高岡早紀 | ゴールが見えないから、面白い

SEP 15, 2021

高岡早紀さん 女優・歌手〈インタビュー〉 高岡早紀 | ゴールが見えないから、面白い

SEP 15, 2021

高岡早紀さん 女優・歌手〈インタビュー〉 高岡早紀 | ゴールが見えないから、面白い 来年でデビュー35周年を迎える高岡早紀さん。ドラマに続き映画「リカ〜自称28歳の純愛モンスター〜」でも主演を務め、現在放送中のNHK連続テレビ小説「おかえりモネ」にも出演、また初のエッセイ本「魔性ですか?」、ニューシングル「私の彼氏は200歳」の発売など、まさに八面六臂の活躍ぶりです。そんな高岡早紀さんに、その創造性の源泉はどこにあるのかインタビューしました。

「演技」を通じて、自分が知らない自分が見える

――高岡さんは、今年は映画の主演、そしてNHK連続テレビ小説「おかえりモネ」にもご出演中と、多忙な日々を送られていますが、女優というお仕事にはどんな魅力があるのでしょうか。


常に変化をしていかざるを得ないところでしょうか。2度と同じ演技をすることはありませんし、演じる現場も一期一会で、常に「現在ただ今」しかありません。そこで新しいものを創造するのは楽しいです。毎日が同じルーティンの繰り返しになりがちですが、「演じる」ということで、常に変化を遂げていくことができています。


もう30年以上この世界にいますが、魅力的な仕事ではあるけれど、演じることの底が見えないんです。底なのか天井なのかも分からない。ここかな、と思っても、常にその先に新しいものがある。そのゴールが見えない面白さというのがあるんだと思います。だからなんだか分からないけど続けちゃってますね(笑)。




――演じる役柄は、職業も年齢も違いますよね。俳優とは「違う人になる」仕事なのでしょうか。


そうですね。実際には絶対なれないような職業をやったり、想像もつかないような人物になったり。また子どもを虐待するような役もありました。それを演じることで感じた痛みを、親としても子としても考えさせられましたし、自分では得られないような幸せを得るような役であれば、そういうときに人はどう感じるのかな、と考えてみたり。私自身のリアルな人生では得られなかったいろいろな体験を、役を通して考えたり感じたりしてきました。


――演じる仕事は、楽しいですか。


自分が知り得なかった自分をたくさん見ることができていますし、それこそ経験できないようなことをたくさん経験させてもらってきました。そして今まで演じてきたいろいろな役を通して、感じたこと、体験したことが、私自身の人生を豊かなものにしてくれていると思っています。


ただ、それは本当の私の人生ではないので、個人としては責任を取らなくてもいいんですよね(笑)。それがいい意味で、現実逃避になるんです。役のせいにできる。それが楽な部分でもあり、楽しみでもあります。もちろん女優としての責任は取っていますけど。




――来年でデビュー35周年ですが、この仕事を長く続けられた理由はなんでしょうか。


ずっと表に出続けている仕事ですし、大勢の人が常に周りにいる状況なので、ストレスフルで大変な仕事だとは思います。でも、私は意外とバランスが取れるタイプなんです。神経質だったり、真面目に抱え込み過ぎると、いっぱいいっぱいになっちゃうと思うんです。私はちょうどいい感じ、いわゆる「いい加減」にできる部分があるんです。もちろん真面目に、真摯に仕事に取り組むという姿勢は根底にありつつ、どうでもいいところは放っておけるバランス感覚があるんです。でも結局は、この仕事が好きなんだろうな。たぶん自分に合ってるんだと思います。




家でのんびりしているのは、性に合わない


――音楽のお話をうかがいます。女優として最前線で仕事をされている中、今年9月には「私の彼氏は200歳」をリリースするなど、音楽活動も活発です。そのモチベーションはどこにあるのですか。


私、もともとは歌手デビューが最初だったんです。でもあるとき、女優の仕事を極めてみたいと思うことがあって、しばらく歌手活動を休止しました。どうしても歌が歌いたくなくなったわけではないですが、周りに音楽活動の再開を勧めてくれる方がいたので、需要があるんだったら、やろうかなと思って始めました。


――女優業だけでもご多忙なのに、その分忙しくなるのではないですか。


時間については、自分でうまく采配しようと思えばできますから。例えば休日、家にいても、大してやることない。もちろん子どもの世話や、家事もしますけど、朝子どもを学校に送り出してから7、8時間以上、何もすることがないわけです。家の掃除を5時間も6時間もするわけではないし。ああ、暇だなあ、早く子どもが帰ってこないかなって思うんですよ(笑)。そんなふうにだらだらと暇な時間を過ごすぐらいだったら。お仕事をしたほうがいいなって。




――最近出版されたエッセイ集「魔性ですか?」を拝読して、「家でグダグダしてソファーに寝転がるということは、私はしません」と書いてあって驚きました。


まずしないですね。たまにはソファーで気持ちいいなと思いながら寝てしまうことも、ごくまれにありますよ。でも後で、ああ、無駄な時間を過ごしちゃったって本当に思います。


――何かしてないと落ち着かないというか、動くこと自体が活力になるタイプなんですね。


昔はもっと忙しかったし、仕事を休んでいるときは子育てをしたりしていたので、とにかくダラダラしていることが性に合わないんです。



◆書籍情報
初エッセイ集「魔性ですか?」
2021年5月20日発売
Amazon他、書店で発売中です。
出版社:KADOKAWA




「ジャズは絶対に歌った方がいいよ」、と山下洋輔さんに言われた

――音楽の話に戻りますが、音楽との出合いは?


父親がジャズのライブハウスをやっていたこともあり、家ではジャズのレコードがずっと流れているような環境でした。私が6歳のとき父親が亡くなって、それからは叔父と母親がライブハウスを引き継いだのですが、時々私も無理やりついて行って、眠い目をこすりながらカウンターに座って生演奏を聴いていました。そのように常に音楽が周りにある環境でした。




――ジャズピアニストの山下洋輔さんとよく共演されていますね。


洋輔さんは、父と母の高校時代からの友人なんです。父は早くに亡くなってしまったんですが、それでもずっと私たちと付き合ってくださっていて、私によく「早紀ちゃん、ジャズは絶対歌った方がいいよ」と言ってくださっていました。そして8年前、私が音楽を再開することになったとき、洋輔さんにピアノをお願いしたら、快く引き受けてくださいました。


SINGS-Bedtime Stories
高岡早紀


高岡早紀 feat. 山下洋輔 (P)/アゲイン (Again) [Live at JZ Brat, 2014 Dec 5]



――山下洋輔さんといえば、ジャズピアノの超大御所ですよね。


超大御所なんですけど、私からすると本当におじちゃんという存在です。洋輔さんも、それこそ私のために弾いてくれていて、私がどうやろうが、何があっても絶対的に守ってくれますし、本当に安心感しかありません。12月15日には山下洋輔さんを迎えたスペシャルライブを開催する予定ですので、ぜひ楽しみにしていてください。


2021年12月15日(水)COTTON CLUB
高岡早紀 featuring 山下洋輔 Special Live 2021
http://www.cottonclubjapan.co.jp/jp/sp/artists/saki-takaoka/



――歌手でライブをするときと、女優をしているときではずいぶん違いますか。


私は舞台のお仕事もしますので、お客様のすぐそばで演技をするということはあります。ですからライブとは似ていますが、私自身のライブであればお客様と「楽しかった?」と会話したり、レスポンスが楽しめます。そのあたりはお芝居とは違って、今までやれてこられなかった楽しさをライブで味わっています。




――ライブとお芝居では、どっちが怖いですか。


舞台ですね。舞台は一人で作っているわけではないので。共演者がいて、自分がミスすればみなさんに多大な迷惑をおかけするわけですからプレッシャーはすごく大きいです。その点ライブは単独でやっています。自分のミスは自分一人で責任を背負ってリカバリーしていけばいいわけなので、プレッシャーが全然違います。それに私がミスをしても、洋輔さんや優秀なミュージシャンのみなさんがフォローしてくれるので安心です。




「私の彼氏は200歳」の歌詞の世界を女優だからできる表現で

――9月10日にはアナログ7インチシングルで新曲「私の彼氏は200歳」が発売されます。これは数多くのヒット曲を手掛けたプロデューサー/キーボードプレーヤーの佐藤博さん*の曲ですが、なぜこの曲を選んだのですか。


曲はいつもプロデューサーが探してきてくれるんです。今回も「こんな面白い曲があったよ」と持ってきてくれて、タイトルを聞いたら「私の彼氏は200歳」。これはもう面白い!って。だって意味分からないじゃないですか(笑)。その意味の分からなさ加減とか、語呂の面白さに乗りました。アレンジも今の私に合うようなアレンジにしてもらっています。


*佐藤博:1976年デビュー。「Time」「ORIENT」と次々とソロ作品を発表するほか、細野晴臣、吉田美奈子、大瀧詠一、山下達郎等のアルバムにキーボード、作曲、アレンジで参加。1979年に渡米。LAを拠点にエイモス・ギャレット、スペンサー・デイビス、マリア・マルダーらと活動し高い評価を得た。1982年に帰国後もDREAMS COME TRUEの音楽監督、青山テルマのプロデュースなどで活躍。2012年没。


Artist:高岡早紀
Title:私の彼氏は200歳



――「私の彼氏は200歳」は実際に歌ってみてどんな印象でしたか。


とても私が好きなタイプというか、歌詞で表現ができる曲だと思いました。詞に深い意味が込められた曲ですから、女優だからこその表現ができたと思います。


――7インチのアナログ盤のみでのリリースですが、アナログレコードに思い入れがあるのですか。


私、もともとデビューがアナログのシングルレコードで、何枚も出していますから。それに、レコードは私にとっては珍しくもなんともなくて、CDよりレコードの方が親しみ深いです。今はレコードプレーヤーがないご家庭が多いそうですけど、私の家からレコードプレーヤーがなくなったことは一度もないです。


――今でもたまにアナログレコードを聴くことはあるんですか。


もちろん聴きます。実は今、CDプレーヤーは処分してしまったので持ってないんですよ。


――日頃、音楽はアナログ盤で聴くんですね。よく聴くものとかあるんですか。


とにかく家には、父親の持っていたレコードが腐るほどあるんです(笑)。一番多いのはジャズですけれど、ジャズに限らず、いろいろなレコードがあって、とりあえず端っこから聴いてみようと思って手当たり次第に聴いて、好きなものはピックアップしておく、みたいなことをやっています。




――今後音楽で何かやってみたいことはありますか。


コラボとかは全然したくないです! そういう答えを望んでいるのかなと思って言ってみただけなんですけどね(笑)。音楽に関しては無理やり感があることはしたくないんです。なるべくして、自然の流れでここに行き着いたので、その流れを急に変えるようなことはしたくないと思います。川って、支流に入って細くなったり、また太くなったりもしますよね。今後もそういう風な流れがいいなぁと思っています。川から海に流れ出て、いつか海外でやるかもしれないですね。次はどこに行くか分からないという、そういう旅路が一番楽しみです。


※記事の情報は2021年9月15日時点のものです。

  • プロフィール画像 高岡早紀さん 女優・歌手〈インタビュー〉

    【PROFILE】

    高岡早紀(たかおか・さき)
    神奈川県藤沢市生まれ。7歳よりクラシック・バレエを開始。モデル活動を経て14歳のとき、「第3回シンデレラ・コンテスト」で4600人の中から優勝し芸能界入りする。1988年4月、デビュー曲「真夜中のサブリナ」をリリース。89年、ファースト・アルバム「サブリナ」リリース。青山スパイラルホールで初コンサート「GOOD NEWS」を開催しシンガーとしての才能を開花させた。90年、みずみずしい演技が評判を呼んだ映画「バタアシ金魚」に主演。宮本亜門の演出「マランドロ」など舞台にも意欲的に取り組み、女優としての評価を確立する一方、音楽活動では、傑作アルバム「S'Wonderful!」(91年)を発表しながら、その後は女優活動に専念。94年「忠臣蔵外伝 四谷怪談」でブルーリボン賞主演女優賞、日本アカデミー賞最優秀主演女優賞などを受賞。2013年4月、デビュー25周年のメモリアル・イヤーに、主演映画「モンスター」のエンディング曲「君待てども ~I'm waiting for you~」を22年ぶりにリリース。ジャズピアニスト、山下洋輔との共演で艶っぽい歌声を披露し話題を呼んだ。14年10月に約23年ぶりとなるニューアルバム「SINGS-Bedtime Stories-」を発売し、歌手活動を再開。17年8月にボサノバアルバム「SINGS-Daydream bossa-」を発売し、18年12月に30周年記念ベストアルバムをビクターよりリリース、7インチレコードも精力的にリリースしている。

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