反田恭平 | クラシックの未来を考えるのが楽しい

音楽

反田恭平さん ピアニスト・指揮者〈インタビュー〉

反田恭平 | クラシックの未来を考えるのが楽しい

2021年10月、「第18回ショパン国際ピアノコンクール」(以下、ショパンコンクール)で、日本人として約50年ぶりの第2位入賞を果たした反田恭平さん。ピアノのみならず、「ジャパン・ナショナル・オーケストラ」の指揮やプロデュース、音楽サロン「Solistiade(ソリスティアーデ)」を主宰されるなど、多彩にご活躍されています。インタビュー後編では、普段の練習方法、オーケストラや音楽サロンへの想い、今後の夢をうかがいました。

前編はこちら

限られた時間で集中して練習する

――普段はどのようにピアノを練習しているのですか。


世界で活躍する名だたるピアニストの中では一番練習していないかもしれません(笑)。やることが多すぎて練習できないんです。限られた時間の中で、どうやって要領よく練習するかを常に考えています。あとは自分が取り組む曲をなるべく聴いています。車を運転しているときも四六時中流して、耳から覚えちゃうって感じです。


演奏の際は「全ての力を抜いて、家で弾いているように弾くのが理想」と話す演奏の際は「全ての力を抜いて、家で弾いているように弾くのが理想」と話す


――ショパンコンクールに向けては、理想の音を出すために、体づくりにも励んだとうかがいました。どのように取り組んだのですか。


2020年にショパンコンクールの延期が決まって、開催まであと1年あるし、筋肉をつけたらどんな音になるのかなと気になって鍛え始めました。3カ月ジムに通って筋肉をつけてから弾いてみると、自分の思っていた音ではない硬い音が出てきたので、そこから少し落としました。これくらいに落とせばいいかな? と調整しながら、コンクールまでもっていきました。


――普段の生活の中で、ピアノの練習以外に、創造性や表現力を高めるために取り組んでいることはありますか。


なるべく旅行に行きたいなと思っています。自然を見たり鳥の声を聴いたり。そういうことは大事にしたいですね。例えば、風で木々が揺れるのを見るとき、木が動いているのか、風が動いているのか。そうしたことで音楽が変わるわけです。主体をどこに持ってきて、どのように見るのかは、いろんな景色を見ながら日々考えています。


カメラで風景を撮るのも好きです。お風呂に入っている時や寝る前に、撮った写真を見ながら、どういう香りでどんな音だったかを思い返したりしますね。


反田恭平さん




ピアノを弾くより指揮を振る方が好き
オーケストラ、音楽サロンを主宰

――指揮者になりたいという夢からピアノを極めたとのことですが、その気持ちは今も変わらないのでしょうか。反田さんにとってピアノはどんな存在ですか。


ピアニストはなぜ自ら孤独でいなければならないんでしょうね。ソロが好きな人もいると思いますが、僕はみんなで演奏する室内楽やコンチェルトの方が好きです。この前久しぶりに指揮をして改めて強く思ったのは、ピアノを弾くよりも指揮を振る方が断然好きだなと。今年4月からウィーンで本格的に指揮を学び始めました。指揮台に立って感覚も景色も変わったし、ちゃんとやれば自分のやりたいことがもっとできるんだろうなって兆しが見えてきました。


ピアノは僕の中では指揮が上手くなるための1つのツールでしかない。そんな冷めた目で見ているところもあるし、でもピアノにはすごくお世話になって、ここまで来たらこれからもある程度弾かなきゃいけないんだろうなと思うし。いろいろ考えることが多い時期ですね。


東京・表参道にある「スタインウェイ&サンズ東京」内のホールにて東京・表参道にある「スタインウェイ&サンズ東京」内のホールにて


――2021年、ご自身がプロデュースする「MLMナショナル管弦楽団」を「ジャパン・ナショナル・オーケストラ(JNO)」と改名し、株式会社化して代表取締役社長に就任されました。オーケストラを株式会社化することの意義は何でしょうか。


純粋にメンバーと世界中を飛び回りたいというのが大きいです。株式会社だと利益を出さないといけなくて、黒字になれば次のステップへの投資ができるわけですから。今後の成長や、やりたいことを考えると良い選択だったと思います。メンバーにはそれぞれの目標や夢があると思いますが、中でも僕はとりわけアイデアがぽんぽん出てくるので、自由に活動できて、そのアイデアをどんどん実現させていく意味でも株式会社だと思いました。


――「ジャパン・ナショナル・オーケストラ」の現在の反響や手応えについては、どのように感じていますか。


ありがたいことに、JNOのオーケストラとしての公演は各地どの公演も満席ですので、社会的な認知は少しずつ広まっているのかなとこの1年で実感しました。ただ、もっとオーケストラのメンバー個々人を知っていただきたく、それぞれのリサイタルシリーズを奈良と東京で行っています。このシリーズについては、集客についても常にどういうふうに広げて、個々人の個性を皆さんに伝えていけるか、メンバーを巻き込んで考えています。


東京・表参道にある「スタインウェイ&サンズ東京」内のホールにて



――若手の音楽家とファンをつなぐ音楽サロン「Solistiade」も運営されています。チケットの先行販売のほか、コンサート企画への参加、会員限定レッスンなど、クラシック音楽を楽しめるコンテンツが充実していますね!


初めは無料のファンクラブだったのですが、それをいずれなくして、完全に有料のオンラインサロンだけにしようと思っています。有料会員は年会費5,000円と3万円、2つのコースを設けています。たとえ5,000円でも会員数が多ければ大きなお金が動くので、人数がいればいるほど面白い企画をどんどん考えられると思います。


応援してくれる方への恩返しとして、お客さんが足を運んでみたいと思うようなコンサートを企画しています。今年5月に開催した特別コンサートでは、務川慧悟(むかわ・けいご)くんと共演し、僕が指揮、務川くんがピアノでシューマンの「ピアノ協奏曲 イ短調 Op.54」を演奏しました。また、この時のもう1つのメインは、お客さんに参加いただくという企画。今回は「JNOを振ってみる!」という指揮者体験コーナーを設けました。年齢に関係なくたくさんの方からご応募があり、全員はとても難しく抽選になりましたが、約30人の方にオーケストラの指揮を体験していただきました。


今後は会員限定のプライベートレッスンもやっていきます。もし自分が今10代、20代くらいで、世界レベルのコンクールの入賞者のレッスンを受けられるチャンスが目の前にあったら、受けたいなって思いますね。もちろんピアノだけでなく、弦楽器、金管、木管のメンバーもレッスンできます。会員の皆さまにはそういったところで還元して、音楽の知識や楽しさを広めていきたいと思っています。


音楽サロン「Solistiade」反田さんが今をときめく若手演奏家の仲間たちと一緒につくる音楽サロン「Solistiade」。学校では学ぶことのできない音楽や楽器の話、映像を用いた楽曲解説やレッスン、コンサート企画への応募や参加など、クラシック音楽の奥深さや楽しみを体験できる



クラシック音楽の総合アプリを作りたい

――2030年には日本に音楽の学校をつくりたいという夢をお持ちとのことですが、どんな学校を思い描いていますか。


社会が激しく変化している毎日なので、5年、10年先が見えづらく、まだ明確には決めていませんが、今までの教育システムとは少し違って、生徒の未来がきちんと考えられる環境をつくり上げていきたいと考えています。世界に通用するトップアーティストを育てていきたいと思います。


――ほかに実現したいこと、夢はありますか。


クラシック音楽の総合アプリケーションを作りたいなと、4年くらい前から考えているんです。クラシック音楽のインフォメーションを1つのビジネスとして「見える化」したいです。僕のファンには、北海道から沖縄、さらに海外まで全公演に足を運んでくれる方がいらっしゃる。そういう方々のためにも総合アプリがあればいいなと思っています。


例えば「反田恭平のコンサート」と検索したら一覧が出てきて、ホールの説明、開催地の特産物、おいしいお店の情報など、ローカルマップがパッと出てくる。そうすれば地域の方も喜ぶし、聴き手も気軽に遊びに行けるんじゃないかな。チケットもアプリ1つで簡単に手に入り、ホールへの道のりや自分の座席を示してくれれば、当日も迷わずに行けます。僕が今、「Solistiade」を運営しているのはいずれアプリ化したいからなんです。


今言った夢はあくまでも7本くらいある柱の1つでしかありません。率先してやる人がいないのであれば僕がやるべきなのかなって思うし、そういうことを考えるのが趣味なんですよね。楽しいです。


反田恭平さん



――夢が膨らみますね! 反田さんが目指したい、日本のクラシック界の理想とはどんな世界でしょうか。


タクシーやバスなどで、日常的にクラシック音楽の話ができるような世界が待っていればいいなと思います。それは僕が死んでから100年後とかになるかもしれないけど、今のうちに種をまいておかないと芽も生えないですからね。


――ありがとうございました。今まで数々の夢を実現させてきた反田さんだからこそ、これからの夢がかなう未来もそう遠くはないかもしれないと思いました。穏やかなお人柄でありながら、たくさんの夢と野心にあふれ、反田さんが語る夢に一緒にワクワクさせていただきました。クラシック界の未来を背負う、真っすぐな姿勢が頼もしく素敵です。今後のご活躍を応援しています!



◆コンサート情報
反田恭平プロデュース Japan National Orchestra 2022ツアー
2022年11月2日 @岐阜 可児市文化創造センター
   11月5日 @岐阜 サラマンカホール
   11月9日 @福島 ふくしん夢の音楽堂(福島市音楽堂)
   11月10日 @秋田 アトリオン音楽ホール
   11月11日 @岩手 岩手県民会館 大ホール
   11月15日 @静岡 静岡市民文化会館   他
詳細:https://www.jno.co.jp/

横浜音祭り2022クロージングコンサート 反田恭平&Japan National Orchestra
2022年11月6日 @神奈川 横浜みなとみらいホール 大ホール
https://yokooto.jp/program/22002/

読売日本交響楽団 第623回定期演奏会
2022年12月12日 @東京 サントリーホール
https://yomikyo.or.jp/concert/2022/01/623-1.php



◆著書

初の自叙伝エッセイ「終止符のない人生」

初の自叙伝エッセイ「終止符のない人生」
2022年7月21日発売
出版社:幻冬舎
反田さんのコンサート会場では、会場限定カバー版を販売



◆CD

アルバム「反田恭平 凱旋コンサート サントリーホールライブ」

アルバム「反田恭平 凱旋コンサート サントリーホールライブ」
2022年7月27日発売
iTunes Store / Spotify



◆ラジオ番組
MBSラジオ「反田恭平 Growing Sonority
毎週月曜18時より放送中



【取材協力】
スタインウェイ&サンズ東京

スタインウェイ&サンズ東京:外観

スタインウェイ&サンズ東京:内観スタインウェイ国内唯一の直営店。多くのモデルを試弾できるほか、コンサートやセミナーなどのイベントも開催している(画像提供:スタインウェイ&サンズ東京)


※記事の情報は2022年7月29日時点のものです。

  • プロフィール画像 反田恭平さん ピアニスト・指揮者〈インタビュー〉

    【PROFILE】

    反田恭平(そりた・きょうへい)
    1994年生まれ。ピアニスト・指揮者。2021年第18回ショパン国際ピアノコンクールで日本では半世紀ぶりの第2位を受賞。2016年のセンセーショナルなデビュー・リサイタル以降、毎年定期的にリサイタルやオーケストラとのツアーを国内外で行っている。2018年からは室内楽や自身が創設したジャパン・ナショナル・オーケストラのプロデュースも行っており、2021年にはオーケストラのための新会社を立ち上げ、奈良を拠点に世界に向けて活動を開始した。2019年にはイープラスとの共同事業でレーベルを立ち上げ、2020年のコロナ禍ではいち早く有料のストリーミング配信を行ったり、ラジオのパーソナリティを務めるなどクラシック音楽の普及にも力を入れている。また若手音楽家とファンをつなぐコミュニケーションの場となる音楽サロン「Solistiade」も運営している。現在 F.ショパン国立音楽大学(旧ワルシャワ音楽院)研究科に在籍。ウィーンでは指揮の勉強を始めている。近著に「終止符のない人生」(幻冬舎/2022年7月21日発売)。

    反田恭平オフィシャルサイト
    https://kyoheisorita.com/

    ジャパン・ナショナル・オーケストラ
    https://www.jno.co.jp/

    オンラインサロン Solistiade
    https://solistiade.jp/

    YouTube
    https://www.youtube.com/channel/UCBnjvF0bRbyP2lX1qYc_aqA

    Facebook
    https://www.facebook.com/KyoheiSorita/

    Twitter
    https://twitter.com/kyohei0901

    Instagram
    https://www.instagram.com/kyoheisorita/

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