【連載】創造する人のためのプレイリスト

ミュージック・リスニング・マシーン:シブヤモトマチ

創造するマルチプレーヤーたち

ゼロから何かを生み出す「創造」は、産みの苦しみを伴います。いままでの常識やセオリーを超えた発想や閃きを得るためには助けも必要。多くの人にとって、創造性を刺激してくれるものといえば、その筆頭は「音楽」ではないでしょうか。新企画「創造する人のためのプレイリスト」は、いつのまにかクリエイティブな気持ちになるような音楽を気鋭の音楽ライターがリレー方式でリコメンドするコーナーです。

マルチプレーヤーは、裏切らない?

じつはワタクシ、昔から応援しているプロ野球チームがありまして、そこに昨シーズン途中、「長打力抜群、守備も投手・捕手以外ならどこでも守れる」というふれこみでメジャー・リーガーがやって来たんですね。貧打チームの救世主と期待されての入団でしたが、蓋を開けてみるとデビューこそ派手に決勝ホームランを打ったものの、その後内野守備ではエラーを連発。やがて調子を落として二軍に落ち、あっという間に帰国してしまいました...。
彼の「どこでも守れる」は"誇大広告"だったわけですが、本当なら複数のポジションを守れるプレーヤーはチームにとってありがたい存在のはず。基本的な技術が高く、さまざまな守備位置で経験を積んだ彼らは試合全体の読みに優れ、概してチームワークにも長けていると聞きます。野球やサッカーに限らず、仕事の場面でもいますよね、そういう器用な人。


ということで、今回注目するのは音楽の世界の「マルチプレーヤー multi-instrumentalist」です(ご安心ください、やっと音楽の話になりました!)。複数の楽器を高い技巧とセンスで演奏し、幅広い音楽知識とマルチな視点から自らの音楽世界を創造するソングライターたちを紹介します。マルチプレーヤーというと皆さんはどんな人を思い浮かべますか? ちょっと前なら、ピアノ、ハーモニカ、ドラム、ベースなどを自由自在に操るスティーヴィー・ワンダー、一人マルチ録音のトッド・ラングレン、あるいはプリンスやポール・マッカートニーといった人たちでしょうか。最近の日本でも、人気の星野源はギター、ピアノ、ヴィブラフォンなどさまざまな楽器を演奏しますし、南米にも驚くような才能がたくさんいます。


これは個人的な感想ですが、複数の楽器をハイレベルで演奏するアーティスト=マルチプレーヤーが創る作品は曲想がバラエティ豊かで、多彩な角度から曲やサウンド全体に目配せができる分、楽曲全体のバランスが良い感じがします。マルチプレーヤーにはプロデューサー的な資質も自然に備わるのかもしれないな、なんて思ったり。映像制作も含めたトータルプロデュースが求められる現代とは、ある意味でマルチプレーヤーの時代と言えるのかもしれませんね。


今回は、最近話題のマルチプレーヤー、それも音楽評論家やコアな音楽ファンにも注目される「通好み」なアーティストの曲を中心に集めてみました。創作のBGMや気分転換に、どうぞご一緒にお楽しみください。



1. Jacob Collier 「Hideaway」
まずは、ジェイコブ・コリアー(Jacob Collier)。歌手、アレンジャー、作曲家、プロデューサー、マルチ楽器奏者(すでに肩書きが多い!)、1994年生まれという若いアーティストです。イギリスの音楽一家に生まれ、幼い頃から多くの楽器に触れ、作曲能力を身につけた彼は、自分の部屋ですべての楽器の演奏、歌唱、多重録音を行い、映像を制作。動画サイトに配信するとたちまち注目されました。ジャズやブラックミュージック、キューバ音楽、さらにはビート・ミュージック、ミュージカルやクラシックにも影響を受けたその音楽は、クインシー・ジョーンズ、ハービー・ハンコック、チック・コリアといった大御所にも絶賛され、グラミー賞を獲得するなど高い評価を受けています。
まずは彼の曲「Hideaway」を聴いてみましょう。歌唱の素晴らしさとともに、そのマルチ奏者ぶりが感じられる映像です。やや長めの曲ですが、楽器構成がさまざまに変化する04:30から05:30あたりが見どころです。

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2. Jacob Collier 「Jacob Collier performing on HARRY」

もう一本、彼のライブパフォーマンスの凄さがわかる動画をご紹介します。ハリー・コニック・ジュニア(Harry Connick Jr.)がホストを務めるテレビ番組出演時の映像ですが、リアルタイムでヴォーカル、フレーズ、リズムを重ね、一人でバンドサウンドとコーラスを再現しています。数年前に初来日した時にライブを見に行きましたが、マジックのようなステージで、しかも音楽のクオリティーが素晴らしく驚愕しました。
オフステージの彼は、一見どこにでもいる若者のようですが、そのオープンマインドな人柄、明晰な話しぶりにも感心した覚えがあります。最近では3Dスクリーンと複数の楽器演奏を駆使したソロステージやオーケストラとの共演など新しい試みを続けており、今後どこまで大きな存在になっていくのか楽しみなアーティストです。



3. Mocky 「"Whistlin"」

モッキー(MOCKY:本名はドミニク・ジャンカルロ・サロレ)はカナダ出身のアーティスト。作曲家、アレンジャー、プロデューサーであり、ベース、ドラム、ピアノ、ギターを演奏し、ミキシング、プログラミングまで一人でこなすマルチプレーヤーです。お洒落なのに親しみやすく、また洋の東西、時代や空間、国境や文化を軽々と越えていくその音楽性はミュージシャンやDJから一般のリスナーまで多くの人の耳を惹きつけています。そんな彼のマルチプレーヤーぶりがわかるミュージックビデオがこちら。なんともいえない浮遊感というか、肩の力が抜けたサウンドがイイですよね。

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4. Anderson .Paak 「The Bird」

数年前にグラミー賞の2部門にノミネートされるなど活躍がめざましい、ラッパーでシンガーソングライターのアンダーソン・パーク(Anderson .Paak)。元々ドラマーとしてキャリアをスタートさせた彼は、ドラムを叩きながら歌うこともあり、マルチな才能を見せてくれます。この曲は、2016年発表のセカンドアルバム「Malibu」の1曲目。ゆったりとしたテンポのバラードですが、その中にもソウルやファンク、ヒップホップ、ジャズ、ダンスミュージックなどのさまざまな現代の音楽の要素が垣間見られます。彼がドラムを叩きながら歌う映像もいろいろありますので、よかったらチェックしてみてください。

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5. Antonio Loureiro 「Livre (single)」

ここで、ぜひ紹介したい現代のマルチ・インストゥルメンタリストがいます。ブラジルの新世代シンガーソングライター・マルチ奏者のアントニオ・ロウレイロ(Antonio Loureiro)です。ヴォーカルの他、ピアノ、ヴィブラフォン、キーボード、ドラムス、ベース、アタバキ、ヴィオラなどの楽器を自ら演奏するマルチ奏者として活動しながら、現代ジャズ・ギター界の「皇帝」と呼ばれるカート・ローゼンウィンケルのアルバム「Caipi」に曲を提供、バンドのドラマー兼パーカッショニストとしても世界ツアーに同行しています。現代ブラジルのトップ・ピアニストの一人であるアンドレ・メマーリとのコラボレーションなど、今、世界的に注目を浴びる天才音楽家です。彼の名前で検索していろいろな動画をチェックしてみてください。欧米だけではなく、世界には凄いミュージシャンがいることに気づくはずです。

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6. Moonchild 「Be Free」

さて今度は趣向を変えて、マルチプレーヤーが集まったグループを紹介しましょう。ムーンチャイルド(Moonchild)は、南カリフォルニア大学で出会った3人により結成。ソウル、ジャズ、エレクトロニックが融合した音づくりと、ヴォーカルのアンバーのメロウな歌唱で幅広いファンを持つLAのジャズ&ネオ・ソウルの人気バンドです。メンバーは、アンバー・ナヴラン(Amber Navran:ヴォーカル、サックス、フルート)、マックス・ブリック(Max Bryk:サックス、キーボード)、アンドリス・マットソン(Andris Mattson:トランペット、キーボード、ギター)。現代的なビートに乗せて、ステージ前方で奏でる三管のアンサンブルはライブでの見どころの一つ。ここでは、メンバー3人の管楽器プレイが聴ける曲「Be Free」をお聴きください。

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7. Terrace Martin 「All I Own」

テラス・マーティン(Terrace Martin)は1978年ロサンゼルス生まれの作曲家・プロデューサーで、サックスとキーボード奏者でありラッパー。ケンドリック・ラマーをはじめとする数々のビッグネームたちのプロデューサーを務めながら、自らも演奏・制作するマルチプレーヤーです。プロデュースしたアルバムはグラミー賞やピューリッツァー賞も受賞。ジャズとR&B/ヒップホップを繋ぐ存在として現在の米国のミュージックシーンで最も重要なアーティストの一人と言えるでしょう。まさにマルチなタレントの持ち主です。

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8. Cuco 「Keeping Tabs (feat. Suscat0) 」

2019年にデビューアルバムが出たばかり。米国西海岸を拠点に活動するメキシカン・アメリカンのシンガーでありマルチ・インストゥルメンタリストのクコ(CUCO:本名はオマール・バノス)。ラテン系の両親の影響で多様な音楽を聴いて育った彼は、ギターに続いてドラムやベース、キーボード、トランペットやフレンチ・ホルン、メロフォンなどの演奏を学び、音源制作を開始。またジャズ・バンドの活動をスタートさせました。まだ20歳そこそこの若さです。MOCKYとはまた別種の親しみやすいメロディーとヴォーカル、ローファイな音響、その音楽性は癖になりそうな魅力があります。

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9. Louis Cole 「Thinking (short song)」

ルイス・コール(Louis Cole)は、LAを拠点に活動するシンガーソングライター、プロデューサーであり、ドラマー、マルチプレーヤー。エレクトロ・ポップ・ユニット、ノウワー(KNOWER)のメンバーとしても知られています。南カリフォルニア大学でジャズを学んだ彼は、自身のソロ活動と並行してさまざまな人気アーティストに楽曲を提供。ドラマーとしても、ブラッド・メルドー(Brad Mehldau)やラリー・ゴールディングス(Larry Goldings)といった現代最高峰のジャズミュージシャンらと共演するテクニシャンでもあります。この曲「Thinking」を一軒家でビッグバンドとセッションした、ちょっとユーモラスな映像がネットで一時話題になりました。よかったら検索してみてください。

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10. Prince & The New Power Generation 「Diamonds And Pearls」

特集のラストはこの人。やはり外せませんね。急逝して数年が経ちますが、真のアーティストであり、時代の開拓者でした。最後に、彼の数多くの名曲の中から私の大好きな曲をかけさせてください。前半ピアノ、後半はエレクトロニック・ギターを演奏し歌う殿下。その姿は永遠です。

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次回の「創造する人のためのプレイリスト」もどうぞお楽しみに。


※記事の情報は2019年12月19日時点のものです。

  • プロフィール画像 ミュージック・リスニング・マシーン:シブヤモトマチ

    【PROFILE】

    シブヤモトマチ
    クリエイティブ・ディレクター、コピーライター。ジャズ、南米、ロックなど音楽は何でも聴きますが、特に新譜に興味あり。音楽が好きな人と音楽の話をするとライフが少し回復します。

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