食
2023.12.19
向井智香さん カップヨーグルト研究会〈インタビュー〉
成分? 食感? 味? 自分に合ったヨーグルトの選び方【ヨーグルトマニア・向井智香さんおすすめお取り寄せも】
身近で奥が深いヨーグルトを「消費者のプロ」として食べ、レビューをブログに投稿し続けている向井智香さん。日本全国のヨーグルトを食べ歩き・お取り寄せし、2023年12月現在の商品レビュー数はなんと2,800種類以上! そんなヨーグルトマニアの向井智香さんに、意外と知らないヨーグルトの基本知識や気軽に買えるおすすめのヨーグルト、お取り寄せして食べたいご当地ヨーグルトについて教えてもらいました。
写真:木村 文平
ヨーグルトの定義と5大分類
──身近な存在のヨーグルトですが、改めて「ヨーグルト」の定義について教えてください。
実は法律上ではヨーグルトっていう定義はなくて、「発酵乳」という種類に当たります。発酵乳は乳等省令によって、動物乳を乳酸菌か酵母で発酵させたもので、生菌タイプでは1mlあたり1,000万個以上の生きた乳酸菌または酵母が含まれるものと決められています。
ヨーグルトには製造方法をベースとした5大分類があって「プレーン、ハード、ソフト、ドリンク、フローズン」に分けられます。
ヨーグルトの5大分類
乳酸菌の種類や発酵によって違いが出る
──製法以外にもヨーグルトの食感を決定している要素はあるのでしょうか。
ヨーグルトの発酵には主にブルガリア菌とサーモフィラス菌という2種類の乳酸菌が使われています。この2つは併用することで、お互いの生育に必要な物質を作り合うため、短時間でヨーグルトが仕上がります。1種類だと発酵がすごく遅くなってしまうんですよ。
乳酸菌にはほかにもたくさん種類があって、固まりやすい菌もいれば、モチモチした食感になる粘りを出す菌もいるし、滑らかでドリンクに向いている菌もいます。菌の組み合わせによって発酵の際にさまざまな食感になります。また、乳酸菌は食感だけでなく酸味や香りも作り出してくれているので、味にも関係しています。
──乳酸菌の組み合わせで食感や風味を決めていくのですね。ヨーグルトの味を決めるベースとなるミルクはどうですか。ミルクによって味も変わりますか。
大手メーカーのヨーグルトは「合乳」といって、無数の牧場のミルクを混ぜ合わせたものを原料としています。また、脱脂粉乳やクリームで成分調整も行うため、年間を通して安定した味が提供されています。
一方、全国各地にある「ご当地ヨーグルト」は、1つの牧場や地域だけのミルクが使用されていることが多いので、季節によって牛のコンディションが違ったり、餌が変わったりして、春夏秋冬で味に差が出るんですよね。夏はすっきり、冬は少しクリーミーに......と、季節の揺らぎを味わわせてくれます。
──地域や季節によって、牛たちが食べる餌も違うんですね。
放牧されている牛だったら、青草を食べる時期はちょっと黄色っぽいミルクを出して、冬に雪が積もって青草がなくなると、干し草をもらってミルクが白っぽくなります。牧草のみで育てられた牛(グラスフェッド)、ミネラルを補給するためにサンゴのパウダーを餌に混ぜてもらっている牛や、オメガ3脂肪酸がたくさん出るように亜麻が餌に入れられていたりと、さまざまです。
牧場ごとに本当にいろんなブランディングをされているんです。だから合乳じゃなくて、牧場単位でミルクを味わうと実はすごく面白いんです。
日本のヨーグルトで出会える乳牛たち
目的に合わせて成分で選ぶ! おすすめヨーグルト
健康食品としての効果も期待されているヨーグルト。スーパーやコンビニで買うことができ、日常に取り入れやすいヨーグルトの中から、おすすめのヨーグルトをご紹介いただきました。
■コンビニで手軽に! タンパク質が多いドリンクタイプのヨーグルト
「NL たんぱく質20gが摂れる のむヨーグルト プレーン低糖質 190g」(ローソン)
高タンパク系の飲むヨーグルトは苦くなったり、成分が沈んで最後ドロドロすることもありますが、これは気にせずに最後まで飲めるところが気に入りました。
製造はチー坊で知られるチチヤス。あのかわいいヨーグルトメーカーが、こんな商品も作るんだってところにちょっと萌えました。「脱脂粉乳」を使っているから脂肪分を気にする方にもいいと思います。
■カップ1つで野菜の栄養吸収・高タンパク質・無脂質を実現
「明治吸収サポート 赤の野菜ヨーグルト」(明治)
野菜もタンパク質も取れて、無脂肪。これ1つで栄養バランスがめちゃくちゃいいですよね。果物も入っているので、食べた時に青臭くないのがうれしいです。にんじん汁が入った黄色、小松菜・ほうれん草の野菜汁が入った緑と食べてみて、私はこのトマトペーストが入った赤が一番好みでした。モモやリンゴの果肉が入っていて、スプーンにまとわりつくようなドロッとした食感で食べ応えのあるヨーグルトです。
■腸活にはこれ! 菌と生乳にこだわって作られたヨーグルト
「腸内活性 ヨーグルメイト プレーンタイプ(90g)」(ニューミクロス)
17種類の菌の中にはヨーグルトにあまり使われないような菌までミックスされていて、口内や小腸、大腸と働く場所が違う多様な菌を、この1つで取れるところがポイントです。特に酸っぱくもなっていないし、おいしいのにこんなに菌が取れるのはすごいなと。崩すとサラサラと飲めそうなほど滑らかな食感のヨーグルトです。
■ビーガンなど乳製品が食べられない方に! 大豆で作られたヨーグルト
「まるごとSOYカスピ海ヨーグルト」(フジッコ)
「カスピ海ヨーグルト」の菌は、酸味がほとんどありません。大豆で酸味が出ると苦手な方が多いんですけど、これは大豆の甘味が引き出されているので、プレーンなんだけど甘味を味わえます。牛乳のヨーグルトではやらないような食べ方として、わさび醤油も合います。湯葉の親戚みたいな感覚で食べられるのが面白いです。
「カスピ海ヨーグルト」の菌がEPSという粘り物質を出すので、もっちりとろーりとしていて、食べ応えもあるヨーグルトです。
お取り寄せしてでも食べたい! おすすめご当地ヨーグルト
ご当地ヨーグルトならではのミルクや乳酸菌、発酵、材料へのこだわりが詰まった、向井さんが今ハマっているヨーグルトを教えてもらいました。
■ミルクと発酵の香りが癖になるもっちり食感のヨーグルト
「フロム蔵王 極(KIWAMI)プレーンヨーグルト(無糖) 600g」(山田乳業)
宮城県の蔵王にある山田乳業のヨーグルトです。選りすぐりの乳酸菌を使用し、低温でじっくり18時間発酵されています。これを初めて食べた時にパッケージを開けて、パッと開いた時の香りがあまりにもよくて、そこからこの香りの虜になっています。
食感はモチモチとしていて、ミルクの味がしっかり濃いです。加糖の商品もありますが、ミルクのうまみをより感じるならプレーンがおすすめです。
■2層のヨーグルトを混ぜて楽しむ
「三朝まぜるヨーグルト(微糖)」(三朝ヨーグルト)
鳥取県の三朝(みささ)温泉街にできたヨーグルト専門店「三朝ヨーグルト」で、牛乳を使った新しい特産品として開発されたヨーグルトです。「白バラ牛乳」という有名な牛乳を原料にして作られています。もっちり感が出る菌とか、香りが出る菌とか、特性の違う発酵のヨーグルトが2層になっていて、2つを混ぜると、もっちりしているのに香りもいい。いいところ取りができることに気づいて、これは考えたなあってすごい感動した商品です。温泉の前後でヨーグルトが食べられるのもうれしいですよね。
■茨城の特産紅はるかのほしいもを使用
「まるでほしいも」(筑波ハム)
茨城県の「筑波ハム」というハム屋さんのヨーグルトです。健康で肉質のよい豚を育てるために開発された飼料に配合される乳酸菌を使っているそうです。ヨーグルトの水分がほしいもにもっていかれて、めちゃくちゃクリーミーで濃い、芋クリームみたいです。とはいえ重たい感じはせず、ふわふわした食感が特徴です。
このパッケージの素朴でちょっとあか抜けないところもかわいいなと思っています。
ヨーグルトは1日に5回
──向井さんのことを少し教えてください。2年ほど前の記事で、ヨーグルトを食べ過ぎてしまうので1日1kgまでと決めていると読みましたが、その習慣は今も続いていますか。
1.5kgになりました(笑)。増えてしまった......。1日に5回食べます。朝ごはんで食べて、そのあとSNSの撮影をしながら食べる時間をつくっています。次にお昼ご飯、おやつ、晩ご飯で計5回です。お店のようににぎやかな冷蔵庫にしていて、その時食べたいものを選びます。ほぼ毎回違うものを選んでいて、1日に10種類弱食べます。
──ヨーグルト好きが高じて、「第1回全国ヨーグルトサミットin小美玉」に登壇したことから、酪農家や乳業メーカーの方たちとも交流が始まり、一次産業のリアルな声も発信されていますが、これまで見に行った酪農の現場で特に印象に残った場所はありますか。
牧場でいうと、東京都八王子市にある「磯沼ミルクファーム」が印象的でした。都内で住宅地も近いので、工場からもらったコーヒーとかカカオのカスを撒いてにおい対策をされていて、牧場に入るとちょっとココアみたいな香りがするんです。そこに牛さんたちが排泄をして、集めて堆肥にして地域の畑に配って。地域で出た野菜くずをもらってきて、それを牛さんが食べるような循環を行っていらっしゃって。地域にある「農」を感じました。
「ヨグネット」でご当地ヨーグルトを広める
──ご当地ヨーグルトの認知拡大・価値訴求を目的に活動する非営利型法人「ヨグネット」を2023年に立ち上げ、代表理事を務めておられます。
ヨグネットは2つの目的で設立しました。1つは「全国ヨーグルトサミット」の運営母体を務めるため、もう1つはご当地ヨーグルトの地位を向上させるためです。
全国ヨーグルトサミットは全国のご当地ヨーグルトが集結する、日本最大級のヨーグルトイベントです。過去3回開催されましたが、全て運営母体が違ったので、前回のノウハウが引き継がれず、毎回ゼロからスタートするしかありませんでした。
そしてなんと4回目に引き継がれないまま3回目の実行委員会が解散してしまって、誰も開催できなくなりました。そこで、全国の乳業メーカーが会員になって活動できる団体をつくろうと立ち上げたのがヨグネットです。
ご当地ヨーグルトは、朝搾ってその日のうちに加工されるミルクの新鮮さとか、厳選した酪農家だけでやっているミルクのクオリティーとか、ミルクにすごくアイデンティティーがあるんですよ。
そこが大手との大きな違いなのですが、あまり消費者に伝わっていない。生乳100%っていってもそれがどういう意味かが分からない。ミルクの価値をちゃんと伝えて、「ご当地ヨーグルト」というカテゴリを認知してもらうことで、ご当地ヨーグルトの価値を伝えることに取り組む団体でもあります。
──ご当地ヨーグルトの価値が広がりにくいのには訳があるのでしょうか。
ご当地ヨーグルトが出始めたのはここ30年ぐらい。生乳の生産量をグラフで見ると飽和状態になるタイミングが90年代にあります。
そこで、ミルクに付加価値を付けないと売れない時代がくるんです。牛乳のままで売っていると、賞味期限も短いですし、差別化がすごく難しい。だから、ご当地ヨーグルトを作って賞味期限を延ばせば、遠くに出荷ができるし、牛乳よりも値段が乗せられる。付加価値を付けるためにご当地ヨーグルトが増えた時代がありました。
ですが2000年代からヨーグルト業界では、菌の持つ機能をうたった商品のブームが訪れます。健康志向の高まりから「腸活」などの言葉も生まれ、ヨーグルトのブランディングは乳よりも乳酸菌に重きが置かれるようになりました。
もちろんそれは素晴らしいことなのですが、地場の小さな乳業メーカーでは独自の菌の研究は行えず、同じ土俵では戦えない。かといってミルクへのこだわりやご当地ならではの魅力的なバックグラウンドストーリーは、菌の機能ほどキャッチーに伝わらない。適切な価格訴求がなくては価格競争の中に埋もれてしまうんです。
──だからこそ、「ご当地ヨーグルト」というカテゴリの地位向上が大切なんですね。向井さんの現在の活動や、今後の目標をお聞かせください。
ヨグネットでは、2023年9月にSDGsをテーマにした「GOOD LIFE フェア」に出展して、全国から集めた12社23商品のヨーグルトを並べて試食を提供しながら、メーカー自身に商品を語ってもらうイベントを開催しました。また個人では、11月に開催された「土日ミルクフェス」にて、全国8カ所のプレーンヨーグルトを食べ比べる企画の商品選定を担当させていただきました。食べ比べのイベントでは、ご当地の名産品が入ったものや発酵の違いとかをテーマにすることもありますが、やっぱり差がしっかり出て面白いのはプレーンですね。
また、12月15日に羽田空港にオープンした「羽田産直館」にて、ヨグネット会員のご当地ヨーグルトのお取り扱いが始まりました。筑波ハムさんの「まるでほしいも」も茨城の名産品として棚を飾ります! 日本各地をつなぐ空港で地域の魅力を発信し、新たな消費を生み出すことを目指しています。
今後も、実際に口にしていただく機会を増やす取り組みと並行して、勉強会やワークショップなども企画したいと思っています。
ヨーグルトの価値を広めると同時に私のことも知っていただいて、ヨグネットという面白い活動をしている団体があることを知っていただけるよう活動しています。ヨグネットの会員が増えたら、第4回全国ヨーグルトサミットの開催を実現したいですね。
◆書籍
「ヨーグルトの本」
向井智香著/エムディエヌコーポレーション
◆ヨーグルトレビュー
──ヨーグルトの味わいを発信するだけでなく、各地域の酪農家・乳業メーカーの魅力の再発見や発信につなげていく行動力に感激しました。ヨーグルトを試食した際の幸せいっぱいの表情からもヨーグルト愛が伝わってきました。ありがとうございました。
※記事の情報は2023年12月19日時点のものです。
※追記:2024年8月15日に再編集しました。
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【PROFILE】
向井智香(むかい・ちか)
2011年、「パルテノ」(森永乳業)をきっかけにヨーグルトの沼にハマる。
日本全国のヨーグルトを食べ歩き・お取り寄せしながらブログを運営し、2023年12月現在、約2,800種類の商品レビューを掲載。
大手メーカーからご当地ヨーグルトまで網羅する膨大なヨーグルトデータベースに、工場・牧場見学などの知見も交えて、講演会や食べ比べワークショップを開催し、ヨーグルトのファンづくりに励む。
メディア出演、商品開発サポートやレシピ開発、イベント企画などを行うほか、ご当地ヨーグルトの認知拡大、特に「乳」の魅力発信に力を注ぐ。
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