リモート時代に、ぜひ見てほしい! 音楽への愛があふれる映画特集

【連載】創造する人のためのプレイリスト

ミュージック・リスニング・マシーン:シブヤモトマチ

リモート時代に、ぜひ見てほしい! 音楽への愛があふれる映画特集

ゼロから何かを生み出す「創造」は、産みの苦しみを伴います。いままでの常識やセオリーを超えた発想や閃きを得るためには助けも必要。多くの人にとって、創造性を刺激してくれるものといえば、その筆頭は「音楽」ではないでしょうか。新企画「創造する人のためのプレイリスト」は、いつのまにかクリエイティブな気持ちになるような音楽を気鋭の音楽ライターがリレー方式でリコメンドするコーナーです。

ずっと見続けたい「音楽映画」個人的ベスト6

皆さん、こんにちは。新型コロナウイルスの感染拡大防止のため在宅生活をされている方も多いと思います(私もそうでした)。その間に、ご自宅でブルーレイやDVD、または動画配信サービスで映画を鑑賞する機会も増えたのではないでしょうか。今回は、これまでとは趣向を変えて映画の特集です。それも音楽が重要なキーとなる映画。2000年以降の作品で、私が個人的に「死ぬまで見続けたい」と思うお薦めの作品を6作ご紹介します。いずれも、音楽を心から愛する人たちがつくった名作ばかり。音楽がきっかけとなり自分たちの日常が変わる、そんな喜びに満ちた作品を集めてみました。

※ネタバレしないよう、文章や紹介映像は十分に注意しましたが、気になる方は各作品を鑑賞後にお読みください。
※以下の各映画タイトル横の表示はオリジナル版の劇場公開年です。


1.「はじまりのうた」(原題Begin Again / 2013年)

ジョン・カーニーをご存じでしょうか。アイルランド・ダブリン出身、音楽映画の名手と評される映画監督・脚本家です。「ザ・フレイムス」というボブ・ディランのフロントアクトも務めたロックバンドのベーシストでもあった彼は、音楽への理解度が高く、作品の端々にその音楽愛があふれています。「はじまりのうた」は、そんなカーニー監督の2013年の作品です。無名のシンガー・ソングライターのグレタを演じるのは「パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち」「プライドと偏見」などで知られるキーラ・ナイトレイ。そして彼女の音楽プロデューサーのダン役にマーク・ラファロ。この二人に加え、グレタの恋人デイヴを人気バンド「マルーン 5」のアダム・レヴィーン(映画初出演)が、また司会者としても有名なジェームズ・コーデンなども脇を固めています。


恋人と別れライブハウスで歌う失意のシンガー・ソングライター。そこに偶然居合わせた落ち目の音楽プロデューサーとの出会いがきっかけとなりデビューの話へと発展しますが、ファーストアルバムの録音場所はニューヨークの街中。彼らはビルの屋上、地下鉄の構内など街角でライブ・レコーディングという名のいわゆるゲリラ・ライブを敢行します。そしてアルバムが完成したその日、予想もしない「はじまり」が待っていた......。恋人、夫婦、親子、友人、様々な悩める人々が音楽を通じて人生の新たな一歩を踏み出すきっかけを見つける。そんな優しいまなざしが心に残る映画です。ここで、映画のミュージッククリップを見てみましょう。


映画「はじまりのうた」スペシャルミュージッククリップ「Lost Stars」 Performed by キーラ・ナイトレイ


どうですか? 舞台であるニューヨークの街の空気感のようなものがよく伝わる映像ですね。そしてキーラ・ナイトレイ(歌上手い!)の歌う歌詞とメロディーの切なさが満点。この曲、劇中ではデイヴ役のアダム・レヴィーンが歌うバンド・アレンジ版も聴くことができます。


この映画、ニューヨークの様々な風景が登場しますが、カーニー監督が自ら自転車に乗ってロケハンして撮影場所が選ばれたのだとか。建物や雑踏の臭いさえ感じられそうなリアルな映像が、より音楽をインティメイトなものにしてくれます。グレタとダンが二股のイヤホンジャックをつないで互いのプレイリストを聴きながら街中を歩くシーンも印象的。そしてその曲目は、郷愁を誘うラインアップです。そしてこの映画には、ダンの娘のバイオレット(ヘイリー・スタインフェルド)が絡む名シーンがあってクライマックスの一つなのですが、そこは実際に映画をご覧のうえ、感動の涙を流していただければと思います(笑)。



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2.「シング・ストリート 未来へのうた」(原題 Sing Street / 2015年)

同じくジョン・カーニー監督作品「シング・ストリート」。こちらは、青春映画の傑作です。舞台は、1985年のダブリン、監督の自伝的要素が色濃く反映された作品です。劇中で流れる曲の多くは、美メロで名高いネオ・アコースティックバンド「ダニー・ウィルソン」の元メンバーで作曲家のゲイリー・クラークとジョン・カーニー監督の手によるもので、これが全部良い。サウンドトラックCDは、80年代オマージュにあふれた秀逸なロックアルバムになっています。


コナー(フェルディア・ウォルシュ=ピーロ)は14歳。父親の失業のせいで荒れた公立男子校に転校させられ、家庭は両親の不和で崩壊寸前。楽しみは、引きこもりで音楽マニアの兄とテレビで隣国の英国ロンドンの音楽番組を見ることくらい。そんなパッとしない日々を送るコナーはある日、学校帰りに見かけた大人びた美貌の少女ラフィーナ(ルーシー・ボイントン)に一目惚れし、彼女を振り向かせたい一心で「僕のバンドのPVに出ない?」と嘘をつきます。慌ててバンドを組むコナーですが、仲間達との音楽活動を通じて、やがて様々な壁を乗り越え成長していく。こんなお話です。


「バンドを組んで学園祭に出よう」となったときにまずプロモーション・ビデオを撮ろうとするのが、まさに80年代MTV世代という感じですね。バンドが最初に制作する「The Riddle of the Model」という曲のビデオ収録シーンがあるのですが、これが最高。服や衣装も、ありモノの服をアレンジするなど、あの頃の青春の匂いが端々から漂ってきます。ここでトレーラー(予告編)を見てみましょうか。


シング・ストリート 未来へのうた(字幕版)


「はじまりのうた」にも通じることですが、ジョン・カーニー監督は、ゼロの状態から音楽が生まれる瞬間の喜びを描くのがとても巧みだということです。「こんなのどう?」と鼻歌を歌い、楽器を爪弾いて、曲の原型がおぼろげに現れる瞬間。話し言葉が歌詞に変わる瞬間。ギター1本、ピアノだけだった曲に次々と楽器が重なってバンドの曲になる瞬間。音楽が生まれることで何かその前と後で変化が起き、世界が変わる。パッと扉が開かれるようなあの感覚。このワクワクするような感覚の表現力は、自身がミュージシャン活動をしてきたジョン・カーニー監督ならではだと思います。


心に傷を負い引きこもっているコナーの兄さんは、自分なりの音楽の価値観をしっかりと持っていて、弟を心から応援しているイイ人。そしてラフィーナも創造することの意味を理解する素敵な女性です。このラフィーナ役のルーシー・ボイントンは、大ヒット映画「ボヘミアン・ラプソディ」でもフレディ・マーキュリーの恋人役を好演していましたね。


そして、この映画の終わり、エンドロールの「Written and Directed by John Carney」というクレジットが出る直前、黒い背景に白抜き文字で書かれた「For Brothers Everywhere すべての兄弟たちに捧ぐ」のメッセージに、私たち音楽ファンは心を撃ち抜かれます。そう、この映画は、世界中に無数にいる、創造することの楽しさや音楽の素晴らしさを知ってしまった私やあなたのような人のための映画なのです。



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3.「ハイ・フィデリティ」(原題 High Fidelity / 2000年)

スティーヴン・フリアーズ監督作品。シカゴで中古レコード店を営む30代独身の音楽・レコードマニア、ロブ(ジョン・キューザック)は、同棲していた恋人ローラ(イーベン・ヤイレ)に逃げられます。自分が音楽にばかりうつつを抜かしていたのがいけなかったのではないか、自分には何か欠陥があるのではないかと自問自答する彼は、過去の失恋を振り返り、ベスト5をリストアップ。その相手を訪ね、自分の何がいけなかったのかを探る旅へ......。1995年に出版されたニック・ホーンビィの同名の小説が原作です。


音楽やレコードにばかり熱中して、他者や一般社会にうまく適応できない人たち。何か世の中との「ズレ」を感じながら不器用に生きている、そんなブラザーズ&シスターズのための鎮魂歌のような愛すべき作品です。同棲相手のいなくなった部屋で、自分史に沿ってレコードを整理するロブの姿がなんとも心に刺さります。


映画の中で流れるのは、様々な時代のロック&ポップスの名曲。ヴェルヴェット・アンダーグラウンド、ザ・キンクス、ボブ・ディラン、エルヴィス・コステロ&ジ・アトラクションズ、ステレオラブ、スティーヴィー・ワンダーなど。ブルース・スプリングスティーンもカメオ出演しています。


この映画、レコード好きの私たちにとって、何よりレコード店の風景がグッときます。また、音楽愛とエネルギーが過剰すぎるオタク店員バリー(ジャック・ブラック)のキャラが最高。この男があまりにヘンなせいで、ロブがましに思えてくるから不思議です。娘にプレゼントしようとスティーヴィー・ワンダーの「I Just Called to Say I Love You」を買いに来た中年客に、バリーが「うちにはそんな趣味の悪いモノ置いてねえよ! 娘さんがそんな曲好きなわけがないだろ!」みたいなことを言って追い返すシーンには思わず笑ってしまいました(スティーヴィー様、ごめんなさい。原作本は、この手の音楽ブラック・ジョーク満載なのでこちらもお薦めです)。


High Fidelity (2000) Trailer #1 | Movieclips Classic Trailers



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4.「スクール・オブ・ロック」(原題 School of Rock / 2003年)

「ハイ・フィデリティ」ではレコード店のアルバイト店員だったジャック・ブラックの主演、リチャード・リンクレイター監督作品です。ロックバンドをクビになったデューイ(ジャック・ブラック)は、親友になりすまして小学校の代用教員になりますが、教えることといえばロックの歴史とステージパフォーマンスばかり。デューイの「ロック学校」はますます熱を帯び、やがて生徒たちにバンドを組ませますが、彼らの演奏を聴いて何かを感じたデューイはバンドコンテストへの出場を思いつきます。音楽を自分たちで奏でることの楽しさ、新しい自分を見つける喜びを生徒たちに体験させようとするデューイが熱すぎる、笑いあり涙ありの音楽映画です。


School of Rock - Trailer


この映画に関しては個人的な思い出を。日本での公開は2005年4月でしたが、どうしてもこの映画は初日に見たいと思い、無理して見知らぬ遠い街のシネコンまで行ったのを覚えています。で、そこまでして見に行った甲斐がありました。ワタクシ、感動と笑いとワクワク感の波状攻撃を受け、上映中ずっと涙腺が緩みっぱなし。涙がタラタラと流れるのもどうでもよくなるほど終始画面に目と耳は釘付け。顔はヘラヘラと弛緩し、映画館を出る頃には、パンチを喰らってフラフラになったボクサーのような足取りで、完全にこの映画にやられてしまっていました。あまりのことに、「ひょっとして、今までの人生はこの映画を見るための序章に過ぎなかったのではないか」とさえ思ったほど(笑)。ちょっと大げさ過ぎるリアクションでしたが、ロックの魅力、ライブの感動、そして音楽を生み出すことの素晴らしさがぎゅっと詰まった映画であることは確かです。コンテストにおける小学生たちのパフォーマンスには、あなたもきっと落涙するでしょう。



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5.「ラブソングができるまで」(原題 Music and Lyrics / 2007年)

監督・脚本マーク・ローレンス。主演は「ラブコメの帝王」ヒュー・グラントとドリュー・バリモア。邦題どおり、ラブソングが生まれるまでのプロセスと二人の恋愛ストーリーが重なり合う音楽・ヒューマンドラマの秀作です。


ヒュー・グラントが演じるのは、かつて一世を風靡した人気バンドの元ヴォーカル、アレックス。しかし80年代は遠く去り、昔のポップスターも今ではオールド・ファン相手にイベントの人寄せパンダ的な仕事で小銭を稼ぐ日々。そんな彼に千載一遇のチャンスが訪れます。ティーンエイジャーの間で絶大な人気を誇るアイドルスター、コーラ(ヘイリー・ベネット)に新曲の提供を依頼されたのです。15年ぶりに新曲を作ることになったアレックスは、初めは有名歌手の作詞家と組みますが、うまくいかない。そんなある日、彼の家の植木の水やりに来ていたソフィー(ドリュー・バリモア)がアレックスの奏でるピアノに合わせて口ずさんだフレーズが彼の心を直撃。作詞ソフィーとのコンビが誕生し、80年代から止まったままだったアレックスの創造力が再起動します。


まさに原題の「Music and Lyrics」はメロディーと歌詞、男と女のダブルミーニング。ピアノと詞から曲が紡がれ、男女の恋愛が盛り上がっていく過程がオーバーラップしていく様子がこの映画の一つの見どころになっています。出来上がったデモテープのタイトルは「Way Back into Love」。本当にいい曲です。この曲のタイトルで動画を検索すると、特に東アジア圏の国々で多くのアーティストたちにカバーされていることが分かります。自然な展開の美しいメロディーラインと切ない歌詞が世界中の人の心を捉えるのでしょう。映画のクライマックスシーンで、この曲はもう一度別のカタチで歌われることになります(ここ、胸が震えます)。


そうそう、この映画には必見のシーンがあります。アレックスが80年代に所属していたバンド「POP!」(絶対ワム!を意識してますよね)のミュージックビデオという設定で、若作りのヒュー様のパフォーマンス映像が冒頭に登場しますが、これがもう......抱腹絶倒。80年代のあの頃のミュージックビデオを知る人なら涙を流して笑ってしまう傑作映像です。このハッピーな映画の全編は、ブルーレイやDVD、動画配信サービス等でぜひご覧ください。


Music and Lyrics (2007) Official Trailer - Hugh Grant, Drew Barrymore Movie HD



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6.「シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢」(原題 Sink or Swim / 2019年)

とうに人生の折り返し地点を過ぎ、家庭・仕事・健康・将来のことなど不安をそれぞれに抱える8人の中年男が、シンクロナイズドスイミング(アーティスティックスイミング)チームを結成。まさに、イチかバチか(Sink or Swim)の勝負をかけて世界選手権に臨むという、実話をもとにした映画です。うつ病を患い会社を退職して引きこもりがちな生活を送るベルトラン、アンガーマネジメントの受講が必要な怒りっぽい男ロラン、事業に失敗し自己嫌悪に陥るマルキュス、内気なティエリー、ミュージシャンの夢を捨てられないシモンなど、いわゆるミッドライフ・クライシス(中年の危機)のど真ん中にいる様々なタイプのおじさんたちを、マチュー・アマルリックをはじめとする名優たちが見事に演じています。「期待していたほどの人生ではなかった」と思い、これまでの生き方に疑問や後悔、不安が湧く。そんな苦悩を抱える男たちがプールに入り、まさに裸一貫でチームプレーに自我を消し去ることで何かが吹っ切れていく。その変化していく様は、中年期にある人の誰の心にも響くことでしょう。


この映画のスコアを手がけているのはジョン・ブライオン。グレタ・ガーウィグ監督の映画「レディ・バード」(2017年)などで印象的な音楽を制作している人ですが、同じ場所を逡巡しながら循環するようなリフレインが特徴的なその曲調は、登場人物たちの憂うつや、低空飛行するような心の風景を表現し、物語にとても良い効果を生み出しています。


そして、この映画で私が個人的に一番好きかもしれないパート、それは冒頭部です。四角形と円をモチーフに、希望通りにはいかない人生についての哲学的ともいえる考察を、グラフィカルなビジュアル処理で表現(ここの映像、ちょっと大林宣彦監督オマージュを感じました)したあとに、1985年のヒット曲、ティアーズ・フォー・フィアーズの「ルール・ザ・ワールド」のイントロが流れ、その後に「君の人生が始まる。もう後戻りはできないんだよ」という中年男には少し皮肉にもとれる歌詞が続きます。この最初の2、3分の映像と音楽だけで、この映画が自分にとって大切な一本になることを予感しました。愛すべき映画です。ぜひぜひ。


Sink or Swim - Official Trailer



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ここで、文字数が尽きました。この他にもお薦めしたい音楽映画は数々ありますが、最後に「シング / SING」(2016年)のトレーラーをご紹介して終わります。アニメーションの映画ですが、歌を歌うことの意味、ライブパフォーマンスが人の気持ちに働きかける力、そして、その舞台となる劇場やライブハウスの存在価値、こうした様々なことが見た後に心に残るいい映画です。今の世界は、新型コロナウイルス禍にありますが、多くの劇場やライブハウス、映画館に一日でも早く本来の日常が戻るよう祈っています。


Sing TRAILER 1 (2016) - Scarlett Johansson, Matthew McConaughey Animated Movie HD



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では、次回のプレイリストもお楽しみに。


※紹介文の制作にあたり、各作品の公式ブルーレイ/DVDあるいは公式パンフレットの解説を一部参考にしました。


※記事の情報は2020年7月21日時点のものです。

  • プロフィール画像 ミュージック・リスニング・マシーン:シブヤモトマチ

    【PROFILE】

    シブヤモトマチ
    クリエイティブ・ディレクター、コピーライター。ジャズ、南米、ロックなど音楽は何でも聴きますが、特に新譜に興味あり。音楽が好きな人と音楽の話をするとライフが少し回復します。

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