「絵でも表現する音楽家たち」

FEB 18, 2020

旅行&音楽ライター:前原利行 「絵でも表現する音楽家たち」

FEB 18, 2020

旅行&音楽ライター:前原利行 「絵でも表現する音楽家たち」 ゼロから何かを生み出す「創造」は、産みの苦しみを伴います。いままでの常識やセオリーを超えた発想や閃きを得るためには助けも必要。多くの人にとって、創造性を刺激してくれるものといえば、その筆頭は「音楽」ではないでしょうか。新企画「創造する人のためのプレイリスト」は、いつのまにかクリエイティブな気持ちになるような音楽を気鋭の音楽ライターがリレー方式でリコメンドするコーナーです。

楽器や声だけでなく、絵でも表現する音楽家たち

音楽創作の傍ら、趣味で絵を描く音楽アーティストは少なくない。なかには本職顔負けのアーティストもいて、個展を開くもの、あるいは自分のアルバムのジャケットを自ら描いたりするものもいる。そう考えると、彼らの作り出す音楽も絵画に影響を受けた、絵画的なものかもしれない。また音楽で表現できない部分を、絵画で補完しているともいえよう。そしてそれがまた刺激となって、創作活動に影響を与えるのだ。


今回はジャンルも異なる5人のアーティストを選び、主に自身がアルバムジャケットを手がけたものから2曲ずつ選んでみた。



1. マイルス・デイヴィス 「カム・ゲット・イット」スターピープル



マイルスが精力的に絵を描きだしたのは1980年の復帰以降だという。もっとも1970年の代表作「ビッチェズ・ブリュー」の時に、すでに現代絵画のようなフィーリングを感じていたのは僕だけだろうか。マイルスが描くのは、自画像から前衛的なもの、アフリカ的なもの、イラスト的なものまでさまざまだが、派手な色使いが特徴だ。

アルバムジャケットに最初に自身の絵が使われたのが、1983年の「スターピープル」だ。音楽を演奏する3人を描いた線画で、ピカソのキュビズムのようでもあり、アフリカの民俗画のようでもある。色はおそらく後から付けたのだろう。他愛ないイラストかもしれないが、復帰後のマイルスは当時こんな気分だったのだ。曲はアルバム1曲め「カム・ゲット・イット Come Get It」。ライヴ音源だが、演奏当時23歳のマーカス・ミラーほか新生マイルスバンドの勢いを感じる。

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2. マイルス・デイヴィス「ラバーバンド」ラバーバンド



2019年に突如として発売されたマイルスの"新作"アルバム「ラバーバンド」からタイトルトラックを。これは1985年に試験的にレコーディングされたが結局没になったアルバムで、ジャケットの絵はマイルスによって当時描かれたものと言う。バックトラックはおそらく相当差し替えられたし、マイルスがOKした演奏ではないので、これをマイルスの"新作"と純粋に喜んでいいのか"AIひばり"ぐらい微妙だが、ファンはそれでもマイルスの音が聴けるのはうれしい。このジャケットのマイルスの絵も、サウンドに合っていてなかなかのもの。ちなみにマイルスの絵を生で観たければ、1990年にマイルスがこけら落としで出演した東京目黒のジャズクラブのブルースアレイに飾ってある。


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3. ジョニ・ミッチェル「青春の光と影」青春の光と影



ポピュラーミュージック界で、画家としても高く評価されているのがジョニ・ミッチェルだ。その腕前は、アルバムパッケージでグラミー賞を受賞したこともあるほど。ジョニの絵はその音楽と同様に、非常に理知的な感じがする。デビューから自分が描いた絵をジャケットに使っていたジョニだが、有名なのは1969年のセカンドアルバム「青春の光と影(Clouds)」の自画像だ。このアルバムの収録曲、ジュディ・コリンズの歌でヒットした「青春の光と影」は、かつて見ていたように世界を見ることがもうできなくなった自分を客観的に見つめた歌詞だ。すべてのものに両面があることを知り、世界が単純でなくなったことに気づく。少女から大人に成長した25歳のジョニがこちらを見つめている。

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4. ジョニ・ミッチェル「青春の光と影」ある愛の考察~青春の光と影



さて、この名曲を2000年にジョニはオーケストラをバックにセルフカバーしている。30年経ち、かつての少女は大人になり、同じ歌を別のニュアンスで伝えている。こちらのアルバム「ある愛の考察~青春の光と影」のジャケットも自画像だが、やはり視線はこちらに向いている。そして前と同様にアルバムの最後をこの曲で締めている。年齢を重ねた分、味わいは深い。

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5. ボブ・ディラン「ウィグワム」セルフ・ポートレイト



2020年には9度目の日本ツアーを行う、アメリカポピュラーミュージック界の巨匠ボブ・ディラン。すべての公式アルバムを持つ大ファンの僕だが、彼の絵がうまいとは思っていない。ただし歌と一緒で、味があるといえばある。ディランは今もツアーの合間にコンスタントに絵を描き続けており、時おり個展を開いているようだ。僕も六本木で2010年に開かれたディランの絵の販売会に行ったことがある。

ディランが自分の絵をジャケットに最初に使ったのは、1968年のザ・バンドのアルバム「ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク」だが、自身のアルバムジャケットを飾ったのは1970年の「セルフ・ポートレイト」だ。ここではタイトルそのままに自分の自画像を描いている。自画像とはいえ、それはピカソというかモディリアーニというか、本人にまったく似ていないヘタウマ画。選曲はカバー中心で、しかも軟弱なポップスを気持ちよさそうに歌い、ファンを困惑させた。シングルカットされたこの曲は歌詞がなく、ディランが鼻歌を歌っているようなものだが、まあそれもディラン。


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6. ボブ・ディラン「プリティ・サロー」アナザー・セルフ・ポートレイト



2013年に発売された「セルフ・ポートレイト」のアウトテイク集「アナザー・セルフ・ポートレイト」の収録曲で、2分ほどの短い曲だが、情感たっぷりに弾き語るディランの歌心はすばらしい。ここでディランは再びジャケットに新しい自画像を描いた。以前とタッチは違うが、これも別人かと思うほどまったく似ていない。ただし画集などを見ると、風景画などはしっかり描いていて下手ではないことはわかる。


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7. デヴィッド・ボウイ「アートの時代」ロウ



アートの香りがするロックミュージシャンといえばその筆頭がデヴィッド・ボウイだろう。このインスト曲の「アートの時代」は、1977年の"ベルリン時代"の傑作アルバム「ロウ」の中の小曲だが、現代絵画に音をつけたような仕上がりだ。「ロウ」「ヒーローズ」と言ったこのころのボウイはアルバム全体にアート、とりわけ20世紀前半の絵画の香りがプンプンしている。ボウイが描く絵はその性格もあるのだろうが、パッションで描くというより、音楽同様にスタイルを考えてから描いてるような作品が多い。音楽のスタイルが変わる時期は、絵の作風もそれに合わせて変わってきているようだ。


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8. デヴィッド・ボウイ「ハーツ・フィルシー・レッスン」アウトサイド



1995年、ボウイはベルリン時代以来久々にブライアン・イーノと組み、猟奇殺人をテーマしたコンセプトアルバムの構想を練った。アルバム「アウトサイド」は5部作の1枚目として作られたが、売れ行きも評判もいまひとつで、結局この計画は1枚で中止になった。アルバムのジャケットはボウイが描いた自画像「Head of DB」をもとにしており、ボウイもデザインに監修した。サウンドは当時流行ったナイン・インチ・ネイルズなどインダストリアルロックの影響を受けた暗いものだ。ここからシングルカットされたこの曲は、映画「セブン」のエンディングテーマにも使われた。


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9. ザ・ストーン・ローゼズ「アイ・ウォナ・ビー・アドアード」ザ・ストーン・ローゼス



最後にイギリスのバンド、ザ・ストーン・ローゼズを紹介しよう。この曲は1989年に発表されたバンド名をタイトルにしたファーストアルバムの1曲目だ。このアルバムは大ヒットしたばかりでなく、のちのブリットポップやオルタナに大きな影響を与えた名盤だ。ジャクソン・ポロック風のジャケットの絵は、バンドのギタリストであり、ソングライターでもあるジョン・スクワイアによるもの。自らジャケットを手がける音楽家はいるが、抽象画は珍しい。これはフランスの五月革命をモチーフにしたもので、絵に輪切りのレモンを三つ、そして左端にはフランス国旗の三色を描いたインパクトのあるものになっている。


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10. ザ・ストーン・ローゼズ「ラヴ・スプレッズ」セカンド・カミング



セカンドアルバムでラストアルバムとなった1994年の「セカンド・カミング」からのシングルで、音楽性がツェッペリンやブルースロックを感じさせるように大きく変わり、この曲はヒットしたがアルバムは当時酷評された。このアルバムのジャケットもジョン・スクワイアによるコラージュ風のもの。1996年にジョン・スクワイアはバンドを脱退。まもなくバンドは解散する。ボーカルのイアン・ブラウンは今もソロで活動を続けているが、ジョン・スクワイアはバンドやソロ活動、ザ・ストーン・ローゼズ再結成など音楽活動もするが、作品展で来日もしているほど現在は画家としての活動が中心となっている。


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それでは次回の「創造する人のためのプレイリスト」もどうぞお楽しみに。

  • プロフィール画像 旅行&音楽ライター:前原利行

    【PROFILE】

    前原利行(まえはら・としゆき)
    海外旅行ライター&編集の仕事以外にも、映画や音楽、アート、歴史など海外カルチャー全般に興味を持ち、執筆している。世界史オタク。最近では海外での音楽フェスと美術館巡りにはまっている。

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