【連載】食べて、学んで、楽しめる!道の駅
2024.05.21
守屋之克
地域産品で町おこし。ご当地の"おいしい"が詰まった道の駅3選
その土地の文化や歴史に触れ、食をはじめとするさまざまな体験が楽しめる「道の駅」。この連載「食べて、学んで、楽しめる!道の駅」では、道の駅キュレーターの守屋之克(もりや・ゆきかつ)さんに、道の駅の多様な魅力をご紹介いただきます。第1回のテーマは「地域産品で町おこし」。ご当地ソフトクリームも必見です!
はじめまして、道の駅キュレーターの守屋之克です。
道の駅は、全国に1200カ所以上ありますが、ただの農産物販売所ではなく、実はそれぞれ設置目的も特徴も異なります。私は長年、全国の道の駅の特徴や場所を紹介する専門誌の編集長を務めてきましたが、現在は「道の駅キュレーター」と名乗って、その魅力をもっと整理して編集し、さまざまなメディアで発信しています。
自らも道の駅のトリコになって全国を巡ってきた経験を基に、この連載では「創造力を刺激する道の駅」をテーマに、さまざまな角度からキュレーションしてみたいと思います。第1回は、地域産品を活用した町おこしに取り組んでいる3つの道の駅をご紹介します。
1年を通じて約30種類のトマトが並ぶ「道の駅つの」
宮崎県都農(つの)町。山と海に囲まれた自然豊かな土地で、初代天皇・神武天皇がご祭神を祀(まつ)ったとされる、歴史ある都農神社もあります。「都農ワイン」で知られるブドウの栽培も盛んですが、都農を語る上で忘れてならないのが「トマト」です。
トマトというと夏野菜の印象がありますが、「道の駅つの」では1年を通じておよそ30種類のトマトが店頭に並びます。品種によって形、色、大きさはさまざまで、もちろん味も特徴的。全国有数の長い日照時間も手伝って、県内有数のトマト生産地になっています。
そのトマトを使った、道の駅でしか買えない人気の土産が「トマトひねり揚げ」。ひねり揚げにトマトパウダーをまぶしたシンプルなお菓子ですが、これがクセになる味わい。フワッとトマトの風味が感じられる、迷ったらコレ!の一品です。
さらに、ご当地ソフトクリームもトマト。フルーティーな味わいですが、後味は不思議なことにトマト。ちなみに刺さっているのは、先ほどのひねり揚げです。初めて見る方はびっくりするかもしれない、面白い見た目ですが、これが味の良いアクセントになっていて、塩味が入ることで更に甘さが引き立ちます。ぜひ現地で味わってほしいですね。
「道の駅つの」のように農産物の生産から加工、販売まで道の駅が関わるケースは全国で増えていて、「1次産業(農林漁業)×2次産業(加工)×3次産業(販売・サービス)」の掛け合わせで新たな価値を生み出すことから、6次産業化と呼ばれています。
ゆずで地域を活性化!「道-1グランプリ」3連覇のラーメンも食べられる「道の駅もてぎ」
地方の限られたリソースの中で取り組みを維持していくのは大変ですが、イノベーションを繰り返しながら価値を生み出して成功している例に、栃木県茂木町の「道の駅もてぎ」があります。
1996年に開業した「道の駅もてぎ」は、地域に新たな息吹をもたらしました。その一翼を担う「もてぎ手づくり工房」では、地元の恵みを生かした商品開発を行っています。先ほどの2次産業に当たる部分を道の駅の機能として持っているのが特徴ですね。特に、工房の名声を高めたのは「ゆず」の存在です。
茂木町は、かつては葉タバコの生産が盛んな土地でした。専売公社もあり、農家は大いに潤いましたが、1977年に公社が移転したのを機に生産量は激減。一転して過疎化と田畑の荒廃に直面します。
地域の活力が失われていく中で、町内の山内・元古沢地区で始まったのがゆずの栽培です。傾斜地でも栽培可能で、手間がかからないゆずは、地域おこしの象徴となり、町外の人々がゆずの木のオーナーとして参加する制度も導入されました。
道の駅の工房では、秋になるとゆずの圧搾がピークを迎えます。苦みを出さないよう手動の圧搾機を使い、手間をかけ丁寧に手搾りされた果汁は、ゆず本来の香りと酸味を保ちます。農家が生産したゆずは全量、道の駅が買い取っているのも驚きです。この果汁を使い「ゆずドレッシング」「ゆずポン酢」「ゆず塩だれ」などの商品が作られ、地域の特産品としての地位を確立しています。
中でも「もてぎのゆず塩ら~めん」は、道の駅内のラーメン店「十石屋」で提供され、道の駅のグルメ王を決める「道-1グランプリ」で3連覇を達成し、殿堂入りを果たしました。鶏と豚ベースのスープに「ゆず塩」とゆず果汁、皮を加え、地元産の新鮮な野菜と合わせて、さっぱりとした味わいを楽しめます。さらに食べている途中でオリジナルのゆず酢を一垂らしすると、ゆず風味が増していっそう食欲をそそります。
この成功はほかの商品にも波及し、町内産のコシヒカリを自家製粉して作った米粉バウムクーヘンや、イチゴやブルーベリーを練り込んだアイスクリームが人気を博しています。さらに、道の駅で農業法人を立ち上げ、農園の運営をはじめ、収穫した農産物を道の駅に供給するなど、地域全体での連携を図っています。まさに道の駅の存在が、地域活性化に大きく貢献している良い例ですね。
お茶で一点突破! 「道の駅お茶の京都みなみやましろ村」
5月。新茶の香りとともに、日本全国の茶どころが活気に溢れています。そんな中、京都府唯一の村、南山城(みなみやましろ)村にある「道の駅お茶の京都みなみやましろ村」は、ひときわ異彩を放つ道の駅として注目を集めています。
京都府は全国4位の茶栽培面積を誇る、まさに"お茶の京都"。宇治茶に代表される、銘茶を生み出すこの地において、府内有数の茶の生産量を誇る南山城村は特別な存在です。しかし、面積のおよそ7割が山林という厳しい自然環境と、2,500人にも満たない人口、主要産業がお茶のみという状況の中で、村は過疎と高齢化という課題に直面していました。
そんな南山城村のピンチをチャンスに変える鍵となったのが、まさに「お茶」でした。道の駅は、村の存続をかけた「お茶の一点突破」戦略を展開します。
建物の中を見渡せば、目に飛び込んでくるのはお茶を使った商品たち。そのほとんどが、道の駅オリジナルで開発されたものです。高価な抹茶を贅沢に使ったプリンやパウンドケーキ、レストラン自慢の抹茶そばなど、その種類は枚挙にいとまがありません。その人気ゆえに、繁忙期には生産が追い付かないこともあったほどです。
一体なぜ、ここまでお茶が多くの人を魅了するのでしょうか? その秘密は、ひと口食べれば誰もが納得します。例えば、道の駅の人気商品である「村抹茶ソフトクリーム」。濃厚な抹茶の香りと、ほろ苦さが絶妙なバランスで口の中に広がり、上からかけられた抹茶シロップがその美味しさをさらに引き立てます。まさに、一度食べたら忘れられない至福の味わいといえるでしょう。
「茶処の余裕」と自称するこちらの道の駅は、春摘みの貴重な抹茶を使用するなど、原材料を一切妥協しません。色や甘味料でごまかすことなく、素材本来の味を最大限に引き出すことに徹底的にこだわります。その結果、抹茶をはじめ、ほうじ茶、紅茶、煎茶など、季節限定商品を含めた豊富な品揃えが実現しました。常に新しい商品開発にも積極的に取り組み、訪れるたびに新たな発見と感動を与えてくれます。
「お茶しかなかった」という状況を逆手に取った「南山城村に行けば、美味しいお茶が楽しめる」というコンセプトは、大きな成功を収めました。道の駅は単なる観光スポットではなく、お茶を通じて地域の魅力を発信する拠点として、多くの人々に愛されています。
そして同時に、それは南山城村の茶農家にとっても大きな支えとなりました。道の駅を通して安定した販売ルートを確保することで、茶農家は安心して茶葉栽培に専念することができます。こうして道の駅が、地域活性化と村民の暮らしを守るという、2つの大きな目標を達成したといえます。
新茶の季節、京都を訪れる際は、ぜひ「道の駅お茶の京都みなみやましろ村」に足を運んでみてください。五感で感じるお茶の魅力と、南山城村の温かいおもてなしにきっと心を奪われることでしょう。
※記事の情報は2024年5月21日時点のものです。
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【PROFILE】
守屋之克(もりや・ゆきかつ)
道の駅キュレーター。地図会社ゼンリン発行の「道の駅旅案内全国地図」の編集長を2006年から2021年まで務め、全国の道の駅の特色や魅力を発信。誌面の編集だけに飽き足らず、プライベートでも愛車の軽キャンピングカーで現地に足を運ぶ。2022年に独立。「道の駅キュレーター」と名乗り、道の駅の専門家としてテレビ、ラジオなど多数のメディアに出演。念願だった全駅走破も果たし、その数は1200駅を超える。
■X(旧Twitter):https://x.com/moriyayukikatsu
■YouTube: https://www.youtube.com/channel/UC5dzBUllIgFMBHVZMn607gQ (道の駅兄弟)
■Stand FM:https://stand.fm/channels/61f11851299c4d500504ac1e (道の駅 for the Day)
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