BMC(ビルマニアカフェ)【前編】|1950~70年代のビル好き集団。古いビルの価値を社会に発信

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BMC(ビルマニアカフェ)〈インタビュー〉

BMC(ビルマニアカフェ)【前編】|1950~70年代のビル好き集団。古いビルの価値を社会に発信

1950~70年代のビルをこよなく愛する5人組「BMC(ビルマニアカフェ)」。高度経済成長期に建てられたビルの魅力を伝えるため、2008年に結成以降、ビルを活用したイベントの開催や、自費出版のリトルプレス「月刊ビル」の不定期発行、「いいビルの写真集 WEST」「いい階段の写真集」といった書籍の出版など、本業の傍らで活動しています。活動拠点である大阪を訪ね、前編では、髙岡伸一(たかおか・しんいち)さん、阪口大介(さかぐち・だいすけ)さん、岩田雅希(いわた・まさき)さんの3人に、結成の経緯や活動内容をうかがいました。

写真:成田 舞

なくなっていく戦前の近代建築を広める活動から始まった

(左)髙岡伸一さん。近畿大学建築学部の教授。設計事務所も主宰しており、古い建物のリノベーション設計を行う。BMCではビル博士担当
(中央)阪口大介さん。工務店の株式会社サカグチワークス代表で、大工、左官、電気工事などの施工を担当。BMCでは、イベントリーダーで企画や設営を行っている
(右)岩田雅希さん。同じくサカグチワークスでリノベーション設計を行う。総務・経理・広報も担当し、BMCでも同様の事務作業を担う


――皆さんはどのように出会ったのですか。


岩田さん:2004年頃、戦前の建物がどんどん失われていたので、それをどう思うか、アンケートを取ったことがありました。知り合いに送ったアンケートのメールがどんどん転送されて、それが髙岡さんの元にも届いたようで。当時髙岡さんは、私が好きな年代のビルについて紹介するブログをやっていて、僕はこういうサイトをやってます、こう思いますって返事をくれたんですよ。それが髙岡さんとの出会いです。


そのアンケートは異様に反響があって、戦前のビルの良さを皆に広めようと30人ほどが集まってイベントをしたり、ビルのオーナーさんに話を聞きに行ったりしていました。BMCの前段となるような活動です。



髙岡さん:新卒から8年勤めた設計事務所を辞めた頃で、仕事がなくてふらふらしていたので、よっぽど暇だったんだと思います(笑)。昭和の初め(1927年)に建てられた芝川ビルの最上階を借りて、近代建築のオーナーさんたちを呼び、建物を持っている理由や苦労話を聞くシンポジウムをやったら、思いのほか反響があって。毎日新聞の夕刊の一面を飾りました。


僕が長年、事務局長を務めている「生きた建築ミュージアム大阪(以下、イケフェス大阪)」も、元をたどればここから始まっている気がします。


「イケフェス大阪2026」のキービジュアル。イケフェス大阪とは、大阪市内の"生きた建築"を一斉に公開するイベント。2014年の初開催以降、毎年10月に開かれ、2026年の公開建物は224件、昨年は約6万7,000人が参加した。このような建築公開イベントは大阪市から派生し、現在は日本全国に広がっている


芝川ビルは、今でこそおしゃれなお店がたくさん入り、この界隈で有名なレトロビルになりましたが、僕たちが活動し始めた頃、ビルの会社の社長は自分のビルに対してあまり関心を持っていませんでした。そこからイベントの開催によって少しずつ風向きが変わり、レトロな建物にお店が入ったり、解体される建物の数も減っていったので、俺らの役割はもういいかと(笑)。一番好きなのは戦前のビルよりも1950~70年代のビルやねん、という思いが2人の中ではあったんです。



岩田さん:戦前の建物はもう大丈夫そうやから、次は戦後にしようと、芝川ビルの屋上で、50~70年代のビルの写真をスライドショーで流すイベントをやったんです。だけど、あまり反応がなかった(笑)。そこで、私がいたリノベーションの会社に入ってきた阪口を連れて行ったら、彼1人だけハマったんですよ。


阪口さん:大興奮だった!





ビルの空き室でイベントを開催。300名が集まるほど盛況

――そこからBMCはどのように生まれたのですか。


岩田さん:初めは仕事の後に3人で夜な夜な事務室に集まって、ビルの写真を見せ合い、早く何かしないと壊されちゃうよねって話していました。


阪口さん:その時、僕は不動産の仕事をしていて、50~70年代のビルがどんどん解体されていくのを目の当たりにしていました。大きなビルを建てるための敷地用地として小さなビルがごそっと抜けていく現象が起きていて、何かイベントでもして人に知らせなあかんなと3人で話していましたね。


仕事の物件集めで、いろんなオーナーさんの元へ飛び込みに行っていた中、西谷ビルという建物にたまたま空き室を見つけたんです。そのオーナーさんにお願いして、普通のオフィスビルだった2号館のワンフロアを2日間貸してくれることになりました。


ビルがかっこいいとやたら言うだけのイベントだと気持ち悪がられるから、ポップな内容にしたいなと思って。音楽とトークショーとカフェみたいな感じでイベントを開催しました。


部屋をカフェに見立てて、コーヒーを淹れてゆっくりしてもらう。スクリーンにビルの映像を流して、70年代のソウル・ミュージックの雰囲気を持つバンドに演奏してもらったり、トークショーにはゴンチチのチチ松村さんに出てもらったり。あとは髙岡さんがビル全体の館内ツアーを開催しました。このイベントは2日間で300人ほどの来場者があったんですよ!


2008年10月に行われたイベント「ビルマニアカフェ」の様子。来場者はカフェタイムやライブ演奏を楽しんだ(写真提供:BMC)


(左)西谷ビル 本館(1953[昭和28]~1965[昭和40]年竣工)(撮影:西岡潔)
(右)髙岡さんの館内ツアーも盛況だった(写真提供:BMC)


髙岡さん:チラシを作ったりはしたけど、僕らも広報力があるわけではなかったのに、なんでそんなに集まったのか分からない。


岩田さん:そう、びっくりした。SNSもまだなかったし。来場者はもちろん、ビルと同年代の家具を扱う家具屋さん、写真家さんとか、出展側もすごい人数だったよね。別にビルがずっと好きだったというわけでもないような人たちも集まってきて、主催側もお客さんもみんな盛り上がって、楽しかったです。


阪口さん:手応えがありましたね。そのイベント名が「ビルマニアカフェ」だったんです。それがそのままグループ名になりました。


髙岡さん:その後、同年代のビルの空き情報を聞きつけては、不定期でイベントを開催していました。



――イベントが出発点だったのですね。空きビルではほかにどんなイベントをしていたのですか。


髙岡さん:川沿いでビールを飲んだら気持ちが良さそうと思い、土佐堀川沿いにあるリバーサイドビルディングというビルのワンフロアを借りてビアホールをやりましたね。それも異様に人が来てくれました。また、北区天満にある鉄道広告社ビルの一室を借りて、みんなでセルフリノベーションして、そこでもいろいろなイベントをしました。


鉄道広告社ビル(1967[昭和42]年竣工)(写真提供:BMC)


岩田さん:階段室で「バー階段室」をやったり、昔のドラマに出てくるような社長室で「スナック社長室」をやってみたり。今のシェアオフィスみたいなことをやったら、面白い人がいっぱい集まってきて、週末だけ小さな雑貨店になったり、時には音楽を作る人のスタジオになったりね。ここで出会った人たちと今もつながっていて、その後のつながりの始まりになったと思うと、いいことをしたなという気持ちになります。


BMCが自らリノベーションを手がけたビルの階段室。時には雑貨を扱う「キオスク」(左)に、時には「バー階段室」(右)に変身し、人々の憩いの場となった(写真提供:BMC)


昔ながらの社長室。デスクで地球儀を回したり、社長卓球をしたりすることも(写真提供:BMC)




「月刊ビル」や書籍でビルの魅力を発信

――毎号1つのビルを特集して紹介するリトルプレス「月刊ビル」は、2010年4月に発行されてから、現在まで8号発行されています。増刷が続くほど人気だそうですね。


岩田さん:50~70年代のビルのかっこよさを伝えるための本を作ろうということで始まり、知り合いの編集者さんが面白そうと参加してくれました。販路という課題もありましたが、友達の本屋さんが売ってくれるというので、とりあえず作ってみたら、日本全国の小さな本屋さんから続々と「うちでも置きたい」と声をかけてくださって!


髙岡さん:大阪のビルのことしか掲載していないのですが、今もずっと売れ続けているんです。自費出版で、値段は200~300円です。


阪口さん:そうそう、儲ける気もないし。でも結構注文が来るんですよね。号によっては5刷、6刷までいっています。


岩田さん:この企画会議もすごく盛り上がって楽しかったよね。その間に、BMCのメンバーの一人がやっている夜長堂(よながどう)という店のお客さんが出版社の編集者で、BMCの活動に興味を持って「本を作りましょう」と言ってくれて、「いいビルの写真集 WEST」(パイ インターナショナル)を出しました。彼女が独立して、自分で大福書林という出版社を立ち上げてからも引き続き担当してくれて、これまでに書籍は5冊出しています。


(左)2010年から不定期で発行している「月刊ビル」。特別号を合わせ、通算10号が発行されている
(右)出版社から出版した書籍。「いいビルの写真集 WEST」「いい階段の写真集」(パイ インターナショナル)、「喫茶とインテリア WEST」「特薦いいビル 国立京都国際会館(別冊月刊ビル)」「特薦いいビル 千日前味園ビル(別冊月刊ビル)」(大福書林)の5冊を出版している




一番長く濃厚な時間を過ごした「味園ビル」

――活動の中で、最も印象に残っていることは何ですか。


阪口さん:2010年、味園(みその)ビルと出合ったことですね。いろんなビルを見てきた中で、一番長く濃く接していたビルです。


1955(昭和30)年竣工の総合レジャービル「味園ビル」。最上階に500人収容の大広間を擁する宴会場「味園」(右上)、アメリカのLIFE誌に日本最大と紹介されたキャバレー「ユニバース」、大浴場を備えたサウナ(右下)、地下にはダンスホールもあった。2025年7月に閉館し、約70年の歴史に幕を下ろした(撮影:西岡潔)


初めは写真を撮らせてほしいとお願いして、館内を回らせてもらい、屋上に連れて行ってもらったんです。そしたら当時の総務部長から「ここ何かに使えませんか」と言われたので、ビアガーデンと盆踊りをしたいと提案したんです。屋上に櫓(やぐら)を組んで、大阪の河内音頭で最も有名な音頭取り、河内家菊水丸(かわちや・きくすいまる)さんを呼び、夏祭り「トロピカルビルパラダイス」を開催しました。


「特薦いいビル 千日前味園ビル(別冊月刊ビル)」には、BMCとトロピカルビルパラダイスの系譜がつづられている


岩田さん:菊水丸さんは、1970年の万博がお好きなので、そのつながりの知り合いを通して出演をお願いしました。それがあまりにも楽しくて、菊水丸さんも若い人がいっぱい踊りに来てくれるのを喜ばれ、気に入っていただけて、2010年から毎年の恒例イベントになりました。翌年からは、かつて「ユニバース」というキャバレーだった場所に会場を移し、2016年まで続きました。私たちが知っているあらゆる遊び方の中で一番派手やし、めっちゃ楽しかったですね。


――ほかでは味わえない豪華な空間とスケールですよね。


髙岡さん:ネオンを背景に櫓があって、何年目からかレーザーを使った演出もするようになりました。


阪口さん:どんどん派手になってきてね。若い人たちは最初は踊れなくて、もみくちゃになっているだけなんですが、次の年から踊れるようになってくるんですよ。河内音頭は、のるとめっちゃ気持ちいい。毎年、春になると菊水丸さんから「今年はいかがしましょう」と電話がかかってくるようになり、それならばやるしかないよねと(笑)。


レーザーの演出が派手なトロピカルビルバラダイスの盆踊り。菊水丸さんの生唄で河内音頭を踊る(写真提供:BMC)


岩田さん:味園ビルは、何度行ってもまだ見たことのない部屋があり、それをどんどん見せてもらっていくうちに、ビル自体と仲良くなっていく感覚がありました。圧倒的に濃い時間を過ごしました。


阪口さん:何度も閉館するかもしれないという情報が出て、そのたびに僕らは焦らされました。もう解体されると思うって言われた2014年に、最後にどうしても出演していただきたかった細野晴臣(ほその・はるおみ)さんにお願いしたら、来てくださったんですよ。


髙岡さん:初回は僕らから声をかけたんだけど、翌年にはユニバースで自分のライブをされていたので、細野さん自身もたぶん気に入りはったんでしょうね。


岩田さん:イベントを開催するのはすごく大変なので、2017年以降はやっていなかったんです。でもほんまに味園ビルがなくなるよって言われて、2024年に最後のイベントをしました。けれど、まだもう少し残ることになり、最後の最後のイベントをしたのが去年。それから私たちは燃え尽きたというか、喪失感でいっぱいです。


阪口さん:既に解体が始まっているのですが、前を通るたびに涙が出そうになります。遊び倒させてもろて、ええ思いさせていただきました。


岩田さん:思っていたよりも10年ぐらい頑張ってくれた気はするよね。なかなかない存在で昭和の歴史が詰まった建物だったので面白かったです。


2024年8月、8年ぶりに開催された「トロピカルビルパラダイス2024 味園ラブスペシャル盆踊り」。盆踊りのほか、大道芸のショーやバンドの演奏、出張屋台などで盛り上がった(撮影:西岡潔)


2025年6月、惜しくも最後のイベントとして開催された「BMCが捧ぐ...味園爆愛ナイトwith渋さ知らズオーケストラinユニバース」。渋さ知らズオーケストラを招致し、ワンマンライブを行った(撮影:西岡潔)


※記事の情報は2026年10月6日時点のものです。


後編(10月9日公開予定)に続く

  • プロフィール画像 BMC(ビルマニアカフェ)〈インタビュー〉

    【PROFILE】

    BMC(ビルマニアカフェ)
    「1950~70年代のビルがかっこいい」という同じ思いをもって集まった5人が、各々の目線でビルの魅力を謳う活動体。著書に、選り抜きの“いいビル”を集めた「いいビルの写真集 WEST」「いい階段の写真集」(パイ インターナショナル)、「喫茶とインテリア WEST」「特薦いいビル 国立京都国際会館(別冊月刊ビル)」「特薦いいビル 千日前味園ビル(別冊月刊ビル)」(大福書林)がある。いいビルを使ったイベントの開催や、リトルプレス「月刊ビル」の不定期発行など、本業の傍ら活動中。

    BMC公式サイト https://bldg-mania.blogspot.com/

    髙岡伸一(たかおか・しんいち、写真左)
    1970年大阪府生まれ。建築家、近畿大学建築学部教授。大阪の街を建築的側面から盛り上げるさまざまな活動に関わっている。近年力を入れているのは大阪の建築を一斉に公開する「生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪(イケフェス大阪)」。BMCのビル博士担当。

    阪口大介(さかぐち・だいすけ、写真右)
    1979年大阪府生まれ。大工・電気・左官など内装工事を一人でこなす工務店 株式会社サカグチワークス代表。宅地建物取引士でもある。BMCでは主にイベントリーダーとして企画・交渉・設営を担当している。

    岩田雅希(いわた・まさき、写真中央)
    1972年大阪府生まれ。設計を担当するサカグチワークス(主にリノベーションを手掛ける工務店)でも趣味のBMCでも、総務経理広報その他担当。民泊の運営も始め、楽しんでいる。

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