〈癒やしの海写真〉海の未来はどうなる? 変化する環境の中で暮らす海の生き物たち4選|鍵井靖章

【連載】海の生き物たち

水中写真家:鍵井靖章

〈癒やしの海写真〉海の未来はどうなる? 変化する環境の中で暮らす海の生き物たち4選|鍵井靖章

水中写真家の鍵井靖章(かぎい・やすあき)さんの連載第3回は、地球温暖化や海洋ゴミ、マイクロプラスチック問題など、変化し続けている海洋環境の中で生きる生き物たちをご紹介いただきました。「文句ひとつ言わずに」暮らす海の生き物たちを見て、どんな未来が望ましいか、海の未来を考えてみませんか。

写真:鍵井 靖章

海洋ゴミと共に生きる生き物たち

①ビニールの切れ端と共に旅を続ける



愛媛県の南部、高知県との県境に位置する愛南(あいなん)は、今、ダイバーに最も注目されている海の一つ。手つかずの海が広がり、私がダイビングを始めた30年前のような無垢な海底が残っている。ただし、そんな素敵な海でも、ゴミは漂っている。ビニールの切れ端にちょこんと乗り、共に旅を続けるニジギンポに出会った。(撮影地:愛媛県愛南町)

②レジ袋に群れる子どもたち



漁港の中で潜る。潮流の方向や風の影響で、港の中に多くの海洋ゴミが入り込んで来る。海に浮かんでいるレジ袋を撮影していると、アオリイカの子どもたちが群れでやってきた。この子たちをこんな環境で泳がせていることを「大変申し訳ない」と思いながら、シャッターを切り続けた。(撮影地:愛媛県愛南町)

③色が変わったお家



地球温暖化による影響で、近年、海水温が高くなる夏が多い。例年よりも3、4度高く、水温が30度を超える日が続くと、サンゴやイソギンチャクが白化現象を起こす。この美しく思えるイソギンチャクも白化現象が起こっている。色が変わったお家にクマノミは何を思うのか?(撮影地:沖縄県石垣島)

④空き缶の住処



和歌山県の紀伊大島(串本町)で空き缶を住処にするメジロダコに会った。このように海底に落ちている空き缶や空き瓶をよく見つける。海の生き物たちは、文句ひとつ言わずに、それらを住処や隠れ蓑(みの)などに活用している。自然の状況下で、空き缶が消滅するのに要する時間は、約80年ともいわれている。海の負の遺産だ。(撮影地:和歌山県串本町須江)




永遠に存在すると思っていた楽園の無惨な姿

私がはじめて、海の大きな変化に直面したのは1998年だった。当時、モルディブ共和国にあるリゾートでダイビングガイドをしていた私は、写真家として独立するために日本に帰国した。


私が帰国した7月頃から、モルディブ近海の海水温がどんどん上昇し、通常よりも4度高い、30度を超える異常高水温の日が続いた。するとサンゴの白化現象が起き、モルディブの90%のサンゴが死滅してしまった。数カ月後、写真家として活動もそこそこに、一旦モルディブに戻る決意をした私を待ち受けていたのは、あれほど見事だったサンゴ礁が、無惨にもガレ場と化した光景だった。


永遠に存在すると思っていた楽園モルディブの美しいサンゴ礁が、いとも簡単に姿を変えたこと。地球温暖化による海への無惨な影響を目の当たりにし、まだ何者でもない私は未来への光も失ったように思え、大いに失望した。


そして6カ月後に、再び帰国。本格的に写真家として活動を始め、取材を通じて、国内外で定期的に起こる温暖化によるサンゴの白化現象の記録を続けた。コロナ禍以降、日本近海での海洋ゴミやマイクロプラスチック問題にも関心を持ち、その現状を写真や映像などで可視化している。


深海を調査する研究者の話によれば、水深800mや2,000mの地点には大量のレジ袋などが散見され、日本近海のマイクロプラスチック濃度に関しても、大変懸念していると教えてくれた。私たちダイバーが潜る水深5〜30mの海中でもゴミを見つける。


中には、ゴミを住処として活用している生き物もいる。そんな彼らを含む大きな自然は、文句ひとつ言わず今を過ごしている。できる限り、そのような負担を軽減し、私たちが望む未来を地球と共に歩んでいきたいと願っている。



2018年に撮影したサンゴの白化現象。多くの方は、美しいサンゴ礁と思うかもしれないが、写真のほとんどのサンゴは白化している。このままではいずれ脆(もろ)く崩れ、ガレ場となってしまう。今現在、数年に一度、日本近海でも、サンゴの白化現象が起こるようになっている。日本の美しいサンゴを未来に残すことができるのか? 心配でならない。(撮影地:沖縄県石垣島)


※記事の情報は2025年9月24日時点のものです。

  • プロフィール画像 水中写真家:鍵井靖章

    【PROFILE】

    鍵井靖章(かぎい・やすあき)
    水中写真家
    1971年兵庫県生まれ、神奈川県鎌倉市在住。1993年よりオーストラリア、伊豆、モルディブに拠点を移し、水中撮影に励む。1998年に帰国、フリーランスフォトグラファーとして独立。自然のリズムに寄り添い、生きものにできるだけストレスを与えないような撮影を心がける。3.11以降、岩手県・宮城県の海を定期的に記録している。『ダンゴウオ -海の底から見た震災と再生-』『unknown』『不思議の国の海』『SUNDAY MORNING ウミウシのいる休日』他著書多数。 第15回アニマ賞(1998)、日本写真協会新人賞(2003)、日経ナショナルジオグラフィック写真賞優秀賞(2013、2015)受賞。「情熱大陸」「クレイジージャーニー」「探偵ナイトスクープ」「関ジャニ∞クロニクルF」などにも出演。
    公式サイト https://kagii.jp/
    instagram https://www.instagram.com/yasuaki_kagii/?hl=ja 

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