「人と海はどう共生していくか」問い続ける先につながる未来

【連載】SDGsリレーインタビュー

上田壮一さん, 田口康大さん ビジュアルブック「あおいほしのあおいうみ」制作〈インタビュー〉

「人と海はどう共生していくか」問い続ける先につながる未来

海と環境がテーマのビジュアルブック「あおいほしのあおいうみ」が2024年10月に発売されました。この本を制作・発行した一般社団法人Think the Earth (シンク・ジ・アース)理事/プロデューサーの上田壮一(うえだ・そういち)さんと、編集協力者の一人である一般社団法人3710Lab(みなとラボ)代表理事の田口康大(たぐち・こうだい)さんにお話をうかがいました。人の生命と暮らしを支える海について、海洋プラスチックゴミや地球温暖化など、海洋環境を巡る問題がより身近になってきた今、人と海が共生していくために必要なものは何でしょうか。

海の豊かさを守ろう




日本財団が2024年7月に発表した 「第4回 『海と日本人』に関する意識調査」によれば、約7割が「海は大切な存在だ」と答えている一方で「海にとても親しみを感じる」人はわずか31%。「この1年で一度も海を訪れていない」人は52%にのぼった。
こうした「海離れ」への課題意識から、「海」をテーマにさまざまな切り口で楽しく学べる教材=ビジュアルブック制作プロジェクトがスタートし、2024年10月に発売となったのが今回の「あおいほしのあおいうみ」だ。



あおいほしのあおいうみ
編集・発行:一般社団法人Think the Earth
出版:紀伊國屋書店


SDGsを教育の場に届ける活動「SDGs for School」を実施している一般社団法人シンク・ジ・アースの上田壮一さんは、以前にもアクティオノートでSDGsの本質や考え方を教えていただいた。田口康大さんが代表理事をつとめる、みなとラボでは「海と人とを学びでつなぐ」ためのプラットフォームを学校や地域、自治体に提供している。その取り組みについてもうかがった。




海に関する「なぜ、どうして」を掘り下げた本

──今回の「あおいほしのあおいうみ」は教育の現場で使われるようにと、小学校高学年以上をターゲットにした本だと思いますが、制作にあたってどんなことを編集方針としていましたか。


一般社団法人シンク・ジ・アースの理事/プロデューサーの上田壮一さん(左)、一般社団法人みなとラボ代表理事の田口康大さん(右)一般社団法人シンク・ジ・アースの理事/プロデューサーの上田壮一さん(左)、一般社団法人みなとラボ代表理事の田口康大さん(右)


上田:僕たちが作る本はいつも本の中に答えが書いてないんです。読めば読むほど疑問が湧く本にしたいと思っていて、疑問を持った人たちがさらに外の世界に飛び出して行って、ほかの本を読んだり、映像を見たりと、好奇心をかき立てるガイドのような本ですね。


作っていく方法としては、知ってるつもりでいるものを、知らないこととして見たときにどんな切り口があるだろうって話して、それを徹底的に掘り下げていくということをやりました。


海というと、夏休みに車で行く海水浴場みたいなステレオタイプなイメージがあると思うんですけど、それを崩すというか。例えば海は地球にはありますが、他の惑星に海はあるのかなとか。宇宙でそもそも水分子っていつできたんだろうとか。


科学や歴史を紐解いて、海の起源はどうなっているのか調べてみると、そこにいろんな切り口が見つかります。海で生きている生物はどのように進化してきたのか、どうしてあんな形をしてるんだろう、なんでこんな生き方してるんだろう、陸上に生きている生物と海に生きている生物が違うのはなぜだろうとか。


その「なぜ、どうして」の中から、今の時代の読者にとって面白いんじゃないかっていうテーマをピックアップしていく作業を最初の3〜4ヶ月はひたすらやっていました。


個性あふれるイラストレーター9人が参加し、楽しい絵本のような仕上がり個性あふれるイラストレーター9人が参加し、楽しい絵本のような仕上がり


──目次だけを見てもさまざまなアプローチから海に触れていて面白そうです。


上田:全体の構成はわりと早く決まりました。宇宙のようにスケールの大きな話題から、身近なところでは食卓の中に海を見つけるというテーマまでを取り上げて、海洋環境問題を考える上で、海に対する視点の広がりと深さをもった本ができたのではないかと思います。


「あおいほしのあおいうみ」の目次。宇宙から俯瞰した海、海を巡る生命や循環、環境と社会など、さまざまなアプローチで海にせまる内容になっている「あおいほしのあおいうみ」の目次。宇宙から俯瞰した海、海を巡る生命や循環、環境と社会など、さまざまなアプローチで海にせまる内容になっている


──田口さんはどこを担当されたのですか。


上田:田口さんには、海洋リテラシーについて、専門家としての視点をお話しいただきました。この本には好奇心に火をつける役目があると言いました。火がついた好奇心が向く先に、読んでみたくなる、見てみたくなる本や映像をたくさんご紹介いただく「海のことをもっと知りたい人へ」というパートの選書と編集・執筆を「みなとラボ」のみなさんにお願いしました。また田口さんが専門家としてお持ちのネットワークから、この本の監修に最適な先生をご紹介いただくなどのご協力をいただきました。


一般社団法人シンク・ジ・アースの理事/プロデューサーの上田壮一さん


──すごく充実した一冊になりましたね。冒頭に谷川俊太郎さんの詩が入っています。


上田:導入部に詩があったらいいな、ということは最初から思っていました。この本の役割として、説明的な理屈っぽい導入ではなく、読者の感覚や感性をそっと呼び覚ましながら海というテーマに誘いたいという思いがあったからです。谷川さんの「うみ」という詩は、この本が伝えたいテーマが凝縮されたような詩です。谷川さんのシンプルで美しい言葉と木内達朗さんの絵が重なることで、とても印象的なイントロダクションになりました。




2011年以降に盛んになった海洋教育。"海"を伝える難しさ

──田口さんは全国の学校で海について学ぶ、海洋教育を展開されていますが、そもそもの前提として、日本の義務教育で海洋教育やSDGsなどについて教えることは必須なのでしょうか。


一般社団法人みなとラボ代表理事の田口康大さん


田口:今のところ初等・中等教育の学習指導要領の中に「SDGs」という文言自体は明記されていません。だからと言って、SDGsに関する教育が行われていないわけではありません。海に関する教育で言えば、歴史的に第一次産業が盛んだった1950年〜60年代くらいまで日本は海に力を入れた教育をやっていた時代があります。1970年代になると主要な産業が第1次産業から第2次産業、第3次産業と移行していく中で、海に関する内容は教科書から外れていきました。


私は2013年に東京大学の海洋教育促進研究センター(現・海洋教育センター)というところに着任するんですけど、その時のミッションは、海の教育を全国に普及していくというものでした。というのも、学習指導要領の中に海洋教育はないのですが、2011年の東日本大震災の後に、海を教育としてどう扱うか、海を教育の世界の中で考えなければいけない、という課題が出てきました。学校としても例えばそれまで授業の一環として行っていた海水浴や、臨海学校なども今後どうしたらいいかという指針もなかったんです。


──海洋教育といっても海のそばにある学校もあれば、海が近くにない学校もあります。


田口:2016年くらいまでは、沿岸部の学校から相談を受けることがやっぱり多かったです。沿岸部の学校で海についてどう子どもたちに伝えたらいいか。津波に対する防災教育はあっても、海のめぐみに支えられてきた文化をどう扱えばいいか、その関わり自体をどう伝えるのかが課題でした。


海っていうのは、人間の想像を遥かに超えてくる、じゃあ、それは一体どういうものか、どう伝えるかが難しいんです。それについては、本当にこれという答えはないので、一緒に相談しながら考えながらというところからやっています。


内陸部の学校から相談が増えてきたのは2017年〜18年くらいですね。レジ袋の有料化があってそれで一気に広まったというか、家庭の中でもそういう話が多くなって。そうすると内陸部の学校から海洋プラスチックゴミに対して何ができるか考えてみたい、どうしたらいいですかという問い合わせが増えました。


上田:学習指導要領の件をちょっと補足すると、2017年に今の新しい学習指導要領が公示されたんですね。それが教科書に反映されたのが2020年とか2021年くらいです。2017年の学習指導要領で画期的だったのが、前文に「持続可能な社会をつくる。その担い手を学校教育の中で育成していく」という趣旨がはじめて謳われたこと。そのときに世界的な指針として展開されていたのがSDGsだったので、その後、教科書にもSDGsという言葉がたくさん入ったし、今は「総合的な学習(探究)の時間」という授業があるんですけど、そういう授業の中で取り上げる先生がすごく増えました。


田口:確かにおっしゃるとおりで「持続可能な〜」という一文は決定的でしたね。また前文に入るというのに大きな意味があって、すべての内容にかかってくるんですよね。


──そうだったんですね。海洋教育についてもう少し教えてください。沿岸部の学校は比較的イメージしやすいのですが、内陸部の学校では例えばどんな授業をやるんですか。


田口:僕は大学の教員として学校へ授業をしに行くというより、先生方がどう授業をしたらいいのかの指針を考えたり、そのフレームやガイドを作るというのが主な仕事ですが、例えばそうですね「川を探そう」みたいなことをやったりします。


日本列島の地図で、川だけしか描かれていない地図があるんですよ。それを大きくして自分たちが住んでいる場所ってどこだろうって探して、そこからもしゴミを出して、台風が来たらどういうふうに流れていくだろうって辿っていくと、海に着くんですよね。さらに、例えばゴミにGPSをつけたら、どこまで行くんだろうといったストーリーを描いたり。


世界の海に流れていくっていうのも実はデータ化されているので、すぐビジュアルとして見えちゃうんです。そうするとゴミに乗って旅をするみたいな感覚になる。それだけだと授業として成り立たないので、社会科で習った海流を入れたりとか、基本的には先生方と相談しながらやっていきます。




どうしても近くならない海との距離

──みなとラボさんで制作されている書籍には海洋教育のほかに「海洋リテラシー」という言葉もよく見ます。海洋リテラシーというのはどういうものですか。


田口:簡単に言えば、海とどう関わっていくかというのを「考えられる力」と言ってもいいかもしれないです。海との関わり方を自分なりに考えられる、それを態度として表すことができる力と言っていいかな、と。


じゃあ、その力を得るためには何が必要なのかと聞かれたら、答えるのが難しい。海の基本的な知識を知っておこうとか、海に関して責任を持った判断できるようになろうとか、コミュニケーションを取ろうとか、海洋リテラシーの国際的な定義はあるんですけど、何をどの程度まで知っておかなければいけないのか、その線引きは難しく、明確な答えがない。日本はそもそもその段階にないというか、海について何を知っておかなきゃいけないのか、議論にすらなっていないのが現状です。


2024年6月発売。私たちは自分と海のつながりを知らない、見えていない。見ようともしていないかもしれない、それを表す言葉「オーシャンブラインドネス」。海洋環境デザインの未来を模索する一冊には、デザイナーの「私の思い描く海」をテーマにしたユニークな作品や各地で行われたワークショップ、展覧会の様子が紹介されている


OCEAN BLINDNESS 海洋環境デザインの未来
発行:みなとラボ出版2024年6月発売。私たちは自分と海のつながりを知らない、見えていない。見ようともしていないかもしれない、それを表す言葉「オーシャンブラインドネス」。海洋環境デザインの未来を模索する一冊には、デザイナーの「私の思い描く海」をテーマにしたユニークな作品や各地で行われたワークショップ、展覧会の様子が紹介されている


──漁師さんなど海で生きるプロの人たちが持っている知識というのはありますが、あまり一般化されたものではないですしね。


田口:漁師さんや、海辺に住む人たちの暮らしって、生きるために必要な知識や技術を身につけているわけですから目的がはっきりしていますよね。でも、普段は海からかけはなれて生活していると、海に関わって何かを得なければいけないと感じることはありません。


でも、実際にはつながっています。例えば海がなくなったら今より気温が30度近く上がってしまって、人は生きていけないんですよね。でもそう言われても実感は湧きません。海の重要性を伝えたとしても、どうしても海との心理的な距離って近くならないところがあります。


だからこそ、海を楽しむアプローチが大事なのだと思うんです。今回の「あおいほしのあおいうみ」は、表紙をパッと見た時にきれいだなと思うし、ページをめくるのも楽しいっていう、それが全面に出ていてすごくいいなと思いました。海とつながることって楽しいし、自分の生活も豊かになるんだよっていうことに気づければ、意識は海に向かっていくと思いますし、そうすると、環境配慮も自然とできていくようになると思うんですよね。


「あおいほしのあおいうみ」では、田口さんが海洋リテラシーについて解説するページも「あおいほしのあおいうみ」では、田口さんが海洋リテラシーについて解説するページも




忘れられない海の物語

──お2人が今までに行ったところで、いい意味でも悪い意味でも衝撃を受けた海の体験とか記憶というのはありますか。


一般社団法人シンク・ジ・アースの理事/プロデューサーの上田壮一さん(左)、一般社団法人みなとラボ代表理事の田口康大さん(右)


上田:「あおいほしのあおいうみ」は基本的にポジティブコミュニケーションの本なんですが、一箇所だけショッキングな印象を受けるページがあります。それが真ん中の見開きに入っている、対馬(長崎県)の海岸一帯に広がっている海洋ゴミの写真です。海洋プラスチックゴミ問題は大変だ、と言葉で聞いてはいてもなかなか実感はできません。でも実際にその場に立ってみると、悲しみと行き場のない怒りや絶望のような感情が湧いて、本当にショックでした。日本の美しい海がいたる所でこういう状況になろうとしています。


対馬のクジカ浜一帯に漂着した海洋ゴミ。対馬市の漂着ゴミの量は年間で3万~4万㎥、全国の市町村の中で最も多いとされている(撮影:上田壮一)対馬のクジカ浜一帯に漂着した海洋ゴミ。対馬市の漂着ゴミの量は年間で3万~4万㎥、全国の市町村の中で最も多いとされている(撮影:上田壮一)


美しい光景として衝撃を受けたのは、1990年代にカナダ・バンクーバー島のジョンストン海峡に行ったときの経験です。ここは毎年夏になると、シャチの群れがやってきます。海峡なので海が静かなんですね。その中をシャチの家族が悠々と泳いでいくんですよ。時々ブワーッと呼吸音をたてながら海峡を横切っていく。シャチが来ると人間だけじゃなく、ほかの生き物、鳥もみんな息をひそめるように静まりかえって。


夜の海に月明かりに照らされた光の道ができ、呼吸音とともにシャチの姿が浮かび上がった時には鳥肌が立ちました。海という存在すべてを一気に感じた瞬間。神秘さとか、荘厳さとか、これまで自分が感じたことのないものばかりで、それは今でも忘れられない体験です。


──お話を聞いているだけでも美しい映画のような光景が頭に浮かびますね。田口さんはどうですか。


田口:私にとっても対馬での経験はとても印象深く残っています。対馬の海洋ゴミ問題は広く知れ渡ってきましたが、僕はそれとは異なる文脈で対馬に行っていて、それは海の文化を持っている人たちがどこから来たのかを探るフィールドワークをするのが目的で行っていました。


僕はもともと日本の文化がどういうふうにできあがってきたのかに関心があって、その重要な場所の一つに対馬があるのを知り、そこから海の学びの面白さっていうのが広がったんですよね。古代から対馬には大陸や済州(チェジュ)島などから多くの人が渡ってきましたが、済州島から渡ってきた海洋民たちの中に海女がいて、海女は太陽を信仰していたと言われたりします。


この太陽信仰というのは推測の物語なのですが、真っ暗な海に潜っているとき、何を目指して水面に戻ってくるかというと太陽の光である、ということから来ているとの説があります。対馬の海岸に石を高く組み上げたヤクマの塔* と呼ばれるものがありますが、それは太陽だとも言われてもいるんですよ。


* ヤクマの塔:旧暦の6月に、住民が浜辺の石を1.5m~2.5mほどの円すい形に積み上げた石の塔。五穀豊穣や子どもの成長を願う伝統行事「ヤクマ祭」として島全域に根付いており、石は毎年、願いを込めながら積み直される。天道信仰に由来するとも言われている(諸説あり)。


その太陽信仰の変わった形っていうのが関東近辺だと、山梨県にあるんですよね。山梨県全域、特に山梨市に多いのですが、路傍に丸い石が祀られていたり、置かれたりしています。丸石道祖神と言われるんですが、それは和歌山県西牟婁郡(にしむろぐん)や三重県、静岡県などにもあります。大陸から渡ってきた海洋民の移動の痕跡ではないかと考察されたりもするんです。


──海洋民が最後は海のないところに辿り着いたんですね。


田口:実証できるかどうかはともかく、その1個の石が時間と場所を超えて海とつながっているかもしれないというのがすごく面白くて。ある種、概念的な海の面白さを知った後にゴミの問題が出たので、そもそも人間は海とどう関わってきたんだろうなっていう問いを考えていくきっかけになったと思います。




「問い」の重要性。どういう問いを立てて、共有するか

──面白いですね。海にまつわるお話は尽きることがなさそうなのですが、最後に、先ほどの海洋ゴミをはじめ温暖化など、現在起こっているさまざまな課題について、近道はないにしても解決に近づくために必要なことは何だと思われますか。


上田:最近の日本財団の調査にもあるように、海についてあまりにも知らない、関心もない、遠ざかっている人が増えています。"無関心を好奇心に変える"というのが僕らのミッションなので、関心がない人に対してちょっとでも関心を持ってほしいなと思って本を作っています。そのため、作った本を教育の現場に届けて活用してもらうことが自分たちのゴールです。


一般社団法人シンク・ジ・アースの理事/プロデューサーの上田壮一さん


この本はきっかけや素材であって、あとは先生方がそれぞれの場所や事情に合わせていろんな授業をつくってほしいな、と思っています。その上で何が重要かというと「どういう問いを立てるか」ということ。一例をお話しすると、本の中にも出てきますが、海洋ゴミをリサイクルすることはできるんですよ。でもそれだけで本当にいいのか。


──一見よさそうに思えますね。


上田:現時点では海洋ゴミのリサイクルはエネルギー負荷も高いし、品質にも課題があります。地上で出るプラスチックゴミと同じように考えてはいけない、ということがあまり知られていません。僕も対馬を取材して、初めて知ったことが多くありました。


「海洋ゴミをゼロにするにはどうすれば良いか」という問いを忘れてしまって、リサイクルすることだけを目的にしてしまうと、そこで思考停止が起きてしまう。より本質的な問いを立てて、何をしなきゃいけないのか、何ができるのかを考えていくことが大事だと思います。


──田口さんはどうですか。


田口:僕はもう12年くらい海に関わる研究、教育活動をしていますけど、長い期間やり続けているのは、 ずっと変わらずに「問い」があるからだということは、間違いないなと思っています。その問いっていうのは「人は海とどう共生していくか」という、ただそれだけなんですよね。


海とどう共生していくかって答えがないので、こうしてみよう、ああしてみようという繰り返しで、それがある種の営みになる。それが、この地域の子どもたちの未来はどうなるのか、というように広がっていくんですよね。


一般社団法人みなとラボ代表理事の田口康大さん


海との共生というと、今は海洋ゴミとか温暖化などの問題が出てきて、それをどうにかしなくちゃ、と。本来海と共生するってことは厳しさもありつつ、豊かで楽しいはずなんですけど、しなければいけない義務みたいになっちゃうと苦しい。海と共生するということは解決すべき問題ではなくて、営みの中で常に何かを作り出していくものだと思っています。


また、海に関する活動っていろいろあるんですが、それに対して批評がないというのも問題だと思っているんですよ。とりあえず問題があるんだから、何かやればいいじゃん、できること一歩でいいじゃんみたいな感じになって、その最初の行動で終わりになってしまう。例えばビーチクリーン活動でゴミを拾ったから終わりというような。


これはよかったけど、あれはもうちょっとこうした方がいいよねというふうに、常に行動に対して批評をすることで、よりよくしていく。そういう議論の蓄積があった方がいいなと思います。


でも議論だけだと、議論が目的のようになってしまうので、大事になるのがやっぱり問いだと思うんです。私たちがなぜ議論しているのかって言ったら、海と共に生きていくためだよねっていう。そうしないと、単に批判し合って終わってしまう。みんなが同じように議論できるのはなぜかと言ったら、海と人との共生という共通の問題に向き合っていくからですよね。なので、その「問いを共有する」ということも大事だと思います。


※記事の情報は2024年10月29日時点のものです。

  • プロフィール画像 上田壮一さん

    【PROFILE】

    上田壮一(うえだ・そういち)
    一般社団法人Think the Earth 理事/プロデューサー。1965年、兵庫県生まれ。東京大学大学院工学系研究科修了。広告代理店勤務を経て、2000年に株式会社スペースポート、2001年にThink the Earth設立。以来、コミュニケーションを通じて環境や社会について考え、行動するきっかけづくりを続けている。主な仕事に地球時計wn-1、携帯アプリ「live earth」、プラネタリウム映像「いきものがたり」、書籍「百年の愚行」、「1秒の世界」、「グリーンパワーブック 再生可能エネルギー入門」ほか多数。2017年にSDGsの教育普及プロジェクト「SDGs for School」を開始し、書籍「未来を変える目標 SDGsアイデアブック」を編集・発行した。多摩美術大学客員教授。
    Think the Earth
    https://www.thinktheearth.net/jp/

  • プロフィール画像 田口康大さん ビジュアルブック「あおいほしのあおいうみ」制作〈インタビュー〉

    【PROFILE】

    田口康大(たぐち・こうだい)
    一般社団法人3710Lab代表理事/東京大学大学院教育学研究科附属海洋教育センター特任講師。
青森県生まれ。秋田県を経て、宮城県仙台市で育つ。東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。2013年、東京大学大学院教育学研究科に特任講師として着任。教育学・教育人間学を専門とし、人間と教育との関係について学際的に研究している。現在は、学校の授業デザインや、学校を軸にした地域づくりに取り組み、新しい教育のあり方を探求している。座右の銘は、ゆっくり急げ(Festina lente)。
    みなとラボ
    https://3710lab.com/

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