教育
2024.02.13
立教大学手話サークルHand Shape〈インタビュー〉
大好きな「手話うた」。もっと身近に楽しんでもらえたらうれしい
耳の聞こえない人も聞こえる人も誰もが音楽を楽しめるように、曲の歌詞に手話をつけて歌う「手話うた」。立教大学の手話サークルHand Shape(ハンドシェイプ)では、ひとりで歌うスタイルではなく、複数人でフォーメーションを組んで、まるで劇のように楽しいパフォーマンスに昇華させています。Hand Shape代表の中井真菜実(なかい・まなみ)さん、副代表の塩谷夏実(しおや・なつみ)さんと石井花南(いしい・かな)さんの3名に、サークルの活動内容や手話うたへの思いについて聞きました。
※3名の肩書きは2023年12月の取材時のものです。2024年1月9日に代交代し、3名とも各役職を退きました。
写真:山口 大輝
学園祭で「手話うた」をはじめて見て感動
──まずは、Hand Shapeというサークルの歴史や活動内容について教えてください。
中井さん:立教大学の福祉学科(当時はコミュニティ福祉学科)のメンバーが中心になって、2001年に結成されたサークルです。当初は、手話の劇を上演したり、手話うたの本を編集したりしていたようです。
現在は週2回、昼休みに集まって手話の勉強をしているほか、学園祭や外部イベントなどからお声が掛かったときに手話うたを披露しています。手話の勉強は、3年生が持ち回りで準備しています。NHKの番組「みんなの手話」などを参考にしたり、季節にまつわる単語をみんなで調べたり、手話初心者も多いので、基礎の基礎から楽しく学んでいます。それから、先輩たちが代々作ってきた手話の勉強動画があるので、それをLINEのノート機能で共有して使っています。
──皆さんはどんなきっかけでHand Shapeに入ったのですか。
中井さん:高校2年生の時に見に来た立教大学の学園祭で、Hand Shapeの手話うたをはじめて見ました。ホールで手話うたをやっていて、すごくきれいで感動したことを覚えています。以前から手話は知っていましたが、手話うたはその時はじめて知りました。かっこいい曲から応援ソングまでいろんな曲の手話うたを披露していて、観客との一体感も感じられてすごく楽しかったんです。もともと福祉を学びたいという思いがあったので、立教大学に入ったらHand Shapeに入りたいと思いました。
塩谷さん:私は、祖母が手話通訳士をやっていたので、手話には比較的、親しみがありました。祖母はもともと耳が聞こえにくく、補聴器と読話(相手の口の動きや表情などから言葉を読み取る方法)で会話をしていたのですが、コロナ禍におけるマスク生活で、コミュニケーションの壁をはじめて実感しました。それから、手話についても改めて興味を持ちました。もともと発達障害に興味があったのですが、祖母のこともあり福祉の道に進みたいと思い、立教大学のコミュニティ福祉学部に入りました。Hand Shapeに入ったのは、隣にいる中井さんの影響です。
石井さん:小学生の時に、学校の催しで下級生に「小さな世界」の手話うたを披露する機会があり、その時にはじめて手話うたと出合って興味を持ちました。Hand Shapeに入ったのは、大学入学時にもらったチラシがきっかけです。
──現在、部員は何人いらっしゃるのですか。
中井さん:2023年12月末現在、69人です。大学1年生から4年生まで所属していますが、圧倒的に多いのは1年生です。「silent(サイレント)*1」の影響も大きくて、今年度は特に新入生が多かったです。女子学生が中心で、男子は4人のみです。新座キャンパスには福祉、観光、心理に関する学部があり、キャンパス全体でも女子の方が多いので。
*1 silent:2022年に放送されたテレビドラマ。主人公の元恋人が中途失聴者で、手話によるコミュニケーションを通じて言葉や感情を伝える姿が描かれた。
──新入生はどうやってHand Shapeのことを知るのでしょうか。また、どんなモチベーションで入ってくる学生さんが多いですか。
塩谷さん:コミュニティ福祉学部の年度始めの授業で、いくつかサークルを紹介する時間があるのですが、その時にHand Shapeが手話うたを披露する機会があり、それで知ってくれる新入生も多いです。手話ははじめての学生がほとんどですが、1年生は手話検定を取りたいというニーズがすごくありますね。
全員でひとつのものを作り上げる達成感が楽しさにつながっている
──先ほどから「手話うた」の話がよく出てきますが、Hand Shapeでは「手話うた」に力を入れているのですね。
中井さん:手話うたはすごく楽しいです。みんなで作り上げる感じが大好き。いっぽう、手話はとても奥が深いです。イベントなどに呼んでいただいた時に、ろう者の方とお会いする機会がありますが、実際にコミュニケーションを取ろうと思うとなかなか難しいです。
塩谷さん:私も手話うたが、すごく好きです。以前とあるステージで披露した際に、観客の方から「それってどういう意味なの?」と手話に興味を持っていただいたことがあって、うれしかったですね。
私自身、手話うたをきっかけに、新しい言語を知ることができて楽しいです。手話を勉強するのは、例えば英語を勉強するのと似ているなと思います。単語を知っていても文章にするのは簡単ではなくて、実際に手話を第一言語として生活している方々と話すのは難しいですね。
石井さん:手話うたは全員でひとつのものを作り上げる達成感が、自分の楽しさにつながっているなと思います。みんな授業の合間を縫って練習しているので、なかなかメンバーがそろわないのは悩ましいですが(笑)。
──実際に「手話うた」を見せていただきましたが、ライブ感があってワクワクしました! 「手話うた」をするときに意識されていることはありますか。
中井さん:手話うたでは、パフォーマンス全体の見栄えを意識しつつ、手話がしっかり見えることを大事にしています。その上で、みんなのタイミングがきれいにそろうと「おっ!」とテンションが上がります。聞こえる方にも聞こえない方にも楽しんでいただけるように頑張って練習しています。
塩谷さん:私は手話が音楽やリズムと合っていることよりも、歌詞の意味がしっかり伝わったらうれしいなと思っています。
──手話うたを披露する機会は年にどれくらいあるのですか。披露する曲はどのように選んでいるのでしょうか。
中井さん:だいたい年に3~4回ですが、2023年は少し多くて5回ありました。イベントに合わせて1曲だけのこともあれば、数曲のメドレーにすることもあります。
塩谷さん:曲は、部員から募集した「やりたい曲」を中心に決めています。見ている人に楽しんでいただくのが一番大事なので、それぞれのイベントに来るお客さんの世代も考えて選びます。はやりの曲のほか、ご高齢の方が多いイベントだったら懐かしめの曲を入れたり、子ども向けだったらアニメの曲を挟んだり。
──歌詞に手話をつけるのは、1曲あたりどれくらい時間がかかるものなのですか。
石井さん:1曲2時間くらいでしょうか。手話をつけるのは、コアメンバーが中心になってやっています。まず全体を直訳してみて、歌詞をそのまま手話にすると難しいこともあるので、自分たちなりに解釈して意訳する場合もあります。難しい部分は最後にみんなでアイデアを出し合いながら決めていきます。
──ここ数年は、日比谷音楽祭という大舞台でも「手話うた」を披露されていますね。
中井さん:立教大学のOBで日比谷音楽祭*2の運営に携わっている方がいて、そのつながりでステージに出させてもらうようになったようです。2023年は秦基博(はた・もとひろ)さんのステージで、「ひまわりの約束」の手話うたを披露させてもらいました。
アーティストの方とは一緒に練習する時間がなくほぼぶっつけ本番なので、それも含めてとても緊張します(笑)。ですが、手話って遠いものに感じている方も多いと思うので、いろんな方に興味を持ってもらえたらうれしいです。
*2 日比谷音楽祭:音楽プロデューサーの亀田誠治さんが実行委員長を務める無料の音楽祭。日本の野外コンサートの歴史をつくってきた音楽の聖地「野音」で知られる日比谷公園とその周辺施設で素晴らしい音楽体験ができる、「フリーでボーダーレス」な音楽イベント。
石井さん:日比谷音楽祭は、とにかく熱気がすごいです......!
塩谷さん:観客席の後ろの方で一緒に手話をしてくださっていた方もいて、あたたかい気持ちになりました。一緒に楽しんでもらえることが何よりうれしいです。
今後は後輩たちをサポートする役回り。いろんな縁を大切にしながら活躍してほしい
──皆さんは現在3年生ですが、今後Hand Shapeではどのような活動をされていきますか。
中井さん:2024年1月に代交代があり、今後のサークル運営は次の3年生が中心になります。もちろん私たちも継続してサポートしていきます。これからは、もっとほかの大学とのつながりも増やしていけたらと思っています。手話うたをやっているサークルや団体はたくさんあって、コロナ禍の前は交流があったそうです。また手話サークル同士の横のつながりをつくっていきたいです。
石井さん:サークルの未来を担う後輩たちに、Hand Shapeの手話をしっかり伝えていきたいです。
塩谷さん:ありがたいことに、外部からいろいろお声掛けいただくことも増えてきたので、新しい場所で手話うたを見てもらえる機会をつくっていきたいです。それをきっかけに、たくさんの人に手話や手話うたを身近に感じてもらえたらうれしいですね。いただいたご縁を大切に、後輩たちにも活躍の場を広げていってほしいと思います。
──手話うたの練習も見せていただき、皆さんのひたむきさに胸が熱くなりました。手話うたを披露している時の皆さんはとても表情が豊かで、楽しんでいる気持ちが見ているこちらまで伝わってきます。Hand Shapeの活動を通して、手話うたがより多くの人に届くことを願っています!
※記事の情報は2024年2月13日時点のものです。
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【PROFILE】
立教大学 手話サークル Hand Shape
X:https://x.com/hand_shape
Instagram:https://www.instagram.com/hand_shape_hp/
中井真菜実(なかい・まなみ、写真右)
立教大学コミュニティ福祉学部福祉学科3年。手話サークルHand Shape代表。
塩谷夏実(しおや・なつみ、写真中央)
立教大学コミュニティ福祉学部福祉学科3年。手話サークルHand Shape副代表兼渉外担当。
石井花南(いしい・かな、写真左)
立教大学コミュニティ福祉学部福祉学科3年。手話サークルHand Shape副代表。
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