【連載】流転のパラダイス人生
2019.09.24
パラダイス山元
オトナの収集癖治療
あるときはマンボミュージシャン、あるときはカーデザイナー、そしてあるときは餃子レストランのオーナーシェフ、またあるときはマン盆栽家元、さらにグリーンランド国際サンタクロース協会の公認サンタクロース、入浴剤ソムリエ、飛行機のプロ搭乗客?......。あらゆるジャンルを跨ぎながら、人生を遊び尽くす「現代の粋人」パラダイス山元さんに「遊びの発想の素」を教えてもらいましょう!
ヒュッゲってどういうこと?
毎年7月にコペンハーゲンで開催される「世界サンタクロース会議」に出席したあとは、世界中から集まったサンタさんたちと一緒に遊園地で遊んだり(笑)、デンマーク在住のサンタさんの家で餃子を振る舞ったり、骨董市で掘り出し物を見つけたりと、つかの間の北欧の夏をのんびりと過ごすことにしています。その、のんびり暮らすというのが、デンマーク人全体に根付いているヒュッゲという習慣です。日々満員電車に乗ってあくせく働いて、休日もガッツリとスケジュールをパンパンに入れて遊び倒すような日本人とは対極にあるデンマーク人の暮らしぶり。
日本でも最近「HYGGE」「ヒュゲ」「ヒュッゲ」などと、デンマーク流のライフスタイル習慣が紹介され始めたりしていますが、単に食卓にロウソクを灯したり、北欧デザイン柄のクッションに横たわることではありません。あと、ムーミンはまったく関係ないですから、一応念のため。そもそもカタチから入ろうとしがちな日本人に、情報だけでヒュッゲの本質を伝えていくのは難しいことだと、つくづく感じるのです。
デンマークの夏は、とにかく日照時間が長いです。首都コペンハーゲンでは、朝4時前には東の空から明るくなり出し、肉眼で見ていても太陽はぐんぐんと、あっという間に南中してしまいます。そこからがもう動かないというか、夜9時頃まで真昼のような明るさのままです。深夜11時を過ぎてようやく夜らしい暗闇になります。街中のお店は、意外にも明るいうちに閉店してしまうところがほとんどで、真っ昼間の明るさでも、一応夜というのに、日本人だと慣れるのに時間がかかります。明るいからといって、ついつい外をほっつき歩いていると、ホテルに戻って午前様ということも珍しくありません。旅先で、疲れがどんどん溜まっていってしまいます。
冬は、その反対に朝になってもなかなか太陽が昇らない、夕方を待たずにあっという間に真っ暗闇になります。北欧の季節感は日本人からしてみるとかなり極端です。夏と冬では、日照時間に差がありすぎることを素直に受け入れて、豊かな暮らしを創造しているように感じます。
避暑地のサマーハウスやヨットなど、お気に入りの環境で、好きなモノと、コーヒーで、ゆっくりと過ごす贅沢さ。消費税25%ものデンマークが、なぜ世界一幸せな国と言われているのか、現地に長めに滞在しなければ、その答えは見えてきません。
デンマーク国内の旅行ガイドブックに掲載されている観光名所のようなところには、20年以上訪れているので、ほぼほぼどこにも行った感じはするのですが、ガイドブックや、口コミサイトなどの事前情報に振り回されず、自分の足で見つけたお気に入りの場所には、つい何度も足を運んでしまうものです。
デンマークで断捨離セルフチェック
コペンハーゲンがあるシェラン島から車で約4時間、フュン島の中央のオーデンセというアンデルセンの生誕地を南下するとイーエスコウ城があります。1554年に建設されたルネサンス建築の古いお城ですが、外観も内部も庭も驚くほど整備されていて、何度訪れても、新しい発見があります。歴代の城主は、乗りもの好きだったようで、場内には自転車博物館、馬車博物館、二輪博物館、四輪博物館、飛行機博物館、消防博物館、さらにはそり博物館と、膨大なコレクションの極みをじっくり鑑賞することができます。しかも、少しずつだったり、ドバッとだったり、訪れるたびにそのコレクションは増え続けています。やりたい放題、集め放題の城主の執念を感じることができます。
個人でチマチマと買い集めていたお気に入りのミニカーとか、もうどうでもよくなってしまう感覚。お金さえあればなんだって買い集められるという次元をはるかに超えて、収集癖を研ぎ澄ませた結果をガツンと見せつけられてしまうと、帰国して部屋の中のあれこれを断捨離しないといけないなと思ってしまいます。
夏の週末、至る所でフリーマーケットが行われているデンマーク。常設の屋内骨董市などに行ってしまうと、日本では見たこともないデザインの食器や、玩具など、あれもこれも欲しくなってしまいます。あちこちはしごして訪ね歩くと、人とモノとの関わり方の勉強になります。
モノを長く大事に使って大切にする心構えと、リサイクル術のバランスが、世界で最も優れているデンマーク人から学ぶことは多いです。
下流中年とか、ゴミ屋敷といったレッテル貼りに惑わされず、本当に手元に置いておきたいもの、本当にこれは欲しいものだったのかどうか?アタマの中でトレーニングする〝遊び〟に目覚めます。遊びというより、私にとってはほとんど〝試練〟なんですがね。
最初から買わない、いや欲しい、買ってから売ってもいいから、なら買ってもいいじゃないか、でもスーツケースの重量が・・・と、延々と脳内シミュレーションの連続。毎年デンマークに来て、何やってんだか自分。
オークションサイトなどで簡単に処分できる便利な世の中にはなったのですが・・・
モノに溢れかえる家に戻る前、これを買ってどうするの?と自問自答しまくってはいたのですが、なかなかオトナにはなれないようで・・・。来年3月には、羽田から北欧へ直行便が就航することになりました。私のような人が増えてしまいそうな予感。
デンマークから日本への復路も、もちろん公認サンタクロース姿です。到着地、東京は35℃を超えていました。サンタ苦労すです。
※記事の情報は2019年9月24日時点のものです。
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【PROFILE】
パラダイス山元 (ぱらだいす・やまもと)
マンボミュージシャンの傍ら、東京・荻窪で、招待制高級紳士餃子レストラン「蔓餃苑」を営む。1962年北海道札幌市生まれ。他に「マン盆栽」の家元、グリーンランド国際サンタクロース協会の公認サンタクロース、入浴剤ソムリエとして「蔓潤湯」開発監修者、ミリオンマイラー「プロ搭乗客」と、活動は混迷を極める。趣味は献血。愛車はメルセデスベンツ ウニモグ U1450。著書に「餃子の創り方」「GYOZA」「うまい餃子」「パラダイス山元の飛行機の乗り方」「なぜデキる男とモテる女は飛行機に乗るのか?」「マン盆栽の超情景」などがある。
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