その音、脳内ヘヴィー・ローテーション(1) 特集:コリー・ウォンとその仲間たち

NOV 26, 2020

ミュージック・リスニング・マシーン:シブヤモトマチ その音、脳内ヘヴィー・ローテーション(1) 特集:コリー・ウォンとその仲間たち

NOV 26, 2020

ミュージック・リスニング・マシーン:シブヤモトマチ その音、脳内ヘヴィー・ローテーション(1) 特集:コリー・ウォンとその仲間たち ゼロから何かを生み出す「創造」は、産みの苦しみを伴います。いままでの常識やセオリーを超えた発想や閃きを得るためには助けも必要。多くの人にとって、創造性を刺激してくれるものといえば、その筆頭は「音楽」ではないでしょうか。新企画「創造する人のためのプレイリスト」は、いつのまにかクリエイティブな気持ちになるような音楽を気鋭の音楽ライターがリレー方式でリコメンドするコーナーです。

コロナ禍のおかげで気づいた? 自分のリアルな音楽嗜好

 近頃思うのです。新型コロナウイルス流行が引き起こしたこの状況、悪いことばかりではないんじゃないかと。例えば、以前なら「そんなのナイナイ!」とか「絶対ありえへん!」と、議題にさえのぼらなかった選択肢が真面目に検討され、あっさりと実行されていきます。


 思いもしなかった、いわばオルタナティヴな世界が現実になるのを目にすること、それは大きいと思うんですね。ものの見方とか常識というものが絶対ではなくて、何かのきっかけでガラッと変わることがあり得ると私たちは気づいてしまった。きっと、今のこの不自由や「逆境」を乗り越えれば、必ず新しい時代が来るという予感は多くの人の中にあるはずです(今は大変ですけどね......生活は不安だし、毎日マスクで耳が痛いし、会いたい人にも会えないし......)。


 そして、この「コロナ期」のファースト・イヤーとして後年語られるであろう2020年は、自分と向き合い、自分が本当に好きなものや大切なものは何か?と自問するそんな年にもなりました(すでに年末振り返りモード!)。私も、好きな音楽に関して、これまでのように手当たり次第に話題の新譜をチェックする、「消費」するような聴き方をやめて、本当に自分が気持ちのいい音楽、心の底から感動できる音楽を(他の人の評価など気にせずに)じっくり探っていこうという風に心持ちが変化してきました。


 そんな今年、やたらと気になってきたアーティストやグループが何組かいます。今回ご紹介する米国のギタリスト・ソングライター・音楽プロデューサーの、コリー・ウォン(Cory Wong)もその一人。「リズム職人」とも呼びたいテクニカルなギタープレイ、凄腕なのに愛嬌がにじみ出るエンタテインメントあふれる音楽性。「ああ、やっぱり、こういう音楽って好きだな~」と思うし、頭より身体が反応してしまうキャッチーさと楽しさが彼のプロデュース曲にはあるのです。ここでは、そんなコリー・ウォンと彼の周辺にいる仲間たちを、ご一緒に聴いていこうと思います。



1.コリー・ウォン「マッシヴ(feat. ジョー・サトリアーニ)」


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 最初にお送りするのはこの曲。SNSのタイムラインで、どなたかが紹介していた曲でした。通勤電車で何げなく聴いただけなのに、気づくと何度も繰り返して聴いていました。ディアンジェロっぽいヘヴィーなギターとベースのリフで始まり、ホーンが加わり、気持ちがグッと立ち上がったところで、こってりとした1980年代チックなメタル系ギターが意表を突いて登場します。すでにこの時点で先制パンチを食らったワタシは「新しいのか、古くさいのか分からん! しかし聴かずにはいられない! 何、この癖になる珍味のような曲!」と耳が釘付けになったのでありました。


 見れば、作者はコリー・ウォン。ワタシも何枚かCDを持っているインスト・ファンクバンド、ヴルフペック(Vulfpeck)のサポートメンバー、あの(映画「トレインスポッティング」のスパッドにどことなく似た風貌の)ギタリストではないですか。彼はドライでファンキーなカッティング・プレイやシングルノート(単音)を生かした軽快なバッキングに定評があります。この「マッシヴ」では中盤に聴かれる客演のジョー・サトリアーニのド派手なギター・ソロに隠れがちですが、ファンキーなバッキングなどに彼らしい音を聴かせてくれます。


 コリー・ウォンのゴキゲンなギター・カッティングが聴ける曲をひとつ。「ランチタイム (feat. Sonny T)」、ボーダーのTシャツを着てストラトキャスターを弾く、陽気なギタリストがコリー・ウォンです。




2.コリー・ウォン「ランチタイム(feat. ソニーT)」


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 ......圧巻(ため息......)。左利きのベースで超絶プレイを連発していたのは、プリンス&ザ・ニュー・パワー・ジェネレーションの低音部を支えていたソニーT(Sonny Thompson)。そして、中盤でこれまた絶品のソロをハモンドB3オルガンで聴かせていたのは、リッキー・ピーターソン(Ricky Peterson)。デヴィッド・サンボーンなど幾多のビッグネームを支えたキーボード奏者で、90年代半ばのプリンス作品(注)「ゴールド・エクスペリエンス」「イマンシペイション」「クリスタル・ボール」に参加し、名曲"The Most Beautiful Girl in the World"のプロデュース/アレンジもつとめたレジェンドです。コリー・ウォンのギターもその他のメンバーの演奏もキレッキレです!


 そういえば、コリー・ウォンも含めてこの3人はプリンスが活動拠点にしていたミネソタ州ミネアポリスに縁のある人たち(コリー・ウォンはニューヨーク州の出身ですが、ミネアポリス育ち)。コリー・ウォンは、地元で活躍していたプリンス&ザ・ニュー・パワー・ジェネレーションのサウンドに大きな影響を受けたと語っているようで、憧れのミュージシャンたちとの演奏を心から楽しんでいる様子が見て取れます。

(注)3作ともに当時のアーティスト名義は「元プリンス(The Artist formerly known as Prince)」


 というか、コリー・ウォン、いつも楽しそうに演奏するんですよね。曲のグルーヴ感を支えるギタリストとしての力量はもちろんのこと、この収録現場の明るい雰囲気づくりが多くのアーティストを引き寄せているのかもと思います。次の曲は、気持ちのよいグルーヴのジャズファンクですが、そんなプロデューサーとしてのコリー・ウォンの魅力がよく見える一曲です。




3.コリー・ウォン「セント・ポール」


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 タイトルの「セント・ポール」は、ミネアポリスの隣町のことでしょうか。ドラムスは、その卓越した技術とジャズにとどまらない演奏活動により、米国でトップクラスのドラマーと評されるネイト・スミス(Nate Smith)。ベースは、マーカス・ミラーのツアー・ドラマーとしても知られるマルチプレイヤー&ソングライター(ベース、ギター、ドラムを演奏するだけでなく、歌い、作曲し、トロンボーン、チューバまで吹く!)のルイス・ケイトー(Louis Cato)、ピアノは、米国の人気テレビ番組の音楽監督&バンドリーダーでもあり、さらに国立ジャズ博物館のクリエイティヴ・ディレクターなども務める若き才人ジョン・バティステ(Jon Batiste)。


 こうしたスーパーな音楽家たちを束ねて、これほど気持ちのいい音楽に仕上げる力はさすがです。彼のギターも他の楽器を邪魔することなく、心憎いほど絶妙にバンド全体のグルーヴを下支えしています。演奏中のメンバーたちの笑顔でのアイコンタクト、収録後のはじけるような笑い声、本当に楽しそうでこちらまで嬉しくなりますね。


 こんなに今が旬の音楽家たちがいるのですから、彼ら個々の映像もちょっと見てみましょう。




4.スケアリー・ポケッツ「"ラヴ・オン・トップ" ファンク・カヴァー ft. ルイス・ケイトー」


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 まずは、「セント・ポール」でベースを弾いていたルイス・ケイトー。スケアリー・ポケッツ(Scary Pockets)というバンドがビヨンセの曲(2011年のアルバム「4」収録)をファンク・カヴァーした録音ですが、ルイス・ケイトーはヴォーカルとして参加しています。マルチプレイヤーですが歌もマジで上手いですね!


 ちなみにこのスケアリー・ポケッツ、毎回様々なゲストを呼んであらゆるヒット曲をファンク調にカヴァーしてしまう面白いユニットで、いろいろ動画がアップされていますので、よかったらご覧ください。ソウル系だけじゃなくレディオヘッドやQUEENのファンク・カヴァーなどもあって、ついつい続けて何曲も見てしまいました(笑)。




5.コリーヌ・ベイリー・レイ×ジョン・バティステ:アンリハースト「ザ・ヴェリー・ソート・オヴ・ユー」


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 続いて、終盤にピアノのかっこいいソロを聴かせてくれたジョン・バティステ。彼が音楽監督とバンドリーダーを務めるテレビ番組「ザ・レイト・ショー・ウィズ・スティーヴン・コルバート」にシンガーソングライターのコリーヌ・ベイリー・レイ(Corinne Bailey Rae)がゲストで出演したときに、ナット・キング・コールの不滅の名曲「The Very Thought Of You」を共演した映像です。リハーサルなしのレコーディング・ライブという企画ですが、とても一発録音のパフォーマンスとは思えない、両者の持つ優しく繊細な感性と豊かな音楽性がにじみ出るような素晴らしいカヴァーだと思います。


 さて、ドラムを叩いていたネイト・スミス(Nate Smith)については、ビッグネームのジャズ・ドラマーですし、ちょっと深掘りしたいところです。まずは彼のバンド、KINFOLKによる演奏を。おなじみのNPRミュージックのタイニー・デスク・コンサートの素晴らしい映像をご覧ください。


 4曲あるので、まずは3:00(3分)あたりから始まる2曲目の「リトールド(Retold)」(美しくノスタルジックな旋律と抑制のきいた演奏)と、13:00あたりからの「ランボー:ザ・ヴィジランテ(Rambo: The Vigilante)」(ジャズロック調の曲の端々に圧倒的な技巧とタイム感!)を見ていただければ彼の音楽性の幅広さと技術の高さを感じていただけると思います。




6.ネイト・スミス+キンフォーク「リトールド」「ランボー:ザ・ヴィジランテ」(NPR Music Tiny Desk Concert)



 ドラムセットはごくごくシンプルな構成なのに、なぜこんなに多彩な音が出せるのでしょう......。


 ネイト・スミスといえば、ロックバンド「アラバマ・シェイクス」のフロント・パーソンであるブリタニー・ハワード(Brittany Howard)が2019年に出したソロ・デビュー作「ジェイミー」でのプレイも話題になりました。




7.ブリタニー・ハワード「ヒー・ラヴズ・ミー」(オフィシャル・ライヴセッション)


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 このアルバムでのネイト・スミスは、ずっしりと重く粘っこいビートを叩き、ブリタニー・ハワードの骨太感のある歌唱と感情が迸るような曲の世界観をブーストしています。同じく現代有数のドラマーであるマーク・ジュリアナが参加したデヴィッド・ボウイの遺作「ブラックスター(Blackstar)」でも感じましたが、ロックの楽曲に技術的な引き出しの多いジャズ・ドラマーが入ると、曲の魅力が格段に増幅されるように思います。


 また、コリー・ウォンも参加するバンド、ヴルフペックのサイドプロジェクト(いわゆる別名バンド)であるフィアレス・フライヤーズ(The Fearless Flyers)にもネイト・スミスは加わっています。1曲聴いてみましょう。彼らのテーマソング「イントロデューシング・ザ・フィアレス・フライヤーズ(Introducing the Fearless Flyers)」です。




8.フィアレス・フライヤーズ「イントロデューシング・ザ・フィアレス・フライヤーズ」


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 ドラムス:ネイト・スミス、ベース:ジョー・ダート(Joe Dart:ヴルフペック)、ギター:コリー・ウォン、バリトン・ギター:マーク・レッティアリ(Mark Lettieri: スナーキー・パピー Snarky Puppy)。もう、これメンバーやばいです。全員がリズムの達人、いやグルーヴの鬼。息詰まるほどのタイトさに目と耳が釘付け! ネイト・スミス御大も素肌に黒ベストにサングラス、チョイ悪(死語)な厳ついオヤジの風体で、しかもスネアとハイハットとバスドラだけの"どシンプル"なセットで、あり得ないほどキレキレのドラムを叩いておられます。その上に載るギター・ベース隊との一体感がこのバンドの魅力でしょう。それにしても最後のジェット機音はなんなのだ(笑)。


 素晴らしいベーシスト、ジョー・ダートも登場したので、最後にヴルフペックも聴いてみましょうか。




9.ヴルフペック「レディオ・シャック」


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 「うちの納屋から妙な音楽が聞こえてくる......」「なんだかヤバいものが隠れてそうで怖い」「何が中にいるのか確かめなくちゃ」という字幕が出て、扉を開けてみると中でヴルフペックのメンバー達が演奏しているという、出だしから楽しいミュージック・ビデオです。コリー・ウォンとジョー・ダートはおそろいのボーダーTとサングラス。他のメンバーも、能天気なサーフロック調の高速8ビートをマシンのように人力で弾き続けています。やがて曲が終わると再び扉が閉まり、「悪夢のような時間」は終わるというオチがついています。


 ヴルフペックは、すごいテクニックの持ち主達なのに、まじめに、ふざけたことをやる、いわばエンタテインメントの塊。どのミュージック・ビデオも本当に面白いし(なぜか4:3画角で粗い、昔のビデオを今の解像度で見たようなレトロ感。それも味があって、つい愉快な気持ちになります)、出すアルバムも毎回趣向を変えて楽しませてくれます。


 世界はいま、パンデミックの最中にありますが、こんな時にこそヴルフペックのような「かっこつけ過ぎない、かっこよさ」で聴く人の気持ちを明るく楽しくさせてくれる音楽を作ってくれる存在は大切にしたいですね。コリー・ウォンと共に、今後もずっと追いかけてみたいグループの一つです。




10.付録 コリー・ウォン「オン・ザ・ワン!//"マッシヴ" by コリー・ウォン(feat. ジョー・サトリアーニ)」


 さて最後に、特集1曲目の「マッシヴ」の制作に関してコリー・ウォン自らが解説する映像(約19分)がありますのでオマケにどうぞ。彼の音作りと明るいキャラクターがよく伝わってきますので、ご興味のある方はチェックしてみてください。ソニーTのエレキベースの音にぶっ飛んで大笑いする様子(5:00あたり~6:00過ぎ)や、12:50~15:00あたりのサトリアーニのギター・ソロへのコリーの反応と表情が激し過ぎて、噴き出しました(笑)。



それでは次回の「創造する人のためのプレイリスト」もお楽しみに。


※記事の情報は2020年11月26日時点のものです。

  • プロフィール画像 ミュージック・リスニング・マシーン:シブヤモトマチ

    【PROFILE】

    シブヤモトマチ
    クリエイティブ・ディレクター、コピーライター。ジャズ、南米、ロックなど音楽は何でも聴きますが、特に新譜に興味あり。音楽が好きな人と音楽の話をするとライフが少し回復します。

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