「シンガーが、あえて歌わなかった曲」

OCT 23, 2019

旅行&音楽ライター:前原利行 「シンガーが、あえて歌わなかった曲」

OCT 23, 2019

旅行&音楽ライター:前原利行 「シンガーが、あえて歌わなかった曲」 ゼロから何かを生み出す「創造」は、産みの苦しみを伴います。いままでの常識やセオリーを超えた発想や閃きを得るためには助けも必要。多くの人にとって、創造性を刺激してくれるものといえばその筆頭は「音楽」ではないでしょうか。新企画「創造する人のためのプレイリスト」は、いつのまにかクリエイティブな気持ちなるような音楽を気鋭の音楽ライターがリレー方式でリコメンドするコーナーです。

ふだんは歌うシンガーやアーティストが、あえてインストゥルメンタルで表現した曲たち

ポップスの世界では、曲といえば歌が中心だ。有名アーティストならばその絶対的な説得力で歌を歌い、それを引き立たせるサウンドと共に私たちに届けてくれる。ところがそんなアーティストやパフォーマーたちが自らの一番の武器である歌を封印し、あえてインストゥルメンタル(以下インスト)で発表した曲がある。それはクリエイターにとって、いつもと違う手法を使うことで、新たな表現を模索することなのだろうと僕は考える。

今回はできるだけ歌ものの有名なアーティストの中から、インストが中心となる曲をセレクトしてみた。インストがもともと中心のアーティストや、単に楽器のソロを収めたもの、曲の繋ぎ的なものは入れず、あくまで歌心があるものにした。( )は邦題。



1. Song For Guy(ソング・フォー・ガイ)/Elton John
1978年に発売されたアルバム「シングル・マン」のラストナンバー。6分半のうち、歌らしきものが入るのは5分を過ぎた最後のみ、それも「人生・すべて・ではない」と3つの単語をエルトンがつぶやくように繰り返すだけなので、ほぼインスト曲と言っていいだろう。そのリリカルなメロディとは対照的に、この曲はバイク事故により17歳で亡くなった彼のメッセンジャーボーイに捧げられたもので、エルトンは"自分の死"を想像しながら書いたという。死に対する思いは、言葉では表現できなかったのだろうか。イギリスではシングルカットされ、チャートの4位にまで上がった。

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2. In Memory of Elizabeth Reed(エリザベス・リードの追憶) / Allman Brothers Band

もともとインスト部分が多い同バンドの曲を選ぶのはやや反則だが、許してほしい。同バンドには「Jessica」というインストの代表曲があるが(これも女性の名)、想像力を刺激するこちらを選んだ。この曲も"死"に関係がある。バンドのギタリストであるディッキー・ベッツが川沿いの墓地でデートしている時に作った曲だが、タイトルに自分の彼女の名をつけるわけにいかず、そこにあった墓碑名から取ったというのだ。確かにミステリアスでダークな曲調からすると、この曲の女性はもう亡くなっていると思う方が正しいかも。歌はないが十分ドラマチック。初出はセカンドアルバムの「アイドルワイルド・サウス」収録のものだが、有名なのはフィルモア・イーストのライブ盤の方で、13分と長い演奏。演奏が長いぶんだけ、より私たちをドリーミーな異世界に連れて行ってくれる。曲のタイトルとなったエリザベス・リードの墓があるのは、ジョージア州メイコンのローズ・ヒル墓地だ。その後、この墓地にはデュアン・オールマン、バリー・オークレー、グレッグ・オールマンとバンドの3人も葬られたのも因縁か。

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3. Albatross(あほうどり)/Fleetwood Mac

ブルースバンドだった頃のフリートウッド・マックが1968年に出したシングルで、イギリスではチャートの1位を記録。タイトル通り、あほうどりが海の上をゆったりと飛ぶ姿がイメージされる名曲。ピーター・グリーンのギターもいい。歌がない方が、情景が浮かぶと思ったのだろうか。湿ったヨーロッパ的なイメージの曲だが、元ネタと言われるChuck Berryの「Deep Feeling」を聴くと、やはりブルースが下敷きとなっているのがわかる。逆にこの「Albatros」から生まれたのがビートルズの「Sun King」(1969年「アビーロード」収録)だ。こちらは完全にインストではないが前半はインストに近く、「Albatross」によく似ている。

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4. Marwa Blues(マルワ・ブルース) / George Harrison

ジョージ・ハリスンは名ギタリストだと、一般には思われていないのかもしれない。しかしテクニシャンではないが、とても歌心があるギタリストだと思う。特に後年のスライドギターは絶品で、彼の歌と同じニュアンスを醸し出している。これは並大抵のギタリストではできない技だ。ハリスンの遺作となった2002年の「Brainwashed」に収められたインストナンバー「Marwa Blues」もそんな作品で、インドの旋律を取り入れたメロディからもジョージの人間性が伝わってくる。まるでジョージの歌声が聴こえてくるようだ。病気の中で録音されたこの曲は、2004年のグラミー賞最優秀ポップ・インストゥルメンタル賞を受賞した。

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5. Marooned(孤立)/ Pink Floyd

歌心があるギタリストとして、ジョージ・ハリスンと並んで好きなのがピンク・フロイドのデヴィット・ギルモアだ。ボーカリストとしてもいい味を出すギルモアだが、ここでは1994年のアルバム「対/TSUI」に収められたインストの「Marooned(孤立)」を聴いてほしい。聴いてすぐにギルモア節とわかるほど、彼のギターはよく歌っている。宇宙から見た地球や荒廃したチェルノブイリの町でロケしたPVもいい。1995年のグラミー賞で最優秀ロック・インストゥルメンタル・パフォーマンス賞を受賞した。

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6. Speed of Life (スピード・オブ・ライフ)/David Bowie

名盤と誉れの高い、ベルリン3部作の第1作目「ロウ」のオープニング曲。デヴィッド・ボウイ作品にしては半分以上がインストやインスト色が強い曲で占められており、特にB面は大作「Warszawa」から始まるインスト面になっていると異色のアルバム。ボウイはそのキャリアの中では、結構インスト曲も作っている。ただしボーカルがないからといって長いソロが入るわけでもなく、この「Speed of Life」のようにリフ的なメロディで押し切るのだが、それが心地よい。そしてどの曲からも、知的なアートの香りがしてくるのがボウイならではの持ち味だ。この曲が絵画なら、現代美術館のポップアート部門に飾られそうなサウンドだ。

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7. Celtic Excavation (ケルティックの遺跡)/Van Morrison

北アイルランド出身のベテランシンガーVan Morrisonも、アルバムでは多くのインストナンバーを残している。彼の場合、ギターの他にサックスも吹くので、歌よりもサックスの方がうまく表現できる曲があるのだろう。彼の吹くサックスは上手いのか上手くないのかちょっと微妙なのだが、フレージングそのものは彼の歌そっくりで味がある。ここでは1987年のアルバム「Poetic Champions Compose」から「Celtic Excavation」を紹介したい。

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8. Ecstasy Of Gold(黄金のエクスタシー)/ Metallica

メタリカファンにはおなじみ、コンサートのオープニングにも使われるこの曲は、セルジオ・レオーネ監督の傑作ウエスタン「続・夕陽のガンマン」のクライマックスの決闘シーンで流れる曲だ。オリジナルはオーケストラとスキャットが美しいが、このメタリカのバージョンでは激しいものになっている。でも、十分、歌心があるのがわかるはず。2007年のエンニオ・モリコーネのトリビュート盤に収録。

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9. Let's Go Away For A While(少しの間)/The Beach Boys

コーラスワークが美しいビーチボーイズだが、歌がまったく入っていなくても美しい曲がある。これはブライアン・ウィルソンが作ったわずか2分20秒の小品だが、もうこれに何も付け足す必要がない。メロディと言うより、様々な楽器が絡み合って作り出す音世界が素晴らしい。惜しいのは、もっと聴きたいのにフェードアウトしてしまうことだ。1966年にリリースされた傑作「ペット・サウンズ」の中の一曲だが、「ペット・サウンズ」再現コンサートでは省略せずに演奏されていた。

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  • プロフィール画像 旅行&音楽ライター:前原利行

    【PROFILE】

    前原利行(まえはら・としゆき)
    海外旅行ライター&編集の仕事以外にも、映画や音楽、アート、歴史など海外カルチャー全般に興味を持ち、執筆している。世界史オタク。最近では海外での音楽フェスと美術館巡りにはまっている。

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