バレーボール人生のはじまり|西堀健実

【連載】Beaches! ビーチバレーと私

西堀健実

バレーボール人生のはじまり|西堀健実

ビーチバレー選手の西堀健実さんが、バレーボールとビーチバレーにかけた青春の日々を綴ります。連載第1回はまさに「人生のはじまり」という、西堀さんがバレーボールと出合った小学生時代のお話です。

"海なし県"からはじまったバレーボールライフ

私は長野県中野市で生まれ育ちました。人口は4万人ほどの小さな街で、高社山(こうしゃさん)の山裾の緑豊かなところです。遠方には北信五岳と呼ばれる山々が連なり、冬は雪がたくさん降って、スキーなどのウインタースポーツが盛んです。


長野といえば"海なし県"です。海がない県で育ったのに、どうして今はビーチで日焼けをしながらバレーボールを追いかけるようになったのか。私自身もときどき不思議な気持ちになることがあります。この連載で、私の(ビーチ)バレーボール人生を振り返ってみようと思います。




ボールの音が鳴り響く空間が嫌でしかたなかった

私のバレーボールとの出会いは、今から34年前の小学校3年生のとき。当時ママさんバレーをしていた母の試合について行ったとき、その後入団することになる、隣町のスポーツ少年団の監督さんにスカウトしてもらったことがきっかけでした。そのスポーツ少年団は全国大会常連のチームでした。


最初は半ば無理矢理、母に体育館へ連行されていました。超がつくほどの人見知りと、恥ずかしがり屋の私は、誰も友達がいない、ボールの音が絶えず鳴り響くその空間に行くことが、嫌で仕方がありませんでした。


初日の挨拶は、母の背後に隠れて話すことができなかったのを覚えています。毎日練習があるので、学校の友達と遊べなくなることも嫌な気持ちに拍車をかけていました。双子の妹が一緒に入団をしたので、妹のおかげでなんとか行くことができていました。


妹は、私とは正反対の性格で、物怖じせず誰とでもすぐに打ち解けられる性格でした。妹がどんどん仲間を作り、それにつられて私もチームに溶け込めたように思います。


双子の妹、育実さん(右)の存在も大きかった双子の妹、育実さん(右)の存在も大きかった




練習試合デビューはほろ苦い失敗の思い出に

少年団のお姉さんにバレーボールを教えてもらって、できなかったことが少しずつできるようになる喜びを知って、どんどんバレーボールにのめり込んでいきました。小学校4年生になる頃には、できる技も増えて、自分に自信が持てるようになったせいか性格も積極的になり、監督に「私も試合に出たい!」とタメ口で直訴するほどになりました。


しつこい直訴に根負けした監督に、はじめて練習試合に出してもらったときのこと。ルールをちゃんと理解していなかった私は、なぜかボールがコートの外に出ても、コートから人間は出てはいけないと思い込んでいて、コート外にはじかれたボールを追う仲間をじっと見つめながら、コートの中で一人立ち尽くしていました。監督は苦笑い。練習は厳しかったですが、のびのびと楽しくプレーをさせてくれるいい監督でした。はじめての実戦デビューはほろ苦い失敗の思い出です。




サーブポイントが人生初の大きな成功体験

そして1つ学年が上がった小学校55年生のとき、ついに公式戦デビューを迎えました。それまで長かった髪をバッサリ切り、はじめてもらった赤と白のユニフォームに袖を通して、いざ出陣。はじめての公式戦はピンチサーバー。まだ遠くに打てる力がなくて、ギリギリネットを越したサーブがポイントに! 嬉しさ爆発でした。自分の中で、人生初の大きな成功体験といえるものだったと思います。


その頃から、遠征試合にも帯同させてもらうようになり、全国各地を周り、バレーボールを通してたくさんの友達ができました。遠征先でレベルの高いバレーボールに触れ、ワクワクしました。地元で開催された日本リーグ(全日本バレーボール選抜男女リーグ)の試合を見て、とても興奮したのを覚えています。


そのときにハッキリと日本一になりたい、オリンピックに出たい、憧れの日本代表の選手のようになりたいという夢を持ちました。




小学校最後の夏の全国大会

すっかりバレーボール一色の生活を送る中、小学校最後の夏、東京体育館での全国大会を迎えました。我が「小布施スポーツ少年団」は優勝候補と呼ばれるほどのチームになっていました。自分たちでもその自覚をもって臨んだ試合、ベスト4をかけての大一番は、相手も優勝候補と言われる和歌山県のチームでした。


小布施スポーツ少年団がリードして進んでいた試合、終盤にチームのエースが足を攣(つ)ってしまい選手交代という悲劇に見舞われました。その子は絶対的なエースで、チームは大黒柱を失ったことで大きく動揺しました。しかし勝利まではあと数点、今まで引っ張ってくれたエースの代わりに、その頃にはエースに次ぐ存在に成長していた私が点数を取らなければいけなくなりました。


その、何がなんでも奮起しなければいけない場面で、私は何もできませんでした。大舞台の緊張と動揺で、チームメイトの声も耳に届かず、終始足が宙に浮いているような感じで、試合の流れがどうなっているのか、自分がどういうプレーをしているのかも分からないまま、気づくと試合が終わっていました。振り返ってもほとんど何も覚えていないくらいです。


全日本バレーボール小学生大会の長野県大会にて全日本バレーボール小学生大会の長野県大会にて




生まれてはじめて知った感情

最後のホイッスルが聞こえたときも、まだ負けたという実感がなくて、相手チームと握手をして、チームメイトがコートを後にしながら泣いているのを見ながら、負けたんだ、これでこのメンバーでこの舞台で試合をすることはもうできないんだ、なのに自分は大事なときに決めきることができなかった......という悔しさが湧いてきて、文字通り声を上げて号泣しました。


日本一を目指して臨んだ最後の夏はベスト8。悔しさと情けなさで、数日落ち込みました。ふとしたときに試合で何もできなかったことを思いだして、取り返せない試合と自分の無力感を恨んで、それを解消するすべも分からず、友達からの誘いも全て断り、その夏はしばらく一人で部屋に籠ることが多くなりました。こんな感情も、生まれてはじめて知ったことでした。


バレーボールが大好きになったことで、上達することの楽しさ、努力すること、ルールを守ること、仲間の大切さ、勝つことの嬉しさ、負けることの悔しさ、夢を持つこと......人生の礎となるようなことすべてを教えられたように思います。これが私のバレーボール人生のはじまりでした。


つづく


※記事の情報は2025年3月25日時点のものです。

  • プロフィール画像 西堀健実

    【PROFILE】

    西堀健実(にしぼり・たけみ)

    1981年生まれ、長野県中野市出身。身長171㎝。
    所属:biid株式会社
    経歴:小布施スポーツ少年団→裾花中学校→古川学園高等学校
    得意なプレー:相手選手の観察
    好きな言葉:一意専心

    【2023年国内大会】
    ・ジャパンビーチバレーボールツアー2023
    第2戦平塚大会 ガラナ・アンタルチカ杯 3位
    第3戦渋谷大会 3位
    ・ジャパンビーチバレーボールツアー2023サテライト
    第1戦横浜大会 3位

    【2023年国際大会】
    ・アジアツアー
    サラミオープン9位
    ・FIVB Beach Pro Tour 2023
    Futures/Satun(サトゥーン) 9位
    Futures/Seoul(ソウル) 5位
    Futures/Geelong(ジーロング) 5位

    【2024年国内大会】
    ジャパンビーチバレーボールツアー2024
    第8戦JBG須磨大会 3位
    第9戦マイナビ松山大会旭食品杯 3位

    【2024国際大会】
    ・アジアツアー
    ヌバリオープン 9位
    天津オープン 9位
    ヌバリチャンピオンシップ 19位
    ・FIVB Beach Pro Tour 2024
    Futures/Mollymook  9位
    Futures/Coolangatta 9位
    Futures/NUVALI 3位

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