日々、音楽メモランダム 2025年末~2026年3月【後編】

【連載】創造する人のためのプレイリスト

ミュージック・リスニング・マシーン:シブヤモトマチ

日々、音楽メモランダム 2025年末~2026年3月【後編】

クリエイティビティを刺激する音楽を、気鋭の音楽ライターがリレー方式でリコメンドする「創造する人のためのプレイリスト」。今回はライブ鑑賞や新譜チェックなど日々の音楽リスナー活動の中で出会った出来事や気づきを書き留める「音楽メモランダム」の後編。2025年の年末から2026年3月までに触れた最新の音楽、ライブ、そしてその周辺で感じたことをお送りします。

カバーフォト:池谷 恵司

前編はこちら

2026年もすでにワン・クール終了、1年の4分の1が過ぎました。春は新しいことを始める季節、ということで、今回のプレイリストは特別企画でお送りしましょう。いつもの連載とは趣向も文体も変えて、ライブ鑑賞や新譜チェックなど日々の音楽リスナー活動とその中で感じたこと、思ったことなどを前・後編2回に分けてつらつらと書き記していきます。題して「日々、音楽メモランダム」。前編に引き続き、後編をお楽しみください。



〈目次〉

  1. ネルス・クライン「Surplus」
  2. ジュリアン・ラージ「Something More」
  3. ピノ・パラディーノ&ブレイク・ミルズ ft. クリス・デイヴ「Taka」
  4. アントニオ・ロウレイロ「Aurora」

5. ネルス・クライン「Surplus」


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2月4日、ブルーノート東京(2ndステージ)でネルス・クライン(Nels Cline)を観た。2025年の個人的ベストアルバムに選んだのが彼の「Consentrik Quartet」だったのだが、同名のバンドでの来日とあって、個人的に非常に期待をしていたライブだった。


メンバーはクライン(ギター)のほか、イングリッド・ラウブロック(テナー&ソプラノサックス)、クリス・ライトキャップ(ベース)、それにトム・レイニー(ドラムス)という布陣で、各人が作曲家・編曲家でもあり、フリージャズ系のミュージシャン。結論から言うと、音源よりも実際のバンドのサウンドはずっとゴリゴリしていて、アバンギャルドで、しかも「知的」だった。


昨年のベストに選んだほど何度も聴き込んだアルバムだったが、CD盤で聴いただけで分かったつもりになっていたのは早計だった。とりわけ注目したのが、変拍子やフリーキーなノイズも交えた展開からテーマに戻る瞬間だ。その爽快感といったらなかった。


いつしか筆者は、このバンドの全ての音を聴き逃すまいと「耳からの養分摂取」に勤しむモードに転じていた。途中、ライトキャップのボウイングとラウブロックのサックスがハモるパートがあって、これも非常にスリリングで気持ちいい。また、ラウブロックのテナーサックスの音色はクラインのエレクトリック・ギターと良く調和する。アバンギャルドでパンクジャズやロック風味もあるこのバンド、これからもアルバムを2枚、3枚と出してほしい気がする。そして、ライブでこの快感を再び味わいたいと思った。


※ネルス・クラインについては以前の記事「映画『カーマイン・ストリート・ギター』のギタリストたち ~ 爪弾かれる都市の記憶」でも紹介しています。

6. ジュリアン・ラージ「Something More」


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2月に入って、買い忘れていたジュリアン・ラージ(Julian Lage)の最新作「Scenes From Above」をアナログ盤で入手した。


今回のコラボ・ミュージシャンはジョン・メデスキ(キーボード)、ホルヘ・ローダー(ベース)、ケニー・ウォルセン(ドラムス)、プロデュースはジョー・ヘンリーと、まさにアメリカ音楽の粋を集めたようなラインアップ。ルーツ・ミュージック的な素朴さを残しつつも、特にメデスキとラージがジャズ的色彩の強い自由な演奏を繰り広げる瞬間もあるなど、フリーな要素も感じられる作品となっている。カルテットとしても各人のサウンドのバランスが実に良い。もはや名人芸の域。


映像はアルバムのラスト曲「Something More」。アンバーな照明の色味も相まって、夕暮れの時間帯をイメージさせる映像だ。カントリー、ジャズ、ブルーズ、そしてポップスといった彼のバックグラウンドとなる音楽が混然一体となり、懐かしいような、それでいて新鮮な色彩を感じるような演奏。

7. ピノ・パラディーノ&ブレイク・ミルズ ft. クリス・デイヴ「Taka」


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以前の記事「いま聴きたい! 5人のベーシスト」でも紹介した現代のスーパーグループが再集結して来日公演を行うと聞き、即、チケット先行予約。案の定、「Pino Palladino & Blake Mills featuring Chris Dave & Sam Gendel」と題して行われたライブは満席状態だった(筆者が観たのは3月6日 ブルーノート東京 1stステージ)。


最新アルバム「That Wasn't a Dream」や前作の「Notes With Attachments」では、全体が霞に覆われたようなソフトフォーカス的な音像を感じていたし、それが魅力でもあった。


しかし、ナマで聴く4人の演奏は大違いだった。音源よりも格段に楽器の解像度が高く、エッジが効いていて、緊張感がある。しかし熱くならず、醒めたグルーヴが継続する。しかも、多彩なアイデアと尖った表現の応酬なのに、全体の印象としては親和的でオーガニックな質感があり美しい。これが不思議だった(サム・ゲンデルの幻覚的な音色が全体のサウンドのつなぎの役割をしていたのかも)。この4人の天才の奏でる天上の世界を言葉で説明することは正直難しい。


何年か前の来日時のドラムはエイブ・ラウンズ(ミシェル・ンデゲオチェロほか)で、その西アフリカの風を思わせる鳴りの深いドラムが支えるバンドサウンドにも感動したが、今回のラインアップによる演奏はその時を超えたかも。


やはりクリス・デイヴ(Chris Dave)の存在は大きい。デッドな鳴りで抑制の効いた、緊張感の続くドラミングが激シブ。そして、ブレイク・ミルズ(Blake Mills)の変幻自在のギタープレーには今回も驚愕。ボリュームペダル使いの巧みさと、心憎いほどセンスが光るオブリガートに目と耳が釘付けになる。ブレイク・ミルズって、個人のアルバムの印象はわりとノーマルっぽいのに(失礼!)、ピノ・パラディーノ(Pino Palladino)と組むとギタリストとしての輝きが凄まじいレベルにまで駆け上がるのはなぜ?


御年68歳のピノ・パラ御大は、本来使うべきベースではない方の1本で曲を始めてしまい、演奏を止めてベースを交換するというお茶目なシーンも途中にあったが、リズムの取り方がやはり独特でつい聴き入ってしまう。このバンド、全員がおかしい(笑)。最高のライブ体験をまたひとつ手に入れた気分だ。


※ブレイク・ミルズについては以前の記事「2023年の年末聴き納めプレイリスト」でも紹介しています。

8. アントニオ・ロウレイロ「Aurora」


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アントニオ・ロウレイロ(Antonio Loureiro)が7年ぶりに新譜を出したので、さっそくCDを購入した。タイトルは「Aldeia Coração」。共同体を愛する心または共同体の真ん中にあるもの、といった意味かと思われる。歌詞の日本語訳を読むと、全体的にダークだ。ライナーノーツに掲載されたロウレイロのインタビュー部分を読むと、今回のアルバムはパンデミックとここ数年の間にブラジルが置かれた社会文化・政治状況への感情や反発が背景にあることが分かる。


ロウレイロはコロナ禍の期間中に「Saudade」という曲を配信していて、これが会えずにバラバラになった人びとの気持ちをつなぎ止めるかのような、明るく希望と哀愁に満ちた曲だった。新譜に入るかと個人的に期待していたが、コンセプトが違うせいか収録はされなかった。とはいえ、前作「Livre」に引き続き、今回のアルバムの出来も最高だ。


※「Saudade」については以前の記事「夏の終わりに聴きたいプレイリスト」でも紹介しています。


現代のジャズにブラジルの伝統的な旋律とリズム、クラシックの要素までも融合させて、即興、変拍子、何でも来い。さらにピアノだけでなくドラム、パーカッションも自在に操って表現するロウレイロの音楽性は、ほかに似ている人が思いつかない。そして、聴いても、聴いても、音楽が謎めいている。フィジカルCDでリリースされたのは世界中で日本だけという(2026年3月現在)新作「Aldeia Coração」をぜひ手にしてみてほしい。紹介した動画はアルバムのラスト曲「Aurora」。


さて、記事はここで終わるが、実は3月に行われたロウレイロの久しぶりの来日公演へ筆者も行って来た。ソロピアノでのライブということで、彼の曲がどう表現され、どんな新しい魅力を見つけられたのか。その紹介はまたの機会に(いつか、この続きがある?......かも)。


※アントニオ・ロウレイロについては以前の記事「創造するマルチプレーヤーたち」でも紹介しています。


※記事の情報は2026年4月10日時点のものです。

  • プロフィール画像 ミュージック・リスニング・マシーン:シブヤモトマチ

    【PROFILE】

    シブヤモトマチ
    クリエイティブ・ディレクター、コピーライター。ジャズ、南米、ロックなど音楽は何でも聴きますが、特に新譜に興味あり。音楽が好きな人と音楽の話をするとライフが少し回復します。

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