【連載】海の生き物たち
2025.08.26
水中写真家:鍵井靖章
〈癒やしの海写真〉観光地、街の近くにある海の景色と生き物たち4選|鍵井靖章
水中写真家の鍵井靖章(かぎい・やすあき)さんの連載第2回は、鎌倉や神戸などの観光地や、街の近くにあり比較的アクセスしやすい海をピックアップしていただきました。身近にありながらもひとたび潜ってみれば、思いがけないほど美しい光景が広がっています。のぞいてみたくなる身近な海とその景色、生き物たちをご紹介いただきました。
写真:鍵井 靖章
三陸、鎌倉、神戸。環境と生き物たちが織りなす美しい景色
①三陸の海の素顔
東日本大震災以降、私は震災で傷ついた海に潜り続けた。それは海の生命や希望を撮影したいから。震災から7年目に出会った景色。色鮮やかなカイメンやイソギンチャク、北方系のサンゴが広がり、その周囲をウミタナゴの群れやムラソイがゆったりと泳いでいた。三陸の海の素顔はこんなにも美しい。この景色を撮影できた時、通い続けた私への海からの贈り物のように思えた。(撮影地:岩手県宮古市)
②鎌倉沖、初夏。活性を始める生き物たち
海の中で漂っていると、「何かボーッと影が見える」と思い、接近すると、それはネンブツダイの大きな群れだった。初夏、水温が上がり始めると、海の生き物たちも活性を始め、とても賑やかになる。(撮影地:神奈川県鎌倉市)
③湘南で会いましょう!
鎌倉、葉山、藤沢など「湘南エリア」の海も実に多種多様な海の生き物に会える。ダイビングはもちろん、潮が引いたタイドプールでのスノーケリングでも、子どもから大人まで十分に楽しめる。写真のアオウミウシは鮮やかな青のボディと黄色の斑点、赤い触角を持つ、最もポピュラーなウミウシ。(撮影地:神奈川県葉山町)
④神戸で海藻浴を楽しむ
人間の生活に近い神戸市にある舞子の海はどんな感じだろう......と期待と不安を抱いて、晩冬期に舞子の海に初めて潜った。ビーチから少し沖合に向かうと豊かな天然のワカメがたくさん繁茂していた。その陰で生き物たちも生活している。地面に散らばるオレンジ色の正体はミズヒキゴカイの鰓糸(さいし)。私はほんのひと時、彼らと一緒に、海藻浴を楽しんだ。(撮影地:兵庫県神戸市)
求めている海は、すぐ身近に存在している
日本国内でおすすめの海は、たくさんある。日本の海はさまざまな海流の影響を受けており、南の沖縄や奄美大島では、ザトウクジラと泳げたり、北の北海道知床では、流氷の下に潜ることもできる。日本は、小さな島国だけど、海の多彩な魅力は他国にも類を見ない。
読者の皆さんの多くはダイバーではないと思うので、ここでは、観光地などの意外な海中世界を少し紹介したいと思う。まずは鎌倉の海、夏は観光客で溢れる湘南の海岸線。海を眺めると、サーファーたちが波乗りを楽しみ、その少し沖では、釣り船が錨泊(びょうはく)し、更に沖合では、数多くのヨットが白い帆を広げ、風を受けている。
一度、釣り船にお世話になり、七里ヶ浜沖の水深約15mの海底で撮影した。そこには多姿多彩のサンゴの仲間が繁茂し、海底を覆い尽くすほどのネンブツダイが群れていた。私は、このような海中世界を求め、インドネシアの秘境などに幾度も赴いた。飛行機を何度も乗り継いで行かずとも、求めている海が、すぐ身近に存在した。
鎌倉在住の私にとって、この海の美しさは、まるで魔法がかかっているように思えた。そして、神戸の海の魅力も知った。春前の舞子の海、海岸からエントリーすると、美しい砂地に見事なワカメが大きく繁茂し、海中に海藻の林をつくっていた。そこには、チヌ、フグ、モクズガニ、ウミウシなどが暮らしていた。
観光地であり、海岸線に隣接した場所に多くの人が住む、いわゆる、人の手の中にある自然、海であっても、美しい景観が存在していることを皆さんに紹介したい。私は、2011年の東日本大震災の直後から、岩手県や宮城県の海に潜り、現在も撮影を続けている。そして、潜り続けて知ったのが、震災を経験した海の素顔の魅力だった。
そこには南国の海にも負けない色彩豊かな世界が広がっていた。カイメンやイソギンチャク、北方系のサンゴなどが海底を彩る。もしも叶うなら、岩手県や宮城県の方にこの郷土の豊穣の海も知ってもらいたい。
鎌倉の七里ヶ浜沖の海中景色。みんなに愛される観光地の海の中はこんなにもカラフル。ほとんど誰も知らないこの事実を、鎌倉好きのみんなに伝えたいような......。自分だけの大切な秘密にしたいような......(笑)。(撮影地:神奈川県鎌倉市)
※記事の情報は2025年8月26日時点のものです。
-
【PROFILE】
鍵井靖章(かぎい・やすあき)
水中写真家
1971年兵庫県生まれ、神奈川県鎌倉市在住。1993年よりオーストラリア、伊豆、モルディブに拠点を移し、水中撮影に励む。1998年に帰国、フリーランスフォトグラファーとして独立。自然のリズムに寄り添い、生きものにできるだけストレスを与えないような撮影を心がける。3.11以降、岩手県・宮城県の海を定期的に記録している。『ダンゴウオ -海の底から見た震災と再生-』『unknown』『不思議の国の海』『SUNDAY MORNING ウミウシのいる休日』他著書多数。 第15回アニマ賞(1998)、日本写真協会新人賞(2003)、日経ナショナルジオグラフィック写真賞優秀賞(2013、2015)受賞。「情熱大陸」「クレイジージャーニー」「探偵ナイトスクープ」「関ジャニ∞クロニクルF」などにも出演。
公式サイト https://kagii.jp/
instagram https://www.instagram.com/yasuaki_kagii/?hl=ja
RELATED ARTICLESこの記事の関連記事
-
- 〈癒やしの海写真〉圧倒的にかわいい海の生き物たち4選|鍵井靖章 水中写真家:鍵井靖章
-
- 「人と海はどう共生していくか」問い続ける先につながる未来 上田壮一さん 田口康大さん ビジュアルブック「あおいほしのあおいうみ」制作〈インタビュー〉
-
- テクニックで自然は撮れない。自然に撮らせてもらうのです。 相原正明さん フォトグラファー〈インタビュー〉
-
- 大気中で起こるすべての自然現象を見て理解して記録して、伝えたい 武田 康男さん 空の探検家〈インタビュー〉
-
- コンブで地球を守る! 横浜のコンブから広がる、環境にも人にもやさしい未来 富本龍徳さん 一般社団法人 里海イニシアティブ理事〈インタビュー〉
NEW ARTICLESこのカテゴリの最新記事
-
- 〈癒やしの海写真〉観光地、街の近くにある海の景色と生き物たち4選|鍵井靖章 水中写真家:鍵井靖章
-
- 映画の中の土木――外からのまなざしで日本を捉えた映画3選 熊本大学 くまもと水循環・減災研究教育センター教授 星野裕司
-
- 〈癒やしの海写真〉圧倒的にかわいい海の生き物たち4選|鍵井靖章 水中写真家:鍵井靖章
-
- 映画の中の土木――ささやかだけど、大切な場所を描いた映画3選 熊本大学 くまもと水循環・減災研究教育センター教授 星野裕司
-
- 国生さゆり|小説を書くことでフラットになれた。デビュー40周年で新しい自分へ 国生さゆりさん 俳優〈インタビュー〉