【連載】流転のパラダイス人生
2020.05.19
パラダイス山元
身の丈にあった夢を見続けていく
あるときはマンボミュージシャン、あるときはカーデザイナー、そしてあるときは餃子レストランのオーナーシェフ、またあるときはマン盆栽家元、さらにグリーンランド国際サンタクロース協会の公認サンタクロース、入浴剤ソムリエ、飛行機のプロ搭乗客?......。あらゆるジャンルを跨ぎながら、人生を遊び尽くす「現代の粋人」パラダイス山元さんに「遊びの発想の素」を教えてもらいましょう!
だいぶ前から不要不急
本来ならワクワク、ウキウキな春なのに、今年はそんなこと言って浮かれられない状況になってしまいましたね。現役、1浪、2浪と芸大、美大を受け続け、毎年全オチしていた私。2浪目で初めて、もう後がないということで、受かってもあまり積極的に入学したいと思っていなかった日大芸術学部美術学科も、受験日程的に受けられるならと受験。結局そこしか受からなかったという現実を、受け入れるのに多少時間がかかりました。しかし、この年の日大芸術学部美術学科(現デザイン学科)インダストリアルデザイン専攻の競争倍率は36倍。とりあえず日芸に入学しておいて、来年も東京芸大を受験しようという気持ちが、いつの間にかもったいなくなって、そのまま居心地のいい江古田の日芸に4年間お世話になりました。私の「身の丈にあった」大学であったことは言うまでもありません。
子どもたちからは「世界一くだらないパパ」と断定されるほど、家庭でも、社会的にもその存在理由がほとんど見出せないに等しい「不要不急」人間の代表格。そういえば、不要不急なんていう言葉、昔からありましたかね?誰の役にも立っていないことを自慢げに語るというか、本当に誰からも期待されたり、必要とされないことばかりを追求してきた私にとっては、なんだかとても自分にしっくりくる呼称で妙に気に入ってしまいました。
今年2月1日、セントレア空港で開催された飛行機イベントでトークショーのゲストに出たきり、世の中の状況が混沌とし始めて、ほとんど外に出る仕事はしていません。書きためてあった本の原稿の順序を組み替えたりとか、あれこれたまってしまったものを断捨離しようとしていたのに、見つけた古雑誌を一日中読み耽ってしまったりと、知らぬ間に時間が過ぎて行きました。緊急事態宣言が発令されても、とくに生活のリズムが変わるわけではなく、むしろこれまでどおり不要不急の外出もしていなければ、自粛しているわけでもなく、好きで家にこもっている毎日です。そういえば、ほとんど不要不急でしか飛行機に乗らない私が、まったく搭乗していません。十数年間で、丸々数ヶ月も飛行機に乗らなかったというのは、初めてのことです。
誰からも期待されない生きざま
私に限ったことではないですが、親から過度に期待を受ける環境で生まれ育って、それに応えることができなかったり、単純に学校で落ちこぼれたり、会社でたびたびヘマをやらかすような人、「アナタって、ちょっと変わっているわね」などとしょっちゅうと言われるような人、まわりを見渡すと決して少なくないですよね、そういう人。欠点でもなければ、出来損ないでもなく、ただこの地球にたまたま人間として生を受けただけなのに、いつのまにかふるいにかけられたり、レッテルを貼られたりしていって、どんどん生きづらくなってしまう世間という縛り。
自らの存在を誰からも期待されない、需要がないと開き直って、感性の赴くまま好きなことだけをして生きることが果たしてできるのか。少しだけがんばって入社した自動車会社を30歳前に退職、以降、他人、いや家族から見ても、ずっとワケのわからないことを好き勝手に追求して生きてきた半生を振り返って、いつが一番楽しかったかと問われるなら、それはイマ、この瞬間。漠然とした不安や、恐怖を肌で感じながらも、トイレットペーパーがあと残り何ロールかという切迫感以外、今、この瞬間が一番楽しいと断言できる私の人生。
世界中がこれまで経験したことのない苦境に陥ったところで、ブレてはいけません。流行には常に敏感でなければなりません。なぜなら流行の真逆、正反対のことを考えてこれからも生きていきたいから。人がやっていることの常に反対のことを考えてここまで不自由なく生きてこれたのですから、残りの人生もそうし続けないともったいないと感じてしまいます。
以前、本上まなみさんが「笑っていいとも!」のテレホンショッキングに出演した際、「本屋さんで、ザ・マン盆栽って本を見つけたんですよ、パラダイス山元さんの」と言った瞬間、タモリさんは「パラダイス山元、マイナーだね~」と、ニヤニヤしながら言い放ちました。番組をリアルタイムで観ていなかった私のところへ、消しゴム版画家のナンシー関さんが「パラダイスさん、パラダイスさん、今、いいともで、タモリさんがパラダイスさんのことを〝マイナーな人〟って、断定してました!クックックッ」と電話をかけてきました。自身が漫画家 赤塚不二夫さんの作品ですと弔辞で述べていたタモリさんが、気がつけば、天才バカボンのパパ的生き方を実践して来たような自分に対し、これ以上の賛辞、お墨付きはないとその時はいたく感動して喜んだものです。タモリさん以外の人から「あなたはマイナーな人だ」と断定されたら、それはどうかと思いますが。
親と衝突が絶えなくて、世界の中心で不幸を叫んでいた過去の自分。親と子の絆がぎくしゃくしたまま、いがみあってばかりいた父が私に残した言葉「人生は、常に最悪の場合を考えろ」でした。
自動車会社に入社直後に会った時に言われました。
最悪のことってなんだ?と考えているうちに、人生の半分が経過してしまいました。幸いなことにスピード違反で切符を切られること以上に最悪なことは未だこの身にはふりかかっていません。
たった一度の人生ですから、明確なビジョンがあって、目標に向かって生きる人を否定するわけではありませんが、常に「反対の賛成」みたいなポジションに身を置いておきたいユルイ人でいられるよう、これからもがんばらないようにがんばります。
招待制高級紳士餃子レストラン「蔓餃苑」も、緊急事態宣言が出ている間はお休みです。人と人とのリアルなコミュニケーションが否定されてしまう世の中に、世界規模でなってしまったという現実を、どう受け止めて、どう行動するか、頭の中がグルグルしっぱなしです。
こんな情勢になってしまったからということではありませんが、夢を諦めないで遮二無二に生き続けるより、諦めないといけないほどではなく、常に「身の丈にあった夢」を見続けて、毎日ニコニコ不要不急な人間として、しみじみとマン盆栽に水をやったり、丁寧に餃子を包み続けたりしてこれから先も生きていきたいものです。
あと、前回からちょうど12週間が経ちましたので、明日はキャッシュアウトなしの社会貢献、献血に行って来ようと思います。
※記事の情報は2020年5月19日時点のものです。
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【PROFILE】
パラダイス山元 (ぱらだいす・やまもと)
マンボミュージシャンの傍ら、東京・荻窪で、招待制高級紳士餃子レストラン「蔓餃苑」を営む。1962年北海道札幌市生まれ。他に「マン盆栽」の家元、グリーンランド国際サンタクロース協会の公認サンタクロース、入浴剤ソムリエとして「蔓潤湯」開発監修者、ミリオンマイラー「プロ搭乗客」と、活動は混迷を極める。趣味は献血。愛車はメルセデスベンツ ウニモグ U1450。著書に「餃子の創り方」「GYOZA」「うまい餃子」「パラダイス山元の飛行機の乗り方」「なぜデキる男とモテる女は飛行機に乗るのか?」「マン盆栽の超情景」などがある。
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