
【連載】Beaches! ビーチバレーと私
2026.10.23
西堀健実
「ザ・ノンフィクション」から学んだこと|西堀健実【連載⑲】
ビーチバレー選手の西堀健実さんが、ビーチバレーのこと、ビーチバレーを通して体験したさまざまな出来事、出会った風景や人々など、充実の日々を綴ります。今回は西堀選手がスポーツ、競技以外の分野で、影響を受けたテレビ番組について教えていただきました。
イラスト:CHINATSU
見逃し配信も毎回チェックするテレビ番組「ザ・ノンフィクション」
みなさま、こんにちは。今回は、私が「競技生活において、影響を受けた映画やテレビ番組」をテーマに書きます。正直言うと、あまり多くの映画やテレビ番組、漫画やアニメを見ている方ではないと思います。ただ、競技生活だけではなく、自分自身の人生にも影響を与えた作品はいくつかあります。
例えば、映画やドラマなら「教場」「未成年裁判」「42〜世界を変えた男〜」「ショーシャンクの空に」「サンクチュアリ‐聖域‐」「ブラック・スワン」。テレビ番組なら「ザ・ノンフィクション」「情熱大陸」「カンブリア宮殿」、アニメ、漫画は「NARUTO‐ナルト‐」「呪術廻戦」「鬼滅の刃」「SLAM DUNK」です。
最近では、2026年7月放送のテレビ番組「ザ・ノンフィクション」で、「就職先はさる軍団3~怒られない時代に芸を磨くということ~」という放送回は、何度も見返すほど興味深く、影響を受けました。
「ザ・ノンフィクション」は、この放送回だけでなく、毎回見逃し配信を見るほど、好きな番組でもあります。番組名のとおり、嘘やつくり話ではない「ノンフィクション」。さまざまな見方があるかと思いますが、私はそう信じて視聴しています。
毎回、登場人物のこんな部分まで曝け出してしまっていいのだろうか......と不安になってしまうほど過激な内容もあります。でも、そこにはさまざまな生身の人間の人生があるので、見入ってしまうのです。登場人物もさることながら、テーマとナレーションも絶妙にいい。惹きつけられてしまいます。
「反省」ポーズで一世風靡した太郎と次郎
今回はこの「就職先はさる軍団3~怒られない時代に芸を磨くということ~」放送回のことを書きますが、番組内で話されていたことを適宜抜粋したり、自分なりの解釈を加えています。ご容赦いただければと思います。
このさる軍団、幼い頃にテレビや温泉地でよく見かけました。「日光さる軍団」の太郎、次郎と言えば分かる方も多いのではないでしょうか。太郎さんが「さる回し師」のレジェンドで、次郎がおさるさんです。次郎の「反省」ポーズで一世風靡しましたよね。でも、今の若い世代の方々には、ピンとこないかもしれませんね。
タイトルからも分かるように、さる軍団に就職してきた新人たちと、新人を指導する先輩の太郎師匠、それぞれの視点から、新人が芸を磨いていく過程を追いかける内容でした。
▼ザ・ノンフィクション「就職先はさる軍団3 怒られない時代に芸を磨くということ前編」2026.7.19(日)OA
怒るのはなるだけやめた
放送では、ベテランになった芸人さんの新人時代や、太郎師匠の若かりし頃の映像が出てきて、昔と今の比較がなされます。昔の師匠の指導は"ザ・昭和"の厳しいものだったことが分かるし、最近の映像では師匠の言葉や表情、行動がその頃とは変化して、今の新人への指導について葛藤する様子がうかがえます。
昔は弟子が泣くほど厳しい指導で有名、だからこそ生まれた芸があった、という思いが師匠の中に見えた気がしました。でも別の時には、「怒るのはなるだけやめた、意味がないし伝わってない」と話します。その言葉は、時代の流れの中で、自分の信念のようなものを押し殺しているように思えました。
ただ、やはり事件は起きてしまうのですよ。
入社したての新人が舞台に上がる前に、太郎師匠に芸を見せる「新人総見」なるものが行われます。新人にとっては緊張が高まるシーンですが、全員の芸が終わる前に師匠がやめさせます。
そして、師匠が口を開きます。
「どんな仕事だろうと意思が必要なんじゃないか、自分の。君たちにとっての未来は与えられるもんじゃなくて、自分たちで考える、そういう時代を生まない限り未来はない。これが続くとこの芸もすたれるだろうな。残しても意味がない、残っても意味がない、絶対やっぱここ(気持ち)だからね人間は。今の新人が育たないと何人育てても仕方ない」
そう言い残して、その場を去ってしまいます。その後、師匠からこんな言葉が。
「よかったんですよ、よかったんですけど時代を感じた。与えられることに慣れすぎた人たちかなって、いい子たちなんだけど。与えられるんじゃない、自分が求めるものなんだ。僕らの時代にはあったものも、今は失われている感じがちょっとした。与えられたことをこなしているだけでは何もつかめない」と。
嫌なことも沢山あったけど、それが愛、期待だった
置き去りにされて呆然とする新人たちの映像とともに「きっと彼らにそんなつもりはないのかもしれないが......」というナレーションが流れます。そうなんです、新人たちは決して努力していないわけじゃないんですよ。悩みながら、でも希望を胸に一人前の芸人になるべく稽古をしてきたと思うんです。
ある新人が言うんですよね。
「"運よく"いい感じに進んで、先輩たちからもちょっとずつ評価をいただけているって気がしてます」と。
かつては芸の仕込まれていないおさるさんと、二人三脚で新人も育っていたそうです。今は芸の仕込まれたおさるさんをあてがわれ、昔より舞台に出ていけるスピードが早くなったとのこと。
すると、どうなるか。段階を経た調教技術が得られていない分、さまざまな部分が雑になってしまう。新人も早く舞台に出られることを、運が良いと手放しで喜んでいるわけではなく、逆に危機感を含んで発言していました。
師匠の葛藤もよく分かります。愛情や期待が上手く伝わるか。受け取る側の受け取る準備ができていなければ、伝えたい事の半分も伝えることができない。
シーンは変わって。太郎師匠のもとに、元弟子の方々が集います。元弟子の方が、こんな言葉を。
「厳しい稽古でした、嫌なことも沢山あったけど、でもそれが愛。期待だった。その時はそう思えん。思えんでいいの。自分が本当にさる回しが好きでやりよる、本当にその意味を絶対に外さんかったら、この世界から絶対に逃げない。嫌なこともいっぱいあったけど辞めないでよかった」
ここは自分にも重なる部分があって、とても心に響きました。
目の前のチャンスを掴むか、易きに流れてチャンスを逃すか
ほかには、先輩と新人の関係についても触れているシーンもあります。
まったく同じさるなのに 先輩と組めば上手く芸をする。いったい私の何が悪い? と壁を感じていた新人。
その新人に向けて、先輩から
「隙がある、自分本位、自分の解釈が優先になってる」
「何を伝えたらいいか、何を分かってほしいか、今の若い子は考える頭をつくる必要がある」
「迷う意味が分からない、まずやってみな。つべこべ余計なことを考えない。考えずにまず動くこと」
「次はないぞ」
などなど、厳しい言葉の数々。
でも先輩たちも、過去に同じ道を通って今があります。真摯に芸と先輩の言葉に向き合ってきたからこそ、今日の的を射た指導と、揺るぎない芸があるのだと感じました。
成長できるチャンスはそう何度もやってきません。目の前のチャンスを掴むか、易きに流れチャンスを逃すか、自分次第なんですよね。先輩も新人もそれぞれ違った葛藤の中で、同じものを目指して進んで行くことの難しさと、素晴らしさが映し出されていました。
「新人総見」で師匠に厳しい現状をつきつけられた新人たちは、立ち止まるわけにはいかず、稽古を始めます。
難しい局面を打破するカギは間違いなく自分の中にある
数カ月後。新人の舞台本番がありました。舞台を終えた後の師匠からの言葉です。
「私が40数年やってきても考えつかない芸。新しいことに対しての挑戦は失敗もあるけど、がんばったんじゃないの」
「もう時代がこんなになっちゃったから、誰も怒ってくれない。君らにとって不利な時代なんだよ。1番、2番、3番を決めちゃいけないと言われてるし」
「自分が納得してやったか。自分に腹がたったか? お前らは(うまくできない)自分に腹がたったか? それがあるんだったら少しいいかもしれないかなと思う。そんなことを踏まえても、今回は素晴らしかったよ、いろいろ注文はあるけど。楽しみにしてるよ」
結局、どんなに突き放しても、厳しい言葉を言い放ったとしても期待しているんですよね。
一見成功したように見えても、このまま送り出すわけにはいかない、師匠や先輩は新人のちょっとした心の隙や弱さ、自信のなさを見抜いています。自分がよくできていると思っても、そこでちゃんと今の自分の技術を評価して、自分に厳しくやり抜けるか。その時だけの付け焼き刃では脆(もろ)さが出てしまう。
一人前になれるか否かの境界線は、こういう内面的な部分が成熟しているかどうかで決まる。いつだって大切な場面では、簡単には自分のパフォーマンスを出させてくれない。でも、その難しい局面を打破するカギは間違いなく自分の中にある。そんなことを学ばせてもらいました。
「案外たくましく生きている。それが今どきの若者なのかもしれない。毎日戦い抜いている、笑いながら。どんなにベテランになっても、仕事ってきっとそんなもん。悩んで、転んで、また立ち上がって。それは新人でも先輩でもきっと同じはずだから」
そんなナレーションでこの回が終わります。師匠も、先輩も、新人も猿まわしへの想いは同じ。ただ、師匠や先輩はいろいろなことを経験し、多くのことを知っている。新人には無限大の可能性がある。「時代、世代の違い」と片付けるのは簡単ですが、お互いをリスペクトして、理解しあえた時に、本当に素晴らしいものができるんだなと思わせてくれた番組でした。
さて、次回はどんなテーマでしょうか。お楽しみに!
つづく
※記事の情報は2026年10月23日時点のものです。
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【PROFILE】
西堀健実(にしぼり・たけみ)
1981年生まれ、長野県中野市出身。身長171㎝。
所属:biid株式会社
経歴:小布施スポーツ少年団→裾花中学校→古川学園高等学校
得意なプレー:相手選手の観察
好きな言葉:一意専心
【2025年国内大会】
・ジャパンビーチバレーボールツアー2025
第1戦 平塚大会 荒井商事杯 9位
第2戦 グランドスラムグランフロント大会 準優勝
第5戦 グランドスラム 横浜赤レンガ倉庫大会 5位
第6戦 青森大会 5位
第7戦 グランフロントエスコンフィールドHOKKAIDO大会 5位
第8戦 名古屋大会 5位
【2025年国際大会】
・アジアツアー
ヌバリオープン 9位
・FIVB Beach Pro Tour 2025
Futures/NUVALI 5位
Futures/武漢 5位
Futures/釜山 5位
Futures/カーボベルデ 4位
【2026年国内大会】
・ジャパンビーチバレーボールツアー2026
第1戦 名古屋大会 5位
第3戦 都城大会 第27回霧島酒造オープン大会 5位
第4戦 立川大会Crown of the Beach 優勝
第6戦 平塚大会 荒井商事杯 3位
【2026年国際大会】
・アジアツアー
台湾オープン 5位
・FIVB Beach Pro Tour 2026
Futures/クーランガッタ 4位
Futures/釜山 5位
Futures/モデナ 9位
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