大阪・関西万博にて。長寿化する世界の"幸福"とは?

【連載】人生100年時代、「生き甲斐」を創る

小田かなえ

大阪・関西万博にて。長寿化する世界の"幸福"とは?

人生100年時代、「あなた」はどう変わるのか。何十年も前から予測されていた少子高齢社会。自分に訪れる「老い」と家族に訪れる「老い」。各世代ごとの心構えとは? 人生100年時代をさまざまな角度から切り取って綴ります。

人生100年時代を多角的に学ぼう

さて、万博である。皆さんはもう行きましたか? これから? それともネットやニュースで楽しむ? 私はスポーツ音痴なのでオリンピックはテレビの解説付きを好むのだが、博覧会系は現地で観たいタイプ。


とりわけ万博は特別で、1970(昭和45)年の大阪万博には子どもの頃とても行きたかった......でも連れて行ってもらえなかったという寂しい記憶がある。なぜかと言えば、大好きだった元グループサウンズの王子様が大阪在住なので、あわよくば万博のついでに彼の家を探しに行きたいと......しかし親はそんなことお見通しで、万博見学は却下されてしまったのだ。そりゃそうだ。


その王子様はもう亡くなってしまったけれど、それでも大阪万博への憧れは色褪せることなく続き......ってスミマセン、そんな話はさておいて、2025年の大阪・関西万博に行ってきました。


数カ月前からホテルを予約し、1カ月前には新幹線のチケットも買い、開幕券をスマホに入れてスタンバイ。新幹線の車内で食べるお弁当までチェックしたりして。


出不精の私にとっては遠い大阪なのだが、荷物は極めて少なく身軽。だって大阪だもん、何かが足りなくても困らない......といういい加減な考えが後に祟るなんて知る由もなし。


兎にも角にも、せっかく行くのだから単なる物見遊山で終わらせちゃイカンのだ、仕事メインでしっかり学んでくるぞと意気込みMAXの私であった。


2025年の万博メインテーマは【いのち輝く未来社会のデザイン】《格差や対立による新たな社会課題を抱えながらも、AIやバイオテクノロジー等の科学技術の発展によって人々が長寿化するなかで「幸福な生き方とは何か」を問う》というもの。


「人生100年時代」と題したエッセイを綴る身としては、知っておくべきことがたくさんあるに違いない。長寿社会のさまざまなことを、あらゆる角度から勉強しようと出かけた。




目の前に広がる圧巻の未来都市「ウエルネススマートシティ®」

私がとくに興味を持ったパビリオンは、「人生100年時代を、すまいで支える」というキャッチフレーズでたくさんの木造住宅を建てている飯田グループホールディングスと大阪公立大学の共同出展館。飯田グループホールディングスの森和彦(もり・かずひこ)名誉会長にお声がけいただいており、早速パビリオンへと向かった。


かなり早い段階から万博関連の記事などに掲載されていた"万博のシンボル"ともいうべき真っ赤な西陣織のパビリオンは、西ゲート近くに威風堂々と建っていた。


その名も「サステナブル・メビウス」。すべての「いのち」あるものがあたり前に幸せに暮らせますように......輝く 「いのち」への想いと希望を、持続・循環・継承・進化を象徴する「メビウスの輪*1」 のかたちに託した......そんなパビリオンである。


*1 メビウスの輪:細長い帯を1回ねじって両端をはり合わせたときに、表裏の区別ができない連続面となっている図形。永遠や無限、輪廻などを象徴する存在とされている。


見学したのは4月半ばの開幕週で、比較的空いていると予想されていた頃。たしかに入場ゲートでも並ばず、私は5月を思わせる青空の下、パビリオンに向かった。


万博会場が全体的に空いている時期とはいえ、さすがに「サステナブル・メビウス」の前は予約した人たちで長蛇の列。


私も入場予約をしていたが、森名誉会長に「着いたら電話してください」と言われていたのでご指示に従ったところ、その人混みのなかを御本人が迎えに出て来てくれた。ダークスーツにパビリオンと同じ西陣織の真っ赤なネクタイ。おしゃれだ。


程なく、もうひとりお揃いのネクタイをした方がいらっしゃって、お名刺を頂戴した。建物のなかを案内してくださる廣川敦士(ひろかわ・あつし)館長である。私も名刺を出そうとバッグを開け、漁り、掻き回して、ハタと気がつく。
「すみません、万博に来るのが嬉しくて名刺を忘れました、オダカナエと申します」
......嗚呼、情けなや。荷物を減らし過ぎて名刺入れも置いてきたというブザマな事態。後悔先に立たず。


気を取り直して館内へ進むと、うわぁ、そこには巨大なジオラマが!


それは飯田グループホールディングスが考える未来都市「ウエルネススマートシティ®」だった。1/80スケールでも全長24m、驚きの大きさで広がっている。ひときわ目を引くのが木造と思しき2棟の超高層ビル。
「あのツインタワーは木造ですか?」
「ええ、木材は大気中の二酸化炭素を炭素として貯蔵し続けるんです」


そういえば、万博会場の大屋根リングについて調べていた際も類似のことを聞いた。
・木材はサステナブルな素材である。
・今、大規模な木造建築への注目が高まっている。
・日本には千年以上前に建てられた木造建築が現存し、木造の技術も非常に高い。


「木造住宅は鉄骨プレハブ住宅や鉄筋コンクリート住宅と比べて約4倍の炭素を貯めます」
「では一般の住宅だけでなく、木造の高層ビルもたくさん建てればいいわけですね?」
「ところが、そう簡単ではないんですよ。木造でビルを建てるためには、鉄の5倍の強度があるセルロースナノファイバーという高性能補強材が必要なんですけれど、製造コストが高い。今、それを安くする研究をしているところです」
......ふむふむ、1日も早く実現するように祈ろう。


ところでジオラマをよく見ると、小さなクルマがウィンカーを出しながら走っている。
「このクルマはエネルギーがなくなると自分でチャージしに行くんですよ」
「えーっ、なんか可愛いですね」
「ジオラマ全体が、隣の管理棟の実証実験で得られたエネルギーを使っています」


"隣の管理棟の実証実験"というのは、なんと人工光合成の技術! 太陽光を使ってCO₂からギ酸をつくり、そのギ酸から水素を生成してエネルギーにするというもの。


パビリオン内には人工光合成の過程を図に表してわかりやすく説明したボードも掲示されているので、行かれる方はじっくりご覧あれ。


平日の午後だったせいか子どもは少なかったが、5月の連休や夏休みには、この人工光合成で動くジオラマの周囲に子どもたちが群がるであろう様子が目に浮かんだ。




「ウエルネス・スマートハウス®」でいのち輝く

もうひとつ特記したいのが会場内に展示されている「ウエルネス・スマートハウス®」である。


一見するとスタイリッシュな新築住宅という感じで、家具もデザイン性が高く、メディカルな雰囲気はどこにもない。しかし、この家にはAIのウエルネスドクターが実装されているのだ。 「トイレでは便を乾燥させて粉末にし、自動的に袋詰めします。それを検査することで、住んでいる人の腸の弱いところはどこか、どんなサプリが合うか、どんな食品を食べれば良いかなどがわかるんです」 「それはいいですね。高齢者は食が細くなりやすいから、効率的に栄養を摂れますよね」


ほかにも約20㎡ある舌の表面積*2をウエルネスドクターが解析して身体の状態を見極める鏡など、朝の身支度の時間にできるチェック項目がいろいろ。それらのチェックアップゲートを毎日通れば、フレイル*3などの未病の段階で不調がいち早く見つかり、早期に治療を開始できる......まさに「ウエルネス100年®」を叶えてくれる住宅と言えよう。


*2 舌の表面積:舌は舌乳頭と呼ばれる数多くの小さな突起があり、その表面積は非常に大きいとされている。

*3 フレイル:病気ではないが、年齢とともに筋力や心身の活力が低下し、介護が必要になりやすい、健康と要介護の間の虚弱な状態のこと。


さて、ウエルネス・スマートハウス®を出ると、これまでの展示内容をまとめた映像が流れる広場に着く。ここで使われているスクリーンが、なんと日本初の超大型ワイド16K!! 鮮やかで美しい画面に見入ってしまう。


「このスクリーンは高精細・広色域映像なんですよ、きれいでしょう? 」
「はい、すごくクリアですね......これでQueenや Led Zeppelinのライブを観たいなぁ」
未来都市を観ながらクラシックロックバンドに想いを馳せる不謹慎なワタクシ。言わなきゃ良かったと思っても手遅れだ。
「そうですね、そういうのも良いと思いますよ」
私よりだいぶお若い廣川館長が微笑んでくださった。


ところで、人生100年時代とは、平均寿命が延びて"100歳まで生きるのが当たり前になる時代"のことである。うちの母のようにたまたま100歳になっちゃった人が増えてきたという現状では、まだ本当の意味での人生100年時代とは呼べないはずだ。


そもそも、今の100歳は健康ではない。愚母は「まだ歩けるなんて素晴らしいですね」と褒められるが、だからと言ってひとりで買い物に行かれるわけではないし。


また、人生100年時代で健康以外にもうひとつ重要なことがあるとしたら、それは経済力だろう。100歳でも元気に暮らせるなら65歳や70歳で退職するのは早すぎる。


近い将来ウエルネス・スマートハウス®が実現した場合は、90歳で転職したり、100歳で起業したりする人も出てきそう。


実はこれ、私の妄想ではないのだ。数年前の話だが、近所の知人と立ち話をしていたとき、驚くべき話を聞いた。
「80歳の女友達が昔の職場の人に頼まれて再就職したのよ!」
「えええーっ!?」
......すでに時代は少しずつ変化しているのかもしれない。


さて、見学が終わり、ウエルネススマートシティ®全体を見下ろせるティールームで、森名誉会長にお茶をご馳走になった。


エネルギーが循環する仕組みを学んでから細部を見ると、ますます未来が身近に感じられる。機能的で新しく、しかもなんて美しい街なんだろう!


余談だが、我が母の姉である伯母も100歳まで生きた。もし今が本当の意味での人生100年時代だとしたら、伯母と母は今も一緒に旅行や観劇を楽しんでいるに違いない。


仲の良い姉妹だったふたり、できることなら眼下に広がる未来都市に生まれ変わり、100歳オーバーになっても仲良く遊んで暮らして欲しい......1200年の伝統を誇る西陣織と最先端テクノロジーが融合したパビリオンの中で、私はSF小説のような夢を見ていた。


※記事の情報は2025年5月27日時点のものです。

  • プロフィール画像 小田かなえ

    【PROFILE】

    小田かなえ(おだ・かなえ)

    日本作家クラブ会員、コピーライター、大衆小説家。1957年生まれ、東京都出身・埼玉県在住。高校時代に遠縁の寺との縁談が持ち上がり、結婚を先延ばしにすべく仏教系の大学へ進学。在学中に嫁入り話が立ち消えたので、卒業後は某大手広告会社に勤務。25歳でフリーランスとなりバブルに乗るがすぐにバブル崩壊、それでもしぶとく公共広告、アパレル、美容、食品、オーディオ、観光等々のキャッチコピーやウェブマガジンまで節操なしに幅広く書き続け、娯楽小説にも手を染めながら、絶滅危惧種のフリーランスとして活動中。「隠し子さんと芸者衆―稲荷通り商店街の昭和―」ほか、ジャンルも形式も問わぬ雑多な書き物で皆様に“笑い”を提供しています。

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