【連載】爪で綴る季

つめをぬるひと(爪作家)

冬の爪

「爪を塗る時の心情は、その人の状況やタイミングによって違う」「爪の数だけ感情があってもいいはず」と、爪を使って独自の表現活動を行っている、つめをぬるひとさんの連載です。テーマは「季」。季節と、その中にある日常を淡く切り取ったオリジナル作品を披露していただきます。第2回は「冬の爪」です。

冬の爪


この連載では「季節」に焦点を当て、旬の食べ物や、行った場所、見たもの、聞いたもの、買ったものなどを綴(つづ)っていきます。そして、期間中に撮影した写真から色を選び、10枚のつけ爪を制作します。


第2回の今回は「冬の爪」ということで、2022年10月から2023年1月のことについて書きました。1つずつの出来事や記憶にむすびついた「爪で綴る季」をお楽しみください。




高野山

和歌山の高野山

高野山


昨年10月。写真家の友人・北田瑞絵(きただ・みずえ)さんが住む和歌山へ遊びに行きました。
北田さんと共に過ごす犬ちゃん(名前非公開)の様子を投稿している「inubot」というSNSアカウントが私は大好きで、その犬ちゃんにも会いました。


犬ちゃん


2回目の対面でしたが、いつも画面上で見ている犬に会うのは、それが何回目であろうと芸能人に会った時のような感情になってしまいます。


その後は北田さんが高野山を案内してくれました。高野山は、奥之院や金剛峯寺(こんごうぶじ)など複数のお寺が並ぶ地域の総称です。金剛峯寺にある襖絵(ふすまえ)の美しさや、奥之院に並ぶ墓石や慰霊碑の数々。そこにそびえ立つ木々はかなり高さがあるので、縦にも横にも壮大で圧倒されます。


北田さんとは、私が爪を塗る活動を始めてから知り合ったのですが、大人になってから友達ができることはそう多くないので、LINEでやりとりするたびにそのありがたさを噛み締めています。もう1つの地元のような場所が(と言ったらおこがましいかしら)、こうして大人になってからできるなんて思ってもみませんでした。




TRACING THE ROOTS

TRACING THE ROOTS

TRACING THE ROOTS


定期的にワークショップでお世話になっている「代官山ティーンズ・クリエイティブ」を運営されているマザーディクショナリーによるイベント「TRACING THE ROOTS」へ行きました。TRACING THE ROOTSは、「旅と手しごと」をテーマに、各地から集まった表現者と共に行う合同展示会&マーケットです。


TRACING THE ROOTS1


器や染め物などの出展のほか、壊れて活用できなくなった工芸品などのパーツを新たに作り変えた作品が並ぶ「ブリコラージュ展」も同時開催。素材の良さを活かしながら生まれ変わった、人の手になじむ温かい作品が並び、そこには一切妥協のない"作る姿勢"や、その姿勢の根源にある覚悟を垣間見たような気がしました。いろいろ購入したなかで、「絲室(いとしつ)」のサシェはその後つけ爪の撮影にも使用しました。




森然/SHINZEN

森然/SHINZEN

森然/SHINZEN


前回の記事でご紹介した「嶋ゞ(しまじま)」さんの和菓子が並ぶということで、東京都文京区・湯島で開催された「都市の収穫祭」というイベントに行きました。


その時に出合ったのがHERBSTANDの「森然/SHINZEN」というお茶です。富士北麓に自生するクロモジがメインで、ほかにもモミやエルダーベリー、キンモクセイが入っています。


ほかにも幾つか試飲しましたが、このころころと変化する味が面白くて購入。自宅の棚から取り出すたびに気分の上がるパッケージと、袋を開けた瞬間の香りがたまりません。この冬よく飲んでいたお茶です。




野台さんとパン屋に行った

野台さんとパン屋に行った

野台さんとパン屋に行った


イラストレーターとして活動している友人・野台(やたい)さんと、近所のパン屋に行きました。


「YAMANIIKITAI」と書かれたTシャツやグッズを作るほど山に行きたい野台さん。


「YAMANIIKITAI」と書かれたTシャツやグッズ


もちろん山の絵も好きですが、海や街、室内などのイラストも私は大好きです。構図は写真的なものが多いですが、絵のタッチはとてもシンプルで、なおかつ独自性も高いので、ほかでは見たことのない雰囲気を放っています。それでいて気取っていないので生活に取り入れやすく、私も幾つかグッズを持っていて、日常的に使っています。


野台さんとはお互いの近所にあるお店を開拓することが多いです。仕事の話もしますが、「今日のご飯なに作るの」「あそこのスーパーは葉物系の野菜が安い」といった話もよくします。この日行ったパン屋には先客がいました。かわいい。




sneeuwのニット

sneeuwのニット

sneeuwのニット


展示会でオーダーしていた、アパレルブランド「sneeuw(スニュウ)」の2022AWのニットが届きました。


この「展示会でオーダー」という文言を私が書いてよいものか迷うほど、展示会というものには慣れていなくて、昔から気後れしていたのですが、デザイナーである雪浦聖子(ゆきうら・せいこ)さんのお人柄や、作られるお洋服が個人的に好みであること、そして昨年からアトリエショップ「KIOSK by sneeuw(キオスク バイ スニュウ)」でつけ爪を置かせていただいているご縁もあり(これがだいぶ背中を押しました)、sneeuwさんの展示会へうかがうようになりました。


この赤いニットは、正面が「出勤風景」、背面が「仕事からの帰り道」をテーマにデザインされています。ほかのコレクションもそうですが、生活や風景からデザインされたお洋服が多いところもsneeuwさんの魅力です。(2023SSは「仏教」をテーマにされたコレクションが展開されています。)年末年始はこの赤いニットをたくさん着ていました。これからも大事に着ます。




下北沢のtonlist

下北沢のtonlist

下北沢のtonlist


12月上旬に、東京・下北沢の「tonlist」というカフェへ行きました。


この日は開店してすぐの頃で、先ほど書いたsneeuwの雪浦さんもいらっしゃるということでお邪魔しました。(tonlistの店主さんと雪浦さんはご夫婦で、お店のいたるところに雪浦さんテイストが垣間見えます。)


下北沢のtonlist


明るい雰囲気の店内では、店主さんこだわりの音響機材からジャズが流れていて、私が行った時は若い方だけでなく、ご年配の方もいらっしゃいました。チリビーンズのホットドッグとコールスローサラダを注文したのですが、もうこのサラダから早速おいしい。


細部へのこだわりはこのサラダ1つにも表れていて、チリビーンズのホットドッグともよく合います。品を感じつつも、わしわしと食べたくなるチリビーンズ。こちらもかなり試作を重ねられたそうです。ちなみにこの後、コールスローサラダは改良されたらしく、今はクルミが追加されたそうです。また行かなきゃ!(tonlistの写真は店主の宇野様に撮影していただきました)




友達の赤ちゃんに会う

友達の赤ちゃんに会う

友達の赤ちゃんに会う


もう10年以上の付き合いになる学生時代の先輩で友達の赤ちゃんに会いに行きました。音楽の趣味が近いので、ライブやフェスに行く時は最初に連絡する人でもあり、悩みを聞いてもらうこともたくさんありました。そんな先輩の赤ちゃんとの初対面。爪が小さい! お肌ぷるぷる! よく笑いよく食べる、元気な赤ちゃんです。


付き合いが長い人の赤ちゃんに会うことへの感慨深さももちろんあったのですが、なんとこの友達が近々、ご家族の転勤で遠方へ引っ越すことになったのです。感慨深さに寂しさまでついてきて、このなんとも言いがたい感情を赤ちゃんのかわいい挙動が紛らわせてくれるような時間でした。


先ほど書いた写真家の北田さんのように、遠くに住んでいても続く関係性というものは存在するので、距離の遠さで悲観し過ぎることはないと思いますが、以前のようには会えなくなるので、いやだからこそ! 次に会う時はすくすく育っているであろう赤ちゃんの成長を楽しみにしていようと思います。




オクシモロンのカレー

オクシモロンのカレー

オクシモロンのカレー


昨年の夏に鎌倉で食べた「オクシモロン」のカレーがまた食べたくて、東京・二子玉川にも店舗があるので行ってみました。いつも人の列ができている印象があったのですが、整理券を発券するとスマホで待ち人数がリアルタイムで分かるシステムで、待っている間にほかの場所を見て回れるので、長時間並ぶことなく入れました。


「エスニックそぼろカレー」は、パクチーや大葉など4種類の薬味が添えられていて、最後まで飽きずに食べられます。カレーと一緒に出てくるナッツのお菓子が絶妙においしくて、私はそのナッツだけを買いに行くこともあります。




年末年始

年末年始

年末年始


だいたいいつも年末年始は光の速さで進み、気づけばEテレ(NHK)の番組「新春たなくじ」にシャッターを押しているので(今年は「ありがとうと言うたび吉きたる」でした)、今回は11月頃から「年末は寿司を食べる」と決めて、家族にもそう伝え、大みそかの前日に寿司を食べました。計画の進め方が旅行のようです。


12月はつけ爪制作の繁忙期でもあるので、せめて年末年始は楽をしたかったのですが、制作は29日で納めたものの、なんだかんだで事務作業は大みそかもやっていました。忘れてましたが大みそかは月末です。なんとか夕方には仕事を終わらせて、夫も大みそかは仕事が入っていたので、帰ってくるまではお雑煮の仕込みをしていました。


テレビを観つつ、お菓子をつまんで、野菜と鶏肉を切って、またテレビを観て、なぜかお茶を淹れ、切ったものを鍋で煮込んで、近くの椅子に座って茶を啜(すす)る、というこの時間のなんと気ままで楽しいことか。


効率という言葉とは一番遠いけど、来年もこういう非効率な時間を楽しめるような年にしたい。そんなことを思っていたら、仕事納めでハイになった夫がケンタッキーを買って帰ってきました。メリークリスマス!年始は初詣に行ったり録画を消化したりしつつ、3日の夜には自分のオンラインショップを開けて、4日が仕事始めでした。早かった。




SOAK design by hesoのface tote

SOAK design by hesoのface tote

SOAK design by hesoのface tote


モデルの菊池亜希子(きくち・あきこ)さんが昔から好きでインスタも拝見しているのですが、そのインスタで知ったのが、SOAK design by hesoの「face tote」です。


数年前のものですでに制作されていなかったはずが、昨年12月に大阪のイベントに向けて再制作。一つひとつ手作業でプリントされたそのデザインが気になりつつも、大阪でしか買えないと思って諦めていたのですが、年末に街でエスカレーターに乗っている時に、偶然目の前にいた女性がこのトートを持っていて、その実物の良さに再検索。(エスカレーターだから結構長い時間まじまじと見ることができたのです。勝手にごめんなさい。)


どうやら12月頭にオンラインで販売されていたようでした。しかしすでに完売。このことがきっかけで、数年前に菊池亜希子さんが責任編集を務めてらっしゃった「マッシュ」というムックを見返すようになりました。


全冊そろえるほど大好きなシリーズだったので、何度も読んだ当時の記憶が蘇り、年が明けてもマッシュを読んだり、YouTubeで動画をあさったりしていました。そして先日、ちょうどマッシュを読んでいた直後にインスタでface tote再販のお知らせが。なにか縁のようなものを感じて購入しました。2023年、最初の買い物です。




「冬の爪」

「冬の爪」



和歌山の高野山

①和歌山の高野山(左手小指)
高野山・大門に当たる夕焼けや「高野山」という文字の色、斜陽の様子



TRACING THE ROOTS

②TRACING THE ROOTS(左手薬指)
プリコラージュ展に展示されていた「赤毛の襟巻き」



お茶「森然/SHINZEN」

③お茶「森然/SHINZEN」(左手中指)
パッケージのポイントとして目に止まる赤い太陽



年末年始

④年末年始(左手人差し指)
年末に食べた寿司



ののちゃんと行ったパン屋

⑤野台さんと行ったパン屋(左手親指)
アップルパイを包む銀紙と、大テーブルにいた先客たちの賑やかさ



オクシモロンのカレー

⑥オクシモロンのカレー(右手親指)
4種類の薬味がのったエスニックカレー



sneeuwの赤いニット

⑦sneeuwの赤いニット(右手人差し指)
2022AWのモチーフをアレンジして描いています



下北沢のtonlist

⑧下北沢のtonlist(右手中指)
ホットドッグやコールスローサラダ、内装の色合い



SOAK design by hesoのface tote

⑨SOAK design by hesoのface tote(右手薬指)
一つひとつ手作業によって作られたプリントの黒と、ヌメ革の持ち手



友達の赤ちゃん

⑩友達の赤ちゃん(右手小指)
小さな手に宿る温かさ



《使用ネイル》
全てポリッシュの刷毛や絵筆を使用して描いています。


〈左手〉

親指:
SMELLY マニキュア 285 カフェモカ
NAIL HOLIC SV045・RD414
OSAJI アップリフトネイルカラー 17 Yokogao
ACネイルエナメル 001 濃密 白 sundays ネイルポリッシュカラー 33 ティールブルー
人差し指:
ACネイルエナメル 001 濃密 白・008 濃密 黒
NAIL HOLIC RD414
OSAJI アップリフトネイルカラー 25 Sunahama
paネイルカラー S058
中指:
NAIL HOLIC GR706
SMELLY マニキュア 011 シアーブルー
sundays ネイルポリッシュカラー 13 チリペッパーレッド
paネイルカラー S019
薬指:
OSAJI アップリフトネイルカラー 103 Yoin
ACネイルエナメル 008 濃密 黒
NAIL HOLIC RD414・GD046
小指:
et seq. 太宰治ネイルコレクション OD1945 斜陽
NAIL HOLIC BK081
SMELLY マニキュア 335 バンビーノ

〈右手〉

親指:
FIVEISM×THREE ネイルアーマー07 JG xkss
ACネイルエナメル 001 濃密 白
paネイルカラー S019・S058
OSAJI アップリフトネイルカラー 14 Aikagi
Kure BAZAAR 150 カクタス
NAIL HOLIC GR713
人差し指:
sundays ネイルポリッシュカラー 13 チリペッパーレッド
weekdays × OSAJI アップリフトネイルカラー W01 ペールブルー
ACネイルエナメル 001 濃密 白
NAIL HOLIC BL913
中指:
weekdays × OSAJI アップリフトネイルカラー W01 ペールブルー
OSAJI アップリフトネイルカラー 26 Mitsu
paネイルカラープレミア AA212
Kure BAZAAR 150 カクタス
ACネイルエナメル 003 濃密 オレンジ
薬指:
paネイルカラー S025・S019
paネイルカラープレミア AA216
小指:
Kure BAZAAR 150 カクタス
NAIL HOLIC PK830


※記事の情報は2023年2月21日時点のものです。

  • プロフィール画像 つめをぬるひと(爪作家)

    【PROFILE】

    つめをぬるひと
    爪作家。爪を「体の部位で唯一、手軽に描写・書き換えの出来る表現媒体」と定義し、「身につけるためであり 身につけるためでない 気張らない爪」というコンセプトで爪にも部屋にも飾れるつけ爪を制作・販売するほか、音楽フェスやイベントで来場者に爪を塗る「爪塗り企画」や、ウェブでのコラム連載、ライブ&ストリーミングスタジオ〝DOMMUNE”の配信内容を爪に描く「今日のDOMMUNE爪」など、爪を塗っている人らしからぬことを、あくまでも爪でやるということに重きをおいて活動。
    https://nuruhito.thebase.in/

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