和田永|役目を終えた家電を楽器に。「祭り性」を追い続けるアーティスト

アート

和田永さん アーティスト/ミュージシャン〈インタビュー〉

和田永|役目を終えた家電を楽器に。「祭り性」を追い続けるアーティスト

ブラウン管テレビなどの家電を楽器にして演奏するというパフォーマンスで注目を浴びている和田永(わだ・えい)さん。自身のグループ「Open Reel Ensemble(オープンリールアンサンブル)」や木村カエラさんへの楽曲提供、バンド「ずっと真夜中でいいのに。」でのライブ演奏など、多方面にわたって活躍されています。「祭り性」を感じる世界をつくりたい、と語る和田さんに、音楽や楽器製作に対する思いについてお聞きしました。

カセットテープにとりつかれた「録音魔」の幼少期

──和田さんはいつ頃から音楽に興味を持ち始めたのですか。


音楽に興味を持ったきっかけは、小学生の頃に家の押し入れからアナログレコードを発見したことです。再生される音はもちろん、「回るものに針を落として再生する」というレコードの仕組みにものすごく神秘的なものを感じました。


──アナログレコードでどんな音楽を聴いていたのですか。


ヴェルヴェット・アンダーグラウンド(The Velvet Underground)やキング・クリムゾン(King Crimson)などをよく聴いていました。特にクリムゾンは大好きで小学校の卒業文集は「深紅王がくれた宝物」というタイトルで、キング・クリムゾンの魅力についてびっちり書くくらいハマっていました(笑)。


和田永さん


──そんな和田さんが、「音楽を作ろう」と思ったきっかけは何だったのでしょうか。


音楽に興味を持ち始めた頃から、家にあったピアノを適当に弾いてカセットテープに録音して遊んでいました。ある時ラジカセが2台手に入って、あらかじめカセットテープに録音した音をラジカセで再生しながら新たに演奏し、それをもう1台のラジカセで録音するようになったんです。シンプルな「多重録音」ですね。そうして重なっていく音が本当に魅力的で、ピアノだけでなくバケツをたたく音とか水が流れる音とか、さまざまな音を録音する「録音魔」になっていました。

「音楽を作ろう」ではなく「録音してひとつの音を作って遊ぼう」という感覚だったのですが、結果的にこれが音楽を作るきっかけになりました。


──カセットテープに録音した音のどんなところに惹かれたのでしょうか。


音を重ねた時に、新しい音ほどクリアに聴こえて、古い音ほど劣化していく点に魅力を感じました。僕はヨレヨレとしていく音の方に興味があって、磁気テープには独特の音色があるんだなって感じました。

あと、再生速度を速くすると音程が高くなって、逆に遅くすると音程が低くなる点も魅力でしたね。音を重ねるだけじゃなく、再生速度によっても音に変化が付けられるということが分かってから、ますます興味を持ちました。


──キング・クリムゾンとカセットテープにハマった小学生時代となると、同級生たちの反応も気になります......。


当時の僕は、誕生日プレゼントに「メタルテープ」という、通常のテープの商品より高いけれどすごくいい音で録音できるカセットテープを欲しいと言っていたくらいですね。メロトロン(キング・クリムゾンが楽曲に使用していた鍵盤楽器)の音色がヤバイ!とか同級生にそういう話をしても、さすがにきょとんでしたね(笑)。



オープンリールを手で回した瞬間に「次元が変わった」

──和田さんは2009年からオープンリール式のテープレコーダーを演奏する音楽グループ「Open Reel Ensemble」として活動していますが、オープンリールを楽器にしようと思ったきっかけはどのようなものだったのでしょうか。


ある時、父親の知り合いからオープンリール式のテープレコーダーを譲ってもらったのですが、モーターが壊れてしまってリールが回らなかったんですね。仕方ないのでリールを手で直接回してみたら、その時に鳴った音が衝撃的だったんです。回した瞬間に次元が変わったというか、「パラレルワールドの入り口が開いた!」という感覚になりました。鳴った音もある意味、宇宙的で。とにかく「これまで求めてきた音はこれだ!」と思うくらい世界が変わった瞬間でした。そこから「オープンリールは磁気的な民族楽器だ」と誤った解釈をするようになりました(笑)。

オープンリール式テープレコーダーを演奏する音楽グループ「Open Reel Ensemble」オープンリール式テープレコーダーを演奏する音楽グループ「Open Reel Ensemble」

──オープンリールが楽器になることを発見した和田さんが、どのような経緯でOpen Reel Ensembleの結成に至ったのでしょうか。

学生の時にギター、ベース、ドラムといった一般的な編成のバンドをやっていまして、その中で不思議な音色を出す「飛び道具」としてオープンリールを使うようになりました。その活動を続けていくうちに「オープンリールだけのバンドをやってみたい」と思うようになって、大学の同級生や、中学・高校の同級生だった吉田悠(よしだ・はるか)くん、吉田匡(よしだ・まさる)くんたちを誘ってOpen Reel Ensembleを結成しました。

──メンバーの皆様は、初めて楽器としてのオープンリールに出合った時、どんな反応でしたか。

すんなり受け入れてくれました(笑)。メンバーとは長い付き合いだったし、映画や音楽の好みも似ていたから、説明が要らないくらいすんなり受け入れてくれました。スチームパンクやサイバーパンクではなく、マグネティックパンクだと言って通じました。


Magnetik Phunk (Studio Live Version) - Open Reel Ensemble





「非合理の中にある合理」を追求して「妖怪」をつくりだす

──和田さんのパフォーマンスの中でも特に印象的な「ブラウン管ドラム」は、どのようにして生まれたのですか。


大学生の頃に、片方のプラグがギターアンプにささったケーブルを手に持ったままテレビを触ってみたら、その時に「ブー」って音が鳴ったんです。「電磁的なノイズが鳴るな。両手でパーカッシヴにたたきたいな」と思って、持っていたケーブルのプラグを、今度は靴下の中に入れて演奏してみたんです。そして気づいたらもう......無我夢中でブラウン管をリズミカルにたたいていました(笑)。


さらに実験していくと、テレビに映る縞模様の本数で音程が変わることが分かって。音程を変えたテレビを並べてたたきたいと思って、「ブラウン管ドラム」のパフォーマンスが生まれました。


Photo by Mao YamamotoPhoto by Mao Yamamoto

──ブラウン管ドラムのほかにも、小型テレビを使用した「テレレレ」「テレナンデス」「テレ線」など、ユニークな楽器を製作しています。これらはどのような仕組みで音が出るのでしょうか。


ブラウン管ドラムの場合は、テレビから出る静電気を手でキャッチして、ギターアンプで増幅して音を出しています。テレレレ、テレナンデス、テレ線は、静電気をキャッチして音を鳴らす点は同じなのですが、ネックについているコントローラーによって画面に映る縞模様の本数を変えることができて、より細やかに音程を演奏することができるようになりました。


和田さんの発見をもとに仲間が製作した楽器たち。左から「テレ線」「テレナンデス」「テレレレ」(製作: 鷲見倫一 × 和田永 × Nicos Orchest-Lab)和田さんの発見をもとに仲間が製作した楽器たち。左から「テレ線」「テレナンデス」「テレレレ」(製作: 鷲見倫一 × 和田永 × Nicos Orchest-Lab)

「テレナンデス」は、テレビ画面から出る静電気を電線を巻いて作った「コイルピック」でキャッチし、ギターアンプから音を鳴らす「テレナンデス」は、テレビ画面から出る静電気を電線を巻いて作った「コイルピック」でキャッチし、ギターアンプから音を鳴らす

──家電を楽器にするためには専門知識が必要な気がしますが、電気や家電について勉強してから楽器製作を始めたのでしょうか。


がっつりと勉強はしていないですね。まずは分解して配線を切ってみて、動かなくなったところを確認するという流れで始めて、「何と何が関連しているのか」を探りながら知識を付けてきました。

より深い知識を得ることができたのは、役割を終えた家電を新たな楽器に生まれ変わらせるプロジェクト「ELECTRONICOS FANTASTICOS!(エレクトロニコス・ファンタスティコス!)」(以下、ニコス)を始めてからで、電気や電子回路に詳しいエンジニアやプロダクトデザイナーといった方々と一緒に活動できたことが大きかったです。

ニコスは、役割を終えた家電を新たな楽器へと蘇生させ、徐々にオーケストラを形づくっていくプロジェクトです。これまでにブラウン管テレビ、扇風機、換気扇、ビデオカメラ、エアコン、電話機など数々の家電を楽器にしてきました。

そもそも、家電を楽器にすること自体がめちゃくちゃ非合理的なんですけどね。非合理的だけど、「楽器として使うなら、どのようにしたら音の表現力が高まるのか」「静電気を利用して音を鳴らすことに加えて、どんな機能を付けることができるのか」という合理的な部分を日々探しています。

──新しい楽器製作のアイデアはどのような時に生まれるものですか。


実際に手を動かしている時や、仲間と妄想を話し合っている時に生まれることが多いですね。特にニコスでは、ミュージシャンのイマジネーションとエンジニアの半端ないスキルが掛け合わさった時の化学反応でいつも何かが生まれています。役割を終えた家電たちが、新しい能力を持って生まれ変わる。いわば家電たちに「妖怪」としてのセカンドライフを歩ませていると言えるかもしれません。


和田永さん





「人間の歌声」と「家電の声」の出合いを楽しむ

──木村カエラさんや「ずっと真夜中でいいのに。」など、和田さんはほかのアーティストとコラボレーションもされています。コラボレーションのどのような点に魅力を感じますか。


歌とのコラボレーションはいつも楽しみですね。歌や声や言葉の要素が入ると曲の風景が一気に広がると思っていて、曲が新次元に突入することもあるし、バトルになる感じもあるし、いつも魅力を感じています。

僕は、自分が作った楽器が生み出す音色は「機械たちの声」だと解釈していて、アーティストの「歌声」に楽器の「声」が合わさった時に相乗効果が生まれると胸熱ですね。


「人間の歌声」と「家電の声」の出合いを楽しむ


──和田さんのライブパフォーマンスは観客を惹きつける魅力にあふれています。パフォーマンスされる際に意識していることや、逆に無意識に熱量が高まる瞬間はありますか


ライブはその場で波を生み出していく現場で、自分の身体とあらゆる波との対話の場でもありますね。その中で生まれるダイナミックな表現と繊細な表現の振り幅をいつも意識しています。

パフォーマンス中の熱量はいつも高いですが、特にライブで初めてやる曲を演奏する時には本番独特の緊張感があり、バンドメンバーや観客との共鳴を感じた時はさらに高まりますね。

──ライブでは、ブラウン管ドラムに顔を付けて音を鳴らすというアグレッシブな演奏をされていますよね。


あれは気が付いたらやっていました。ジミ・ヘンドリックス(Jimi Hendrix)は歯でギターを弾いていたから、「ブラウン管は顔面で弾ける」と思ったんですよね。

──本能的なものだったのですね......! でも、テレビをたたいていて手が痛くなりませんか。


確かに、たたき続けていると手が痛くなりますが、手の皮が年々厚くなってきている気がします。おそらく世界初のガラスをぶったたく楽器なので、一種の格闘ですね(笑)。

「ブラウン管ドラム」を演奏する和田さん(Photo by Mao Yamamoto)「ブラウン管ドラム」を演奏する和田さん(Photo by Mao Yamamoto)


「終わらない文化祭」のようなワクワク感があるニコス

──先ほど話題に上がったニコスですが、2023年で活動を開始してから8年経ちました。改めて、ニコスを始めたきっかけについて教えてください。


ブラウン管のテレビやオープンリール式のレコーダーを楽器にした頃から、もっとオープンな場で、街中にある「野良家電」や「野良ミュージシャン」、「野良エンジニア」が集まって楽器を製作できたら、自分が想像していた音楽の祭典につながるのではないかと考えていました。そんな時に、東東京エリア(隅田川周辺から東側)を拠点に音楽やアートに関する活動をしている「NPO法人トッピングイースト」からお話をいただき、ニコスが始動しました。


ニコスでの活動の様子。感電などの事故が起きないように、安全管理について密にミーティングしたり、注意点をまとめたしおりを作ったりするなど、メンバーが安心して活動できるよう配慮しているニコスでの活動の様子。感電などの事故が起きないように、安全管理について密にミーティングしたり、注意点をまとめたしおりを作ったりするなど、メンバーが安心して活動できるよう配慮している

──現在、ニコスは東京・京都・日立(茨城県)・名古屋・秋田の5都市に活動拠点があり、80名近いメンバーが参加しているとうかがいました。ニコスを始めた時から現在の規模になることを想定していたのでしょうか。


「まずはやってみよう」という感じで始めたので、今の規模になることはまったく想定していませんでした。熱量が高いメンバーたちが集まってきて、どんどん活動の幅を広げてくれたおかげだと思います。例えば、日立のチームは2016年に開催された「茨城県北芸術祭」に出展するために集まったチームだったのですが、芸術祭が終わった今も活動しています。むしろ、あれ以来毎日が芸術祭です。最近は、名古屋や秋田で小中高生が集まってチームをつくり、活動を始めました。

ニコスでの活動は、「終わらない文化祭」をやっている感じです。出来上がる楽器はもちろん、これまでなかったことをみんなで試行錯誤する過程もものすごく面白いですね。野良から生まれる「電磁音楽」の可能性を探りながら、みんなで「音楽創造のプラットフォーム」をつくっているところに魅力を感じています。


電磁祭囃子 in NEO TOKYO




全身が高揚する「祭り性」を感じる世界をつくりたい

──今後の活動予定をお聞かせください。


Open Reel EnsembleのEPを2023年4月にリリースしましたが、夏にはニコスでも音源をリリースしたいと思って準備を進めています。

また、僕の尊敬する音楽家のひとりであるブライアン・イーノ(Brian Eno)が「コンピューターにはアフリカが足りない」と言っているんですが、僕は「コンピューターにアフリカを追加したい」と思って活動してきました。

「アフリカ」が何を指すのかはいろんな解釈がありますが、僕は「ワイルドな要素」だと解釈しています。今この瞬間の振動を感じながら、世界と濃厚接触して波と戯れるための道具として電化製品を使えたらと思っています。そこから人々と「電」のエネルギーが共鳴する祝祭や、全身が高揚する「祭り性」を感じる世界をもっとつくっていきたいですね。


和田さんたちが製作した楽器で奏でる祭りばやしにのせて踊る「電磁盆踊り」の様子。2017年に東京で開催され、多くの観客が来場した(Photo by Mao Yamamoto)和田さんたちが製作した楽器で奏でる祭りばやしにのせて踊る「電磁盆踊り」の様子。2017年に東京で開催され、多くの観客が来場した



──最後に、今後楽器にしてみたい電化製品はありますか。


最近は、理髪店の前にある赤と青のクルクルサインポールやエアコンの室外機、ネオン管などに魅力を感じています。特にサインポールは、理髪店の前を通るといつもいい音が鳴っている気がするんです。ただ、サインポールも室外機も、ネオン管も、どれも大きいから担いで演奏するのはかなり筋力が必要そうですね(笑)。

和田 永さん


――本日はお忙しい中、ありがとうございました。今後のご活躍を楽しみにしています!


※記事の情報は2023年6月6日時点のものです。

  • プロフィール画像 和田永さん アーティスト/ミュージシャン〈インタビュー〉

    【PROFILE】

    和田 永(わだ・えい)
    1987年生まれ。物心ついた頃に、ブラウン管テレビが埋め込まれた巨大な蟹の足の塔がそびえ立っている場所で、音楽の祭典が待っていると確信する。しかしある時、地球にはそんな場所はないと友人に教えられ、自分でつくるしかないと今に至る。学生時代よりアーティスト/ミュージシャンとして音楽と美術の領域で活動を開始。2009年より年代物のオープンリール式テープレコーダーを演奏する音楽グループ「Open Reel Ensemble」を結成してライブ活動を展開する傍ら、ブラウン管テレビを楽器として演奏するパフォーマンス作品「Braun Tube Jazz Band」で第13回文化庁メディア芸術祭アート部門優秀賞受賞。ISSEY MIYAKEのパリ・コレクションでは、これまで11回にわたって音楽に携わった。2015年より、役割を終えた電化製品を新たな電磁楽器として蘇生させ、合奏する祭典を目指すプロジェクト「ELECTRONICOS FANTASTICOS!」に取り組む。その成果により、第68回芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。

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