寺内タケシ追悼 エレキ・インストの素晴らしき世界

JUL 27, 2021

音楽ライター:徳田 満 寺内タケシ追悼 エレキ・インストの素晴らしき世界

JUL 27, 2021

音楽ライター:徳田 満 寺内タケシ追悼 エレキ・インストの素晴らしき世界 ゼロから何かを生み出す「創造」は、産みの苦しみを伴います。いままでの常識やセオリーを超えた発想や閃きを得るためには助けも必要。多くの人にとって、創造性を刺激してくれるものといえば、その筆頭は「音楽」ではないでしょうか。「創造する人のためのプレイリスト」は、いつのまにかクリエイティブな気持ちになるような音楽を気鋭の音楽ライターがリレー方式でリコメンドするコーナーです。

2021年6月18日、日本にエレキ・ギター(エレクトリック・ギター)を広めた「エレキの神様」寺内タケシが亡くなった。現在ではエレキ・ギターのいないバンドのほうが珍しいが、1960年代中期の日本では「エレキを弾くのは不良」という社会通念があったが、寺内タケシはじめ多くのギタリストやバンドの活躍が、そうした偏見を打ち破ってきたのだ。またその一方、当時のエレキ・ブームの中心を担っていたのは、ザ・ベンチャーズや寺内タケシ&ブルージーンズのような、ボーカルのないインスツルメント(インスト)によるヒット曲だった。そこで今回は、夏という季節にピッタリのエレキ・インストの名曲の数々を、それぞれの時代に沿って紹介してみたい。エレキ・インストという魅力あふれるジャンルが、令和の時代に復活することを願いつつ......。



1.寺内タケシ&ブルージーンズ/津軽じょんがら節


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1965年リリース。タイトル通り、津軽じょんがら節をアレンジした寺内タケシ&ブルージーンズの代表作の1つである。ギタリスト、ミュージシャンとしての寺内タケシの独自性は、三味線の奏法を取り入れた速弾きテクニックもさることながら、クラシックから民謡まで、どんなジャンルの音楽でもエレキ・バンド仕様に編曲してしまうという卓越したアレンジ能力にある。


彼は加山雄三の「夜空の星」や植木等の「遺憾に存じます」といった歌謡曲でもアレンジ・演奏を担当しているが、いずれも「ブルージーンズの音だ」とすぐに分かるほど、エレキが前面に出た、「音が主張する」サウンドになっている。そうした音へのこだわりと独自の演奏テクニックには、電気店を経営していた父親と、三味線の家元だった母親から生まれたという家庭環境が大きく影響しているのである。




2.ザ・ベンチャーズ(The Ventures)/急がば廻れ(Walk, Don't Run)


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1960年に発表され全米2位を記録した、ベンチャーズの代表曲の1つ。日本においては、1965年の2度目の来日公演が日本でのエレキ・ブームに火を付けたと言われているが、ベンチャーズが現在のJ-POPに連なるロックやポップスにもたらした功績の大きさは計り知れない。彼らの存在がなければ、エレキ・ギターを手にすることがなかった日本人も多かったはずで、大滝詠一、山下達郎、Charをはじめとする多くのプロミュージシャン/ギタリストが、ベンチャーズの影響力の大きさを語っている。


また、この「急がば廻れ」もそうだが、ベンチャーズは他人が作った曲を演奏することがほとんどで、有名な「パイプライン」や「キャラバン」、「十番街の殺人」、「テルスター」も、すべて他のミュージシャン/バンドがオリジナルである。にもかかわらず、ベンチャーズのバージョンが広く受け入れられた理由は、当時のリード・ギタリスト、ノーキー・エドワーズのギターテクニックと、ドラムスのメル・テイラーが繰り出す抜群のリズムによる、メリハリの効いたサウンド・プロダクションではなかったかと筆者は考えている。




3.加山雄三とザ・ランチャーズ/ブラック・サンド・ビーチ


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加山雄三が映画俳優として人気絶頂だった1965年にシングル盤としてリリースされた、日本が世界に誇るエレキ・インストの名曲。作曲も加山雄三自身(弾厚作名義)で、上記の「急がば廻れ」のコード進行を逆にして作ったそうだが、ハーモニクス奏法によるイントロや、展開部の広がり、ブレイクなど、エンディングまで起伏に富んだ見事なアレンジメントで、本家のベンチャーズのほか、大滝詠一率いる多羅尾伴内楽團や後述するサーフコースターズなどにもカバーされている。


加山が主演した映画「エレキの若大将」も同年に公開され、劇中でも寺内タケシ&ブルージーンズとともにこの曲を演奏するシーンがあるが、テレビでエレキ・サウンドが流れる機会が少なかった当時、全国の少年たちをエレキ・ギターの虜にしてしまったのは、ベンチャーズよりもこの映画だったのかもしれない。なお、加山にはほかにも「ヴァイオレット・スカイ」など、オリジナルのエレキ・インスト曲がいくつもあり、それらは1994年に発売されたCD「ブラック・サンド・ビーチ」(ドリーミュージック)で聴くことができる。




4.ディック・デイル(Dick Dale)/ミザルー(Misirlou)


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特にエレキ・インストに興味がなくても、この切り裂くようなイントロには聞き覚えがある人が多いだろう。そう、1994年に公開されたクエンティン・タランティーノ監督の映画「パルプ・フィクション」やリュック・ベッソン製作・脚本の映画「TAXi」シリーズの主題曲として使われた、1962年リリースの「ミザルー」(動画では01:30~)である。ディック・デイルはアメリカ・マサチューセッツ州ボストンの生まれで、その後カリフォルニアに移住。21歳でレコードデビューしており、「ミザルー」の大ヒットにより、カリフォルニアで流行しつつあったサーフィン/ホットロッドミュージックの代表的存在となった。


左利きのギタリストで、その手から繰り出されるワイルド&バイオレンスなサウンドは、ジミ・ヘンドリックスも影響を受けたと語っているほか、ガレージやパンクへの影響も指摘されている。なお、「ミザルー」は1920年以前に地中海沿岸の地域で生まれた歌。1940年頃からはインスト曲として、ジャズや、以前紹介したマーティン・デニーなどエキゾチック・ミュージックのミュージシャンに演奏されるようになったが、これがエレキ・インストバンドの定番曲になったのは、もちろんディック・デイルの功績である。




5.ジ・アストロノウツ(The Astronauts)/太陽の彼方に(Movin')


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前述のように、日本にエレキ・ブームを巻き起こしたのはベンチャーズだったが、それより2年前の1963年、日本国内においてエレキサウンドで大ヒットを飛ばしたバンドがいた。それが、このアストロノウツである。1956年にアメリカ・コロラド州の高校生たちにより結成され、この年メジャー・デビューアルバムを発表している。深いリバーブをかけた低音のギターが特徴で、アメリカでは典型的なサーフ・ミュージックバンドとして認識されており、チャートも初シングルの「サーフィンNo.1(Baja)」の94位が最高位だったのだが、なぜか日本において人気が爆発。


その代表曲が、この「太陽の彼方に」で、本国ではシングルカットすらされなかったのに、日本では1964年にシングルリリースされ、チャート1位を獲得。しかも同年には、このサウンドにそのまま田川譲二が「ノッテケ、ノッテケ、ノッテケ、サーフィン」という歌を被せたボーカルバージョンも大ヒットし、「ノッテケ、ノッテケ」は流行語にもなった。日本人にとっては、「エレキといえば夏」というイメージを決定づけた曲でもある。




6.ザ・シャドウズ(The Shadows)/アパッチ(Apache)


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これまで紹介してきた海外のバンドは、いずれもアメリカ出身だったが、このシャドウズは英国のバンドである。彼らはまず、歌手のクリフ・リチャードのバックバンドとしてデビュー。1960年にリリースしたこの「アパッチ」が本国で5週間チャートのトップになるなど、ヨーロッパで大ヒットしたことをきっかけに独立した。


アストロノウツ同様、インストだけではなくボーカルナンバーが多いにもかかわらず、アメリカでは他のサーフ・サウンドのバンドと十把ひとからげにして売られたことにバンド側は強い不満を持っていたそうだが、シャドウズのエレキサウンドはアメリカのバンドにはない繊細さと品の良さを感じさせ(つまり、今ひとつ押しの弱さも感じさせ)、同じ海でもアメリカの西海岸ではなく、ワイト島などのイギリス海峡を思い浮かべさせてくれる。




7.ザ・スプートニクス(The Spotnicks)/霧のカレリア(Karelia)


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ザ・スプートニクスはシャドウズ同様ヨーロッパのバンドで、出身はスウェーデン。この「霧のカレリア」は1965年にリリースされたのだが、リーダーでリード・ギターのボー・ウィンバーグは、その前にザ・フィーネーズというバンドで「哀愁のカレリア(Ajomies)」という、「霧のカレリア」と全く同じ曲を録音している。日本人の琴線に触れる哀愁漂うマイナーのメロディーとギターの音色が特徴で、1966年には日本でチャート1位を記録するが、アストロノウツ同様、本国では全く反響のない完全なローカルヒットだった。


北欧には他にもフィンランドのバンド、ザ・サウンズが1963年にリリースした「さすらいのギター(Manchurian Beat)」がやはり哀愁を誘う曲調で、日本で大ヒット。「霧のカレリア」同様、寺内タケシ&ブルージーンズをはじめ、数多くのエレキ・インストバンドにカバーされた。特にそのあたりの日本人の好みをよく分かっていたベンチャーズは、「京都の恋」や「雨の御堂筋」などの歌謡曲を作曲・演奏して、大ヒットを飛ばしたのである。




8.CREATION/Spinning Toe-Hold


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ここから再び日本人勢に戻るが、時代は1970年代に飛ぶ。1966年にビートルズが来日してからは、一気にボーカルバンドの時代が来てしまったため、エレキ・インストのブームはあっけなく終わりを迎える。1977年には前述の多羅尾伴内楽團が2枚のエレキ・インストアルバムを発表するが、時代はすでにクロスオーバー〜フュージョンへと移っていた。その先がけ的存在が、このクリエイションである。前身は、1969年結成のブルース・クリエイションで、1972年にいったん解散。その後、リードギターの竹田和夫が改めてクリエイションとして結成した。


1977年のアルバム「Pure Electric Soul」に収められた、この「スピニング・トー・ホールド」はプロレス技の名で、実際に当時のプロレスラー、ドリー・ファンク・ジュニアやテリー・ファンクの入場テーマ曲でもあった。竹田和夫はブルース・クリエイション時代から超絶技巧ギタリストとして知られていたが、この曲ではJB(ジェイムス・ブラウン)っぽいファンキーなリズムに乗せた速弾きリフが印象的。10年という歳月が、エレキ・インストの概念そのものを変えてしまったことがよく分かる。




9.高中正義/Blue Lagoon


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1980年代に入ると、日本の音楽シーンはそれまでとは全く違う姿を見せ始めた。細野晴臣や大滝詠一、山下達郎など、1970年代にデビューした中堅どころが発想と装いを変えて、よりポップで華やかな音を創り始めたのである。この高中正義も、1972年にサディスティック・ミカ・バンドのギタリストとして世に出た頃は「天才ロックギター少年」という趣だったが、ソロになって5作目のアルバム「JOLLY JIVE」からシングルカットされたこの「Blue Lagoon」は、トロピカルな南国をイメージさせる明るく壮大な曲調で、ギターの音色も極めてクリア。結果、これが彼の代表作となった。筆者はこの曲が大ヒットしていた頃は高校生だったが、クラスで「YMO派」と「高中派」に分かれて、どっちが音楽として優れているか論争した記憶がある。今から思えばくだらない話だが、「TAKANAKA」はそれだけ人気があったのである。




10.カシオペア/朝焼け(Asayake)


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80年代初頭の日本のロック/ポップス界は、エレキ・ギターでメジャーセブンスコードをカッティングするリフが流行していた。代表的なのが、現在シティ・ポップの金字塔として評価の高い、山下達郎の「Sparkle」(1982年)のリフだが、この手法をいち早く取り入れていたのがカシオペアの「朝焼け(Asayake)」である。


この曲は、1979年に発表されたセカンドアルバム「Super Flight」に初収録されて以来、何度も録音し直されているが、7枚目のアルバム「Mint Jams」(1982年)に収められたバージョンが音質のクリアさで群を抜いており、また最も世に受け入れられて、バンドの代表作となった。この数年後、大学生になった筆者はバンドサークルに入ったが、ただシンセを持っているというだけで、この「朝焼け」を演奏するバンドに加入させられたという思い出もある。実際、聴いても演奏しても、自然と盛り上がる陽性の曲で、そんなところもこの時代を象徴している。




11.ザ・サーフコースターズ/The Clash


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さらに時代は飛んで、1994年。なぜかこの年、かつてのサーフ・ロックをほうふつとさせるバンドが日本に現れた。それがこのサーフコースターズである。彼らは自ら「ディック・デイルの直系」を名乗っており、それはこの「The Clash」を聴いてもよく分かる。ただし、最初はベンチャーズのコピー・バンドだったそうである。もちろん、メンバーはリアルタイムでエレキ・インストブームを体験した世代ではない。おそらくはグランジやガレージロックという視点で、エレキ・インストを聴いたのではないかと思う。


動画は、メジャーデビューした1995年に行われたライブの模様で、見てもらえば分かるように、非常に熱い演奏が繰り広げられている。その後、2000年代には数度のアメリカ・ツアーも経験。現在は中心人物であるギターの中シゲヲ以外メンバーが変わり、ベース、ドラムスとのトリオ編成となっているが、日本のエレキ・インストの火を絶やさないという意味でも、末永く活動してもらいたいものである。




12.クルアンビン(Khruangbin)/Dern Kala


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最後に、まさに今が旬の若手バンドを紹介したい。それがこのクルアンビンだ。アメリカ・テキサス出身の3ピースバンドで、バンド名は「飛行エンジン」を意味するタイ語。音楽的にもタイファンクを取り入れていると言われており、この「Dern Kala」(動画では04:14〜)もエスニックな響きが心地よい。


ただ、このバンドの音楽性はもっと幅広く、メンバーのルーツであるヒップホップやファンク、ソウルからサイケデリック・ロック、レゲエやダブ、映画音楽までを取り込んでいるにもかかわらず、表現される音が実に洗練されて聴きやすいところに新しさを感じる。2019年にはフジロックフェスティバルで大トリを務め、同年のベスト・アクトとも評された。また、ベースのローラ・リー(Laura Lee)のセクシーなパフォーマンスにも人気が集まっている。インストだけでなくボーカル曲にも優れた作品が多く、今後も非常に楽しみなバンドである。


※記事の情報は2021年7月27日時点のものです。

  • プロフィール画像 音楽ライター:徳田 満

    【PROFILE】

    徳田 満(とくだ・みつる)
    昭和映画&音楽愛好家。特に日本のニューウェーブ、ジャズソング、歌謡曲、映画音楽、イージーリスニングなどを好む。古今東西の名曲・迷曲・珍曲を日本語でカバーするバンド「SUKIYAKA」主宰。

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