食品ロスの半分は家庭から出ている! 個人でできる対策とは?

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井出 留美さん 食品ロス問題ジャーナリスト〈インタビュー〉

食品ロスの半分は家庭から出ている! 個人でできる対策とは?

物価の高騰が続き、日々の食費もますます家計を圧迫する中、多くの家庭で発生している小さいようで大きな問題「食品ロス」。日本全体での食品ロスによる損失は年間4兆円ともいわれており、その約50%は、企業が関わる生産、流通過程ではなく、家庭で発生しているという調査結果もあります。そこで、環境保護の観点からも現代社会の大きな課題となっている現状について食品ロス問題ジャーナリストの井出留美(いで・るみ)さんにインタビュー。食品ロスの現状や、今日から簡単に実践できる家庭での食品ロス削減のアイデアをうかがいました。

文:丸本 大輔 写真:木村 文平

4兆円分の食品ロスの半分は家庭で発生

──まずは「食品ロス」という言葉の定義について教えていただけますか。


食品ロスとは、まだ食べられるにもかかわらず、さまざまな理由で捨てられてしまうものを指します。国によって少し定義は違いますが、日本の場合、「可食部」といって食べられる部分だけが該当し、例えば、魚の骨やリンゴの芯などの「不可食部」は含みません。畑などでつくられた食物が収穫されて運ばれ、製造、卸し、小売を通して消費者にまで至る。その一連の流れを鎖に例えて「フードサプライチェーン」と呼びますが、日本の食品ロスは、このフードサプライチェーンで発生する食べられる部分のロスのことを指しています。


──食品ロスは、フードサプライチェーンのさまざまな段階で起こっているわけですね。


はい。2023年度の数値ですが、日本の場合、年間464万トンの食品ロスが発生しています。また推計値ではありますが、そのうち半分が企業側、もう半分が消費者側で発生しているという調査結果もあります。


■食品ロスの発生量の推移



■家庭系食品ロスの発生要因の内訳(2022年度推計値)


環境省「我が国の食品ロスの発生量の推計値(令和4年度)の公表について」を元に作成


――半分は、家庭で捨てられていることに驚きました。


人によって、その意識は大きく違うので、家庭での食品ロスについて、まずは意識をしてもらうことが、食品ロスの削減に向けた第一歩だと思っています


──食品ロスが増えることで、どのような問題が起きるのでしょうか。


大きく3つあると思っています。1つ目がお金の無駄です。日本では、1年間で4兆円分の食品が廃棄されています。さらに、ごみを捨てると処理をするのにもコストがかかります。環境省が毎年3月末に発表している一般廃棄物の処理コストが2兆円以上となっています。


2つ目は、環境に負荷をかけること。例えば、日本の場合、ごみの8割くらいは燃やしているんですね。すると、大量の二酸化炭素が発生して、気候変動や自然災害につながりかねません。読者の皆さんも、最近の夏の暑さを実感されているのではないでしょうか。食品ロスをすることで、毎年、最高気温を更新するような気候変動に加担してしまいます。そして、3つ目が、社会のいろいろなチャンスを失っているということ。


──具体的には、どのようなチャンスを失っているのですか?


先ほど、日本は年間4兆円を無駄にしていると言いましたが、もしこれが失われなかったら、もっと有用なこと、例えば、教育、医療、福祉などに使えるわけですよね。もちろん、雇用にも使えます。それらを失ってしまっているのは、社会全体での大きなロスだと思います。


──ネットの記事などで「フードロス」という言葉を見かけることもあるのですが、「食品ロス」とは、意味合いが異なるそうですね。


そうなんです。FAO(国際連合食糧農業機関)の定義では、先ほどお話ししたフードサプライチェーンの前半、消費者に到達する前の段階で発生するものを「フードロス(Food Loss)」、後半の小売店や飲食店、家庭などで発生するものを「フードウェイスト(Food Waste)」と呼んでいます。英語では、日本の「食品ロス」に当たるものは、「Food Loss & Food Waste」、略して「FLW」と書いたりします。そのため、厳密には「食品ロス」と「フードロス」は異なるものを指します。





美味しさの目安「賞味期限」は、短く書かれている

──家庭で、特に食品ロスが起こりやすい食品や、起こりやすい原因などはありますか。


10年以上前ですが、農林水産省が調査をした時、食品ロスの筆頭は、野菜でした。ハウス食品グループも何度か調査を行っていますが、やはり1位は野菜です。種類別の順位は、年によって違いましたが、水分量の多いキュウリやレタスなどが、上位でしたね。


写真:Ven1431/Shutterstock.com


――水分量が多い野菜の方が傷みやすいのでロスも多くなるのですね。


あとは、最近でこそ価格が上がりましたが、野菜は、肉などに比べると、全般的に価格が安めですよね。そのため、つい買いすぎて冷蔵庫の中で腐らせてしまうことが多くなります。


──日本で4兆円もの食品ロスが発生しているのは、不景気とはいえ、比較的、豊かな国だからでしょうか。


食品衛生や食品の安全について、非常に細かく意識する傾向があることも関係していると思います。私が以前勤めていた食品メーカーはアメリカに本社があり、世界180カ国に展開していました。さまざまな国とやり取りをする中で、日本が最も厳しいと言っても過言ではありませんでした。たとえば、日本で消費者から届いたクレームをアメリカに報告すると、「それが、なぜ?」という反応で、まったく問題にされないこともありました。あとは、「賞味期限」と「消費期限」を誤解している人も多いと思います。


──具体的には、どう違うのでしょう?


消費期限は、時間が過ぎると品質が急激に劣化するもの、例えば、おにぎりやお弁当、サンドイッチ、お刺身などに表示されているものです。これは、表示された期限をしっかり守った方がいいんです。しかし、大抵の加工食品に付いているのは賞味期限で、これは美味しさの目安。食品業界の人は知っていますが、実際の期限よりも短く表示されているんです。たとえば10カ月間美味しく食べられるカップ麺があっても、企業は賞味期限を10カ月には設定しません。企業ごとに異なる安全係数という数字を定めていて、0.8とか0.7、中には、0.3を掛けて表示するんです。


──0.3の企業の場合、10カ月は美味しく食べられるはずの食品に、3カ月の賞味期限が設定されているわけですね。


それは特に短い例ですが、大体、2割以上は短くなっています。メーカーとしては、リスク回避のために短く設定する傾向があります。でも、今年(2025年)の4月、食品ロスを削減するという観点から、日本の政府が、安全係数をできるだけ「1」に近づけましょうというガイドラインを発表しました。


──食品ロス削減に向けて、政府も動いているのですね。ちなみに、井出さんは、どのような経緯で、「食品ロス問題ジャーナリスト」としての活動を始めたのですか。


食品メーカーで広報をしていた2003年頃から講演をする機会があって、当時は、食育や栄養バランスなどの講演をしていたんです。その後、2008年からそのメーカーがフードバンク(食品メーカーの規格外品などを引き取り、必要な人や施設に無償で食料を提供する団体)に寄付するようになってからは、食品ロスの講演が増えていきました。そこで、先ほどお話ししたような食品ロス問題について話していたのですが、もう講演だけでは"間に合わない"と思って、本を出版することにしました。


──「間に合わない」とは?


講演に来てくださるような人は、元々、そういった問題に意識の高い人たち。私が本当に伝えたい方々には、なかなか届かないと感じていました。それに、講演依頼をすべて受けていたら、声が出なくなったこともありました。本であれば、自分が休んでいる時も誰かに読んでもらえると考え、2016年に「賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか」という最初の本を出しました。





家庭での食品ロス削減は、買い物前が勝負

──井出さんは、2019年に施行された「食品ロス削減推進法」の成立にも関わられているそうですね。


そうですね。偶然もあるんですけど。2016年の1月くらいに、国会議員の竹谷とし子(たけや・としこ)さんから「今年は、食品ロスをテーマに講演をやっていきたいので、一緒にやってください」 と声をかけていただいて。都内7カ所で巡業講演みたいなことをやったんです。多くの方にご来場いただき、とても手応えを感じた講演でした。ちょうどその年の2月3日にフランスで世界初の食料廃棄を禁止する法律が制定されたんです。


その影響もあって、日本でも食品ロスに関する法律をつくろうという気運が高まっていき、翌年の2月、議員会館に呼ばれて、具体的に法案にどんな内容を入れたらよいのかというプレゼンテーション的なことをしました。国会議員の人が用意した叩き台のようなものがあったので、それに対する要望などを伝えた形ですね。その後、合意形成にはさまざまな困難がありましたが、2019年5月24日にようやく成立し、10月1日に施行されました。


──食べ残し持ち帰りや食品寄附などのガイドラインを内包した食品ロス削減のための法律がつくられたのは、大きな前進ですね。


日本の企業は、良くも悪くも法律を遵守しようとする傾向があります。ただ、フランスや中国の食品ロス問題の法律は、違反するとペナルティーがあるし、イタリアの場合は食品ロスを減らしたら税制で優遇されるんです。日本には、そういうことが決まっていないので、廃棄した場合には不利益が生じ、廃棄を減らした場合にはメリットが得られるような仕組みにしてほしいと考えています。


──まだ、改善の余地もあるわけですね。


とはいえ、日本の場合、法律が施行してから5年ごとに改正のタイミングがあって。先ほど、お話しした賞味期限に関するガイドラインも施行から5年目の2024年12月に発表されたんです。他にも食べ残しの持ち帰りに関するガイドラインも今年の4月にできました。


──家庭での食品ロスを減らすために心がけるポイントなどはありますか。


基本的には、買い物前が勝負です。これは、コロナ禍に気づいたことですが、2020年に、オーストラリア、イギリス、アイルランドなど、いろいろな国で家庭の食品ロスが減る傾向が見られました。その理由は、コロナ禍でスーパーなどでの買い物が制限されたため、消費者が買い物前に家の在庫をチェックし、何が何個あるか、期限はいつまでか、何がどれだけ必要かを買い物メモにまとめるようになったからです。そうやって、消費者の行動に変化が出た結果、食品ロスが減りました。


──無駄なストックをせず、必要なものだけを買うようになったのですね。


一例ですが、以前新聞で見た60代女性の投書には、(コロナ禍で)買い物に行きづらくなったから、家にある野菜を使い切るようにしたら食品ロスが減ったし、家計の食費が30%減りました、と書かれていました。


──食費30%減は大きいですね。その他にも、家庭での食品ロス削減にオススメのノウハウがあれば教えてください。


講演でよく紹介するのは、お腹が空いている時に買い物へ行くと無駄遣いをしてしまうという話です。ミネソタ大学の研究者によると、お腹が空いていると、買い物が64%増えるらしいんです。だから、ご飯を食べてから買い物に行くのもよいと思います。


買った後のことでいえば、レトルトのカレーやパスタソースなど、同じものが複数ある食品の場合、期限が迫っている方を手前に置いて保管し、手前から使う。 冷蔵庫も同様で、牛乳が2、3本ある場合は、期限が近いものを手前に並べておきます。スーパーやコンビニでは当たり前のことですが、家庭では意外と実践されていないことが多いですね。


──たしかに、つい手前のものから食べたり、飲んだりしてしまうことは多いです。


あと、家庭の中で多いのが、「過剰除去」といって、食べられるところまで捨ててしまうこと。以前、男性料理研究家の方が、ピーマンを包丁で切ったりせず、そのままグシャッと手で潰して。それと鶏のもも肉も一緒に甘辛く炒めていたんです。


──豪快ですね。


そうすると、ヘタも種も全部食べられるんですよ。調理も楽ですしね。あと、長芋って表面に毛(ひげ)があるじゃないですか。以前は、私も皮と一緒に剥いていたんです。でも、そこも食べられると知って、試しに皮付きのままでさいの目切りにして、甘辛く炒めたら、違和感もなくそのまま食べられました。そんな風に、何となくそう思い込んでいたとか、昔、そう教わっただけで、実は、美味しく食べられる部分は、調べると他にもいろいろあると思います。


あと、食品ロス問題の取材でお会いした方の中で、実際に購入される方も多いのが、家庭用の生ごみ処理機です。今、日本の市区町村の55%で助成金制度があって。私の場合は、2017年に2万円ちょっとのものを半額補助の1万円ぐらいで購入できました。生ごみを処理機で乾燥させることで、約70%も重量を減らすことができました。これは、本当に買って良かったと思っています。


井出さんご自身が使用されている生ごみ処理機


より手軽に購入できるものですと、すでに使っている方も多いかもしれませんが、エチレンガス*を吸収するタイプの野菜保存袋は、非常に効果的です。以前、チンゲンサイを使って実験したのですが、チンゲンサイをそのまま野菜室に1カ月入れておくと、ミイラのようにカラカラになりました。でも、野菜保存袋に入れたチンゲンサイは、2、3枚葉っぱが黄色くなっただけ。根っこの方まで水分が保たれていて、問題なく食べられました。


*エチレンガス:野菜や果物などが発する植物ホルモンの一種で、野菜や果実の追熟(老化)を促す。




食品ロスの削減は、日々の小さな行動の改善から

──家庭用の生ゴミ処理機を導入すると、どのような利点があるのですか?


生ごみは、放っておくと腐敗するし、特に夏場は匂いの問題もある。それに、小バエも飛んでくる。それらが、全部解消されます。(乾燥式の生ごみ処理機の場合)熱風で乾かすため、匂いもなく、むしろ香ばしい香りになります。生ごみはほとんどが水分であることを実感するほど量が減り、元の30%程度になるため、ごみ出しの回数も減ります。私はマンション暮らしなので、これも嬉しいことです。


よく電気代のことを聞かれますが、そんな膨大な電力を使うものではありません。家族の人数とごみの量によっても変わりますが、我が家では、1回15円くらい。1カ月に10回使っても150円くらいです。それに、私は環境保護のことを考えて、100%自然電力の会社に切り替えているし、ベランダで太陽光発電も併用しています。興味がある方は、インターネットで、お住まいの市区町村と家庭用生ごみ処理機を入力して調べると、助成金制度があるのかはすぐに分かります。


私は野菜の皮などはベジブロスという野菜のだしに使って、その後生ゴミ乾燥機で乾燥させてから、コンパクトなコンポストで堆肥にしています。



──井出さんの著書に書かれていた、買い物をするのは1週間のうち2日だけで、あとの5日は冷蔵庫などに収納したものを出して食べていく、「2入5出の法則」も面白いなと思いました。冷蔵庫や棚の中って、「減らすぞ」と思わないと、いつまでも残っているものがありがちなので。


その方のお住まいの環境などにもよるんですけどね。車などでまとめ買いができる方、食材の配達を利用している方は、「2入5出の法則」をやりやすいです。でも、例えば、スーパーがすぐ近くにある方は、あまり買いすぎないようにして、スーパーを冷蔵庫だと思って、必要な食材を必要な時にこまめに買う方が食品ロスを減らすことにつながるかもしれません。


――「スーパーを冷蔵庫だと思う」というのは、とても面白い発想ですね。最後に、食品ロスを減らしたいと思っている方に向けて、改めて、アドバイスをいただけないでしょうか。


私は自分でやってみて、意外と精神面への影響も大きいと思いました。冷蔵庫の中で、野菜を腐らせたことが何度もあったのですが、その罪悪感が知らず知らずのうちに積み重なり、なんとなく気分が沈んでしまうのです。でも、冷蔵庫の中をきれいに整理するとか、野菜保存袋を使うとか、いろいろな工夫をしていくと、本当に小さいことが自信につながっていって、清々しい気持ちになれます。日々の暮らしの上でも、仕事の上でも、自分の気持ちをどういう風に保つかは大きいこと。やはり、気分が沈んでいると、本来の能力を十分に発揮できないものです。お金の節約はもちろん、そういった精神面への影響も含めて、必ずご自身にメリットがあると考え、ぜひ取り組んでいただきたいと思います。


スタンフォード大学の教授も言っていますが、本当に大きな改革を目指すのであれば、日々の小さな行動の改善からやっていくことが一番。手の届く範囲のことを積み重ねていくことで、やがて大きな成果につながります。日々の小さな行動を大切にし、その意味を信じて、まずは何か1つ行動してみてください。


※記事の情報は2025年7月15日時点のものです。

  • プロフィール画像 井出 留美さん 食品ロス問題ジャーナリスト〈インタビュー〉

    【PROFILE】

    井出 留美
    ジャーナリスト
    奈良女子大学食物学科卒業。博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、JICA海外協力隊、日本ケロッグを経て、3.11の東日本大震災の食料支援が廃棄されていることに衝撃を受け誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力。政府・企業・国際機関・研究機関のリーダーによる世界的連合Champions12.3メンバー。著書に『食べものが足りない!』『SDGs時代の食べ方』『捨てないパン屋の挑戦』『食料危機』『あるものでまかなう生活』『捨てられる食べものたち』『食品ロスをなくしたら1か月5,000円の得!』『賞味期限のウソ』などがある。

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