筋肉量をアップして世界に通用する身体をつくる|筋肉談議【前編】

坂口由里香のBeach Days

ビーチバレーボール選手:坂口由里香

筋肉量をアップして世界に通用する身体をつくる|筋肉談議【前編】

国内個人ランキング3位*。坂口由里香さんはいま最も注目されているビーチバレーボール選手の一人です。世界を舞台に奮闘しながらパリ五輪を目指す坂口選手に、日々の練習やツアー先で体験したこと、また、坂口選手が実践しているビーガン食や、普段のフィジカルトレーニングについて「世界への挑戦!Beach Days」をつづっていきます。*2022年10月時点

写真:三井 公一

日本人選手は土台となる筋肉のサイズアップが必要

今回は坂口由里香選手が普段行っているトレーニングやビーチバレーボール選手に必要な筋肉について、トレーナーの殖栗剛志(うえぐり・たけし)さんとともに"筋肉談議"という形式でざっくばらんに語ってもらい、それを基に編集部で記事を起こしました。

トレーナーの殖栗さんと坂口さんとの出会いは、かれこれ5年ほど前。当時、膝のけがを抱えていた坂口さんは、けがをしないような身体づくりをするためにトレーナーを探していました。そんな時、坂口さんが所属していた株式会社オーイングでプレーしていた先輩(村上めぐみ選手)に殖栗さんを紹介され、トレーニングを開始。以来、殖栗さんは坂口さんのトレーニングを担当しています。

殖栗さんはフリーランスのパーソナルトレーナーで、坂口さんのようなプロ選手だけではなく、学生スポーツ選手や一般の方にも広くトレーニングを指導されています。取材は2023年1月、東京・日本橋にあるトレーニングルームにて、実際にトレーニングをしているところへお邪魔して行いました。


坂口さんのトレーナーの殖栗剛志さん坂口さんのトレーナーの殖栗剛志さん


編集部:殖栗さんはこれまでビーチバレーボール選手のトレーニングを見てきていますが、ビーチバレーボール選手に必要な筋肉、フィジカルって何でしょうか。

殖栗:どの筋肉というより、そもそも日本人選手は海外の選手に比べて筋力が弱いんですよね。重いものが持てない。分かりやすく言うと、筋肉の量が少ない。なのでまず日本人選手のほとんどにとって、土台となる筋肉のサイズ、大きな力が出るようなベースづくりが必要だと思います。


編集部:坂口さんも最初は筋肉のサイズを大きくするトレーニングを行ったのでしょうか。

殖栗:はい。トレーニングに身体が慣れてきたところで、1年をいくつかに区切ってトレーニング計画を立てます。オフシーズンはボディービルのような、筋肉を大きくするトレーニングをして、シーズンが近くなってきたらスピードを出せるような、実際にビーチバレーボールをプレーする時の動きに近くしていこうといったように。


編集部:ビーチバレーボールって砂に足をとられているのに、ジャンプしてレシーブしてと、とにかく上下の動きが激しいし、瞬発力もすごく必要とされそうです。

殖栗:そうですね。つけた筋肉でいかに瞬間的に力を出して動けるようにするか、筋肉をいわゆる瞬発力に転換していくっていうのは、ビーチバレーボールだけに限らず、ほとんどのスポーツ選手にとって大事なことです。ボディービルのトレーニングで終わらせないことがポイントだと思います。


編集部:坂口さんは殖栗さんとトレーニングを始めて、ご自身で何か変わったと実感することはありますか。

坂口:ありますあります。まず筋量がめちゃめちゃ増えたんですよね。最初、重いのが全然上げられなかったんです。もう本当に上がらないっていう状態から入って、今は上がるようになっているので、目に見える成長があります。殖栗さんと会う前ですが膝を手術したので、膝の調子が悪い時が結構あるんですよ。その時もどうすればいいか相談したりして。もう5年もやってるので、自分の身体に敏感になって、身体の状態に気づけるようになったことと、筋量が増えたことがパフォーマンスにもつながって、結果にも出てると思います。今右肩上がりですよね(笑)。

殖栗:そうだね(笑)。

坂口:今まさに上がってる最中だと思っているんです。だから頑張って継続したい。実際のトレーニング中はつらい、重い、しんどいって毎回、文句は言いますけどね。これ以上頑張れませんって言いながら頑張ってます(笑)。


日本人選手は土台となる筋肉のサイズアップが必要



ボールを触れる距離とスピードは確実に上がりました

編集部:殖栗さんから見て、坂口さんの変化ってどうですか。

殖栗:ビーチバレーボールの練習を直接見るわけじゃないので、トレーニング中に雑談しながら普段どんな練習をしているのかできるだけ聞くようにしています。というのも、由里香(坂口さん)の普段の練習内容と、僕がやっているトレーニングの内容が重複したらもったいないので、区別するようにしているんです。そこがうまく噛み合ってきてるなと思う時は、良い状態になっていると思います。

ビーチバレーボールは試合中あっちへ行ったり、こっちへ行ったりするので、切り返しの時間がもったいないですよね。右行って、左に行く時に止まっちゃうのがもったいなくて、シュッてすぐに戻ってきてほしいんです。この切り返しがだんだんうまくなってきていますね。

例えば右に10歩で行って左に戻る時にまごまごして12歩かかっちゃいました、ってなるとロスじゃないですか。10歩で行ったら10歩で戻ってきたい。それがだんだん最短距離でできるようになっているんです。そうすると、戻ってきてこのボールを拾うのにあと1歩か2歩足りなかった、というのが減ってくると思うんですよね。

編集部:それは試合を観て分かるんですか。

殖栗:はい。止まる時の動き、ブレーキのかけ方、止まり方については、うまいやり方があるんですよね。車と同じで、加速して一気にブレーキをかけるのはすごく難しいことなんですけど、ポンピングブレーキみたいに少しずつスピードを落とすと止まるのに時間がかかってしまいます。

すぐに止まってすぐに行く、その動きができるようなトレーニングをメニューに入れています。今は海外でのビーチバレーの試合もネットに上がっていたり、国内の大会もYouTubeで放送されていたりするので、仕事の合間に観るようにしています。全試合観るわけではないですが、動きのポイントだけ見て、良くなってきてるなと思ったりします。


編集部:坂口さん自身も分かるんですか。

坂口:切り返しがうまくいったからこのボールが触れた、とかはあまり思ってないけど、ボールを触れる距離とかスピードは確実に上がりましたね。それが、そういう細かい部分でのトレーニングでうまくできるようになっていたんだっていうのを今日改めて知りました。

殖栗:普段言わないからね(笑)。

坂口:うん。あんまり褒めてくれないんで(笑)。


編集部:さっきトレーニングを少し見学させていただきましたが、やりながら「これはどこに効くんですか?」って殖栗さんに聞きながらやっていましたよね。

坂口:何に効くのか分からないと、トレーニングってただただつらいだけになっちゃうんですよね。重いものを持って、身体を大きくしてパワーをつけたいっていう選手もいますが、私はどちらかというと、背も高くないので、スピードをつけたいと思っています。なので、瞬発力を高める動きをトレーニングに多く入れてくれているのが、レシーブに生きてるんだなと思いました。

坂口由里香選手



トレーニングのためのトレーニングではなく、あくまでも試合に勝つことが目的

編集部:トレーニング中に心拍数を気にされていましたが、普段の生活でも心拍数は意識しているんですか。

坂口:練習で結構すぐに心拍数が上がっちゃうんですよ。それがいいことなのか分からないんですけど、心拍計を見るのが癖になっていて。練習していて今つらいな、と思って数値を見るとそんなに上がっていなかったりすることもあって。もうちょっといけるはずなのに、今はつらいって思ってしまってるだけなんだな、とか。そういう自分の気持ちに向き合ってる感じですね。

殖栗さんとのトレーニングは週に1回、日本にいる時にお願いしているんですが、それ以外は1人でやらないといけないので、追い込みにくいんです。この前一緒にトレーニングした時は心拍数が160まで行ったのに、1人でやる時に130だったりすると、本当はもうちょっといけるんだけど誰も追い込んでくれないからなーって。なので、そこはストイックに心拍数を上げられるように確認して、意識しています。


編集部:殖栗さんとのトレーニングが週に1回で、あとは1人とのことですが、 トレーニング自体は週に何回ぐらいのペースでやっているんですか。

坂口:週2~3回くらいですね。


編集部:筋肉を休ませなきゃいけない?

殖栗:そうですね。週6回とかもう少しトレーニングできるでしょうって思っていた時もあったんですが、いろんな選手を見てきて考えが変わりました。僕たちトレーナーは試合について行かないので、海外で移動が続いた時の疲労感を考えたりすると、現実的にはこれぐらいしかできないなって分かってきて。あくまでも試合に勝つことが目的で、トレーニングを100%やることが目的ではないんですよね。トレーニングのためのトレーニングになってしまわないようにしています。

由里香は頑張れる人なんですよ。こんなにふわふわしてるんですけど、これやってねって言うと全部ちゃんとやってくる。中には週3回でやってねってメニューを作っても、週2回しかやらなかったり、何かを減らしましたとか、決めた通りやらない選手もいるんですが、由里香は100%でやっちゃうので、もう週2回でいいよ、とか決めながらやっています。

編集部:その真面目さ、ストイックな姿勢がやっぱり結果に結びついているんでしょうね。

殖栗:そうですね。ほんとに真面目です。

坂口:一応サボれるかどうかは確認するんですけど......(笑)。でも結局これはちゃんとやらなきゃいけないんだってなりますね。

坂口由里香選手



ベストは57㎏ぐらい。体重はあまり減りすぎてもよくない

編集部:話は変わって、坂口さんは自分の身体の筋肉でどこが好きですか。

坂口:実は自信があるのはふくらはぎなんですよ、昔から。ふくらはぎが一番硬くて、写真を見てもムキッとしてて、形もよくて一番キレがあるというか。 ほかはまだ鍛えないといけないですが。

編集部:体脂肪率ってどれぐらいなんですか。

坂口:体脂肪率は結構あるんですよね。18%ぐらいかな。どれぐらいがいいんですかね?

殖栗:脂肪って基本的におもりなので、もうちょっと低くてもいいかもしれない。世界の超トッププレイヤーなら別なんですけど、予選から出なきゃいけないタイプの選手は試合数が多いんですよ。もちろん重すぎてもだめなんですけど、低すぎるとエネルギーが枯渇して動けなくなっちゃう。だから体重で言うと今より1~2kgは減らしてもいいかなと思うけど、本人のベスト体重であれば問題ないとは思います。

坂口:そうですね。今はシーズンオフなので(※2023年1月に取材)、ベストの時より2㎏ぐらい重いですね。56~57 kgぐらいがベストなんですよね。60 kg近くなっちゃう時は重くて飛びにくいし、動きにくいなと思うんですけど、パワーはつくからボールのスピードや威力みたいなのは出るようになります。ただやっぱり重いので、トータルで考えたら57 kgぐらいがちょうどいいかな。以前55 kgまで減ってしまった時があって、その時はすごく疲れてしまって、真夏の試合とかは全然ダメでしたね。だからあんまり減りすぎてもよくないんですよね。

編集部:痩せすぎてもだめなんですね。

坂口:そうなんですよ。それまでは痩せることはいいことだと思っていたんですが。

編集部:1年の中でいつ頃までに体重をベストに持っていくようにするんですか。

坂口:3月ぐらいですね。3月から本格的に試合が始まるので、それまでの合宿の期間に調整して57 kgぐらいでいきたいなと思ってます。

編集部:それは食事でコントロールしたりもするんですか。

坂口:冬だと食事ではあんまり変えられないんですよね。単純に冬は試合がないから有酸素運動が足りていないんでしょうね。計量が必要なスポーツみたいに1kgがどうの、みたいなのはないんですけどね。これからタイに合宿に行くので、タイは暑いし、走ったら減らせるかなとは思っています(笑)。

坂口由里香選手


編集部:やっぱり筋肉をつくる食べ物ってたんぱく質、鶏肉とかがいいんでしょうか。


殖栗:たんぱく質のものをとれていれば基本的に何でもいいと思います。肉、魚、卵、納豆(大豆食品)など、このへんのものだったら何から食べてもいい。プロテイン飲料でもいいですし。ポイントは偏りなくいろんなものから摂取することですね。

ベスト体重はあると思うんですけど、体重制限はないので、あれ食べちゃいけない、これもダメってなるとストレスになるので。食事ってちょっとほっとする時間じゃないですか。なので大まかに管理できていればいいのかなと僕は思います。

坂口:私がビーガンになって、お肉を食べなくなって心配したりした?

殖栗:いいやしてないよ。

坂口:してないんだ(笑)。結構周りの選手とか友達には肉食べなくていいの? って心配されましたからね。

殖栗:何とも言えないですよね。食事って合う合わないの部分があって、管理栄養士の方やスポーツ栄養学をやっている方が勧めるメニューや食材が絶対合うわけじゃないので、本人の感触がいいならそれがいいと思っています。あくまでも試合に勝つことが目的なんで、それで便秘がなくなって、体調がいいんですって言うならそれを優先したほうがいい。

編集部:なるほど。食事については大まかに従ったほうがいい決め事みたいなものはあるけれど、細かくは個人の体調や嗜好(しこう)に委ねられる部分なのですね。次回は、筋肉談議【後編】として、筋肉の基本情報や自宅でできるちょっとした筋トレを教えていただきます。


※記事の情報は2023年5月2日時点のものです。


後編へ続く

  • プロフィール画像 ビーチバレーボール選手:坂口由里香

    【PROFILE】

    坂口由里香(さかぐち・ゆりか)
    小学3年生からインドアのバレーボールを始め、中学3年生で神奈川県代表選手に選出。高校3年生で神奈川県ベスト4入り、ビーチバレーはマドンナカップの神奈川県予選で優勝、全国大会で5位入賞。その後、2014年国内ツアー入賞をきっかけに本格的にビーチで活動、2018シーズンはビーチバレージャパンで決勝進出、2021年の国内ツアーでは優勝3回、準優勝1回、3位1回、2022年は開幕戦から国内で出場した大会は全て優勝し、9月の女子アジア選手権では5位入賞、10月のBeach Pro Tour モルディブ大会でも5位入賞した。勝負強さ、安定したパス、攻撃のバリエーションで、次代を担っていくプレーヤーとして注目される。

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