重機の魅力を発信し、操縦もする「立命館重機部」の"重機愛"

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立命館重機部〈インタビュー〉

重機の魅力を発信し、操縦もする「立命館重機部」の"重機愛"

学生団体・サークルとして日本初の「重機部」となった「立命館重機部」の取り組みを、立ち上げメンバーで現役部員でもある椙山百合花(すぎやま・ゆりか)さん、粕田健人(かすた・たけと)さん、奥村創太郎(おくむら・そうたろう)さんの3名にインタビュー。大阪府にある立命館大学大阪いばらきキャンパスを訪ね、立ち上げ時の苦労や建設会社でのインターンで得た学び、そして大いなる重機愛について、語っていただきました。

文:青柳 直子  写真:青木 崇

大学に入れば「重機部」はあるものと思っていた

──立命館重機部は椙山さんが中心となって立ち上げたということですが、設立のきっかけを教えてください。


椙山さん:高校2年生の家庭科の授業でお米のつくり方を習っていた時、農業重機の動画を見たんです。とても広い田畑も自動操縦の農業重機ならたった1人で耕すことができる、その様子にとても惹かれました。いろいろと調べていくうちに、建設機械を操縦できるようになったら、ロボットのコックピットに入ったような気持ちになれるんじゃないかと想像してみたり、すっかり重機好きになって、大学に入ったら重機を扱う団体に入ろうと決めていました。


大学には自動車部も鉄道研究会もあるのだから、当然「重機部」もあるものと思っていたのですが、日本全国どこの大学にも重機部はありませんでした。だったら自分でつくろうと。


粕田さん:1回生の教養科目の発表で「重機部をつくりたい」と発表した学生がいて、驚きました。それが椙山さんでした。私の実家は土木の会社を営んでいるので、私にとって重機は身近な存在だったんです。その授業の後、なんと椙山さんから重機部に勧誘されまして。これはもう運命だと思いました。


椙山さん:粕田くんが入ってくれたおかげで、高校時代からの友人と合わせて部員が3人集まったので、学生団体としての申請を出すことができるようになりました。


奥村さん:私は1回生の10月頃に重機部のポスターを見て入部しました。ショベルカーに乗れる、ショベルカーを操作するのに必要な免許も取りに行く、と書いてあるのを見て心惹かれました。それまではテニスサークルに入っていてそれはそれで楽しかったのですが、何かほかの人がやっていないこともしたかったし、元々機械や車が好きだったので、面白そうだなと。


椙山さん:奥村くんは4人目の部員です。現在は私たち4回生が4人、大学院生1人、3回生2人、2回生2人の計9人で活動しています。


椙山百合花さん




重機を研究、操縦し、その魅力を発信する

──重機部の活動内容について教えてください。


椙山さん:私たちは、①重機を研究する ②重機を操縦する ③重機の魅力を発信するという3つの軸で活動しています。①では展示会、工場見学、会社見学、②では免許の取得と操縦の練習、③ではイベント出展やSNS発信などの活動をしています。


粕田さん:具体的な活動内容を説明します。①の研究活動としては、毎年6月の「国際建設・測量展(CSPI-EXPO)*1」、11月の「建設技術展*2」などのイベント、あとは不定期で、お申し出くださったメーカーの工場、建設現場の見学に行っています。②の操縦は、夏か秋に行う2泊3日の免許合宿とインターンがメインです。


*1 国際建設・測量展(CSPI-EXPO):建設業界と測量業界の最新技術やサービスが一堂に会する、日本最大級の展示会。


*2 建設技術展:企業・行政関係機関など、産・学・官が交流し、多彩な技術・工法を展示・紹介する展示会。


粕田健人さん


奥村さん:インターン先は重機部の顧問の先生に愛媛県にある道路舗装会社を紹介してもらいました。参加者は椙山さんと私と後輩ひとり、計3人。2週間のインターン期間中にロードローラの特別教習、ショベルカーの操縦のほか、社員の方が実際にどのように道路舗装の段取りをされているか、重機のメンテナンスの様子も見学させていただきました。


椙山さん:歓迎していただいてありがたかったです。私たちのためだけに1軒家を貸していただきみっちり2週間の体験でした。


粕田さん:インターンのほか、現場見学時に少し操縦させていただいたり、農家さんで農機を操縦させていただくこともあります。続いて③の魅力発信は、5月の「いばらき×立命館DAY」、11月の「立命館大学学園祭」への出展のほか、茨木(いばらき)市からの依頼で、JR総持寺(そうじじ)駅前広場で開催される「わくわくちびっこ はたらく機械体験」というイベントにも参加しています。


椙山さん:それから学園祭です。大学内に重機を入構させるのは許可の面などでかなり大変です。安全面に配慮して、お客様には操縦席に座るところまでの体験とさせていただいています。重機レンタル会社さんにバックアップしていただいているほか、コマツさんや日立建機さんといった重機メーカーさんが、その年の最新モデルを展示用に持ってきてくださっています。


奥村創太郎さん




BtoBの重機業界において、学生団体が認知されるまで

──企業とのつながりはどのようにつくっていったのですか。


椙山さん:1年目は日本に重機部というもの自体がなかったので、一般的にも業界的にも全く認識されていませんでした。さらにBtoBビジネスの重機業界ですから、商談対象ではない学生が「CSPI-EXPO」などの展示会に入ること自体が難しい状況でした。まず入口で交渉し、入場したら名刺を持って、活動への熱意、できれば重機を貸していただきたいということを語り歩きました。何十社もある中で1社でもOKしてくれたらありがたい、という思いでした。


最初はかなり苦労しました。学生に高価な商品をレンタルするリスク、そして私たちがその企業をPRできたとしても相手は一般の方々なので、直接的な利益につながりにくいという点を考慮すると難しいのは当然です。そんな中、創部すぐに関西のある重機レンタル会社さんから支援をいただき、また、1年目の秋にはある重機メーカーさんが工場見学に呼んでくださり、学園祭への展示もしてくださることになりました。それを私たちがSNSで発信したことで、他企業さんからもアプローチいただくようになり、2年目からは順調に活動できるようになりました。


立命館重機部員




重機の力強さや壮大な現場に触れ、深まる重機愛

──地道な営業から始めて「重機部」への認知を業界中に広めていったのですね。約3年半の活動の中で、特に思い出に残っていることを教えてください。


奥村さん:免許(小型車両系建設機械)を取りに行った時、施設の方が目の前の岩を指して「これ、手で押してもらっていいですか」と言ったんです。5、6人で押したんですけど、びくともしなくて。その後、ショベルカーに乗って操縦すると、その岩がゴロンと転がった、その時の感動が忘れられないです。その力強さがとても印象的で、ものづくりが人々の生活を便利にしているんだなと実感した瞬間でもありました。


粕田さん:私は解体現場が印象深かったです。重機といえば、農機、ショベルカー、ホイールローダといったイメージだったのですが、解体現場では大きなハサミ状のアタッチメントで大きなコンクリートや鉄筋をいとも簡単に引き裂いていて。その時の驚きは大きかったですね。


椙山さん:団地の解体現場だったのですが、怪獣を見ているみたいな気持ちになりました。


粕田さん:私はエヴァンゲリオンみたいだと思いました(笑)。知識として知っているのと現場で間近に見るのとは全く違うなと実感しました。


立命館大学大阪いばらきキャンパスからほど近いアクティオ 高槻営業所で、それぞれ運転資格を持っている重機に乗ってもらった


椙山さん:私は愛媛県のインターンで、採石場の現場を見せていただいた時のことが忘れられないです。タイヤの直径が私の身長の1.5倍ぐらいある巨大なダンプカーやショベルカーも、広大な採石場にあるとまるでミニチュアみたいに見えて。元々は山だった現場を「人が重機を纏(まと)う」ことによってこんなに切り拓けるなんてすごい! と感動しました。重機にできることの大きさを実感し、ものすごいインパクトでした。重機部をやっていてよかったなと思った瞬間でもありました。


奥村さん:スケールが大きすぎて、サイズ感も遠近感も分からなくなるくらいでした。今まで見たものの中で一番のスケール感でした。


椙山さん:もう1つは、インターン先の会社から教わった仕事に対する取り組み方です。その会社の社員の方は「お金をいただいているからにはしっかりと仕事をしないといけない」と皆さん口々におっしゃるんです。「やりがいが大きい」といったことではなく、「お金をいただいている以上はしっかりとした仕事をする。それ以上でもそれ以下でもない」という考え方に衝撃を受けました。


というのも、私はそれまで、アルバイトにしても重機部での作業にしても「自分がやったことの成果としてお金をいただく」という感覚だったからです。それとは逆の考え方ですよね。インターン中は有給でしたので、「お金をいただいている以上はインターン中のタスクにしっかりと向き合う」ことが求められました。この考え方のシフトチェンジは建設業界に限らず、報酬があるすべての仕事に通じるものだなととても勉強になりました。





重機部の精力的な活動が"重機界隈"の盛り上がりを生む

──約3年半の重機部の活動を通して、どのようなものを得たと思いますか。


奥村さん:重機部の活動では企業の方々と接する機会が多かったので、その経験は就職活動の面接でも大いに活かされました。重機きっかけで普通の学生ではできない経験をさせていただいたと思っています。


粕田さん:重機に関する基礎から、技術や商品に関する最先端の情報まで、幅広い知識が得られるだけでなく、メーカーやレンタル業界、建設現場などで実際に働いている方たちから、重機にまつわるあらゆることを直接聞けるというのが、大きな魅力だと感じています。本当に貴重な体験をさせていただいています。


椙山さん:先日、奥村くんと2人で国交省の近畿地方整備局に見学に行って、3Dハザードマップや遠隔操縦、自動操縦など、建築・土木業界のDX化、ICT化についてお話をうかがいました。ここ数年のDX化や働き方改革などで、作業員数不足や熟練するのに時間を要する専門性をカバーできる技術力の発展、向上には目を見張るものがあると思いました。


そしてイチ重機ファンとして特に感じているのが"重機界隈"の盛り上がりです。その一端には立命館重機部の存在があると自負しています。私たちが精力的に活動したことによって、「重機ファンがいる」ということにメーカーや公的機関に気づいてもらうことができました。


その結果、展示会では、お子さん同伴OKな日、一般公開のための土曜日開催、社員の方の家族デーなどが設けられ、広く開かれてきていると感じます。立命館重機部の広報の範囲にはもちろん限界がありますので、各メーカーがアプローチしてくださることによって、ライトな重機ファンが増え、建設業のイメージ向上にもつながっていくのではないかと期待しています。


実は今年(2025年)の春に「重機部@東京」という東京大学を中心としたインカレのサークルが立ち上がりました。西と東に1つずつ重機部ができたので、大会などができたらうれしいですし、いつかはどこの大学にも重機部があることが普通になったらいいなと思います。





重機部での経験が就職活動にも役立った

──それでは最後に重機部としての今後の活動、そしてそれぞれの今後の活動について教えてください。


椙山さん:部としては新入部員の勧誘が急務です。私たち4回生4人が抜けると半減してしまうので。奥村くんがそうだったように、私たちの部は1回生の秋に部員が増える傾向があります。彼のようにまずは王道のサークルに入ったものの、小規模のコミュニティにも入りたいと思うのが秋なのではないかと。なので、夏休み明けの秋に勧誘活動を活発化させていきたいです。


奥村さん:重機部の門戸は広いので、1回生に限らず2、3回生でも4回生でも大学院生でも!


椙山さん:私が代表、粕田くんが副代表、奥村くんが会計を務めていましたが、つい先日、役職は後輩に譲りました。ですが卒業するまでは一部員として活動していきたいと思っています。


奥村さん:就職先はメーカーに決まりました。先ほどお話しした、ショベルカーで岩をゴロンと転がした経験、その時に「ものづくりをしたい」と思ったことがきっかけです。勤務先は関東の予定なので、イチ重機ファンとしては幕張メッセをはじめ、展示会場に行きやすくなるのがうれしいです。


椙山さん:私は地元の愛知に本社のあるメーカーに就職が決まりました。面接の時は重機部の活動をアピールしたので、面接後はきっと「あの重機の子」と言われていたと思います(笑)。


奥村さん:私もオンライン面接の時、小型車両系建設機械の免許を画面越しに見せたところ、食いついてくださって、話が広がりました。


粕田さん:私は大学院に進学することになりました。イチ重機ファンとしては家業を軸に関わっていきたいと思っています。


椙山さん:私は大学卒業後は、JCMA一般社団法人日本建設機械施工協会主催のJCMA重機部に移籍する予定です。JCMA重機部の発足の際には立命館重機部代表としてお話しさせていただいたご縁もあります。


インターン先の企業で重機の構造や整備について学ぶ 撮影:株式会社愛亀


学園祭の準備


CSPI-EXPOアクティオブースでVR体験


──インターン中の写真や現場の写真を見せながら、目を輝かせてお話ししてくださった皆さん。怪獣やエヴァンゲリオンのよう、という表現に納得、重機の魅力が理解できるようになりました。4回生の皆さんは卒業間近。日本で初めての重機部OBとして、ますますのご活躍を期待しています!


※記事の情報は2025年9月16日時点のものです。

  • プロフィール画像 立命館重機部〈インタビュー〉

    【PROFILE】

    奥村創太郎(おくむら・そうたろう、写真左)
    大分県出身。立命館大学経営学部4回生。“推し重機”はバックホー

    椙山百合花(すぎやま・ゆりか、写真中央)
    愛知県出身。立命館大学経営学部4回生。“推し重機”はバックホーとアタッチメント

    粕田健人(かすた・たけと、写真右)
    愛知県出身。立命館大学経済学部4回生。“推し重機”は解体重機のアタッチメント「TS-Wクラッシャー」

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