アート
2021.03.03
小岩井ことりさん 声優〈インタビュー〉
小岩井ことり | 声優、時々ヘビメタ、イヤホン、ASMR
アニメ「のんのんびより」の宮内れんげ役、「アイドルマスター ミリオンライブ!シアターデイズ」の天空橋朋花(てんくうばしともか)役、「じょしらく」の波浪浮亭木胡桃(はろうきていきぐるみ)役などで知られる人気声優の小岩井ことりさん。声優のお仕事と並行してヘビーメタルユニット「DUAL ALTER WORLD」での活動、ワイヤレスイヤホン「KPro01」の監修、さらに「ASMR(エーエスエムアール)」に特化したレーベル「kotoneiro」の設立など多方面で活躍されています。その圧倒的な創造性の源はどこにあるのでしょうか。
パソコンで声の波形を見ながら声優の訓練を
――多方面でご活躍中の小岩井ことりさんですが、最初に声優になったきっかけを教えてください。
小さい頃、ポケットモンスターのピカチュウの鳴き声を聞いて、言葉じゃないのに何を言いたいかがとても伝わってくるのが、子どもながらにすごいなと思ってました。その後こういうお仕事をする「声優さん」という職業があることを知り、私も声優さんになってみたいと思ったのがきっかけです。
――声優志望の人は多いと思いますが、どうやったら声優になれるのでしょうか。
一般的には養成所や専門学校に行く人が多いと思うんですけど、私の場合は「声優の仕事をやりたいんですけど、何かないですか」って人づてにコネクションを作っていって、最終的に今の事務所に所属することになりました。
――声優になるには技術が必要だと思うのですが、それらはどうやって身に付けたのですか。
独学でした。私の場合、実家の関西から東京に出てきたのもあって、とにかく早く仕事をしたかったんですね。それでどんなお仕事でもいただけるように、おばあちゃんの声から子どもの声まで、いろんな声を出せるように訓練しました。
――いろんな声を出す訓練はどうやってやるんですか。
小さいときからパソコンと共に生きてきたので、いろんな声をパソコンで録音をして周波数帯を見て、真似してみたりとか。
――パソコンで波形を見ながら声を似せるって、すごいですね!
人によると思うんですけど、私はそれがやりやすかったです。自分の声に足りない帯域をどうやったら出せるのかとか、いろいろチャレンジしながら訓練をしました。特殊な方法だとは思いますけど(笑)。
声優は自分の体から抜け出て別の人になれるから楽しい
――声優としてのデビューは?
最初は自宅で声を録音してデータで送るようなお仕事をいただいて声優の仕事を始めましたが、テレビアニメで本格的に声優デビューをしたのは「青の祓魔師(あおのエクソシスト)」という作品でした。アフレコ※にもそこで初めて呼んでいただきました。
※アフレコとはアフター・レコーディングの略で、映画やテレビドラマなどで撮影後に俳優の台詞だけを別途録音すること。アニメの場合はすべてアフレコで音声を収録する
――最初のアフレコ体験はどうでしたか。
アフレコの現場で生まれて初めて、実際に声優さんが演技する姿を見たんですけど、本当にそのキャラクターがそこにいるみたいなんです。キャラクターとは当然年齢も性別も違うし身体的な特徴だって違うのに、声優さんがそのキャラクターに見えるんですよ。お芝居の力ってすごいなと思いました。
私はアフレコ現場も初めてだったので、最初は大変でしたね。たぶんいっぱい失敗をしているんですけど、本当にいい先輩ばかりで、優しく見守って育てていただきました。
――今、声優のお仕事は始められてからどのくらい経ちますか。
2011年からなので、今年でもう10年になります。
――今までで印象的だった役柄はどんなものですか。
どの作品も印象深いですが、「のんのんびより」という作品の宮内れんげ役は、私にとって大切な役です。今もまさに放送中なんですが、もう7年以上やらせていただいていて、これだけ長くやらせていただくお仕事はなかなかないですし、多くの方に「宮内れんげの人だ」って言ってもらえるようになって、とてもうれしいです。
――声優としてのモットーはありますか。
これも先輩から教えてもらったことなんですけど、現場に入るまでに、しっかり台本を読み込んで、ト書きに書いてある映像の意図もよく考えておくことですね。そしていざ現場に立ったら自分はそのキャラクターになりきって、その世界で見ているものにびっくりしたり、キャラクターとして自然に反応するだけ、という感じで演技をするように心がけています。
ただ、アフレコは映像に合わせて台詞を録音するすることが多く、タイミングなどは台本にメモしておかないといけないですし、「さっきとは違うテンションでやってほしい」とディレクターさんからの指示があればすぐにそれができるような技術も要求されます。いきいきとした演技と冷静な技術の両方が必要なお仕事で、とてもやりがいがあると思っています。
――声優の醍醐味はどんなところだと思いますか。
声優の楽しさって、自分の体から抜け出せることなんですよ。毎日いろいろな世界で、違う人になれるので、それがものすごく楽しいです。もう10年も声優をやっているっていう感覚はなくて、毎日楽しいことをしていたら年月が過ぎていた、という感覚です。
仕事だから楽しいことばかりじゃないのではと思われるかもしれませんが、私にとって声優のお仕事はストレスになるどころか、ストレス発散になっていて、このコロナ禍でアフレコのお仕事がしばらく中止になったときは、お芝居をやらないとストレスがたまるなって思いました。
ヘビーメタル「DUAL ALTER WORLD」でデスボイスにも挑戦!
――ところでヘビーメタルユニット「DUAL ALTER WORLD(DAW)」でもご活躍中ですが、DUAL ALTER WORLDはどんな経緯で結成されたのですか。
もともと私、ヘビメタが好きなんです。学生時代に吹奏楽部でユーフォニアムを吹いていたので、ホルンやオーボエなどが入っている曲が好きなんですけど、そういう曲って普通あんまりないんですよね。これは私も知らなかったんですけど、ヘビーメタルの世界にシンフォニックメタルというジャンルがあって、本格的にオーケストラを従えてる曲もあるんですよ。メタルが好きなエンジニアさんが教えてくれて、それがきっかけでメタルの曲を聴くようになりました。
DAWは私がいろんなところで「メタルが好き」ってお話ししていたら、それをBLOOD STAIN CHILD※というバンドのギタリストのRYUさんが見つけてくれて、いっしょにやりませんかと声をかけてくださいました。
※BLOOD STAIN CHILD
日本のヘビーメタルバンド。2002年にデビュー。同年に韓国でもデビュー。2006年にドイツのレーベルDocktard1と契約し、ヨーロッパデビューを飾り、2007年にはアメリカのレーベルLocomotiveと契約し、全米デビューも果たした。
――DAWは2019年に1stアルバム「ALTER EGO」を、そして2020年には2ndアルバム「WORLD DISTONATION」をリリースしています。実際にヘビーメタルをやってみて面白かったですか。
面白かったです。最初、私、メタル特有の歌い方である「デスボイス」って、自分では出せないと思っていたんです。それで最初にお声掛けをいただいたときに、「声優として喉を壊しちゃいけないので、多分デスボイスはできないと思います」という話をRYUさんにしていました。ところがあるときお風呂で試しにデスボイスをやってみたら、意外といけたんですよ。それでその声を録音してRYUさんに送ってみたら、いけるじゃんって。それでデスボイスも自分で歌ってます。
DUAL ALTER WORLD
1st album
ALTER EGO
DUAL ALTER WORLD
2nd album
WORLD DISTONATION
――デスボイスってどうやって出すんですか。
最初はデスボイスって喉を閉めて出すものだって勘違いしていたんですよ。だから喉に悪いと思ったんですが、実は逆で、あくびするみたいな感じで喉をものすごく開いて、そのままもっともっと解放したところで、ものすごい量の息を送り込むと、ゴロゴロゴロって音が鳴ってデスボイスみたいな声が出るんです。
――DAWのアルバムの聴きどころを教えてください。
ヘビメタって言うとほとんどの方には縁遠いものに感じられるかもしれませんが、DAWのアルバムって1枚目にも2枚目にも曲間にドラマパートが入っているんです。そのドラマパートと曲によってアルバムの世界観が味わえるので、ヘビメタになじみのない方でもお楽しみいただけると思います。しかも2枚目には私だけじゃなくほかの声優さんも入ってくれていて、より豪華なドラマパートが楽しめます。もちろん音楽的にはRYUさんが全面的に作ってますから、コアなメタルファンの方も満足できる仕上がりとなっています。
製品開発から関わった完全監修ワイヤレスイヤホン「KPro01」が大ヒット
――小岩井さんはオーディオ、特にヘッドホンの業界でも有名ですが、ヘッドホンに興味を持ったのはどうしてですか。
もともとパソコンやガジェットが好きで、よくお店でイヤホンの試聴もしていたんです。ただヘッドホンやイヤホンってすごく高いものがあって、それってきっと音はそんなに変わらないんじゃないかって思っていたんです。そんな中、あるときAKGのK3003という10万円ぐらいのイヤホンを試聴する機会があって、聴いてみたらビックリしたんですよ。解像度がすごく高かったんです。ああ、高いイヤホンって本当に音が違うんだなって思って、それから本格的にヘッドホン、イヤホンに興味を持ち始めました。それから集め始めて、ヘッドホンやイヤホンは今、100台ぐらいあると思います。
――ヘッドホンを装着した写真集も出されていますね。
はい。自分が持っているヘッドホンやイヤホンを使いました。この写真集については、コンセプトから撮影場所の手配、そして撮影までもすべてをセルフプロデュースしました。ぜひご覧いただきたいと思います。
小岩井ことり1st写真集 「イヤホン・ヘッドフォンことり図鑑」
――小岩井さんは、「KPro01」というワイヤレスイヤホンを監修されていますね。KPro01はクラウドファンディングで資金を調達し、目標額300万円のところ約1億6000万円も集まったことで話題を呼びました。これはどんな経緯だったのですか。
イヤホンやヘッドホンのコラボ企画はよくご提案いただくのですが、ほとんどが現行モデルの色違いバージョンなどですし、価格も私がコラボすることで割高になるというイメージがあるので、基本的にお断りしてるんです。ところがオウルテックというメーカーのご担当者が、「どんな企画ならやっていただけますか」とおっしゃったので、「新しいものを開発したい」と言って開発から関わることになりました。
小岩井ことりプロジェクト Bluetooth True wireless イヤホン KPro01 OWL-KPRO01シリーズ
――KPro1はどんな点が新しいのですか。
ワイヤレスイヤホンが好きなんですが、いわゆる音ゲー、リズムゲームのときにワイヤレスを使うと映像に対して音が遅延するんですけど、それが嫌なんです。なんとかならないかなと思って調べたんですけど、ワイヤレスイヤホンの遅延は技術的にどうしようもないようだったので、じゃあ音ゲーのときだけ有線にできるワイヤレスイヤホンがあればいいのにと思って探したところ、ほとんどなかったんです。それでこの機会に提案しました。
そうしたらご担当の方も実は割と近いことを考えて提案したんだけど「売れない」って言われて断念していたそうなんです。それなら小ロットでも作れるようにクラウドファンディングでやりませんか、ということになりました。
――イヤホンやヘッドホンに関連する仕事を積極的にされるのは、いい音を多くの人に楽しんでほしいという思いからですか。
はい。人生の残り時間って誰でも限られているので、音楽はなるべくいい音で楽しんだ方がお得だと思うんですよ。音の解像度が上がると聴こえてくる情報量が違ってきます。これって眼鏡と近いと思うんですね。例えば好きなアーティストの歌を聴いても、こんな歌い方をしていたんだとか、実はバックにこんな楽器が鳴っていたんだとか、いろんな発見があるはずです。
もちろん私にもお金がなくてなかなか高価なものが買えない時期はあったので、経済的に許せる範囲でいいと思いますが、長く使えるものですし、ちょっと背伸びして音の良いヘッドホンやイヤホンを買うのは悪くない考えだと思います。
ASMR専門レーベル「kotoneiro」を立ち上げた理由
――最後にASMR※のレーベルを立ち上げたお話もお聞かせください。これはどんな思いで作られたのでしょうか。
もともと私自身がASMRを聴いていました。私、実は寝つきが悪いタイプでなかなか眠れないことが多いのですが、耳元で聴こえるASMRといわれる音が好きで、それを聴くとリラックスできるし、寝付きがいいんです。それで自分でもASMRを作りたいと思って2020年10月に「kotoneiro」というASMR専門レーベルを立ち上げました。
ASMR専門レーベル「kotoneiro」
※ASMR
さまざまな音を聴いて気持ちよさを感じる「ASMR(Autonomous Sensory Meridian Response)」。直訳すると自律感覚絶頂反応という意味となる。「それを聴くと頭や背筋などがゾクゾクッとする心地よい音」のこと。YouTubeなどにASMRの動画が多数アップされている。
――ASMRってどんな音があるのですか。
聴いているとリラックスできたり、心がぞわぞわする音ならなんでもASMRになります。例えば心音ってすごいですよ。kotoneiroでは心臓の音をひたすら7時間流れる「耳もとハートビート」というシリーズがあります。これは私と、声優の斉藤佑圭さんの心臓音のものがあります。編集していても眠くなるぐらいリラックスできるんですよ。胎内に帰ったような経験ができるので、ぜひ寝るときに聴いてほしくて作りました。
――kotoneiroには、ほかにどんなものがあるのですか。
いろいろな役者さん、声優さんたちがお芝居をするものがあります。最新作は声優の山崎はるかちゃんがヘアメイクで、聴き手の自分が「アイドル」の設定です。自分がアイドルになっていて、これからライブでヘアメイクをしてもらう、という体験が味わえつつ癒される作品です。
ほかにもペットトリマーのものとか、家庭教師のものとかもあって、それぞれいつもの自分とは違う自分が体験できます。こういう体験って私が声優の仕事のときに、自分が体から離れて別の人間になって楽しんでいることと同じ体験だと思うんです。この楽しさをお裾分けして、ぜひみなさんにも経験してもらいたいと思っています。
声優は天職。夢はずっと声優を続けること
――ほかにも小岩井さんはMIDI検定1級を取得されているそうですね。
はい。音楽制作でシンセサイザーやMIDI機器などを使っているので、検定を受けてみました。最初に2級を、そのあと1級も取得しました。たまたまトップ合格だったようで、電子系の検定で女子でトップってちょっと珍しいじゃないですか。それで音楽制作の媒体でいろいろ取材していただき、そこからもご縁が広がっています。
――またIQが全人口の上位2%以上でないと入会できないMENSA(メンサ)にも合格されてますよね。
はい。なんか面白そうだから受けてみました。ただ、性質上試験内容などについては規約で口外できないんです。
――ちょっと信じられないぐらい多彩なフィールドで活動されている小岩井ことりさんですが、その創造性の源はどんなところにあるのでしょうか。
最近はいろいろな活動をされる声優さんも多いですよね。でも私の場合はどの活動も声優の延長線上、あるいは趣味の延長線上で、別の物をやっているという意識はないんですよ。私の本職は声優ですし、それ以外になることは絶対にないので、声優としてのお芝居の幅を広げられる機会をいただいていると思っていろいろ挑戦しています。
――今後やってみたいことや、夢などはありますか。
夢も、声優を続けていくことなんですよね。声優は私にとって天職で、自分の得意なことが生かせてると思います。今は声優さんになりたい人がすごく多いので、声優を続けるのってなかなか難しいのですが、趣味の世界に足を伸ばしつつ、声優のお仕事をずっと続けていきたいと思います。
――ありがとうございました。声優さんとして、また多彩な分野で活躍する才人としても、今後の活動を期待しています。
※記事の情報は2021年3月3日時点のものです。
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【PROFILE】
小岩井ことり
声優、作詞家、作曲家。京都府出身。MIDI検定1級所持。2011年よりプロの声優として活動しており、アニメ、ラジオ、ゲームなど幅広くこなす。京都弁、大阪弁、広島弁を自在に操り、趣味・特技は釣り、作詞作曲。出演した作品は、「アイカツ!」(大地のの役)、「チェインクロニクル〜ヘクセイタスの閃〜」(ユリアナ役)、「七つの大罪」(エレイン役)などがある。自他共に認めるオーディオマニアでもある。全人口の2%のみが入ることのできる高IQ団体であるMENSAの会員。
公式サイト:http://pg-wcf.co.jp/profile/04/
twitter:https://twitter.com/koiwai_kotori
Youtube:https://www.youtube.com/channel/UClDfVHJxrsGTq61MJp55s3Q
DUAL ALTER WORLD:https://highwaystar.co.jp/dualalterworld/
kotoneiro:https://www.kotoneiro.com/
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