BJ Fox|スタンダップコメディをやっていると世界の見方が変わってくる

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BJ Fox スタンダップコメディアン〈インタビュー〉

BJ Fox|スタンダップコメディをやっていると世界の見方が変わってくる

最近、日本でもじわじわと人気が高まっているスタンダップコメディ*。イギリス出身のBJ Fox(ビージェー・フォックス)さんは、その人気の立役者のひとりです。東京・渋谷にスタンダップコメディを楽しめるクラブ「Tokyo Comedy Bar(トーキョー・コメディ・バー)」をつくり、日本語と英語で笑いを生み出しています。「日本でスタンダップコメディ文化を広めたい」と話すBJさんに、スタンダップコメディを始めたきっかけやその魅力についてうかがいました。

* スタンダップコメディ:コメディアンが1人でステージに立って、お客さんと対話しながらマイク1本で笑いをとるコメディショー


写真:山口 大輝

"これくらい自分でもできる"で始めたスタンダップコメディ

──いつ頃からスタンダップコメディを始めたのですか。


初めてステージに立ったのは2013年、場所はシンガポールです。2010年から5年間、ゲーム会社の仕事で駐在していた時に、たまたま知り合いがオープンマイク(誰でも参加できる形式)でスタンダップコメディをやっていたのですが、あまり面白くなくて(笑)。これくらいだったら自分でもできるだろうと思ったのが、始めたきっかけです。


初めのうちはスベることがほとんどでしたが、やっているうちにどんどん笑いを取れるようになって、シンガポールにいる間は週に1~2回、コメディショーに出て、シンガポールのトップステージにも立たせてもらいました。


──いきなりステージに立つのは、なかなかハードルが高いのではないかと思いますが、コメディはお好きだったのですか。


もともとアメコミ(アメリカン・コミックス)みたいなSFコメディのライターになりたくて、学生時代から創作活動をしていました。イギリスの有名なアメコミ雑誌のオープン枠で連載を書かせてもらったりして。


仕事と並行して本も作っていたのですが、本の場合は企画から出版まで1年くらい時間がかかってしまうんです。クリエイティブのアウトプット先として、スタンダップコメディはちょうどいいなと思いました。


今でもゲーム関連の仕事をしながら、スタンダップコメディアンとして活動している今でもゲーム関連の仕事をしながら、スタンダップコメディアンとして活動している


──その後、どういうきっかけで日本に来ることになったのでしょうか。


勤めていたゲーム会社が日本オフィスを立ち上げることになり、2015年に来日しました。大学時代に日本に留学経験があり、大学卒業後もワーキング・ホリデーで2年間、日本で働いていたので、日本に来ることに迷いはありませんでした。ワーホリは静岡だったので、東京に住んでみたかったというのもあります。




日本でスタンダップコメディ文化を広めたい

──東京でも、すぐにスタンダップコメディを始めたのですか。


本格的にコメディをやりたいという気持ちが強くなっていたので、来日してすぐ、東京でもスタンダップコメディを始めました。最初は月に1回くらいコメディショーに応募していたのですが、それでは十分ではなかったので、自分でも企画するようになりました。


──仕事をしながら、素晴らしい行動力ですね! 東京でスタンダップコメディをするのに、苦労はありませんでしたか。


東京でのスタンダップコメディは、集客が難しいですね。お客さんを呼ぶのは、今でも苦労しています。例えばイギリスでは、金曜の夜はクラブでコメディショーを見るという文化がありますが、日本には定期的にコメディを見に行くという習慣がないので、もっとスタンダップコメディ文化を広げていきたいです。


金曜日の夜にクラブへ行く文化のあるイギリスでは、スタンダップコメディが身近だという金曜日の夜にクラブへ行く文化のあるイギリスでは、スタンダップコメディが身近だという


──2022年、東京・渋谷に東京初のスタンダップコメディクラブ「Tokyo Comedy Bar」をオープンしました。スタンダップコメディ文化の発信地になっていますが、このような場所をつくることは当初から思い描いていたことなのでしょうか。


2019年から週に3~4回、グループでスタンダップコメディをやってきましたが、コロナ禍を受けて自分たちのスペースがほしいなと思い、「Tokyo Comedy Bar」をつくりました。それまでは、月曜日は池袋、水曜日は下北沢、土曜日は六本木と毎日、場所を変えてやっていましたが、それでは効率が悪いので。


僕は「Thinking Big」(大きく考える)という言葉が大好き。どうせやるなら大きいことをやった方がやりやすいと思っているので、渋谷の駅前に自分たちのスペースを持つことにしました。


──「Tokyo Comedy Bar」は、どんなお客さんが多いですか。


メインは、日本に旅行に来ている外国人観光客です。東京には英語のエンターテインメントがないので、特に夜、何をしたらいいか分からないという外国人って多いんです。ただ飲むためのバーではなくて、飲みながら楽しめるバーをつくりたいと思いました。「Tokyo Comedy Bar」では、8種類のクラフトビールを飲むことができます。


最近は日本人のお客さんも増えてきて、スーツ姿のサラリーマンや、海外で暮らしたことのある30~40代の女性が多いですね。


「TOKYO COMEDY BAR」の壁には、BJさんのほかにもいろいろなコメディアンのライブポスターが貼られている「Tokyo Comedy Bar」の壁には、BJさんのほかにもいろいろなコメディアンのライブポスターが貼られている


──英語でのコメディの方が多いのですね。


基本は英語です。日本での生活で発見した面白いネタを軸に、コメディをしています。ただ、日本に来ている外国人は、日本に関して共通の知識がものすごくあるわけではないし、英語のレベルもさまざまなので、どれくらいの言語レベルに合わせるかは難しいですね。


──日本語でのコメディは、どれくらいの頻度でやっているのですか。


もともとは月に1回程度でしたが、昨年、SNSで2つのネタがバズって以来、日本人のお客さんが増えたので、今は週に2回やっています。


バズったのは、日本人の名字のネタと大学のネタ。名字のネタは、僕が脚本と主演を務めたNHKのドラマ「Home Sweet Tokyo」の台本でボツになったものがもとになっています。大学の話は、自分では雑談としか思っていなかったのですが、スタッフが動画を編集してInstagramにアップしたらバズりました。


▼腹立つ日本人の名字【スタンダップコメディ/BJ Fox】


▼有名大学【スタンダップコメディ/BJ Fox】


僕のコメディは、よく政治的だとか批判的だとか言われることがあるけれど、日本人を責めているわけではないんです。イギリス流のブラックユーモアで、日本人の共感を引き出したいと思っています。




台本は作らないし、練習もしない。面白いかどうかを決めるのはお客さん

──ネタを思いつくのはどんな時が多いですか。


僕は台本を作らないし、特別にネタ作りを意識することもありません。スタンダップコメディをやっていると、自然と世界の見方が変わってくるんです。細かいところまで目がいくようになる。


コメディでは、例えば「昨日コンビニに行った」ではなく「昨日ナチュラルローソンに行った」とか、どんどん特定していくんですよね。なんとなく話すのではなく、詳しく伝えて面白さを引き出していくので、自ずと日常生活でもそんなふうに世界を見るようになります。


──コメディの練習はしますか。


基本的に練習はしません。面白いかどうかを決めるのはお客さんなので。実際にステージでネタを披露して、お客さんの反応を見ながらブラッシュアップしていきます。ステージ自体が練習となります。


ビジネスもそうですよね。最初からがっちり決めてしまうのではなくて、簡単なLP(ランディングページ)を作って、どれくらいニーズがありそうかを確認してから、スケールアップしていく方がスムーズに進みます。


──イギリスやアメリカなどの本場では、一人前のスタンダップコメディアンになって笑いをとるには10年かかるといわれているそうですが、BJさんの体感としてはいかがでしょうか。


僕は2013年にスタンダップコメディを始めて10年以上経ちますが、まだまだ自分のスタイルをつくっているところなので、10年かかるというのはそうなのかもしれません。最初の1年間は好きなコメディアンのスタイルをまねるところから始めて、少しずつ自分のスタイルを出せるようになってきました。


いつもわくわくしていたいし、もっと成長したい。新しいことをするのが大好きなので、毎日でもステージに立ちたいと思っています。実際はほかの仕事もあるし、週末は家族サービスしなくてはいけないので、毎日は立てませんが(笑)。


好きなコメディアンを聞くと「イギリスのジェイムズ・エイカスター」との答えが返ってきた好きなコメディアンを聞くと「イギリスのジェイムズ・エイカスター」との答えが返ってきた




スタンダップコメディはビジネスパーソンにぴったり

──現在もゲーム関連会社の仕事をしながら、スタンダップコメディの活動を続けていらっしゃいますが、BJさんにとってスタンダップコメディはどんな存在ですか。


僕は、スタンダップコメディと出会ってほんとうに良かった。コメディでコミュニケーションスキルを磨いたから、日本で奥さんと出会って、デートをして結婚することができました(笑)。


なので、スタンダップコメディの良さをもっと伝えていきたい。見て楽しむだけでなく、ステージに立って自分でやってみるのもおすすめです。プレゼンテーションスキルや話術が学べるので、ビジネスパーソンにはぴったりなんじゃないかな。特にスタートアップの人とは相性がいい。交渉力が上がると思います!


プライベートでは二児のパパ。「週末は家族サービスが忙しくて」と良きパパの顔をのぞかせるプライベートでは二児のパパ。「週末は家族サービスが忙しくて」と良きパパの顔をのぞかせる


──たしかに、BJさんのようなコミュニケーションスキルがあれば、仕事でも役立ちそうです。


実はスタンダップコメディのメソッドを用いて、企業向けの出張研修も行っています。僕は教えるのも好きなんです。研修してほしいという企業からのアプローチも多いのですが、人手が足りず、応えられていないのが現状です......。


「Tokyo Comedy Bar」でいろいろ新しいこともやっていきたいので、人材育成には力を入れていきたいと思っています。プロのコメディアンになるのに10年はかかるので(笑)、新しい人をどんどん育てていかなくてはいけません。


──新しいことが大好きというお話がありましたが、何か新しいことに挑戦する予定はありますか。


4月に過去最大の単独コメディショー「僕のスタンダップコメディ論」を開催します。これまでは長くても20分でしたが、今回は50分。正直、緊張しています(笑)。


普段は台本を作らないし練習もしませんが、今回初めて、ちゃんと起承転結を入れた台本を書いて、練習しています。祝日の前日なので、ぜひ友人を誘って見に来てください!


プライベートでは二児のパパ。「週末は家族サービスが忙しくて」と良きパパの顔をのぞかせる
BJ Fox単独コメディスペシャル「僕のスタンダップコメディ論」


──スタンダップコメディアンのほかにも、脚本家や俳優、外資系企業で使える英語術を伝授してくれる人気ポッドキャスト「裏技英語」のホストなどマルチに活躍されています。今後、やってみたいことはありますか。


またコメディドラマを作りたいですね。「Home Sweet Tokyo」は、僕がMCをしていたイベントを、たまたまNHKのプロデューサーが見に来ていたことから、企画が始まりました。


僕が主演もすることは最初から決まっていたのではなく、オーディションを受けました。当時、オーディションに来ていたほとんどの人が厚切りジェイソンのまねをしていた中、僕はまねではなくオリジナリティーを出せたから選んでもらえたのだと思います(笑)。


日本語検定1級を取得していて流暢に日本語を扱うが、「PCで日本語を入力するときに半角と全角があるのはやめてほしい」という日本語検定1級を取得していて流暢に日本語を扱うが、「PCで日本語を入力するときに半角と全角があるのはやめてほしい」という


──偶然の出会いからドラマを作ることができたなんて、幸運の持ち主ですね!


そうですね、ラッキーでした。でも、luck(幸運)をつかむためには、準備が必要です。僕は常に新しいことを考え、創作活動をしてきました。


「Luck is what happens when preparation meets opportunity」という僕の好きな言葉があるのですが、古代ローマ時代の哲学者の言葉で、「幸運とは準備と好機が出会う時に生まれる」という意味です。


誰しも人生に2回くらいは好機がやってくると思いますが、夢を実現するには準備しておかなくてはいけません。やりたい仕事があるビジネスパーソンは、LinkedIn(ビジネス特化型SNS)に登録して、定期的に面接を受けましょう!(笑)


──「Tokyo Comedy Bar」に日本語スタンダップコメディを見に行くと、客席は満席。リピーターという方もちらほらいて、スタンダップコメディが根を張りつつあるのを感じました。インタビュー中も「楽しませよう」というBJさんのサービス精神が伝わってきて、笑いの絶えない取材となりました。ありがとうございました!


※記事の情報は2025年4月22日時点のものです。

  • プロフィール画像 BJ Fox スタンダップコメディアン〈インタビュー〉

    【PROFILE】

    BJ Fox(ビージェー・フォックス)
    スタンダップコメディアン
    東京を拠点とするイギリス人コメディアンであり、東京初にして唯一のスタンダップコメディクラブ「Tokyo Comedy Bar」の創設者。バイリンガルのコメディアン、俳優、脚本家として、日本にスタンダップコメディを紹介し、広めるうえで重要な役割を果たしてきた。ブラックユーモア満載のイギリス流コメディで、英語と日本語の両方で観客を魅了。
    NHK World初のオリジナルシットコム「Home Sweet Tokyo」では、脚本と主演を務め、2017年の放送開始以来、国内外で高い評価を受け、複数のシーズンが制作された。また、コメディアンの石井てる美と共に、人気英語学習ポッドキャスト「裏技英語」の共同ホストを務めている。

    Tokyo Comedy Bar  https://www.tokyocomedybar.com/ja

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