いま聴きたい! 5人のベーシスト

【連載】創造する人のためのプレイリスト

ミュージック・リスニング・マシーン:シブヤモトマチ

いま聴きたい! 5人のベーシスト

ゼロから何かを生み出す「創造」は、産みの苦しみを伴います。いままでの常識やセオリーを超えた発想や閃きを得るためには助けも必要。多くの人にとって、創造性を刺激してくれるものといえば、その筆頭は「音楽」ではないでしょうか。「創造する人のためのプレイリスト」は、いつのまにかクリエイティブな気持ちになるような音楽を気鋭の音楽ライターがリレー方式でリコメンドするコーナーです。

ベースというと、誰を思い浮かべますか? 天才ジャコ・パストリアス、職人マーカス・ミラー、モータウンの名曲を支えたジェームス・ジェマーソン、ポール・マッカートニー、ジャズの巨匠ベーシストのお歴々、さらにはロックやポップス、そのほかのジャンルも含めると膨大なリストができそうです。ベース、それはサウンドの核となる楽器。リズムの基礎を支え、曲を推進しながらハーモニーに彩りを添え、時にはカウンターメロディーを奏でるなど多くの役割を担います。


また、ライブでは、曲のボトム(低音域)、特に重低音を響かせることで場に臨場感を生み出します。リズムやハーモニーが多様化するほどに増していくベースの重要性。そのためバンドの音の要となるベーシストには、サウンド全体を現代的な音楽センスでつなぐ能力を備えた人が多いようにも思うのです。


さて今回は、2022年のいま、個人的に気になる最新鋭のベーシスト(新譜が出たら必ず聴きたいベーシスト)から5人を勝手にセレクトしてみました。コアな音楽ファンの間で話題になる作品には彼らの名前がクレジットされることも多いはず。そして、ほかのアーティストのバック・ミュージシャンとしての活動にも注目することで、その幅広い音楽性にも理解がきっと進みます。新しい音楽を探すなら、ベースに注目。ということで、現代のサウンドを支える低音のマエストロたちを一緒にチェックしてみましょう。


【今回セレクトしたベーシスト】

1.ピノ・パラディーノ
2.サム・ウィルクス
3.サンダーキャット
4.ペトロス・クランパニス
5.フレデリコ・エリオドロ




ピノ・パラディーノ

1.ピノ・パラディーノ&ブレイク・ミルズ「ジャスト・ロング」


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最初にチェックしたいのがピノ・パラディーノ(Pino Palladino)です。1957年ウェールズ生まれ、2022年現在で御年65歳のベテランですが、昨年、キャリア47年目にして初のオリジナル・アルバム「Notes With Attachments」を発表しました。


ギタリストでプロデューサーのブレイク・ミルズ(Blake Mills)との共同制作ですが、レコーディング・メンバーにはブレイク・ミルズ(ギター)のほか、サム・ゲンデル(Sam Gendel:サックス)、クリス・デイヴ(Chris Dave:ドラム)、マーカス・ストリックランド(Marcus Strickland:サックス)など、現代の音楽シーンを彩るキーパーソンが名を連ねています。年齢を感じさせない最新鋭のサウンド! ゆったりとレイドバックした雰囲気のなか、音色や拍などが絶妙なレイヤーを成し、独特のグルーヴと音響をつくり上げています。


お届けするのは、「Notes With Attachments」の1曲目に収録されている「Just Wrong」。パラディーノは、アコースティックとエレクトリック、2本のフレットレスベースをダブルレコーディングで弾いています。ブレイク・ミルズもアコースティック・ギターとシタール(インドの伝統楽器)のダブル。そこに、独特のエフェクトのかかったサム・ゲンデルのサックスが絡むサウンドは夢幻のイメージで、曲全体にアンビエント・ジャズやエレクトロニカといった現代的な雰囲気が充満しています。



2.ディアンジェロ・アンド・ザ・ヴァンガード「エイント・ザット・イージー」


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さて、ピノ・パラディーノは名うてのセッション・ベーシストとして、ティアーズ・フォー・フィアーズ(Tears for Fears)、ジョン・メイヤー(John Mayer)など、長年にわたって数々のアーティストのバックでシュアな演奏を聴かせています。中でも有名なのが、新時代のソウルを提示したディアンジェロ(D'Angelo)のバンド、そしてザ・フー(The Who)での活動でしょう。こうしたバック・ミュージシャンとしてのさまざまな「顔」を見ることも、彼の豊かな音楽性、ベーシストとしての引き出しの多さを理解する上で役立ちます。

まずは、ディアンジェロのアルバム「Black Messiah」(2014年)の1曲目「Ain't That Easy」です。

わざと拍をずらすような粘っこいビートを、クリス・デイヴのドラム、ディアンジェロのギターと共につくり出しています。海外のインタビューによると、ディアンジェロは、傑作セカンドアルバム「Voodoo」(2000年)のレコーディング時、パラディーノに対して、酩酊するようなドラム・ビートにさらに遅れたタイミングでベースを弾くように求めたといいます。ここには、スライ&ザ・ファミリー・ストーン(Sly & the Family Stone)の後期アルバムからの影響もあると個人的には思います。


こうして生まれた独特のノリは、その後の音楽シーンに決定的な影響を与えました。タイミングを後ろに置いて弾くことは、ジャズやブルースでは普通に行われていますが、こうして生まれた独特のタイム感はピノ・パラディーノのベースプレイの特色のひとつだと思います。それがよく分かるのが、ザ・フーでの演奏です。



3.ザ・フー「マイ・ジェネレーション」


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さすがレジェンドのブリティッシュ・ロックバンド、大変な数の観客ですね。さっきのブレイク・ミルズやサム・ゲンデルとスタジオでこぢんまりとセッションしていた人と同じ人物とは思えません。「My Generation」のベースソロ部分(ピート・タウンゼント(Pete Townshend)のギターと比べて音量が低めですが)を聴くと、オリジナル・メンバーの故ジョン・エントウィッスル(John Entwistle)のジャストなベースとは、タイミングが違うことが分かります。2004年、初めてザ・フーの来日公演を見た時、ベースがもたついているように聴こえて違和感を抱いたのですが、いま改めて聴くと新しさを感じます。


ディアンジェロとザ・フーのどちらも、来日公演時にピノ・パラディーノの演奏を生で聴くことができましたが、長身で、しかも背筋の伸びた姿勢でサングラス、ステージの一角で身じろぎもせずにベースを弾く彼の姿は非常に目を引きます。ビジュアル的にもバンドに欠かせないプレーヤーなのだろうなと感じました。

ピノ・パラディーノは、2022年11月にブレイク ・ミルズ、サム・ゲンデルらと来日公演を行いました。ジャズ、ロック、アンビエント・ミュージックなど多様な音楽の進化形とも言えるものでしたが、それはまさに彼のベーシストとしての幅広い知見と経験から生まれた音楽でした。


サム・ウィルクス

4.ノウワー「オーバータイム」


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5.サム・ゲンデル&サム・ウィルクス「アイ・シング・ハイ」


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ピノ・パラディーノのアルバムに参加していたサックス奏者のサム・ゲンデルと共に、2022年に音楽フェスのために来日したサム・ウィルクス(Sam Wilkes)も、若い世代にいま最も注目されているベーシストのひとりでしょう。

このサム&サムのコンビは、マルチ・プレーヤー、クリエーターであるルイス・コール(Louis Cole)率いるユニット、ノウワー(KNOWER)での活動で注目され、その後、コンビで「サックスとベース」にフォーカスしたアルバムを制作。2018年にリリースされた「Music For Saxofone & Bass Guitar」、その続編となる「Music For Saxofone & Bass Guitar More Songs」(2021年)では、ジャズの枠にとらわれない自由な音楽性でさまざまな実験的な曲づくりを展開しています。いま、ジャズ&アンビエントの最前線にいる2人といっても過言ではないと思います。


ノウワーとして2017年に発表された「Overtime」のミュージック・ビデオ(めっちゃはじけてます!)、続いてサム・ゲンデルとの共作「Music For Saxofone & Bass Guitar More Songs」(2021年)の収録曲「I Sing High」(めっちゃまったりしてます!)をどうぞ。これまた、同じ人たちとは思えない振り幅の広さですね。2022年の来日公演を見て実感しましたが、サム・ウィルクスのエレクトリック・ベースは曲のリズムや低音部を支えるだけでなく、メロディー、ハーモニーや音響の面でも大きな役割を担っています。今後、ベースの可能性を拡大していく人になるかもしれません。


サンダーキャット

6.サンダーキャット「ゼム・チェンジズ」


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7.サンダーキャット「ア・ファンズ・メール」


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さて、続いては、みんな大好きサンダーキャット(Thundercat)の登場。ノウワーのルイス・コールがサンダーキャットの2022年の来日公演にドラマーとして参加したのも記憶に新しいところです。


説明も不要と思いますが、簡単に彼のプロフィールを。アメリカ・ロサンゼルスを拠点にするベーシスト、ボーカリスト、プロデューサーで本名はステファン・ブルーナー(Stephen Bruner)。ミュージシャンの一家に育ち、数々のバンド活動を経て米人気ラッパーのケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)のグラミー賞作品「To Pimp a Butterfly」(2015年)に参加。

また、ソロ・アルバムもコンスタントに発表しており、3枚目の「Drunk」(2017年)では、本人の奇抜な出で立ちからは想像できない(失礼!)ソフトで美しいファルセット・ボーカルと超絶技巧のベース・プレイ、さらには豪華なゲスト・ミュージシャンのラインアップが注目されました。日本のアニメの大ファンで、日本にも何度か来訪し、国内アーティストたちとのコラボレーションを行っている親日家でもあります。

ここではアルバム「Drunk」から、日本のアニメへの興味がほとばしるミュージック・ビデオ「Them Chenges」と、「A Fan's Mail」のスタジオ・ライブ映像をご覧ください。ネック幅の広い6弦ベースをまるでクラシックギターのように縦横無尽に弾き、歌う彼の姿を見ていると、スターだなと思います。目が離せない......。


あと、一般的にはまだまだ知られていませんが、ぜひご紹介したいベーシスト、コンポーザーが2人います。駆け足でいきましょう。


ペトロス・クランパニス

8.ペトロス・クランパニス・グループ「クロマ」


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ギリシャ・アテネ出身のジャズ・ベーシストでコンポーザーのペトロス・クランパニス(Petros Klampanis)です。アルバム「CHROMA」からタイトル曲をお聴きください。ギリシャや地中海の伝統音楽とニューヨークの音楽(ジャズ)が融合した彼独自の世界を、ストリングスを交えたラージ・アンサンブルによって華麗に表現しています。

コントラバスを演奏するクランパニスをはじめ、ギラッド・ヘクセルマン(Gilad Hekselman:ギター)、シャイ・マエストロ(Shai Maestro:ピアノ)、そしてパーカッションに小川慶太(スナーキー・パピー ほか)など、ニューヨークを中心に活躍する優れたミュージシャンの演奏にも注目です。ジャズに新しい生命力を吹きこむ可能性を持ったアーティストだと思います。


フレデリコ・エリオドロ

9.フレデリコ・エリオドロ「ベック」


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個人的に南米のベーシストで最も気になる存在が、フレデリコ・エリオドロ(Frederico Heliodoro)です。2017年には現代ジャズ・ギターの帝王、カート・ローゼンウィンケル(Kurt Rosenwinkel)率いるカイピ・バンドのベーシストとして世界ツアーを行い、アントニオ・ロウレイロ(Antonio Loureiro)、ダニ・グルジェル(Dani Gurgel)といった傑出したブラジルの音楽家のバンドにも不可欠なトップ・プレーヤーです。


また、自身のソロ・アルバムでは、ジャズからブラジル伝統音楽、ポスト・ロックまでを横断する作曲能力を発揮し、現代的な感性が光る作品をこれまでに発表しています。機会があればぜひ彼の音楽に触れてみてください。あるいはライブでその優れた演奏を。


今回はたまたま男性ベーシストばかりでしたが、ほかにもセレクトしたいベーシストは数えきれず。では、次回のプレイリストもお楽しみに。


※記事の情報は2022年12月6日時点のものです。

※追記:2023年10月11日に再編集しました。

  • プロフィール画像 ミュージック・リスニング・マシーン:シブヤモトマチ

    【PROFILE】

    シブヤモトマチ
    クリエイティブ・ディレクター、コピーライター。ジャズ、南米、ロックなど音楽は何でも聴きますが、特に新譜に興味あり。音楽が好きな人と音楽の話をするとライフが少し回復します。

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