追悼・村上"ポンタ"秀一|稀代の「タイコ」プレイヤーによる名演の数々

APR 27, 2021

スーパーミュージックラバー:ケージ・ハシモト 追悼・村上"ポンタ"秀一|稀代の「タイコ」プレイヤーによる名演の数々

APR 27, 2021

スーパーミュージックラバー:ケージ・ハシモト 追悼・村上"ポンタ"秀一|稀代の「タイコ」プレイヤーによる名演の数々 ゼロから何かを生み出す「創造」は、産みの苦しみを伴います。いままでの常識やセオリーを超えた発想や閃きを得るためには助けも必要。多くの人にとって、創造性を刺激してくれるものといえば、その筆頭は「音楽」ではないでしょうか。本連載「創造する人のためのプレイリスト」は、いつのまにかクリエイティブな気持ちになるような音楽を気鋭の音楽ライターがリレー方式でリコメンドするコーナーです。

去る2021年3月9日、レコーディング楽曲はゆうに1万4000曲を超えるとも言われる稀代のドラマー、村上 "ポンタ" 秀一がこの世を去った。ポンタのデビューはフォークグループ「赤い鳥」。解散後は年間1000曲以上のレコーディングを行う超売れっ子スタジオミュージシャンとして、ピンク・レディー、キャンディーズ、岩崎宏美などの歌謡曲のレコーディングに参加した。また井上陽水、山下達郎、桑田佳祐、矢沢永吉などJポップの大物や渡辺香津美、高中正義、角松敏生などフュージョンアーティスト、渡辺貞夫、山下洋輔など日本ジャズシーンの大御所とも共演。ジャズピアノトリオ構成のリーダーバンド「PONTA BOX」では、スイスで開催される世界的ジャズフェスティバル「モントルー・ジャズ・フェスティバル」にも出演している。当然、代表曲も星の数ほどあるが、今回は極私的な観点からセレクトし、追悼したいと思う。



1.ピンク・レディー「ペッパー警部」

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ポンタは1970年代からスタジオミュージシャンのドラマーとして数限りない仕事をしてきた。最も忙しい時期は朝9時から夜11時まで、1日に6〜7カ所のスタジオでレコーディングしたという。ピンク・レディー、キャンディーズなどポンタがドラムを叩いている歌謡曲も枚挙にいとまがなく、本人すら覚えていないこともあったようだ。ラジオから流れてきた曲を聴いていて「このドラム、かっこいいなー。あ、オレか」と言ったらしい。誰もが知っているピンク・レディーの「ペッパー警部」もポンタのドラムによるもの。この曲を今改めて聴いてみると、ドラムのタイトさ、ハイハットのキレの良さなどに驚かされる。「ペッパー警部」の作曲者であり編曲も手掛けた都倉俊一はポンタを重用した。



2.吉田美奈子「恋は流星」

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ポンタが「日本の宝」とまで呼んだ歌姫、吉田美奈子の1曲。この曲はポンタが参加した、いわゆる歌ものの曲を集めたコンピレーションアルバム「うたポン」にも収録されている。ボーカルインとともに、バスドラムの四つ打ちでテンポを作り、リズムを支配する。そしてサビの16ビートへと滑らかに移行していくドラミングはさすが! の一言に尽きる。また、ストリングスの間奏から再びAメロに戻るところで、「タン」と曲の空気を一打のスネアドラムで締める部分にもぜひ注目してほしい。後半はインスト(楽器)のソロ回しとなっており、ベースの高水健司とポンタの作り出すグルーヴィーなリズムラインをじっくりと楽しむことができる。



3.山下達郎「DANCER」



ベースに細野晴臣、ギターに松木恒秀と大村憲司、ピアノに坂本龍一、そしてドラムはポンタという、今では考えられないような豪華メンバーで収録されたこの曲は、山下達郎自身が「ポンタさんに叩いてもらいたくて書いた」と言っているとおり、出だしから一貫してポンタの16ビートによる軽やかなリズムが中心に据えられており、達郎の歌やメロディーラインに呼応する華麗なハイハットワークを楽しんでほしい。また、この曲は達郎のライブアルバム「JOY」にも収録されているが、こちらのドラマーは2013年に亡くなった青山純である。ライブバージョンということもあり、少しアップテンポでより軽快さが強調されていて、それぞれのドラマーの個性が感じ取れる。ぜひ聴き比べていただきたい。




4.大貫妙子「Summer Connection」

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この曲は、大貫妙子の名盤として知られる「SUNSHOWER」の1曲目。STUFFのドラマー、クリス・パーカーを迎えて収録されたことは有名である。しかし、その発売に先立つこと数週間前にリリースされたシングル「サマー・コネクション」のドラムはポンタが演奏していることは、案外知られていない。イントロから「ポンタ節」が炸裂(さくれつ)していて、パターンも「らしさ」全開、キメフレーズのたびに特徴的なフィルイン(楽曲のつなぎ目に入れる1小節程度の即興演奏、ドラマーはこれを「オカズ」と呼ぶ)が挿入されており、何度聴いても唸ってしまう。2007年に発売されたCDリマスター盤「SUNSHOWER」には、クリス・パーカーが叩くアルバムバージョンに加えてポンタが参加しているシングルバージョンがボーナストラックとして収録されており、こちらもドラマーの違いによって曲の印象がどれだけ変わるのかが味わえる。




5.阿川泰子「SKINDO-LE-LE」

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ブラジリアン・フュージョンバンド「Viva Brasil」の代表曲として知られる「Skindo-Le-Le」のカバーだが、日本での知名度はこちらの方が高いかもしれない。スルド(ブラジルの打楽器)やシェイカーなどのパーカッションがブラジル感溢れるビートを奏でる冒頭部分からBメロのバンドインまで、ドラムが雰囲気を保ちながらもグルーヴをしっかり作り出す。ポンタ本人はこの曲について「当時はブラジルのビートってものが日本にそれほどない時代だった」と語り、アレンジを担当していたブラジリアンミュージック、ラテンミュージックの大御所、松岡直也にキューバやアフリカのビートとブラジルのビートの違いを教えられたという。叩くのに悩んだと述懐しているものの、キーボードやベースとの絡みと異国感あふれるビートを両立させながら、難しいキメフレーズにも対応するドラミングは、まさにポンタのジャンル面における幅広さを象徴しているといえよう。




6.松岡直也「A Season Of Love (feat. Shuichi "Ponta" Murakami, Pecker, Getao Takahashi)」


ファンクもロックもジャズも超一流のポンタだが、前述したラテンミュージックの大御所、松岡直也にも愛された。この曲は松岡直也の名作ライブアルバム「PLAY 4 YOU」の1曲目。しっとりと始まるが、ほどなくラテンビートになると、ポンタらしいドラムにペッカーのパーカッションがいい具合に絡まり、ラテン系ベース第一人者の高橋ゲタ夫のベースが加わって、おとなしく座っていられないくらいゴキゲンなラテンビートとなる。それにしてもポンタの音楽ジャンルの守備範囲の広さには驚かされる。




7.Hi-Fi Set「中央フリーウェイ」

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作詞・作曲はユーミンこと荒井由実の超有名曲。オリジナルがエレクトリックピアノやストリングスをフィーチャーして落ち着いた雰囲気であるのに対し、随所に挿入されるサックスソロやHi-Fi Setの特徴でもある和声によって、疾走感のある快活なアレンジに仕上げられている。ここで注目してほしいのは、ポンタのドラミングである。サビ以外の部分ではリムショット(スティックでスネアドラムのふちを叩く技法)や細かいハイハットワークで繊細なグルーヴを披露し歌を引き立たせる一方、サビでは一転して裏拍にアクセントやハイハットオープンを多用しながら、アグレッシブな「オカズ」で一気に曲を盛り上げている。この曲のように、場面に応じたドラミングによって曲にメリハリをつけるのも、ポンタは得意としていた。



8.井上陽水「ミスキャスト」


ポンタ自身が「間違いなくオレの5本指に入るライブ」と自画自賛する、陽水の伝説的ライブアルバム「クラムチャウダー」の中でもポンタのグルーヴが光るのがこの曲。派手さはないものの、ステディーなシャッフルビート(3連符の1つ目と3つ目だけを叩く手法)で曲全体の方向性をしっかりと定めており、陽水のライブならではの遊びのある歌や大村憲司のしびれるギターソロも、ポンタの安定したシャッフルビートがあってこそのものであると言えよう。ポンタは特徴的な「オカズ」ばかり取り上げられることが多いが、「オカズ」を楽しむためには盤石なビートや曲に合わせたグルーヴィングといった「ゴハン」があってこそである。その点では、この曲はまさにポンタのおいしい「ゴハン」をじっくりと味わうことができるだろう。




9.原由子「Misty Morning」

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サザンオールスターズの原由子のソロアルバムから1曲。ソロアルバムと言っても、プロデューサーは桑田佳祐であり、コーラスやアレンジャーとしても参加している。イントロの柔らかいタッチのタムワークとAメロ以降のタイトな16ビートのメリハリはさすがの一言で、原由子の特徴的な声質をうまく活かしている。メロディーラインやベースラインと呼応するようなパターンやフィルイン、ボーカルの歌い方や声質に応じてドラムの音色や切れ味を変化させている部分は、ポンタの言うところの「ウタうドラム」を体現していると言えるのではないだろうか。



10.椎名林檎「シドと白昼夢」

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椎名林檎の「シドと白昼夢」は、もともとファーストアルバム「無罪モラトリアム」に収録されている曲だが、後にマキシシングルのカップリング曲として、往年のビッグバンドスタイルで再録されている。アレンジは服部隆之。バディ・リッチスタイルとでも言っていいのだろうか、豪快にスイングするポンタのドラムが椎名林檎のボーカルや豪華絢爛なホーンセクションを煽る、煽る! アレンジも冴えに冴えており、一瞬倍テンポになったときのドラムの疾走感は粋(いき)の極地だ。フリージャズピアニストの山下洋輔もビッグバンドスタイルのポンタのドラムを愛した一人で、音源はほとんどないが、山下が主宰するPANJAスイング・オーケストラでもポンタがスイングスタイルで叩きまくっていたのを目撃したことがある。




11.ジャンク フジヤマ「Morning Kiss」


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比較的最近のポンタ参加曲。ポンタは「歌いっぷりがいい」とジャンクフジヤマを評価し、自らサポートメンバーを集めたほどだったが、そのポンタの愛が特に感じられるのが「JUNK SCAPE」の初回限定版として収録されたライブ盤であり、映像を見ても楽しそうなポンタの姿を見ることができる。その中のジャンクの代表曲のひとつと言える「Morning Kiss」では、成熟した8ビートを刻みながらも、自由にパターンを組み立てることで印象的なビートに仕上げている。この曲の演奏から、ポンタの歌に対する姿勢を感じ取ることができ、ある意味でポンタのドラマーとしての極点を見出すことができると言ってもいい。



12.村上"ポンタ"秀一 feat.Tina「DOWN TOWN」


ポンタの音楽活動30周年アルバム「MY PLEASURE」から。これは山下達郎や大貫妙子などが参加していたシュガー・ベイブのヒット曲「DOWN TOWN」のカバーだが、ポンタ自身のリーダーアルバムということもあって、このバージョンではドラムがフィーチャーされており、ポンタファン必聴の1曲。グルーヴもさることながら、サビ終わりのブレイクに挟み込まれた「オカズ」は一聴しただけでポンタと分かるような特徴的な仕上がりになっており、ぜひ注目してほしいポイントである。また、アウトロでは突如として加速感のある7/8拍子へ移り、思い切り暴れるポンタのドラミングを楽しめる。曲を通して「ポンタ節」全開であり、ポンタファンにはたまらない!




13.角松敏生「OSHI-TAO-SHITAI "KAORI ASO"」


ポンタは角松敏生と親交が深く、数多くのアルバムに参加している。ギターインストアルバムである「SEA LINE」では2曲に参加しており、中でも「OSHI-TAO-SHITAI」はポンタの主宰するジャズフュージョンコンサート「音楽境地」でも演奏されているほどポンタのお気に入り曲である。タイトなキメとスピード感のある曲調ながら、思う存分暴れたドラミングを披露しており、ジャケット写真のイメージに合うような夏らしい爽快な印象を与えている。コンサート音源をCD化した「音楽境地 〜奇跡のJAZZ FUSION NIGHT〜 Vol.2」に収録されているバージョンや角松敏生のライブ映像などでは、さらに「ポンタ節」全開の大暴れなドラミングを聴くことができるため、ぜひ聴き比べてポンタのドラミングに浸ってほしい。



14.渡辺香津美「AMERICAN SHORT HAIR」

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角松のみならず、フュージョン・ジャズギターの第一人者である渡辺香津美や、今回挙げなかったが高中正義との付き合いも長く、ポンタはギタリストにも愛されたドラマーとも言える。この「桜花爛漫」もライブアルバムで、どの曲も全て素晴らしいが、敢えてギターソロのイントロダクションからの2曲目、「AMERICAN SHORT HAIR」を推しておく。スライ&ロビーのような速めのスカ・レゲエ調の曲想だが、ライブのオープニングらしく疾走するポンタのドラムとグレッグ・リーのうねるベースのコンビネーションが最高。しかもライブ録音のオノ セイゲンの腕もピカイチ。こんな素晴らしいドラムサウンドのライブアルバムはめったに聞けないだろう。




15.PONTA BOX「Pin Tuck」

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ピアノ佐山雅弘、ベース水野正敏を擁したポンタのリーダーバンド「PONTA BOX」。そのデビューアルバム「PONTA BOX」に収録されている。作曲は水野で、特にこの曲は複雑なキメフレーズとめまぐるしい場面展開が特徴的だが、ピアノソロやベースラインと合わせつつ難解なキメフレーズを処理しながらも、ライドシンバルワークや挿入されるフィルインからポンタらしさを十分に感じ取ることができる。また、モントルー・ジャズ・フェスティバルでのPONTA BOXの演奏を録音した「PONTA BOX ライヴ・アット・ザ・モントルー・ジャズ・フェスティバル」にも「Pin Tuck」が収録されており、よりアグレッシブな3人の演奏と掛け合いに加えて、キメフレーズ前後ではポンタのかけ声や叫び声も聴くことができる。



16.赤い鳥「赤い屋根の家」

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最後は、ポンタがミュージシャンとしてのキャリアをスタートさせた赤い鳥から1曲。このアルバムはポンタが赤い鳥に加入した直後にレコーディングされたもので、ポンタにとっては初めてのレコーディングであった。実際に聴いてみると、後年の演奏に比べて確かに粗さはあるものの、バックビートとダウンビートを使い分けたドラミングやブレイク間に挟み込まれたフィルインは、ポンタのドラムの原点といえるだろう。モータウンを彷彿(ほうふつ)とさせるようなアグレッシブなベースラインとポンタの落ち着いたドラミングの対比も印象的に仕上がっており、知る人ぞ知る名曲である。


ポンタは去ってしまったが、ポンタが叩いた曲は星の数ほど残されている。そのドラムサウンドを聴くたびに、音楽ファンなら誰もがあのいたずらっ子のような笑顔でドラムを叩くポンタの姿を思い出すことができる。ありがとうポンタ!


※記事の情報は2021年4月27日時点のものです。

  • プロフィール画像 スーパーミュージックラバー:ケージ・ハシモト

    【PROFILE】

    ケージ・ハシモト
    あるときは音楽ライター、あるときはミュージシャン、あるときはつけ麺研究家と正体不明の超音楽愛好家。音楽の趣味もジャンルレスでプライスレス。

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