The Rolling Stonesの「親子たち」

JUN 8, 2021

音楽ライター:徳田 満 The Rolling Stonesの「親子たち」

JUN 8, 2021

音楽ライター:徳田 満 The Rolling Stonesの「親子たち」 ゼロから何かを生み出す「創造」は、産みの苦しみを伴います。いままでの常識やセオリーを超えた発想や閃きを得るためには助けも必要。多くの人にとって、創造性を刺激してくれるものといえば、その筆頭は「音楽」ではないでしょうか。新企画「創造する人のためのプレイリスト」は、いつのまにかクリエイティブな気持ちになるような音楽を気鋭の音楽ライターがリレー方式でリコメンドするコーナーです。

どれほどオリジナリティあふれる存在に見えるアーティストでも、必ず誰かの影響を受け、また誰かに影響を与えている。ましてやそれが、来年(2022年)結成60周年を迎える現役最長寿ロックバンド、ローリング・ストーンズであれば、そのルーツも、受け継ぐ者も、世界中に星の数ほど存在する。今回は、ごく一部ながら、ストーンズが多大な影響を受けた「親たち」のオリジナルとストーンズのバージョンを聴き比べるとともに、ストーンズに影響を受けた「子どもたち」も加え、ストーンズを軸とした音楽の変遷の魅力を探ってみたい。



1.Muddy Waters/I Can't Be Satisfied


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まずはバンド名の由来となったマディ・ウォーターズから始めるのが「礼儀」だろう。マディは1915年、アメリカ・ミシシッピ州の生まれ。1940年代にシカゴへ移り、その豪快な歌いまわしで「シカゴ・ブルースの帝王」として知られた。

マディの曲「Rolling Stone」からバンドを命名したのはブライアン・ジョーンズだが、10代のミック・ジャガーが幼なじみのキース・リチャーズと再会したときに、持っていたのがマディのベスト盤LPだったというエピソードからも、ストーンズというバンド自体、マディの存在なくしては成り立たなかったことがよく分かる。そしてこの「I Can't Be Satisfied」も、ミックが抱えていたベスト盤のラストに収録されていた。タイトルからして、ストーンズの代表曲「(I can't get no)Satisfaction」を連想させる。




2.The Rolling Stones/I Can't Be Satisfied


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上記のように、マディのオリジナルは以前からミックやキースも愛聴していたので、ストーンズでカバーしないはずがない。レコードになったのは、1965年にリリースされたイギリスでのセカンドアルバム「The Rolling Stones No. 2」だが、ライブではそれ以前からプレイされていたと思われる。

マディのバージョンが、どちらかといえばカントリーっぽい仕上がりなのに対し、ストーンズ・バージョンはオリジナルのリズムは継承しつつも、よりポップな仕上がり。当時22歳のミックの若々しい歌声、24歳のチャーリー・ワッツが生み出す軽快なグルーヴが瑞々しい。なお、YouTubeのストーンズ公式チャンネルには、2006年のツアーリハでミックがスライド・ギターを弾きながら歌う動画もある。




3.Robert Johnson/Love In Vain


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続いては、伝説的な戦前ブルースマンとして知られるロバート・ジョンソンのこの曲。マディ同様ミシシッピ生まれの、「デルタ・ブルース」(初期ブルース)の代表的存在で、「十字路で悪魔に魂を売り渡してギターテクニックを身につけた」という「クロスロード伝説」があるほどの巧みなギタープレイと、味のあるボーカルによる弾き語りで、北米大陸を渡り歩いたという。

1938年にわずか27歳の若さで亡くなったが、戦後のブルースマンはもちろん、ロックミュージシャン、ボブ・ディランなどのフォークシンガーにも多大な影響を与えた。筆者は1990年、彼が生前に録音した全音源が、日本ではCBS・ソニーレコード(現ソニー・ミュージックエンタテインメント)から2枚組CDとして発売されたとき、さまざまな音楽ファンが注目し、話題になったことをよく覚えている。




4.The Rolling Stones/Love In Vain


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ロバート・ジョンソンの原曲は、歌とアコースティック・ギターによる素朴な弾き語りで、わずか2分ちょっとで終わってしまうのだが、ブルースマニアであるストーンズは、そんな地味とも言える曲を見逃さなかった。初めて音盤化したのは、1969年のアルバム「Let It Bleed」。原曲よりぐっとテンポを落としたスロー・バラードにアレンジされ、表現力を増したミックのボーカルが映える。そしてミック・テイラーのスライドが、まるで汽車の汽笛のように響き、駅で去りゆく彼女を男が虚しく見送るという歌詞の情景に思いを至らせる。

ストーンズ自身もこの出来に手応えを感じたようで、以後はライブの定番曲に据え、同年のライブ盤「Get Yer Ya-Ya's Out!」にも収録している。また、1995年の「Stripped」には、ワールドツアー中に東京のスタジオで録音したバージョンが収められており、円熟味のある演奏が楽しめる。今回紹介するYouTubeの映像は1972年、テキサスでのライブバージョンで、これまた聞きものだ。ちなみに邦題は「むなしき愛」。




5.Chuck Berry/Little Queenie


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ストーンズのルーツを語る上で、やはりチャック・ベリーの存在は欠かせない。なにせ最初のシングルがチャックのヒット曲「Come On」だし、以後も「Around and Around」、「You Can't Catch Me」、「Johnny B. Goode」、「Carol」、「Let It Rock」、「Bye Bye Johnny」、「Sweet Little Sixteen」といった作品をカバー。おそらく海賊版を含め音盤化されたカバー曲の中では、チャックのものが最も多いのではないだろうか。

その理由としては、ロックンロールの創始者のひとりとして、メンバーの誰もがリスペクトしていることと、3コードの簡単な構成の曲が多いので、ライブで演奏しやすいことが挙げられるだろう。この曲は1959年に「Almost Grown」のB面としてリリースされたもので、現在の耳で聴けばよくあるロックンロールに過ぎないが、その形式を作ったのがほかならぬチャックなので、有無を言わせず聴かせてしまうのだ。だが、若くして「King」に上り詰めてしまったチャックの性格はなかなか厄介だったようで、キースが音楽監督を務めた1986年の映画「ヘイル!ヘイル!ロックンロール」では、「あの」キースに無理難題をふっかけるチャックの姿が映像に収められている。




6.The Rolling Stones/Little Queenie


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というわけで、ストーンズにとっては「神様」のひとりであるチャック・ベリー。この曲のカバーは前述の「Get Yer Ya-Ya's Out!」に収められているが、特にアレンジを加えることもなく、勢いのままストレートに演奏している。この頃は初期のリーダーでもあったブライアン・ジョーンズが脱退し、代わりにミック・テイラーが参加するという、バンドにとっては激動期だが、「Beggars Banquet」、「Let It Bleed」という傑作アルバムを次々に作って乗りに乗っており、彼らの代名詞となる「Jumpin' Jack Flash」のほか「悪魔を憐れむ歌」、「Street Fighting Man」、「Honky Tonk Women」など、現在ではロックのスタンダードとなっているオリジナル曲も続々と生まれていた。

もちろんストーンズはライブでもそれらの曲をガンガン演奏していたが、その合間にプレイされていたのが、チャックのカバー。前述のようにチャックの曲はシンプルな3コードの作品が多いので、バンドとしては気楽にプレイできるし、まだ新しい曲に慣れていない聴衆に向けての「箸休め」的な意味合いとしても、うってつけだったのではないだろうか。




7.Howlin' Wolf/The Red Rooster


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ストーンズの4人目の「親」は、ハウリン・ウルフ。マディ・ウォーターズやロバート・ジョンソン同様、ミシシッピ州生まれのブルースマンで、シカゴのブルース・R&Bレーベル「チェス・レコード」の看板アーティストだった。ちなみにチェスには他にもマディやチャック・ベリーのほか、今回は紹介できなかったがジャングル・ビートの創始者ボ・ディドリーやエタ・ジェイムスなど、ストーンズに多大な影響を与えたアーティストたちが所属しており、ストーンズ憧れのレーベルでもあった。

ハウリン・ウルフは、活動を始めた1940年代から亡くなる1976年まで、ブルース一筋に生きた人で、渋いダミ声で唸るように歌うこの「The Red Rooster」はまさに代表作。なんでもハウリン・ウルフはめったに自分ではギターを弾かなかったそうだが、この曲のスライドは本人によるものだという。




8.The Rolling Stones/Little Red Rooster


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もしかしたら、あまりルーツに関心のないストーンズファンの中には、この曲がストーンズのオリジナルだと思っている人もいるかもしれない。先に掲げた「Love In Vain」や、「Time Is On My Side」もそうだが、それくらいストーンズの作品として長きにわたり親しまれているのが、この「Little Red Rooster」だ。「The Red Rooster」のカバーであるこの曲は、なんといっても、イギリスで初めてスライド・ギターを弾いた男、ブライアン・ジョーンズ抜きでは語れない。

ミックとキースが大いに感銘を受けたというそのスライドが主役のようなこのバージョンは、1964年にイギリスでシングルとしてリリースされ、チャート1位を獲得。このような渋いブルースがそれだけ大衆の支持を集めたというのも驚きだが、その大きな要因は、ミックの声とチャーリーの抜群なリズムセンスだったのではないかと筆者は思っている。なお、ストーンズは1977年のライブ盤「Love You Live」でもこの曲を収録。キースとロン・ウッドのダブル・スライド・ギターが聴けるこちらもおすすめだ。




9.Primal Scream/Rocks


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さて、ここからはストーンズの影響を強く感じさせる「子どもたち」の楽曲を紹介する。冒頭で書いたように、ストーンズに影響されたプロのアーティストは掃いて捨てるほど存在する。有名なところでは、顔(というか唇?)もメンバー構成もよく似ているエアロスミス、バンド名自体ストーンズの曲名から取ったストレイ・キャッツ、などなど。最近の若手では、ストーンズのオープニング・アクトも務めたThe Struts(ザ・ストラッツ)が「現代のストーンズ」と言われている。

しかし、ストーンズそのものの「音」となると、1994年、全米7位に輝いた、プライマル・スクリームのこの曲にとどめを刺すだろう。一聴してお分かりのとおり、もろ1960年代末〜1970年代前期のストーンズの音になっている。実はこれ、当時ルーツ・ロックへの志向を強めていた彼らがメンフィスへ飛び、ストーンズもレコーディングしたマッスル・ショールズスタジオで、オーティス・レディングやアレサ・フランクリンの名盤を手掛けたエンジニア、トム・ダウドと作り出したサウンドだったのである。



10.DEVO/(I Can't Get No) Satisfaction


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続いての「子どもたち」は1976年にデビューし、現在もなお活動を続けるバンド、ディーボ。アメリカ・オハイオ州出身の2組の兄弟から成るこのバンドはテクノポップにカテゴライズされることが多いが、クラフトワークやYMOとは違ってコンピューターを使わない「純人力バンド」で、どちらかといえばニュー・ウェイブの先駆者だ。

元ロキシー・ミュージックのブライアン・イーノがプロデュースしたメジャーデビュー・アルバム(邦題「頽廃的美学論」)に収められたこのカバーは、原曲のグルーヴを拒否した「硬直化リズム」とでも呼びたいようなアレンジで、音楽シーンに与えた衝撃は大きく、YMOがビートルズの「Day Tripper」をカバーしたのも、これがきっかけだった。いわば「不肖の息子」といったところだが、「親」が偉大であるからこそ、この名カバーが生まれたとも言える。




11.The Street Sliders/Blow The Night!


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ここからは日本のアーティストを。ストーンズもどきのバンドは日本にも山ほどいるが、その演奏スタイルと音を継承しつつ、商業的にも成功したバンドは少ない。1970年代には山口冨士夫のいた京都の「村八分」が近い存在だったと思えるが、わずか3年で解散。そう考えると、1983年にデビューし、2度の休止期間を挟みつつも2000年まで活動を続けたストリート・スライダーズは、日本におけるストーンズ・スタイルバンドの、ほとんど唯一の成功例ではないだろうか。

アマチュア時代は「リトル・ストーンズ」のあだ名で呼ばれていたそうだが、実際、村越弘明(ハリー)と土屋公平(蘭丸)が醸し出すツイン・ギターの絶妙な絡み具合は、本家のキースとロン・ウッドにも負けないほどだ。また、ハリーによる倦怠感混じりのボーカルも、70年代初期のミックを思い起こさせる。公式チャンネルはないものの、ファースト・シングルでもあるこの「Blow The Night!」は、そんなスライダーズの魅力が詰まった1曲なので、ぜひ聴いていただきたい。




12.RC Succession/トランジスタ・ラジオ(ライブ)


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今回のセレクションの締めは、日本を代表するロックバンド、RCサクセション。もともとRCは全員アコースティックによるトリオで、オリジナリティあふれる演奏を展開していたが、売れるためにストーンズ・スタイルのバンド編成に変え、目論見通り大成功を収めた。ステージでの忌野清志郎と仲井戸麗市は、互いにミックとキースを意識し、特に清志郎はミックをしのぐほど派手で自由自在なパフォーマンスを繰り広げた。

その意味で、RCは日本におけるストーンズの正統な継承者であると筆者は考える。そして、清志郎が高校の屋上で聴いていたラジオからは、きっとストーンズのナンバーも流れていただろう。そんな、この「トランジスタ・ラジオ」は、ぜひ1986年のライブ盤「the TEARS OF a CLOWN」のバージョンで聴いていただきたい。なお、1990年のストーンズ初来日の際、清志郎は東京ドームの楽屋を訪れているが、これはもともとビル・ワイマンが細野晴臣の大ファンで、来日公演に招待された細野が清志郎を連れて行ったそうだ。


※記事の情報は2021年6月8日時点のものです。

  • プロフィール画像 音楽ライター:徳田 満

    【PROFILE】

    徳田 満(とくだ・みつる)
    昭和映画&音楽愛好家。特に日本のニューウェーブ、ジャズソング、歌謡曲、映画音楽、イージーリスニングなどを好む。古今東西の名曲・迷曲・珍曲を日本語でカバーするバンド「SUKIYAKA」主宰。

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