子をコタツに入ってテレビで見ていた時、正直ボランティアっていうのは、ものすごくキツイもんなんだなと思いました。エイズ撲滅ライブに、ボランティアで出演して欲しいと頼まれた時なんかも、本業のラテンパーカッションの演奏をノーギャラでやって、それがどう役に立つのだろうかなどと堂々巡りで考えあぐねいた末、断ってしまったこともありました。今から考えると、未熟な人間だったと思います。
公認サンタクロースになってから、初めて障がい者施設や小児病棟、児童福祉施設を、クリスマスイブより何日も前から訪問するようになりました。当初は、何処へ行くのも、構えていたというか、いつも何かしら躊躇するような気持ちになりました。
何を、どう振る舞ったらよいのだろうか?
こんな私が行ったところで、果たして喜んでもらえるのだろうか?
有名なスポーツ選手とか、人気アイドルタレントがサンタの衣裳を身に纏って、プレゼントを持って行ってあげた方がよっぽど喜ぶんじゃないかな?
これまでの自分の人生を振り返ってみても、まったく想像すらしていなかった子どもたちの境遇を目の当たりにして、胸が締め付けられる思いになることもしばしばでした。テレビで報じられることもなければ、新聞や本で読んだこともない現実。普段どおりに暮らしていたら目に入らなかったことが、こんなにもたくさんあったんだと、遅まきながらサンタクロースになってようやく気づかされました。もしかしたら、自分自身そういう現実に目を背けていたのかもしれません。
クリスマス当日に家で過ごすことのできない子どもたちの元を、何日も前から訪れるということは、自分にしかできないボランティア活動じゃないかなと思っていたのですが、どうやらそれも違っていました。
私にとっての本当のサンタクロースとは、、、
やることなすこと、ほぼすべて反対され、とにかくもっと勉強して、まともな大学に入って、まともな会社に就職するようにと口酸っぱく言われ続け、多感な思春期に反目しあっていた父の存在。両親がいるありがたみのこれっぽっちも感じることなく、意思の疎通すらなかった時期が長い間続きました。
大人になって実家で、幼少の頃のクリスマスの日に撮影した白黒写真を見つけた時、両親のありがたみというものが時を超えて込み上げてきました。
ある時、幼少の頃から父によく連れて行ってもらっていた近所の焼きそばお好み焼き屋のご主人から「お父さんがこの前一人でいらした時、これまで何千人という学生を大学で教えてきたけれど、自分の息子だけはうまく教えられなかったですよ、とつぶやいていました」と聞いた時は、ふむふむタシカニ、そんなもんだよなぁ~と。
ネグレクトとか最近のニュースを見ていると、正気の沙汰ではない親子関係に唖然とするばかり。両親がいても、こんな酷いことが起きているのなら、血縁や親子関係なんてことよりも、赤の他人どうしでも信じあったり、信じられたりする関係の方がマシじゃないかと思うことさえあります。
クリスマスイベント会場に赤ちゃんを抱っこして「サンタさん!ご無沙汰しています。私の子どもです!」と、20年前に「サンタさーん」と言って駆け寄ってきて、帰るまでずっとしがみついてまとわりついていた女の子が、お母さんになっていたなんていうサプライズは、公認サンタクロースを続けてきてよかったなぁと思える瞬間です。
公認サンタクロースとして22年間の活動は、サンタクロースのキャリアからしてみれば、まだほんの序の口で、さぁ今からが本番といったところです。後輩サンタクロースの成長ぶりに接するのも、楽しみになってきました。
自宅から会議が行われるデンマークの首都コペンハーゲンまでは、サンタクロースの衣裳着用が義務付けられています。その理由は、長老サンタさん曰く「サンタクロースの衣裳を預け手荷物の中に入れてしまって、万一出てこなかったら、世界サンタクロース会議に出席できないじゃん!!」ごもっとも・・・・。
私にとっての、サンタクロース活動は〝業〟のようなもの。
今年も、クリスマスまで突っ走り続けます。
※記事の情報は2019年7月30日時点のものです。
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【PROFILE】
パラダイス山元 (ぱらだいす・やまもと)
マンボミュージシャンの傍ら、東京・荻窪で、招待制高級紳士餃子レストラン「蔓餃苑」を営む。1962年北海道札幌市生まれ。他に「マン盆栽」の家元、グリーンランド国際サンタクロース協会の公認サンタクロース、入浴剤ソムリエとして「蔓潤湯」開発監修者、ミリオンマイラー「プロ搭乗客」と、活動は混迷を極める。趣味は献血。愛車はメルセデスベンツ ウニモグ U1450。著書に「餃子の創り方」「GYOZA」「うまい餃子」「パラダイス山元の飛行機の乗り方」「なぜデキる男とモテる女は飛行機に乗るのか?」「マン盆栽の超情景」などがある。
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