あなたは だんだん餃子を包みたくなる・・・

【連載】流転のパラダイス人生

パラダイス山元

あなたは だんだん餃子を包みたくなる・・・

あるときはマンボミュージシャン、あるときはカーデザイナー、そしてあるときは餃子レストランのオーナーシェフ、またあるときはマン盆栽家元、さらにグリーンランド国際サンタクロース協会の公認サンタクロース、入浴剤ソムリエ、飛行機のプロ搭乗客?......。あらゆるジャンルを跨ぎながら、人生を遊び尽くす「現代の粋人」パラダイス山元さんに「遊びの発想の素」を教えてもらいましょう!

2020 暴飲暴食でスタート

2020 暴飲暴食でスタート

半年前から、ある粉を食事前に摂取しはじめました。ヤバイ粉ではありません。普通に通販で買える粉です。ですが、ヤバイほど健康体になっていく自分に、周囲からは「何やってるの?」「やっぱりヤバイ粉でしょ!」と、いろいろとツッコマレまくっています。ヤバイ粉の話はさておき、健康になったらやりたいこと・・・それは、暴飲暴食でしょう。

元旦から、ノルウェーで開催されていた公認サンタクロースの寄り合い「サンタウインターゲーム2020」に、今年も出場してきました。プレゼントが入った袋を誰が一番遠くへ投げられるか、丸太をいかに早く切ることができるかとか、毎年同じことを繰り返しやっているのですが、なぜそんなことをクリスマスが終わってから、またサンタクロースが集まってやっているのかという基本中の基本を諸先輩に問いただせずに、20年以上が経過してしまいました。

氷点下の中で激しい運動をした後は、ひたすら食べる、そして寝るという、ほとんど相撲部屋のような一週間を過ごしました。ノルウェーといえば、サーモン、鯖などの海の幸に、たしかちょっと前まで相棒だったはずのトナカイのステーキとか、毎食これでもかというほど夢のような、というか拷問のような量の食事がテーブルに並びます。日本のおもてなしと、ノルウェーのそれはスケールが違いすぎるというか、やはり遠い祖先はバイキングですから、何事も豪快というか、なんか日本のおもてなしって、本当にもてなしたように外国人は受け取ってくれるのだろうか?チマチマしたようなコトや、モノで、満足してもらえるのかしら?と、ふと考えてしまいました。

ノルウェーから帰る途中も、もちろん暴飲暴食しまくりです。往路は、ドイツのデュッセルドルフ経由でオスロ入りしたのですが、復路は、トルコのイスタンブール、マレーシアのクアラルンプール経由という、およそ北欧から帰国という感じがまったく感じられないルートで帰国しました。気になっていたのが、「最近、トルコ航空の機内食が美味しくなった」「イスタンブール空港が移転して、超巨大空港に変貌してもの凄いことになっている」とSNSで見聞きしてしまったので、なんとかそれを早いところ体験しておきたいと思っていました。

都内のトルコ料理専門店にたまに出かけて、日本人の舌にアレンジされたトルコ料理に舌鼓を打っていると、何かもっとネイティブな味覚に遭遇したくなってしまうもの。とは言え、わざわざ空港を出て旧市街のレストランを目指すとか考えただけでも面倒くさいので、ならばトルコ航空に乗って、トルコ行きと、トルコ発の便に乗って機内食を食べればOKじゃん!という結論を導き出すに至りました。トルコには何度か渡航していますが、実は空港から一歩も出たことがありません。カッパドキアなんて、空港のコンコースの壁にドデカイ写真があって、ほとんど行った気分になりましたし、新しい空港は、以前の空港よりさらに街から遠くなったと聞いていたので、もうまったく空港の外には未練もなにもありません。

オスロ→イスタンブール トルコ航空の機内食 オードブル やはり日本ではなかなか味わえない品々ばかり。 (撮影:筆者)オスロ→イスタンブール トルコ航空の機内食 オードブル やはり日本ではなかなか味わえない品々ばかり。 (撮影:筆者)

飛んでイスタンブール

イスタンブール空港は、世界最大級の規模と噂には聞いておりましたが、もうそんな噂で推測できる規模でないことは、飛行機から降りた瞬間わかりました。果てしなく遠い、乗り継ぎルートを、ただひたすら歩くのです。途中、動く歩道とかあるのですが、基本はただ歩く歩く。飛行機の中で、体勢を変えず、ひたすら食べ飲み続けていた私としては、これは結構いい運動になると思いました。ほぼ手ぶらだったのでセーフでしたが、ちょっとズッシリめのバッグなんかを肩にかけていたら、ほぼ地獄確定という距離です。

私とほぼ同じタイミングで降機した、私とほぼ同じ標準体型の乗客が、ものすごい大股で目の前を歩いて行きます。私も負けじと、ボーディングブリッジから彼の3歩後をぴったりマークして、大股で歩きます。突如発生するライバル心。ここで負けたら日本男児の恥とか、この戦さは絶対に負けられないとか、それまでまったくアタマの中になかった闘争心が突如芽生えてしまう瞬間。

なにか面白いことが閃く時とか、アイデアが生まれるタイミングは、私の場合、そういう周囲のなにかの変化に影響されることが多いように感じます。これまで生きてきて、とくにそういうことはあまり意識したことはなかったのですが、このノートを書き始めるようになってから、どうしたら今までのような発想が生まれたのかとか、この先どうしたらさらにオモシロイことを導き出せるようになるのかなど、改めて考えるきっかけになりました。

やるのも、観るのも、興味もない、スポーツ関連は全部苦痛でしかない私が、なぜか競歩のランナーのように、ガチで前のデブとデッドヒートを繰り広げる深夜のイスタンブール空港。あまりにスピードが早く、何度かコーナーを曲がったところで、振り返ると、後ろに行列をつくって歩いていたはずの乗客の姿がありません。完全に二人の一騎打ちになりました。東京五輪の前哨戦、なんだか箱根駅伝のような展開。そういえばトルコも五輪に立候補しておりましたね。

10分以上もそんな状況で歩いていると、やがて中継ポイントの、イミグレーションに差し掛かります。ずらっと並んだ窓口のどこに並ぶかで勝負が決まる大事な決断。私は、直感で、極端に短い列よりも見た目で欧州系が多く並んでいる列の後にゲートインしました。ライバルのおデブさんは、一番短かかった列の窓口に並びました。私のレーンより5人以上は少ないです。負け戦かと思われましたが、こちらの列の方がスイスイとパスポートにスタンプが押されて通過していくのに対し、あちらは訳ありな方たちが多いのか、一人にだいぶ時間がかかってすったもんだしています。たまたまかもしれませんが、こういう時の見極め、潮の流れを読めるようになるまで、ひたすら搭乗回数をこなしてきただけのことはあるな自分、と感じました。

結果は私の圧勝。って、最初から勝負でもなんでもないんですがね。



餃子は世界に誇れる〝日本食〟

日本へ帰ってきて、真っ先に向かったのは、餃子の王将 荻窪駅西口店でした。
餃子が食べたかった。私の身体が、ただただ餃子を欲していました。
日本全国津々浦々の餃子の王将のほか、海外の台湾の新店舗でも、一般化している〝よく焼き〟というオーダー方法。今から40年近く前に、餃子の王将 江古田店で、ふにゃふにゃの餃子を「もっとよく焼いてくれませんか」という意味を込めて「よく焼きで!」と、私が来店するたびにしつこくオーダーしたことから始まった、今では餃子の王将も認める焼き方オーダーのスタンダードになりました。皮の焼き目はキツネ色を通り越して、ちょっと焦げている感じでパリッパリに仕上がった餃子に、海老チリソースや、天津飯の京風タレや、麻婆豆腐の餡を絡めて頂くのが〝パラダイス流〟です。

餃子の王将の〝よく焼き〟〝油少なめ〟3人前 荻窪駅西口店 (撮影:筆者)餃子の王将の〝よく焼き〟〝油少なめ〟3人前 荻窪駅西口店 (撮影:筆者)
日本の餃子は、世界に誇れる〝日本食〟だと断言します。

高級なフレンチ、庶民的なイタリアン、和食だとお寿司に天ぷら、鰻と美味しいものはこの世に無限に存在しますが、餃子は別格です。ラーメン、カレーも、日本食のカテゴリーに入りますが、その進化は絶え間なく、美味しい店や、美味しいレシピが次から次へと生まれていっています。

なのに、というか、なぜか餃子の進化というのは、ほとんどまったくと言っていいほど膠着状態が続いていました。中の餡がほとんどキャベツで、豚の挽肉の破片がちょこっと入ったような餃子に、誰も強制していないのにお醤油にラー油とお酢を混ぜたタレをどっぷりつけて、決まってそれをビールで流し込む。

それがいいとか、悪いとかではなく、器用であれこれハイブリッドして新しいものをガンガン生み出せる日本人の勘のよさみたいなことが、ほとんどまったくと言っていいほど発揮されていなかったジャンルが餃子なのでした。


世界初!直立する餃子「海老勃ちゼナキング餃子」蔓餃苑 (撮影:浜崎龍)世界初!直立する餃子「海老勃ちゼナキング餃子」蔓餃苑 (撮影:浜崎龍)


「餃子はデザインだ」「餃子は食べられる彫刻だ」と声高らかに主張し続けている私としては、今よりもっと美味しく、楽しい餃子をつくって、みんなから喜ばれることで、今のところモチベーションを上げ続けることができています。暴食したくなるような餃子のアイデアは、すぐにカタチにして、食べてもらっています。もちろん、自分でも食べます。「自分で食べたいものしかつくらない」を貫いています。

こちらの材料、全部餃子の皮で包まれます。二子玉川 蔦屋家電で、餃子づくりのワークショップを開催 (撮影:筆者)こちらの材料、全部餃子の皮で包まれます。二子玉川 蔦屋家電で、餃子づくりのワークショップを開催 (撮影:筆者)
折をみて、独りよがりでつくり続けている餃子を、ワークショップの参加者と共に包んだりすると、新たな発見があったりします。具体的には、無理やり難しくしているわけではないものの、ほとんど理解不能と思われる独創的な包み方を強要したところで、誰一人として落ちこぼれず、しっかり習得されていかれます。ありがたいというか、参加される方の熱意に応えねばという思いが、また新たな創造力を引き出してくれています。

「蔓餃苑」のレシピで包む 《食卓を彩るおもてなし餃子作り》二子玉川 蔦屋家電 (撮影:Yoko Odate)「蔓餃苑」のレシピで包む 《食卓を彩るおもてなし餃子作り》二子玉川 蔦屋家電 (撮影:Yoko Odate)
「なぜ、こんな包み方を考えついたのですか?」

よく訊かれます。

「どうしたら、これを包もうと思ったのですか?」
よく訊かれます。

「私自身も、どうしてなのか知りたいです。勝手に指が動いてしまうのです」
ふざけてお答えしているわけではありませんが、本当のオリジナルというのは、あれこれの組み合わせとかではなく、夢の中でフワッと浮かんだものとか、神の啓示があったとか、そういう類のものだと思っています。とにかく、他人の猿マネを何よりも忌み嫌う性格は、人と違ったことを死ぬまでにあとどれだけアタマの中に浮かべて、それをカタチにできるか、そんなことをぐるぐる考えていた年の始めでした。

デザートと見せかけておいて餃子が出続けるという蔓餃苑の餃子のフルコース。イチジクの間に、ヤリイカの餃子が隠れている〝餃子の擬態〟デザートと見せかけておいて餃子が出続けるという蔓餃苑の餃子のフルコース。イチジクの間に、ヤリイカの餃子が隠れている〝餃子の擬態〟素材のカタチ、色味、配置に神経を集中させてお皿に盛りつけします。 (撮影:浜崎 龍)
半年前から、摂り続けている粉というのはイヌリンという食物繊維。キクイモや、チコリから抽出した難消化性の澱粉です。これを大さじ2杯、食事前にお茶やお湯に溶かして飲むだけで、血糖値の改善、体重の減少に効果が出始めています。暴飲暴食の限りを尽くしたノルウェーから帰国後も、体重に変化はありませんでした。毎日10000キロカロリー以上は、食べて飲んでいたのですが。イヌリン、もう少し摂取し続けてみます。


※記事の情報は2020年1月28日時点のものです。

  • プロフィール画像 パラダイス山元

    【PROFILE】

    パラダイス山元 (ぱらだいす・やまもと)

    マンボミュージシャンの傍ら、東京・荻窪で、招待制高級紳士餃子レストラン「蔓餃苑」を営む。1962年北海道札幌市生まれ。他に「マン盆栽」の家元、グリーンランド国際サンタクロース協会の公認サンタクロース、入浴剤ソムリエとして「蔓潤湯」開発監修者、ミリオンマイラー「プロ搭乗客」と、活動は混迷を極める。趣味は献血。愛車はメルセデスベンツ ウニモグ U1450。著書に「餃子の創り方」「GYOZA」「うまい餃子」「パラダイス山元の飛行機の乗り方」「なぜデキる男とモテる女は飛行機に乗るのか?」「マン盆栽の超情景」などがある。

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