【連載】流転のパラダイス人生
2019.04.23
パラダイス山元
発想の基準は「絶対に誰もやっていないこと」
あるときはマンボミュージシャン、あるときはカーデザイナー、そしてあるときは餃子レストランのオーナーシェフ、またあるときはマン盆栽家元、さらにグリーンランド国際サンタクロース協会の公認サンタクロース、入浴剤ソムリエ、飛行機のプロ搭乗客?......。あらゆるジャンルを跨ぎながら、人生を遊び尽くす「現代の粋人」パラダイス山元さんに「遊びの発想の素」を教えてもらいましょう!
毎日の日課は、無料 目の保養
インスタ、facebook、Twitterと、SNSから、絶え間なく美味しそうな写真が、望む望まざるに関わらず、わんさかスマホに送られてくるようになってしまった昨今。「美味しそうなものばっかり食べやがって」「どんだけ食べてんだよ」「料理よりその隣の美女は誰だ」などと僻んだり、妬んだりしながらツッコミつつ、「無料 目の保養」だと思って、毎日精力的にヘラヘラニコニコ、時間が許す限りめくれるだけめくる私。その結果、食べたこともないのに、二次元の写真からどんな味なのか想像ができるチカラが身についてきました。投稿者のキャプション、他の人の書き込みから、これは本当に美味しいものなのか?もしかしたらたいして美味しくないのかも...と厳しく断じていくうちに、実際にその店を訪れると、そのカンが的中しているようになってきましたから。無駄に加齢していないと思われます。味覚は、自分に正直でなければいけません。他人が、いくら美味しいと煽ったところで、引きずられてはいけません。美味しいものは美味しいと、マズイものはマズイと。
年齢を重ねてきた結果、毎日、毎食、なにがなんでも美味しいもの食べたい!とも思わなくなってきていて、その日の気分や体調に合わせて、自分が食べたい食材で、食べたいものをつくるようになりました。味噌汁に焼魚、おからにきんぴら、お新香と何皿も小鉢のおかずを並べる食事もあれば、レトルトパックのご飯をレンジでチンして、自分でスパイスを調合した「ヤバイお塩」をひとつまみふりかけ、あとは脂肪を燃焼する特定保健飲料のお茶という簡素なディナーの時もあります。余った餃子の皮を丸めて延べ棒で伸ばしてピザをつくったり、うどんを打ったり、素揚げにしてスナック菓子にしたりもします。
外食もします。焼肉の食べ放題や回転寿司とか。で、本当に気の合うお友だちから声かけられた時に限って、フレンチとか、イタリアンとか、カウンターのお寿司とか、日本料理とか、小洒落たお店にお洒落したデブが出かけます。
ところで、いったいなにが本業なんですか?
私の本業は、音楽家。マンボミュージシャンとして「東京パノラママンボボーイズ」で、コンガ叩いたり、マラカス振っています。それ以前は、富士重工業(現 SUBARU)で、カーデザイナーとして勤務していました。でも、毎日演奏の仕事があるわけではなく、その合間を縫って飛行機に乗って本を執筆したり、盆栽に水をやったり、餃子レストランのオーナーシェフになったりします。
毎日規則正しく営業している世間一般のレストランとは違って、いつ開店するかわからない餃子レストラン「蔓餃苑」。当日の朝、SNSに登録されている「餃子会員」に向けて、開店予告メッセージを発信。予約開始時間に、先着順で来店者が決まります。この方法は、2001年からきょうまで続いています。店主の気まぐれに付き合わされて気の毒と思われるかもしれませんが、むしろその一期一会の来店チャンスに「餃子会員」は、都度一喜一憂します。入店のハードルはかなり高いですが、「行列ができる餃子レストラン」にしないための唯一の方法と信じて長いこと続けています。
「餃子屋だけやっていれば!」「公認サンタと両立できるの?」「あれもこれもやりすぎ!」自分のことを思ってくれる方からのご忠告、ご進言は有り難く拝聴させて頂いておりますが、人生の折り返し地点をとうに過ぎ、まだまだやり足りないことが山積している状況です。仕事と遊びの区別はしっかりつけて、仕事は仕事として喜ばれるように、遊びは好きなことだけに集中して楽しんでいます。
コワかった父親の存在
大正生まれ、今年93歳になった父からは、これまでとくに学ぶこともなかったというか、むしろ私のやることなすこと100%以上否定し続けてきたとてもコワイ存在でした。思い返すと、中学のブラスバンド加入で衝突、高校で鉄道研究部の部長就任で衝突、芸大進学希望で衝突、自動車会社退職で衝突、東京パノラママンボボーイズでデビューで衝突、餃子レストランオープンで衝突、、、人生の運転免許を失効されかねないほど、何度も激しくぶつかりあってきました。蔓餃苑に初めて招いて、自慢のレシピの餃子を振る舞った際は、終始憮然とした表情で、箸で餃子を摘み、食べ終わったあとも厳しい表情で無言のままでした。
「美味しかった?」
「・・・・・・」
「どお?」
「・・・・いつまでこんなこと、、、続けるつもりなんだ、、、」
親としては息子の将来を悲観し当然のひとことだったかもしれませんが、そんなやりとりの結果、親への反骨精神というよりは、親からの期待を巧妙にかわし続け、ひねくれた結果がこのようなあまのじゃくな人格形成につながってしまったのだと、ここへ来て客観的に自身を見ることができるようになりました。
やることなすこと全否定してくれた父のおかげで、こんなにもヘンテコなデブが出来上がってしまいました。
年老いた父から、「テレビ見たゾ」とか「盆栽の本の文章は、飛行機のなんちゃらより面白かったゾ」などと唐突に電話がくると、随分と丸くなってしまったものだなぁ~と感慨深くなります。
他人の猿マネは絶対しない
「なんでそんなこと考えつくの?」
「どうしてそんな誰も思いつかないことばっかりやるの?」
企業や自治体のブランディングや、デザイン・イノベーションに関わることも増えましたが「あそこで成功しているようなあんな感じの・・・」などと、社長自ら猿マネを示唆するかのような発言が飛び出すなり、そこをなんとか「一緒にウニモグに乗って温泉にでも行きましょう」と諭します。重箱の隅を突くような、ニッチなアイデアから、一発成長戦略のヒントなど、目的地まで度々エンジン音に掻き消されながら大声でサシで話し合っていると、お互い本音が出てくるものです。
この先、あと何年生きられるかわかりませんが、周りの方にせいぜいご迷惑をかけないよう、よく遊んでもらえると嬉しいです。
※記事の情報は2019年4月23日時点のものです。
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【PROFILE】
パラダイス山元 (ぱらだいす・やまもと)
マンボミュージシャンの傍ら、東京・荻窪で、招待制高級紳士餃子レストラン「蔓餃苑」を営む。1962年北海道札幌市生まれ。他に「マン盆栽」の家元、グリーンランド国際サンタクロース協会の公認サンタクロース、入浴剤ソムリエとして「蔓潤湯」開発監修者、ミリオンマイラー「プロ搭乗客」と、活動は混迷を極める。趣味は献血。愛車はメルセデスベンツ ウニモグ U1450。著書に「餃子の創り方」「GYOZA」「うまい餃子」「パラダイス山元の飛行機の乗り方」「なぜデキる男とモテる女は飛行機に乗るのか?」「マン盆栽の超情景」などがある。
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