【連載】創造する人のためのプレイリスト

スーパーミュージックラバー:ケージ・ハシモト

うちで作った! #StayHome Music

ゼロから何かを生み出す「創造」は、産みの苦しみを伴います。いままでの常識やセオリーを超えた発想や閃きを得るためには助けも必要。多くの人にとって、創造性を刺激してくれるものといえば、その筆頭は「音楽」ではないでしょうか。「創造する人のためのプレイリスト」は、いつのまにかクリエイティブな気持ちになるような音楽を気鋭の音楽ライターがリレー方式でリコメンドするコーナーです。

外出を自粛している時だからこそ、うちで音楽を楽しむためのプレイリスト

新型コロナウィルスの感染防止のため、世界中の多くの街で外出の自粛が求められている。そのためコンサートやライブが中止となり、多くの時間を自宅で過ごすことになった昨今、音楽好きは何をすればいいのか。その答えは「うちで好きな音楽をしこたま聴く!」に尽きる。


今回はそんな、今だから聴きたい#StayHomeな音楽を集めてみた。手洗いの徹底はもちろんのこと、きちんした食事と適度な運動も大切だが、音楽だって私たちには欠かすことのできない大切な存在。ストレスフルな状況でつい沈みがちな気持ちを癒やしてくれたり、元気づけてくれたりする。リアルの場で演奏ができなくなっている多くのアーティストがインターネットを通じて想いを込めた演奏を届けてくれている今、音楽好きとしてはその演奏を見逃すことなく堪能することで、熱いアーティストたちの気持ちに応えたい。



1.星野源「うちで踊ろう Dancing On The Inside」

「ステイホーム」の期間で音楽ファンのみならず、日本中で話題になったのがこの曲だ。テレビドラマの収録で多忙だったはずの星野源だが、撮影が急遽ストップして時間ができたのだそう。「家でじっとしていたらこんな曲ができました」と言って自宅でギターの弾き語りをした1 分足らずの動画をSNSに載せた。ちょっと素敵で可愛らしい曲だったが、その投稿のキモは「誰か、この動画に楽器の伴奏やコーラスやダンスを重ねてくれないかな?」と星野源が読者に呼びかけたこと。それによってこの曲は拡散され、多くのユーザーが自由にコラボした作品が数え切れないほどSNSにアップロードされた。実に「今」な音楽の楽しみ方・参加の仕方だと言えるだろう。



音楽好きなら、この曲だけで一晩楽しめるだろう。


楽しみかたは、まず星野源一人のオリジナルバージョンを聴く。その後は「#うちで踊ろう」で動画サイトを検索すると、えっと驚くような有名プロミュージシャンから、アマチュアミュージシャン、ダンサー、さらに俳優、タレント、吹奏楽部、フルオーケストラまでありとあらゆる構成で演奏されているのでそれを聴いてみよう。また音楽ジャンルも、シンプルにコーラスを重ねただけのものから、ポップス、ロック、フュージョン、ジャズ、EDM、テクノ、ソウル、ヘビメタ、面白いところではオルケスタ・デ・ラ・ルスによるラテンアレンジ、さらにクラシックまでさまざまなアレンジの演奏が楽しめる。音楽好きならこの曲のいろんなアレンジを聴くだけで何日も楽しめるはずだし、もし歌や演奏ができる方なら、自分なりのアプローチで星野源とコラボしてぜひSNSに投稿してみてほしい!



2.U2「Let Your Love Be Known」
3.Featuring Bono, will.i.am, Jennifer Hudson and Yoshiki 「#SING4LIFE」

「#SING4LIFE」は「うちで踊ろう」と同様のコラボパターンでできた一曲。もともとはU2のボーカル、ボノがイタリアで新型コロナウィルスで外出できない人たちが歌い合う姿を見て感銘を受けて「Let Your Love Be Known」を作ってピアノの弾き語りでSNSに公開した。

その後、U2のボノが、ブラック・アイド・ピーズのウィル・アイ・アムにコラボレーションを提案し、さらにそこにYOSHIKIとジェニファー・ハドソンが参加して生まれたのが「#SING4LIFE」だ(YOSHIKIはここではピアノを弾いている)。それぞれのアーティストは各自リモートで録音することで、このコラボ作品が作り上げられたようだ。ウィルス感染を避けるために物理的に同じ場所でのコラボはできないが、ウェブテクノロジーが遠く離れた場所にいるアーティスト同士を繋ぎ、それぞれの創造性を刺激することで、新しい音楽が生まれているところが、Stay Homeならではのクリエイティビティだと言えるだろう。




4.レディ・ガガ「Smile」

2020年4月19日にシンガーソングライター、レディ・ガガとGlobal Citizenという国際団体との共催で「One World: Together At Home」というチャリティコンサートがオンラインで開催された。このコンサートは新型コロナウイルスの救命活動を行っている医療従事者を称えると同時に、感染を抑制するためのソーシャル・ディスタンシングの促進のために行われたもの。ここではレディ・ガガのパフォーマンスを紹介しておくが、登場したメンバーは、まさに錚々たるもので、現在のポピュラーミュージックシーンのほぼ全てがここにあると言っていいだろう。ポール・マッカートニー、ビリー・アイリッシュ、ザ・ローリングストーンズ、エルトン・ジョン、テイラー・スィフト、ジョン・レジェンド、サム・スミス、セリーヌ・ディオン、スティービー・ワンダー、ジェニファー・ロペスなど。数え切れないほどのミュージシャンが自宅からでの歌や演奏を聴かせてくれている。



この「One World: Together At Home」もまた、とても一晩では足りないコンテンツ数なので、ぜひ数日かけて、じっくりと堪能してほしい。また同時に公式アルバムがデジタルリリースされており、ここでの歌と演奏はAmazon Musicで聴くことができる。収益はWHO(世界保健機関)に送られることになっているので、こちらでもぜひ何度も繰り返し聴いてほしい。




5.ゴスペラーズ「手を洗おう」

さて、ここからは外出の自粛でライブパフォーマンスができなくなってしまったアーティストたちが各自テレワークで演奏したユニークなパフォーマンスをいくつかご紹介しよう。まずはゴスペラーズのテレワーク! 5人のメンバーがそれぞれの自宅で歌うアカペラ作品だが、そのコーラスのバッチリさには恐れ入る。お互いを知り尽くしたメンバーでなければリモートでここまでピッタリとリズムや音程を合わせることはできないだろう。曲はゴスペラーズの代表曲「ひとり」の歌詞を入れ替えた「手を洗おう」。実に気が利いた替え歌で、お子さんに聴かせると喜んで手を洗ってくれるのではないだろうか。ライブができなくなってしまった昨今、このようなネットを使った新しいアンサンブルは非常に面白い試みだと言えるだろう。




6.佐野元春 & ザ・コヨーテバンド「この道」(Social Distancing Version)

デビュー40周年を迎えた佐野元春が緊急事態宣言を受け、ソーシャルディスタンスをコンセプトにして新曲を作り、バンドメンバーがそれぞれ自宅で各自のパートを録音してリモートレコーディングで仕上げられたのが「この道」(Social Distancing Version)だ。「外出を控え、距離を保ち、健康に気をつけて、支えあう。たとえ離れていても絆は壊れない。僕はそう思っている」という佐野元春自身のコメントが、この曲が掲載されたオフィシャルサイトにつづられている。離れているからこそ、バンドメンバーそれぞれの気持ちが伝わるような優しさと連帯感に満ちた演奏が素晴らしいし、何よりこの試練の時に敢えて「私たちはもっと幸せになるだろう」と歌ってくれる佐野元春の優しさと強さが、心に響く。



佐野元春オフィシャルサイト
https://www.moto.co.jp/konomichi/



7.スティング「Message in a Bottle, Englishman In New York, Fragile」

スティングもイギリスの自宅から演奏をYouTubeで公開。医療従事者への感謝を述べ、今我々ができることは健康で家にいること、それが彼らへの支援となると言って代表曲を演奏してくれている。曲はポリス時代の代表曲「Message in a Bottle」、そして「Fragile」と「Englishman In New York」をアンプラグドバージョンで聴かせてくれる。特に新型コロナウィルスの被害が大きいニューヨークへの思いを語ってから演奏される「Englishman In New York」には強い思いが感じられる。




8.カルロス・チパ「living room concert」

#Stayhomeな音楽は、もちろんポッピュラーミュージックだけでない。たとえばクラシック系では新国立劇場や東京文化会館などが公演予定であったクラシックやオペラ、バレエの作品を配信している。


新国立劇場「巣ごもりシアター」
https://www.nntt.jac.go.jp/release/detail/23_017336.html

東京文化会館チャンネル
https://www.t-bunka.jp/info/5492/


このプレイリストでご紹介するクラシック系の音楽は、ドイツのピアニスト、カルロス・チパ。ドビュッシー、サティなどフランス近代作曲家の影響を強く受けたピアノソロを自宅のリビングから届けてくれる。耽美的な旋律と近代的な和声の響きが、つい苛立ちがちな心を不思議なぐらい沈静化してくれる。まさに心のサプリとも言うべき音楽だ。



またジャズのライブストリーミングも多く行われているのでぜひチェックしてみてほしい。たとえばこちらは"STAY HOME & LISTEN TO JAZZ" をスローガンに、オンラインでジャズを楽しむ「JAZZ AUDITORIA ONLINE」。アクティオノートにご登場いただいた神保彰さんも参加している。


JAZZ AUDITORIA ONLINE
https://jazzauditoria.com


また、現在自粛要請で苦境に立たされている全国のライブハウスを支援するためのページも立ちあがっている。今こそ、素晴らしいミュージシャン、素晴らしい音楽を育んでくれたライブハウスを応援したい。


ライブハウスプラス - イープラスTwitter
https://twitter.com/LIVEHOUSeplus



9.在日ファンク(在宅ファンク)「はやりやまい」

次はジェムズ・ブラウンの流れを汲み日本におけるファンクミュージックを追求するバンドである在日ファンクの、その名もズバリ「はやりやまい」。この曲はもともと在日ファンクの人気曲の1つだが、皮肉なことに現在の状況にドンピシャの曲になってしまった。

在日ファンクの7人のメンバーが各自の家でそれぞれの音を重ねて演奏しているが、ライブとは違う趣きがあって、それがかえって面白い。また楽器を弾く人にとっては、ベースやギター、ドラムの手もとが常に克明に見えるのも楽しいところ。とはいえ一番面白いのはジェームス・ブラウンばりにシャウトしまくりダンスしまくるボーカルのハマケンこと浜野謙太の熱血パフォーマンスと、演奏終了後の全く覇気のないハマケンのお子さんの拍手が爆笑モノ!




10.ザ・ローリングストーンズ「Living In A Ghost Town」

さて最後は、泣く子も黙るザ・ローリングストーンズの8年ぶりとなる新曲をご紹介しよう。その名も「Living In A Ghost Town」。ロックアウトされて無人化した世界中の都市(大阪通天閣も映る)の映像を使ったミュージックビデオがショッキングだ。実はこの曲は前からニューアルバム用に制作していた曲だったそうだが、今こそ出す時だということで、先行して急遽リモートで仕上げたそうだ。キース・リチャーズがそれについてこう言っている。「長い話を短く説明しよう。この曲は1年以上前にLAでレコーディングしていた。以前から作業しているニュー・アルバムに入る予定の曲だった。そしてこの事態になって、ミックと、あの曲を早急に仕上げて出そうということになった。みんな、気をつけてくれよ!」。あのキースにそう言われたら気をつけるしかないだろう。



コロナ禍から何年かした後、ストーンズのこの曲を聴いて「そういえば、あの頃は世界中みんなで外出しないように頑張ったよなぁ」と楽しく語り合えるような未来にしたいものだ。みんな、Stay Home がんばろうぜ!



それでは次回の「創造する人のためのプレイリスト」もどうぞお楽しみに。


※記事の情報は2020年5月26日時点のものです。

  • プロフィール画像 スーパーミュージックラバー:ケージ・ハシモト

    【PROFILE】

    ケージ・ハシモト
    あるときは音楽ライター、あるときはミュージシャン、あるときはつけ麺研究家と正体不明の超音楽愛好家。音楽の趣味もジャンルレスでプライスレス。

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