【連載】創造する人のためのプレイリスト

クラシック音楽ファシリテーター:飯田有抄

ロックなクラシック

クリエイティビティを刺激する音楽を、気鋭の音楽ライターがリレー方式でリコメンドする「創造する人のためのプレイリスト」。今回はクラシック音楽ファシリテーターの飯田有抄(いいだ・ありさ)さんが選んでくれた「ロックなクラシック」。ロックが誕生する前から存在した、爆音、過激、そして反骨精神にあふれるロック的なクラシック音楽をご堪能ください!

カバーフォト:飯田 有抄

目次



音楽だけでなく、作曲家の生き様にも表現されたロックな精神


「ロック」と聞いて思い浮かぶ音楽といえば、爆音のギター、シャウトするヴォーカル、力強いドラムスのビート、そして何より、権威や体制に媚びない反骨の姿勢ですよね。音楽ジャンルとしてのロックが生まれたのは20世紀半ばのことですが、この「ロックな精神」と呼びたくなるような生き方や音楽は、実は数百年前のクラシック音楽にも見出すことができます。


激しいリズムの連打で聴き手を興奮させる曲。権力や体制に屈せず、自分の信念を貫き通した作曲家。あるいは、本物の大砲まで登場させてしまう曲。クラシックという言葉の持つ「格調高さ」「静けさ」のイメージとはうらはらに、音楽そのものにも、作曲家の生き様にも、ロックと呼ぶにふさわしいものが数多く存在しています。


というわけで今回は、「ロックなクラシック」と題してご紹介します。"ヘドバン"したくなる曲あり、思わず胸が熱くなる反骨のエピソードあり。ロックという言葉の射程を、クラシックの世界にまで広げてみましょう!

ベートーヴェン――生き様も音楽もロックだった男


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「ロックなクラシック」というテーマを掲げるなら、この人を外すわけにはいきません。ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770〜1827)。もはや説明不要の大巨匠ですが、あらためて「生き様」に注目してみても、筋金入りのロックなのです。


ときは1812年、ボヘミア(現在のチェコ)にある温泉保養地テプリッツで療養していたベートーヴェンは、あの文豪ゲーテと連れ立って散歩をしていました。前方から貴族の一行がやってくると、ゲーテはさっと道の端に寄り、帽子を取って恭しく頭を下げたのですが、ベートーヴェンはと言えば、帽子も取らずにそのままずんずんと前進。身分や権威にまるで臆さないこの姿勢、実にロックですよね。


もっとも、このエピソードは、ベートーヴェンの私設秘書シンドラーが伝えたもので、その真偽のほどは定かではないのですが、「自由・平等・博愛」の理念がヨーロッパ中に広まりつつあったこの時代、ベートーヴェンは封建的な価値観を受け入れず、自由主義的な思想を持っていましたから、あながちあり得なくもないエピソードです。


そんな彼が、同じ1812年に完成させたのが、交響曲第7番イ長調で、注目は第4楽章です。タンタカタン! という鮮烈なリズムで幕を開け、後打ちのアクセントが推進力をみなぎらせながら、曲は一気呵成に駆け抜けていきます。のちにワーグナーがこの曲を評して「舞踏の聖化」と呼んだそうですが、まさに音楽そのものが踊りださんばかりの高揚感。リズムだけでここまで人を興奮させられるのか、と思わせる曲です。


初演の指揮台に立っていたベートーヴェン自身は、すでに難聴がかなり深刻化していたといわれています。それでも音楽を止めなかった。いえ、むしろそこから傑作を生み続けた。この不屈さもまた、ロックスターのようであります。


カルロス・クライバー指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏は、一度は聴いておきたい不朽の名盤です。

ショスタコーヴィチ――抵抗の四重奏の響き


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ロシア(旧ソ連)の作曲家ドミートリイ・ショスタコーヴィチ(1906〜1975)の生涯は、権力とのせめぎ合いの連続でした。スターリン体制下では、芸術家たちは名指しで批判され、粛清の恐怖に怯える暮らしを余儀なくされていました。ショスタコーヴィチも想像を絶する重圧の中で音楽家人生を全うした人です。


弦楽四重奏曲第8番は、1960年にわずか3日間で一気に書き上げられたといわれています。表向きは「ファシズムと戦争の犠牲者に捧げる」という献辞が付されていますが、実際には自身のイニシャルを音符化した「D-Es-C-H(レ・ミ♭・ド・シ)」を全曲にわたって執拗に反復させ、さらに自作の交響曲や協奏曲からの引用をちりばめるなど、きわめて個人的な、いわば「自分自身への鎮魂歌」としての性格を強く帯びた作品です。


当時ショスタコーヴィチは、共産党への入党を強要されるなど精神的に追い詰められており、この曲を書いた直後に自殺を仄めかす手紙を友人に送っていたことも知られています。ご紹介する第2楽章は、荒々しく鋭いアクセントに彩られた楽章で、牙を剥くような激情に満ちた音楽です。

バルトーク――民族の魂を刻んだ、妥協なき打鍵


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ハンガリーの作曲家バルトーク・ベーラ(1881〜1945)は、東欧のエネルギーをまとった近代の前衛的作風で知られる人ですが、同時に、エジソン発明の「フォノグラフ(蓄音機)」を担いで農村を歩き、民謡を採集し続けた情熱の人でもありました。


土地の言葉や暮らしを心から愛し、民謡を単なるナショナリズムの象徴や表面的な民族色として用いるのではなく、音楽そのものの源泉として深く研究し、自身の作品へと取り込みました。そして晩年、祖国にファシズムの影が忍び寄ると、ナチス支配下のヨーロッパを去り、アメリカへと亡命します。妥協を知らない、まっすぐな生き方をした人です。


『アレグロ・バルバロ』(1911年)は、そんな彼のピアノ曲の中でもとりわけ「攻撃力」の高い1曲。「バルバロ(野蛮な)」というタイトルの通り、ピアノを打楽器のように扱い、荒々しい強打とリズムの反復で聴き手をぐいぐいと引き込みます。わずか数分の曲ですが、そのインパクトは絶大です。

オルフ――運命の力を思わせる音圧


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バイエルン州ベネディクトボイエルン修道院で発見された、11〜13世紀の学生や若い僧侶たちが詠んだ詩歌集《カルミナ・ブラーナ》。そこには、恋愛やお酒のこと、賭博などの遊び、そして春の美しさについてなど、人々の日常的な暮らしや、その中で生まれるイキイキとした感情が、あざやかに綴られていました。


それらの詩から着想を得て、カール・オルフ(1895〜1982)が1937年に発表した作品《カルミナ・ブラーナ》は、およそ60分の大曲です。演奏にはソプラノ、テノール、バリトンの独唱、3群からなる合唱(混声合唱、小合唱、少年合唱)、そして2台のピアノや多種多様な打楽器を含む大編成のオーケストラを要します。


フランクフルト歌劇場での初演は、折しもナチスが台頭しつつあった時代のこと。当初はナチ党系の音楽評論家から「ジャズ風であり、言葉の意味がわからない」と厳しく批判されましたが、その人気は急速に広がりました。冒頭と最後を飾る〈おお、運命よ〉は、繰り返される力強い和音と、地の底から突き上げるような合唱の咆哮(ほうこう)で、聴く者を問答無用で巻き込んでいきます。

チャイコフスキー――本物の大砲をぶっ放した録音も


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序曲《1812年》は、1880年、ナポレオン軍を打ち破ったロシアの勝利を記念して、ピョートル・チャイコフスキー(1840〜1893)が作曲した作品です。冒頭ではロシア聖歌が弦楽器で静かに奏でられ、やがて敵国フランスの国歌『ラ・マルセイエーズ』が力強く現れて、両者がせめぎ合うように展開していきます。そしてクライマックス、大太鼓が大砲の音を模して打ち鳴らされると、堂々たるロシア皇帝讃歌が鳴り響き、祝砲とともに勝利が高らかに宣言されます。


面白いのは、この「大砲」を本物の音で収録した録音が存在することです。1958年、アンタル・ドラティ指揮ミネアポリス交響楽団の録音では、陸軍士官学校から借りた実物の大砲が使用されました。


また1978年にエリック・カンゼル指揮シンシナティ交響楽団でも、本物の19世紀型カノン砲を用いてデジタル収録され、当時のLPレコードでは、あまりの重低音の迫力に針のトラッキングエラーを起こしたり、「音量を上げすぎるとスピーカーを傷める」といった批評文も話題となり、オーディオファンの間で伝説的に語られてきました。


曲そのものの威力もさることながら、そんな話題まで引き起こしてしまうところに、この曲のロックな磁力を感じずにはいられません。


※記事の情報は2026年8月19日時点のものです。

  • プロフィール画像 クラシック音楽ファシリテーター:飯田有抄

    【PROFILE】

    飯田有抄(いいだ・ありさ)
    東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院修士課程修了。Macquarie University(シドニー)通訳翻訳修士課程修了。「クラシック音楽ファシリテーター」を肩書としながら、クラシック音楽の普及にまつわる幅広い活動を行っている。音楽専門誌、書籍、楽譜、CD、コンサートプログラム、ウェブマガジンなどの執筆・翻訳、市民講座講師、音楽イベントの司会やトークの仕事に従事。ラジオやテレビなどのメディアに出演。書籍に「ブルクミュラー25の不思議〜なぜこんなにも愛されるのか」(共著、音楽之友社)、「ようこそ!トイピアノの世界へ〜世界のトイピアノ入門ガイドブック」(カワイ出版)、「さぁはじめよう!オーディオのある暮らし」(音楽之友社)、「クラシック音楽への招待〜子どものための50のとびら」(音楽之友社)などがある。公益財団法人福田靖子賞基金理事。

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